クアラトレンガヌのビーチに面したフィニッシュ地点。ロータリーや細いコーナーを突き進んだ集団からテオ・ボス(オランダ、ベルキン)が発進する。すでに3勝を飾っている元トラックスターを止める者はこの日も現れなかった。ロングスパートを仕掛けた西谷泰治(愛三工業レーシング)は44位でフィニッシュしている。



4級山岳を通過して行くプロトン4級山岳を通過して行くプロトン photo:Kei.Tsuji
フランチェスコ・キッキのバイクを調整する大西恵太メカニックフランチェスコ・キッキのバイクを調整する大西恵太メカニック photo:Kei.Tsuji沿道に座ってスタートを待つアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)沿道に座ってスタートを待つアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ) photo:Kei.Tsuji


包帯が取れた福田真平(愛三工業レーシング)包帯が取れた福田真平(愛三工業レーシング) photo:Kei.Tsuji前週の第2ステージと同様に、金曜日はイスラム教の礼拝日のためレース時間がかなり遅い。第9ステージのスタート時間は午後3時、フィニッシュ時間は午後6時。午前中に選手たちはクアラトレンガヌのホテルでゆっくりとした時間を過ごし、午後になってようやく郊外のバンダーパーメイスリに向かって移動を開始した。

スタートを待つミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)らスタートを待つミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)ら photo:Kei.Tsujiクアラトレンガヌに至る第9ステージの走行距離は111.1km。前日まで続いた200km超えステージの半分ほどの距離しかない。しかし単純に距離が短いからイージーかと言うと決してそうではなく、全員が消耗していない元気な状態で位置取り合戦を繰り広げるため、むしろゴールスプリントの難易度は上がる。

オリカ・グリーンエッジの選手たちが談笑しながらスタートを待つオリカ・グリーンエッジの選手たちが談笑しながらスタートを待つ photo:Kei.Tsujiしかもこの日もフィニッシュ数キロ手前にコーナーが連続する挑戦的なレイアウト。連日危険なコースレイアウトに愚痴をこぼすアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)は「まただ。フィニッシュラインの150m手前にロータリーがあるなんて。でも勝負するにはある程度の覚悟で飛び込まないといけない」とため息混じりに話す。

逃げるヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)とカルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア)逃げるヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)とカルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア) photo:Kei.Tsuji第2ステージで落車し、かれこれ1週間ずっと痛々しい姿で走っていた福田真平(愛三工業レーシング)の左手からついに包帯が消えた。日に日に傷が治り、この日から左手の包帯が絆創膏にチェンジ。それに伴ってハンドルを丸ハンドルに戻した。

メイン集団をコントロールするタブリスペトロケミカルメイン集団をコントロールするタブリスペトロケミカル photo:Kei.Tsuji「まだ(車両減速用の)段差に突っ込めないのでスプリントでのアシストは出来ませんが、西谷さんを少しでもサポート出来れば」と福田は話す。愛三工業レーシングは西谷泰治のスプリントに懸けている。

スタート直後に集団から抜け出したのはカルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア)とヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)の南米コンビ。キンテロは総合11位・1分46秒遅れ、モンサルベは総合12位・2分14秒遅れ。総合トップ10入りと、あわよくば総合逆転を狙う2人が飛び出した。

逃げとメイン集団のタイム差が2分を超えたため、キンテロが一時的にバーチャルリーダーに。しかしタブリスペトロケミカルのメンバー総動員の牽引によってタイム差は抑え込まれる。

3つあるスプリントポイントを全て先頭通過したキンテロは合計9秒のボーナスタイムを獲得する。結果的に逃げは吸収される運命を辿るが、この貴重なボーナスタイムによってキンテロは総合10位にジャンプアップすることに成功した。

2つある4級山岳はいずれもモンサルベが先頭通過。翌日の最終ステージにはKOMが設定されていないため、マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)の山岳賞獲得が実質的に決定。

その一方で接戦が繰り広げられているのがスプリント賞争い。ネオプロのミカル・コラー(スロベキア、ティンコフ・サクソ)がスプリントポイントで動いて2ポイントを獲得し、スプリント賞トップのアイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)と同ポイントで並んでみせる。スプリント賞ジャージの行方は最終日の最終スプリントまで持ち越された。



集団内で走る愛三工業レーシングの西谷泰治、福田真平、平塚吉光集団内で走る愛三工業レーシングの西谷泰治、福田真平、平塚吉光 photo:Kei.Tsuji


ペースを落とさず逃げを追うメイン集団ペースを落とさず逃げを追うメイン集団 photo:Kei.Tsujiアスタナとアンドローニ・ベネズエラ、ベルキンの牽引によって残り10kmで逃げが吸収されると、マレーシアやコロンビアがカウンターアタックで果敢に飛び出す。ベルキンの強力なリードアウトがこれらの動きを封じ込めていく。

先頭で最終ストレートに突っ込むアイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)先頭で最終ストレートに突っ込むアイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei.Tsujiうねるように曲がりくねった道を抜けてクアラトレンガヌへ。残り3kmを切って発生した落車によって集団はこの日もバラける。残り1kmに差し掛かったところで、西谷泰治が飛び出した。

グアルディーニらを下したテオ・ボス(オランダ、ベルキン)グアルディーニらを下したテオ・ボス(オランダ、ベルキン) photo:Kei.Tsuji「仕掛けるタイミングを伺いながら、残り1kmでコロンビアの選手が吸収されたところでカウンター。完全に1人で抜け出しました」と振り返る西谷が、テクニカルなロータリーを先頭で抜ける。しかしベルキンのリードアウトトレインを振り切るにはスピードが足らなかった。

