長きにわたる歴史をもつイタリアンレーシングバイクブランド、ボッテキア。多くのイタリアブランドと同じく、スチールフレームビルダーからはじまった歴史あるブランドが放つ、ハイエンドカーボンフレームが「EMME2」だ。ジロ・デ・イタリアの山岳賞を獲得したこともあるイタリアンレーシングフレームの真髄に迫る。



ボッテキア EMME2ボッテキア EMME2 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ジロ・デ・イタリア、ミラノ~サンレモ、ティレーノ~アドリアティコ、イタリア選手権、世界選手権、そして、ツール・ド・フランスといったサイクルロードレースファンであれば一度は名を聞いたことがある主要なイベントにおいて、ボッテキアは偉大なライダーとともに、多くの勝利を収めてきた。1世紀以上という歴史を持つボッテキアは、常に時代のトップシーンを走り勝利を収めてきたブランドだ。

近年はアックア・エ・サポーネやアンダルシアカハスールなどのUCIプロコンチネンタルチームへと機材を供給し、2011年のジロ・デ・イタリアではステファノ・ガルゼッリ(イタリア)がEMME2を駆り、マリア・ヴェルデ(山岳賞)を獲得したことは記憶にも新しい。

イタリアの職人によって製作されたという証イタリアの職人によって製作されたという証 上ワン1-1/8ー下ワン1.5インチの大口径異径ヘッドチューブ上ワン1-1/8ー下ワン1.5インチの大口径異径ヘッドチューブ バイク全体のしなやかさに寄与するフロントフォークバイク全体のしなやかさに寄与するフロントフォーク


現在、ボッテキアのフラッグシップバイクはフレーム重量695gという超軽量モデルとして君臨するEMME695。そしてその原型となったフレームこそが、今回インプレッションするEMME2だ。軽量性こそEMME695に劣るものの剛性面では上回っており、ねじれ剛性はEMME695の120N/mmを上回る125N/mmという数値をマークしている。

EMME2は、100%イタリア国内生産、ハンドメイド工法にこだわって製造されるピュアイタリアンバイクだ。素材にはオリジナルのDDA 3K カーボンを採用する。ボッテキアはこの素材によって製作されたチューブをボンディッドカーボンプロセスと言われる製法によってフレームへと完成させる。一般的にはチューブtoチューブともいわれるこの製法はカーボンシートを上から積層することによってチューブ同士を接合するため、オーダーフレームの需要に対応できるというメリットがあると同時に、剛性の向上と軽量化にも貢献する。

今や主流となってた内装ケーブルルーティング今や主流となってた内装ケーブルルーティング 各チューブをボンディッドカーボンプロセス製法でつなぎ合わせる各チューブをボンディッドカーボンプロセス製法でつなぎ合わせる

ノーマルのJIS規格が採用されたBBノーマルのJIS規格が採用されたBB 剛性向上を狙い金属で挟まれたリアエンド剛性向上を狙い金属で挟まれたリアエンド


フレームワークとしてはオーソドックスな丸断面のチューブが多く用いられていることが特徴で、他メーカーのカーボンバイクのように、エアロ形状になっていたり、リブが設けられていたりということは一切ない。ただ、衝撃吸収性を担うシートステーに限っては、扁平に整形された極細のカーボンチューブを使用することでフレキシブルな動きを出し、快適性の向上を図っている。

EMME695との外見上の最も大きな差異は後輪に沿うように湾曲したシートチューブだ。これは、できうる限りの反応性を求めて、リアセンターを小さくしようとするための構造。その結果としてロードフレームとしては限界ともいえるチェーンステー長395mmという極限の数値を実現した。この数値は、シマノが規定する変速性能保証のためのチェーンステー長、405mmを大きく割り込む数字であるが、ボッテキアはプロチームの現場からの声を優先し、最高の反応性を得るための設計を行ったということだろう。

700cのロードバイクとしてはほぼ最短の395mmのチェーンステー700cのロードバイクとしてはほぼ最短の395mmのチェーンステー トップチューブは真円ではなくつぶしが入れられているトップチューブは真円ではなくつぶしが入れられている


