2014/03/24(月) - 09:49
選手たちを待っていたのは、昨年のような大雪ではなく、冷たい雨だった。気温5度の雨に濡れたプロトンが繰り広げた7時間におよぶサバイバルレース。ミラノ〜サンレモのタイトルはアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)の手に渡った。
全長294kmという現存するクラシックレースの中で最長コースを誇る第105回ミラノ〜サンレモ。「ラ・プリマヴェーラ(春)」という愛称で親しまれているが、今年も春を感じさせない悪天候に見舞われた。
雨雲に覆われたミラノの街中を抜けたところでレースはスタート。濡れてスリッピーな路面とトラムの線路にホイールを取られた優勝候補の一角ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)が正式スタートを待たずしてリタイアするという波乱の幕開け。
スタートフラッグが振られるとすぐにアタックが掛かり、マーティン・チャリンギ(オランダ、ベルキン)とヤン・バルタ(チェコ、ネットアップ・エンデューラ)に5名が追いつく形で逃げグループが出来上がる。
チャリンギとバルタ、そしてマッテーオ・ボノ(イタリア、ランプレ・メリダ)、ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)、ニコラ・ボエム(イタリア、バルディアーニCSF)、アントニオ・パリネッロ(イタリア、アンドローニジョカトリ)、マルク・デマール(オランダ、ユナイテッドヘルスケア)の合計7名が、足並みを揃えて雨の長旅に出た。
広大なロンバルディア平原を抜け、トゥルキーノ峠を越えてリヴィエラ海岸に出ても引き続き雨模様。最大11分まで広がったタイム差は、レース中盤の平坦区間で縮小して行く。キャノンデールやカチューシャ、トレックファクトリーレーシング、ジャイアント・シマノ、オリカ・グリーンエッジの集団牽引が逃げのリードを奪いさる。
三つの岬(カーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタ)を越えて行くうちに逃げはチャリンギとデマールに絞られ、2分リードでチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)に突入する。キャノンデールのペースアップによって新城幸也(ユーロップカー)をはじめ多くの選手がここで遅れた。
するとチプレッサの中腹でヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が単独でアタック。フィニッシュまで26kmを残したこの果敢な動きには誰も反応せず、ハイペースを刻んだニーバリがメイン集団から30秒のリードを奪ってチプレッサをクリアした。
完全にウェットなダウンヒルでニーバリは先頭2名に追いつき、追い越す。下りでリードを50秒まで広げたニーバリが単独エスケープ。しかし40名ほどのメイン集団によって、ポッジオまでの平坦区間でタイム差は15秒まで詰められてしまった。
フィニッシュライン6.2km手前のポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)が大会最大の勝負どころ。徐々に失速するニーバリを視界に捉えたメイン集団から、グレゴリー・ラスト(スイス、トレックファクトリーレーシング)とエンリーコ・バッタリーン(イタリア、バルディアーニCSF)がアタックを仕掛ける。ラストとバッタリーンは先頭ニーバリに追いついたものの、しばらくしてメイン集団に追いつかれてしまう。
フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)やルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)のアタックも功を奏さず、頂上手前で飛び出したラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、ベルキン)とフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)を先頭にしてポッジオの下りへ。
このテクニカルな下りでサプライズは起こらず、30名弱に絞られた集団がサンレモの街に近づく。残り3kmから始まる平坦区間で飛び出したソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF)とノルダーグも飲み込まれ、ルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)がクリストフをリードした状態で残り1kmに差し掛かった。
カヴェンディッシュやカンチェラーラが控える中でのゴールスプリント。最も伸びやかな加速を見せたのはクリストフだった。
加速感に乏しいマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)を置き去りにし、パワフルなスプリントでクリストフが先行する。スピードで応戦したファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)が悔しさをジェスチャーで爆発させる中、クリストフが両手を挙げた。
2012年のロンドン五輪ロードレースで銅メダルを獲得し、昨年ミラノ〜サンレモ8位、ロンド・ファン・フラーンデレン4位、パリ〜ルーベ9位という成績を残しているクリストフ。金星を掴んだノルウェー・オスロ生まれの26歳は「これは大きな勝利であり、意義あるステップだ。これまでにツール・ド・スイスでステージ優勝したことはあったし、オリンピックではメダルを獲得したこともある。だけどこの勝利は一生記憶に残る。人生で最高の瞬間だ」と喜ぶ。
勝利の秘訣は、体力を温存して登りをクリアしたこと。パオリーニとのタッグで勝ちパターンに持ち込むことに成功した。ノルウェー人選手によるミラノ〜サンレモ制覇はこれが初めて。「他の選手のことは気にせずに、ただ登りで遅れないことだけを考えて走っていた。300km走った後のスプリントは、200kmのスプリントと話が違う。カヴェンディッシュがスプリントを開始したのを見て自分もスプリントした。普段勝てないグライペルやカヴェンディッシュを下して、先頭でフィニッシュするなんて最高だ。今日は自分の日だった」。
クリストフと同タイムでフィニッシュしたのは25名。2位に入ったカンチェラーラは、4年連続ミラノ〜サンレモ表彰台。「ポッジオの登りでアタックを仕掛けるべきだったかも知れないが、他の選手がみなフレッシュだので動かなかった。下りきったあとも飛び出すタイミングを見つけることが出来ず、スプリントを選択した。スプリントが今日唯一の選択肢だった」と苦しいレースを振り返る。