44位でフィニッシュする西谷泰治(愛三工業レーシング)44位でフィニッシュする西谷泰治(愛三工業レーシング) photo:Kei.Tsuji細い連続コーナーを抜け、グレーム・ブラウン(オーストラリア)に導かれたテオ・ボス(オランダ、ベルキン)が好位置をキープ。真っ先に腰を上げたのはスプリント賞ジャージを着るアイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)だった。

晴れやかな表情を見せる西谷泰治(愛三工業レーシング)晴れやかな表情を見せる西谷泰治(愛三工業レーシング) photo:Kei.Tsuji先行するクルオピスにボス、アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)、ミカル・コラー(スロベキア、ティンコフ・サクソ)が続く形で最終ストレートへ。残り150mからスプリント体勢に入ったボスが先行するクルオピスを抜き去り、グアルディーニを振り切ってフィニッシュした。

3日連続4度目のスプリント勝利を飾ったボスは「繰り返すけど、ステージ3勝を目指していたのでチームとしても非常に満足している」とレース後の記者会見で話す。

トラック世界選手権(スプリント、ケイリン、1kmTT)で合計5個の金メダルを獲得しているボス。過去には日本の国際競輪にも出場しており、ワールドグランプリを含めて勝利を重ねた。2009年にトラックからロードに転向している。

「夢はツール・ド・フランスのステージ優勝やクラシックレースの勝利だけど、現実的にならないといけない。ビッグレースに集中して大きな勝利を狙うよりも、これぐらいのレースで勝利を重ねることで勝利の感触を掴むことが出来る。まだまだカヴェンディッシュやキッテルの安定した力には届かない」と打ち明ける。翌日の最終ステージで狙うのはもちろんスプリント5勝目だ。

ロングスパートを仕掛けたものの吸収され、肩を落として集団後方でフィニッシュラインを切った西谷は44位。「ベルキンは4人ぐらい残していて、スピードが乗っている状態だったので、そう簡単には抜け出せなかった。でも残り500mまでは(単独で)行けたので、後ろに2人ぐらい付いていれば良い勝負になったと思います」と、フィニッシュ後にドリンクを口に運びながら西谷は語る。

結果だけを見ると連日の集団スプリントよりもずっと下の順位だが、出し切った晴れやかな表情が印象的。ラストチャンスに向けて、西谷の試行錯誤が続いている。「集団の人数が絞られていたので、なだれ込む形でスプリントしたら10位前後まで行けたかもしれない。でも一回ぐらいは先頭で勝負したいと思ったので、とりあえず前に出てどこまで行けるか試したかった。付き位置の展開でなだれ込むスプリントにはしたくなかった。今までの展開とは違う新しいことが出来たので、また明日、ラスト頑張ります!」。



華やかな馬車を横目にホテルに戻る華やかな馬車を横目にホテルに戻る photo:Kei.Tsujiリーダージャージに袖を通すミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)リーダージャージに袖を通すミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル) photo:Kei.Tsuji


ツール・ド・ランカウイ2014第9ステージ結果
1位 テオ・ボス(オランダ、ベルキン)                    2h32'21"
2位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)
3位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)
4位 フランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)
5位 ロベルト・フェルスター(ドイツ、ユナイテッドヘルスケア)
6位 ミカル・コラー(スロベキア、ティンコフ・サクソ)
7位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コロンビア)
8位 オマール・ベルタッツォ(イタリア、アンドローニ・ベネズエラ)
9位 ダニエル・クレンメ(ドイツ、シナジーバクサイクリング)
10位 ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)
44位 西谷泰治(日本、愛三工業レーシング)
98位 福田真平(日本、愛三工業レーシング)                   
99位 平塚吉光(日本、愛三工業レーシング)                   +1'54"

個人総合成績
1位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)  32h51'21"
2位 メルハウィ・クドゥス(エリトリア、MTNキュベカ)               +08"
3位 イサーク・ボリバル(コロンビア、ユナイテッドヘルスケア)           +11"
4位 エスデバン・シャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)          +20"
5位 ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)                 +36"
6位 ジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、MTNキュベカ)        +40"
7位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ベルキン)               +52"
8位 ジャンフランコ・ジリオーリ(イタリア、アンドローニ・ベネズエラ)      +1'09"
9位 ガファリ・ヴァヒド(イラン、タブリスペトロケミカル)            +1'27"
10位 カルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア)               +1'37"

アジアンライダー賞
1位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)  32h51'21"
2位 ガファリ・ヴァヒド(イラン、タブリスペトロケミカル)            +1'27"
3位 アミール・コラドザグ(イラン、タブリスペトロケミカル)           +3'03"

スプリント賞
1位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)       84pts
2位 ミカル・コラー(スロベキア、ティンコフ・サクソ)             81pts
3位 テオ・ボス(オランダ、ベルキン)                     77pts

山岳賞
1位 マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)       34pts
2位 イサーク・ボリバル(コロンビア、ユナイテッドヘルスケア)          31pts
3位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)    25pts

チーム総合成績
1位 MTNキュベカ                              98h36'50"
2位 タブリスペトロケミカル                           +1'38"
3位 アンドローニ・ベネズエラ                          +8'52"

text&photo:Kei Tsuji in Kuala Terengganu, Malaysia

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