ボトムブラケット規格はノーマルのJIS規格が採用される。BB386EVOを採用するEMME695とは異なり、オーソドックスな規格であるが、メンテナンス性や耐久性にも優れると同時にトラブルのリスクが少ないため、実走派のライダーにとっては、メリットの多い規格だ。なお、オプションでBB30やBB386EVOといった大口径BBを選択することも可能となっている。

一方で、ヘッドチューブは近年主流となっている上ワン1-1/8″ー下ワン1.5”の大口径異径ヘッドチューブを採用する。ハンドリングやブレーキングに直結するヘッドチューブの剛性を確保するべく最新の規格を採用する姿勢は、ボッテキアはただ徒に伝統に固執しているわけではないことを示している。

扁平に整形された極細のカーボンチューブを使用するシートステー扁平に整形された極細のカーボンチューブを使用するシートステー 3リアセンターを短くするために湾曲しているシートチューブ3リアセンターを短くするために湾曲しているシートチューブ オーソドックスな丸断面チューブを採用したダウンチューブオーソドックスな丸断面チューブを採用したダウンチューブ


2014年モデルにおいて、ケーブル類が内装されると共に、ワイヤー式、電動式コンポーネント両対応となって更なる進化を遂げたボッテキアのレーシングモデル「EMME2」。今回のテストバイクには、シマノ6800系アルテグラと、フルクラム レーシング5がアッセンブルされる。タイヤには同国のヴィットリア ザフィーロを使用して、インプレッションを行った。それでは、2名のテストライダーによるインプレッションに移っていこう。



―インプレッション

「懐が深いオールラウンドロードバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

点数をつけるならば4点ないしは5点満点を付けられる、守備範囲が広いオールラウンドバイクという印象です。今は少なくなってしまった適度な剛性感が安定感を生み出す真面目なバイクと言う感触があり、さらに、重心位置が低く設定されているので、バイクが跳ねることなく落ち着いて乗れます。

フロントフォークの振動吸収は上下にたわむことで振動をカットするのではなく、前後方向にたわむことでカットしています。長くロードバイクに乗っている方には、丸パイプをラグでつなぐタイムVXRSとほぼ一緒の性格を持つといえばわかりやすいでしょうか。

オールラウンドバイクらしく激坂から緩斜面など様々なシチュエーションをこなせるバイクです。登り始めたら軽いギアでダンシングすると、小気味良くバイクが追従してくれますね。一方で、重いギアをかけた際は反応が少し遅れるフィーリングがでてきてしまう印象を受けました。

「懐が深いオールラウンドロードバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「懐が深いオールラウンドロードバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
小さなフレームサイズに見られる、バイクがふらついたり、バンプで跳ねたりというような傾向はなく、高い安定感を持つことが印象的でした。それはカーボンの積層が振動をカットしてくれることにあると思います。それに加えて、フレームの前三角形を中心にして、リアバックとフロントフォークが内側にしなる動きが振動をいなすという、歴史があるボッテキアならではの完成度の高いスケルトンが寄与しているのでしょう。

パーツアッセンブルに関しては、フレーム自体が低重心なのでダンシングをした時の動きの同調性を考慮したものが良いでしょう。今回搭載されていたカーボンハンドルはうまく同調していて、バランス良く仕上がっているという感じがあります。ホイールとタイヤに関しては、マヴィックのキシリウムなど柔らか目のホイールに細めのタイヤをアッセンブルして7.5気圧程度のエアーを入れた時が適正だと思います。

このバイクはオーダーの際にカスタムが出来ます。フレームの性能を活かすためにはBBを大口径なものをチョイスしたほうが、軽やかさが出てくるでしょう。また、バネ感が強いフレームを活かすために、シマノ デュラエースが最適だと思います。

ボッテキアのバイクはグレードによって大きく違いがあり、ハイエンドフレームはバランスよく仕上げられているが、ミドルグレードは良さが出ていないということがあります。それはイタリアの職人の気質で、それを把握してバイク選びをする必要がありそうです。一方で、ハイエンドモデルは職人技が入っているので、高いレベルで仕上げられています。このバイクは小さいフレームサイズながら乗り易く仕上げられており、他のサイズでも同じことが言えそうですね。