なお、カンチェラーラはここ最近出場したモニュメント10レース全てで表彰台に登っている。「間違いなく調子は上がっている」と念を押しており、「北のクラシック」に向けて準備は整っている様子。
7時間におよぶサバイバルレースで26歳のベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)が3位に。リードアウト役のペタッキやレンショーを失いながらもスプリントに挑んだカヴェンディッシュは5位。ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)は10位に終わっている。
チプレッサでメイン集団から遅れた新城は11分42秒遅れの95位で完走。「距離は全く問題ない。とにかく寒さとの戦いだった。手の感覚もなくて、ボトルも取れない状態で寒さに完敗だった。でも、2010年に出たときはもっと前に遅れだして完走できなかったから、コースが少し変わったとはいえ進歩した。自分にもチャンスはあると思う。また来年、狙いたいレースの一つとして考えたい」とコメントしている。
選手コメントは各チーム公式リリースならびにTeamユキヤ通信より。
ミラノ〜サンレモ2014結果
text:Kei Tsuji
photo:Cor.Vos
全長294kmという現存するクラシックレースの中で最長コースを誇る第105回ミラノ〜サンレモ。「ラ・プリマヴェーラ(春)」という愛称で親しまれているが、今年も春を感じさせない悪天候に見舞われた。
雨雲に覆われたミラノの街中を抜けたところでレースはスタート。濡れてスリッピーな路面とトラムの線路にホイールを取られた優勝候補の一角ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)が正式スタートを待たずしてリタイアするという波乱の幕開け。
スタートフラッグが振られるとすぐにアタックが掛かり、マーティン・チャリンギ(オランダ、ベルキン)とヤン・バルタ(チェコ、ネットアップ・エンデューラ)に5名が追いつく形で逃げグループが出来上がる。
チャリンギとバルタ、そしてマッテーオ・ボノ(イタリア、ランプレ・メリダ)、ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)、ニコラ・ボエム(イタリア、バルディアーニCSF)、アントニオ・パリネッロ(イタリア、アンドローニジョカトリ)、マルク・デマール(オランダ、ユナイテッドヘルスケア)の合計7名が、足並みを揃えて雨の長旅に出た。
広大なロンバルディア平原を抜け、トゥルキーノ峠を越えてリヴィエラ海岸に出ても引き続き雨模様。最大11分まで広がったタイム差は、レース中盤の平坦区間で縮小して行く。キャノンデールやカチューシャ、トレックファクトリーレーシング、ジャイアント・シマノ、オリカ・グリーンエッジの集団牽引が逃げのリードを奪いさる。
三つの岬(カーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタ)を越えて行くうちに逃げはチャリンギとデマールに絞られ、2分リードでチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)に突入する。キャノンデールのペースアップによって新城幸也(ユーロップカー)をはじめ多くの選手がここで遅れた。
するとチプレッサの中腹でヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が単独でアタック。フィニッシュまで26kmを残したこの果敢な動きには誰も反応せず、ハイペースを刻んだニーバリがメイン集団から30秒のリードを奪ってチプレッサをクリアした。
完全にウェットなダウンヒルでニーバリは先頭2名に追いつき、追い越す。下りでリードを50秒まで広げたニーバリが単独エスケープ。しかし40名ほどのメイン集団によって、ポッジオまでの平坦区間でタイム差は15秒まで詰められてしまった。
フィニッシュライン6.2km手前のポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)が大会最大の勝負どころ。徐々に失速するニーバリを視界に捉えたメイン集団から、グレゴリー・ラスト(スイス、トレックファクトリーレーシング)とエンリーコ・バッタリーン(イタリア、バルディアーニCSF)がアタックを仕掛ける。ラストとバッタリーンは先頭ニーバリに追いついたものの、しばらくしてメイン集団に追いつかれてしまう。
フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)やルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)のアタックも功を奏さず、頂上手前で飛び出したラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、ベルキン)とフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)を先頭にしてポッジオの下りへ。
このテクニカルな下りでサプライズは起こらず、30名弱に絞られた集団がサンレモの街に近づく。残り3kmから始まる平坦区間で飛び出したソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF)とノルダーグも飲み込まれ、ルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)がクリストフをリードした状態で残り1kmに差し掛かった。
カヴェンディッシュやカンチェラーラが控える中でのゴールスプリント。最も伸びやかな加速を見せたのはクリストフだった。
加速感に乏しいマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)を置き去りにし、パワフルなスプリントでクリストフが先行する。スピードで応戦したファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)が悔しさをジェスチャーで爆発させる中、クリストフが両手を挙げた。
2012年のロンドン五輪ロードレースで銅メダルを獲得し、昨年ミラノ〜サンレモ8位、ロンド・ファン・フラーンデレン4位、パリ〜ルーベ9位という成績を残しているクリストフ。金星を掴んだノルウェー・オスロ生まれの26歳は「これは大きな勝利であり、意義あるステップだ。これまでにツール・ド・スイスでステージ優勝したことはあったし、オリンピックではメダルを獲得したこともある。だけどこの勝利は一生記憶に残る。人生で最高の瞬間だ」と喜ぶ。
