2014/04/12(土) - 11:13
前週のロンド・ファン・フラーンデレンで勝利したファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の勢いを止めるのは果たして誰か。4月13日、晴れ予報のフランス北部を舞台に、第112回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が開催される。コースの見どころや注目選手をチェックしておこう。
選手たちに襲いかかる28ヵ所のパヴェ レース当日は晴れの予報
「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第112回を迎えるパリ〜ルーベが4月13日に開催される。
パリ〜ルーベの特徴は、何と言っても他のレースでは決して見ることが出来ない荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。
パリ北部のコンピエーニュをスタートする257kmのコースはほぼフラット。平野部を縫うように蛇行しながらベルギー国境近くのルーベを目指す。
レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなく立て続けにパヴェ区間(セクター)が登場する。ゴール地点ルーベに至るまで、合計で28のパヴェ区間が登場。その総延長は51.1kmに及び、レース後半部の3分の1がパヴェに覆われている計算になる。
パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。石と石の間の土は風雨によって浸食されており、鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こす。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ない。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。
そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。平野を吹き抜ける風の向きもレースに影響するだろう。
数ある石畳の中でも有名なのが、難易度5つ星のアランベールとモンサン・ぺヴェル、そしてカルフール・ド・ラルブルの3セクターだ。いずれも全長が2kmを超えるロングセクターで、路面は極めて悪い。
「アランベールの森」を貫く直線的なアランベールの全長は2400mで、その路面は荒れ放題。両脇が観戦用のフェンスで覆われているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。そしてここからレースはぐんぐん加熱して行く。
終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度4の3区間(シソワン・ブルゲル、ブルゲル・ワヌエン、カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場するカルフール・ド・ラルブルだ。長さ2100mのこの難所を越えると、ゴールまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、カルフール・ド・ラルブルで勝負が決まる可能性が高い。
そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でゴールラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。
登場するパヴェ28区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
28 97.5km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
27 104km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
26 106.5km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
25 112.5km Saint-Python 1500m ☆☆
24 119.5km Solesmes à Haussy 800m ☆
23 126km Saulzoir à Verchain-Maugré 1200m ☆☆
22 130.5km Verchain-Maugré à Quérénaing 1600m ☆☆☆
21 135km Quérénaing à Famars 1200m ☆☆
20 140.5km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
19 153km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
18 161.5km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
17 167.5km Wallers à Hélesmes 1600m ☆☆☆
16 174.5km Hornaing à Wandignies 3700m ☆☆☆☆
15 182km Warlaing à Brillon 2400m ☆☆☆
14 185km Tilloy à Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆
13 191.5km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
12 196.5km Orchies 1700m ☆☆☆
11 202.5km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2600m ☆☆☆
10 208km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
9 214km Mérignies à Avelin 700m ☆☆☆
8 217.5km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
7 223.5km Templeuve (Moulin de Vertain) 500m ☆☆
6a 230km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆☆
6b 232.5km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆☆
5 237km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4 240km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3 242km Gruson 1100m ☆☆
2 249km Willems à Hem 1400m ☆
1 256km Roubaix 300m ☆
好調カンチェラーラの4勝目を阻止するのは?