オールラウンドな性格を持つこのバイクは、ヒルクライムなどレースシーンを選ばなく、レベルで言うならばJPTでも対応できますね。フレームは懐の深さがあるので、ホイールのチョイス次第ではロングライドにも対応できます。極端に言ってしまえば、シマノR500のようなホイールでも気持ちよく走ることができ、また、フレームに角が無いので、初心者にもやさしいバイクですね。昔のボッテキアのクロモリに乗っていて、今また自転車がほしい人にもオススメできます。


「フレームのしなりと一体感を持って乗れる乗り心地が良いバイク」 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

フレームのしなりを推進力に変える乗り心地が良いバイクです。低速域から高速域、弱い力から強い力など、様々な状況でも同じ表情で、フレームのしなりが力を受け止めてくれ、乗り始めの快適さが続いていくような印象を受けました。さらに、しなりの動きがはっきりとしていて、その動きのタイミングに合わせたペダリングをした際はバイクと一体感を持って走れる感じがありますね。

「フレームのしなりと一体感を持って乗れる乗り心地が良いバイク」 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)「フレームのしなりと一体感を持って乗れる乗り心地が良いバイク」 三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 乗り心地は抜群にいいです。テストバイクのサイズが私に合っていなかったのですが、とても乗りやすたかったですね。コーナリングに関しても、フレームのしなやかさが、まるでサスペンションのように働くことでタイヤを路面に押し付けるため、タイヤが路面をつかんでくれるので荒れた路面でも安心して曲がれるでしょう。特に、下りのアタックには有効な性能だと思います。

フレームの設計は太いチューブと細いチューブをつなぎ合わせるオーソドックスなチュービングをしながらも、チェーンステー長がかなり短くなっていたり、シートチューブが湾曲していたりと特徴があるものになっています。短いチェーンステーながらも不安定感はなく、レスポンスの良さに貢献していると思います。フレームはしなやかさに重きをおいているのが明らかですね。

そのしなやかなフレームは、大きなメーカーが古い技術としているボンデッドカーボン製法に由来しているかもしれません。同じ製法をしているバイクも同じ乗り心地を持っていて、まるで焼きを入れたクロモリレーサーのような乗り味に仕上げられています。

ペダリングに関しては、シッティングならば軽くギアを踏むというイメージで、ダンシングならしなりを活かすイメージを持った時に気持ちよく進んでくれます。フレームに固いところがないので、80rpmくらいのケイデンスでリズミカルにペダリングをしている分には疲れてしまっても優しい踏み心地が得られるでしょう。

このバイクが活きる速度域はヒルクライムのような低速、平地巡航やアタックをかけるような速度ですね。さらに、トラクションがかかる印象があるのでゴールスプリントの速度域にも対応できるでしょう。その際は、後追いのスプリントではなく、自分のタイミングでスプリント仕掛けたほうが良さそうです。

レースからグランフォンド、朝から晩まで走行するブルベなど様々な使用用途にも活用できます。例えば、クリテリウムではコーナーの立ち上がりにトラクションやグリップ感が武器になり、ブルベでは乗り心地の良さが利点になります。バイクを運転することが好きな人には最適な一台だと思います。初心者の方でも安全に走れ、力をロスすることがないので最初の1台として選んでも乗りこなせるオールラウンドな1台でしょう。

ボッテキア EMME2ボッテキア EMME2 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
BOTTECCHIA EMME2
サイズ : 44、48、51、54
フレーム : DDA 3K カーボン、banded hand made
フレーム重量:0.9kg
フォーク:3K Super light カーボン モノコック
カラー: CARBON/GREEN、GREEN/WHITE/RED、MATT CARBON/RED
コンポーネント:カンパニョーロ スーパーレコード、コーラス
価 格 :1,280,000円(税抜、スーパーレコード完成車)、840,000円(税抜、コーラス完成車)、520,000円(税抜、フレームセット)



インプレライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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三上和志(サイクルハウスMIKAMI)三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。

サイクルハウスMIKAMI


ウェア協力:GRIDE

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO

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