勝利の秘訣は、体力を温存して登りをクリアしたこと。パオリーニとのタッグで勝ちパターンに持ち込むことに成功した。ノルウェー人選手によるミラノ〜サンレモ制覇はこれが初めて。「他の選手のことは気にせずに、ただ登りで遅れないことだけを考えて走っていた。300km走った後のスプリントは、200kmのスプリントと話が違う。カヴェンディッシュがスプリントを開始したのを見て自分もスプリントした。普段勝てないグライペルやカヴェンディッシュを下して、先頭でフィニッシュするなんて最高だ。今日は自分の日だった」。
クリストフと同タイムでフィニッシュしたのは25名。2位に入ったカンチェラーラは、4年連続ミラノ〜サンレモ表彰台。「ポッジオの登りでアタックを仕掛けるべきだったかも知れないが、他の選手がみなフレッシュだので動かなかった。下りきったあとも飛び出すタイミングを見つけることが出来ず、スプリントを選択した。スプリントが今日唯一の選択肢だった」と苦しいレースを振り返る。
なお、カンチェラーラはここ最近出場したモニュメント10レース全てで表彰台に登っている。「間違いなく調子は上がっている」と念を押しており、「北のクラシック」に向けて準備は整っている様子。
7時間におよぶサバイバルレースで26歳のベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)が3位に。リードアウト役のペタッキやレンショーを失いながらもスプリントに挑んだカヴェンディッシュは5位。ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)は10位に終わっている。
チプレッサでメイン集団から遅れた新城は11分42秒遅れの95位で完走。「距離は全く問題ない。とにかく寒さとの戦いだった。手の感覚もなくて、ボトルも取れない状態で寒さに完敗だった。でも、2010年に出たときはもっと前に遅れだして完走できなかったから、コースが少し変わったとはいえ進歩した。自分にもチャンスはあると思う。また来年、狙いたいレースの一つとして考えたい」とコメントしている。
選手コメントは各チーム公式リリースならびにTeamユキヤ通信より。
ミラノ〜サンレモ2014結果
1位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)
3位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
4位 フアンホセ・ロバト(スペイン、モビスター)
5位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)
6位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF)
7位 ゼネク・スティバル(チェコ、オメガファーマ・クイックステップ)
8位 サーシャ・モードロ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 ゲラルド・チオレック(ドイツ、MTNキュベカ)
10位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
11位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)
12位 サルヴァトーレ・プッチォ(イタリア、チームスカイ)
13位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)
14位 セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、ガーミン・シャープ)
15位 ラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、ベルキン)
16位 ヨアン・オフルド(フランス、FDJ.fr)
17位 フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)
18位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、ティンコフ・サクソ)
19位 グレゴリー・ラスト(スイス、トレックファクトリーレーシング)
20位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレックファクトリーレーシング)
95位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)
3位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
4位 フアンホセ・ロバト(スペイン、モビスター)
5位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)
6位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF)
7位 ゼネク・スティバル(チェコ、オメガファーマ・クイックステップ)
8位 サーシャ・モードロ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 ゲラルド・チオレック(ドイツ、MTNキュベカ)
10位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
11位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)
12位 サルヴァトーレ・プッチォ(イタリア、チームスカイ)
13位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)
14位 セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、ガーミン・シャープ)
15位 ラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、ベルキン)
16位 ヨアン・オフルド(フランス、FDJ.fr)
17位 フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)
18位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、ティンコフ・サクソ)
19位 グレゴリー・ラスト(スイス、トレックファクトリーレーシング)
20位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレックファクトリーレーシング)
95位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
6h55'56"
+11'42"
+11'42"
text:Kei Tsuji
photo:Cor.Vos
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