ロンド・ファン・フラーンデレンで歴代最多タイの3勝目を果たしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)がパリ〜ルーベ優勝の本命と言っていいだろう。
カンチェラーラは2006年、2010年、2013年にパリ〜ルーベで優勝。仮に今年勝てばボーネンとデフラーミンクに並ぶ歴代最多タイの4勝目。そして3度目のロンド=ルーベ連勝という記録もついてくる。
スプリントでも勝てることを証明したカンチェラーラは、気負うことなくコンピエーニュのスタートラインに並ぶだろう。「ロンドで結果を残せなかったライバルたちのほうが大きなプレッシャーを感じていると思うよ」と、カンチェラーラは余裕のコメントを残す。ステイン・デヴォルデル(ベルギー)の欠場が唯一のウィークポイントか。
現役選手の中で最多勝(2005年、2008年、2009年、2012年)のトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)は、昨年ロンドで肋骨を骨折して欠場。2年ぶりのパリ〜ルーベ出場となる。
優勝候補の一角であることに間違いはないが、ここまでのクラシックでボーネンは例年のような存在感を見せることが出来ていない。代わりに強力なアシストたちの活躍が目立っている。シクロクロス世界王者ゼネク・スティバル(チェコ)や、昨年3位のニキ・テルプストラ(オランダ)らの走りにも注目だ。
昨年カンチェラーラとのスプリントに持ち込みながら、僅差で敗れて涙したセプ・ファンマルク(ベルギー、ベルキン)は雪辱を誓う。ロンドでは3位に終わったが、カンチェラーラのペースアップに食らいついたのはファンマルクだけ。石畳のベッドで寝ている写真をTwitterに投稿するなど、準備は万全だ。
ロンドで積極果敢な走りを見せ、2位に入ったフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)はテイラー・フィニー(アメリカ)やトル・フースホフト(ノルウェー)を従えての出場となる。ファンアフェルマートは昨年4位。ロンドの走りを見る限り好調なのは間違いない。
「パリ〜ルーベはツール・ド・フランスを含めた他のどのレースよりも大きなレース」と語るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)もスタートラインに並ぶ。ツール覇者のパリ〜ルーベ出場はグレッグ・レモン(アメリカ)以来実に22年ぶり。
ウィギンズの過去最高位は2009年の25位。石畳を走るために例年よりも体重を増やしているウィギンズは、ゲラント・トーマス(イギリス)やベルンハルト・アイゼル(オーストリア)とともにエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)をサポートする。
前週のロンドで沿道の観客と衝突して落車リタイアしたヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・シャープ)も出走する予定だ。衝突された65歳の観客女性は脳手術を受け、依然として病院で集中治療を受けているが、ファンスーメレン自身は大怪我を免れた。2011年大会を制した長身のベルジャンは、セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ)とともに石畳に挑む。
ロンドで結果を残せなかったペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)ら、「北のクラシック」の上位常連も勝負に絡んでくるはず。ダークホースとして、スプリンターでありながら石畳もこなしてしまうアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)やジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)の動きも見逃せない。
text:Kei Tsuji
選手たちに襲いかかる28ヵ所のパヴェ レース当日は晴れの予報
「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第112回を迎えるパリ〜ルーベが4月13日に開催される。
パリ〜ルーベの特徴は、何と言っても他のレースでは決して見ることが出来ない荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。
パリ北部のコンピエーニュをスタートする257kmのコースはほぼフラット。平野部を縫うように蛇行しながらベルギー国境近くのルーベを目指す。
レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなく立て続けにパヴェ区間(セクター)が登場する。ゴール地点ルーベに至るまで、合計で28のパヴェ区間が登場。その総延長は51.1kmに及び、レース後半部の3分の1がパヴェに覆われている計算になる。
パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。石と石の間の土は風雨によって浸食されており、鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こす。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ない。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。
そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。平野を吹き抜ける風の向きもレースに影響するだろう。
数ある石畳の中でも有名なのが、難易度5つ星のアランベールとモンサン・ぺヴェル、そしてカルフール・ド・ラルブルの3セクターだ。いずれも全長が2kmを超えるロングセクターで、路面は極めて悪い。
「アランベールの森」を貫く直線的なアランベールの全長は2400mで、その路面は荒れ放題。両脇が観戦用のフェンスで覆われているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。そしてここからレースはぐんぐん加熱して行く。
終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度4の3区間(シソワン・ブルゲル、ブルゲル・ワヌエン、カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場するカルフール・ド・ラルブルだ。長さ2100mのこの難所を越えると、ゴールまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、カルフール・ド・ラルブルで勝負が決まる可能性が高い。
そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でゴールラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。
登場するパヴェ28区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
28 97.5km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
27 104km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
26 106.5km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
25 112.5km Saint-Python 1500m ☆☆
24 119.5km Solesmes à Haussy 800m ☆
23 126km Saulzoir à Verchain-Maugré 1200m ☆☆
22 130.5km Verchain-Maugré à Quérénaing 1600m ☆☆☆
21 135km Quérénaing à Famars 1200m ☆☆
20 140.5km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
19 153km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
18 161.5km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
17 167.5km Wallers à Hélesmes 1600m ☆☆☆
16 174.5km Hornaing à Wandignies 3700m ☆☆☆☆
15 182km Warlaing à Brillon 2400m ☆☆☆
14 185km Tilloy à Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆
13 191.5km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
12 196.5km Orchies 1700m ☆☆☆
11 202.5km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2600m ☆☆☆
10 208km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
9 214km Mérignies à Avelin 700m ☆☆☆
8 217.5km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
7 223.5km Templeuve (Moulin de Vertain) 500m ☆☆
6a 230km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆☆
6b 232.5km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆☆
5 237km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4 240km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3 242km Gruson 1100m ☆☆
2 249km Willems à Hem 1400m ☆
1 256km Roubaix 300m ☆
好調カンチェラーラの4勝目を阻止するのは?
ロンド・ファン・フラーンデレンで歴代最多タイの3勝目を果たしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)がパリ〜ルーベ優勝の本命と言っていいだろう。
カンチェラーラは2006年、2010年、2013年にパリ〜ルーベで優勝。仮に今年勝てばボーネンとデフラーミンクに並ぶ歴代最多タイの4勝目。そして3度目のロンド=ルーベ連勝という記録もついてくる。
スプリントでも勝てることを証明したカンチェラーラは、気負うことなくコンピエーニュのスタートラインに並ぶだろう。「ロンドで結果を残せなかったライバルたちのほうが大きなプレッシャーを感じていると思うよ」と、カンチェラーラは余裕のコメントを残す。ステイン・デヴォルデル(ベルギー)の欠場が唯一のウィークポイントか。
現役選手の中で最多勝(2005年、2008年、2009年、2012年)のトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)は、昨年ロンドで肋骨を骨折して欠場。2年ぶりのパリ〜ルーベ出場となる。
優勝候補の一角であることに間違いはないが、ここまでのクラシックでボーネンは例年のような存在感を見せることが出来ていない。代わりに強力なアシストたちの活躍が目立っている。シクロクロス世界王者ゼネク・スティバル(チェコ)や、昨年3位のニキ・テルプストラ(オランダ)らの走りにも注目だ。
昨年カンチェラーラとのスプリントに持ち込みながら、僅差で敗れて涙したセプ・ファンマルク(ベルギー、ベルキン)は雪辱を誓う。ロンドでは3位に終わったが、カンチェラーラのペースアップに食らいついたのはファンマルクだけ。石畳のベッドで寝ている写真をTwitterに投稿するなど、準備は万全だ。
ロンドで積極果敢な走りを見せ、2位に入ったフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)はテイラー・フィニー(アメリカ)やトル・フースホフト(ノルウェー)を従えての出場となる。ファンアフェルマートは昨年4位。ロンドの走りを見る限り好調なのは間違いない。
「パリ〜ルーベはツール・ド・フランスを含めた他のどのレースよりも大きなレース」と語るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)もスタートラインに並ぶ。ツール覇者のパリ〜ルーベ出場はグレッグ・レモン(アメリカ)以来実に22年ぶり。
ウィギンズの過去最高位は2009年の25位。石畳を走るために例年よりも体重を増やしているウィギンズは、ゲラント・トーマス(イギリス)やベルンハルト・アイゼル(オーストリア)とともにエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)をサポートする。
前週のロンドで沿道の観客と衝突して落車リタイアしたヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・シャープ)も出走する予定だ。衝突された65歳の観客女性は脳手術を受け、依然として病院で集中治療を受けているが、ファンスーメレン自身は大怪我を免れた。2011年大会を制した長身のベルジャンは、セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ)とともに石畳に挑む。
ロンドで結果を残せなかったペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)ら、「北のクラシック」の上位常連も勝負に絡んでくるはず。ダークホースとして、スプリンターでありながら石畳もこなしてしまうアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)やジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)の動きも見逃せない。
text:Kei Tsuji
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