2013/09/30(月) - 07:11
好天続きの1週間の締めくくりは、雷を伴う大雨。今年ツール・ド・フランスでステージ2勝を飾っているルイ・コスタ(ポルトガル)が、巧みに強豪国の攻撃をかわし、7時間半におよぶ厳しいサバイバルレースを制した。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス)が出走サイン台に登場 photo:Kei Tsuji朝10時のスタートに合わせてトスカーナ州西部に位置するルッカに到着した選手たちを待っていたのは、どす黒い雲と雷鳴だった。ロード世界選手権を締めくくる最終日のエリート男子ロードレース。ただでさえ厳しいと評判のコースに悪天候が重なった。
大雨を引き連れてフィレンツェに到着した逃げグループ photo:Kei Tsujiティレニア海に近いルッカをスタートし、モンテカルロ(登坂距離3750m・平均勾配3.5%)とサンバロント(登坂距離3900m・平均勾配7.1%)の2つの登りを経てフィレンツェに向かう道中、降りしきる雨の中、ヨンデル・ゴドイ(ベネズエラ)、マティアス・ブランドル(オーストリア)、ヤン・バルタ(チェコ)、ラファ・シュティウィ(チュニジア)、バルトス・フザルスキー(ポーランド)がアタックを成功させる。
メイン集団を牽引したのはイギリスで、トスカーナに居を構える元世界チャンピオンのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が長時間メイン集団を牽引。逃げグループとメイン集団は8分差をキープしながら、雨雲とともにフィレンツェに到着した。
雨に濡れたフィレンツェの旧市街を抜けると、フィエーゾレ(登坂距離4370m・平均勾配5.2%)とサルヴィアーティ通り(登坂距離600m・平均勾配10.2%)を含む16.57kmの周回コースがスタート。エリート男子は、雷鳴が轟くこの周回コースを10周する。
アルノ川にかかるポンテヴェッキオを眺めながら、左折してフィレンツェ市内へ photo:Kei Tsuji
プロトンがドゥオーモを通過 photo:TDWsport/Kei Tsuji
フィエーゾレ頂上を通過するヤン・バルタ(チェコ)ら5名 photo:Kei Tsuji
イタリアとオランダが集団の前を固める photo:Kei Tsujiメイン集団ではイギリスに代わってイタリアがペースを作り、逃げグループとのタイム差を詰めて行く。世界選手権のために舗装し直された路面は極めてスムーズだが、雨によってスリッピーな状態に。メイン集団では落車が相次ぎ、優勝候補の一角ダニエル・マーティン(アイルランド)やカデル・エヴァンス(オーストラリア)、クリストファー・ホーナー(アメリカ)らが早い段階でレースを去った。
急勾配のサルヴィアーティを登るプロトン photo:Kei Tsujiイタリアが登りと下りで巧みにペースをコントロールすることで、メイン集団は人数を減らして行く。特に下りでのペースアップに苦しむ選手が続出し、アルベルト・コンタドール(スペイン)やクリス・フルーム(イギリス)らは脱落。残り5周に差し掛かる頃、メイン集団は60名ほどに絞られていた。
やがて先頭はバルタとフザルスキー(ともにネットアップ・エンドゥーラ所属)の2人に絞られる。するとメイン集団からゲオルグ・プライドラー(オーストリア)とウィルコ・ケルデルマン(オランダ)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア)、シリル・ゴティエ(フランス)がカウンターアタック。快調なペースで登りを駆け上がったヴィスコンティは、先頭で生き残ったフザルスキーに合流してそのままエスケープを試みた。
落ち着いて8周目のサルヴィアーティの登りをこなすヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア) photo:Kei Tsuji
集団内でサルヴィアーティの登りをこなすフィリップ・ジルベール(ベルギー) photo:TDWsport/Kei Tsuji
人数を減らしながらサルヴィアーティを登るプロトン photo:Kei Tsuji
サルヴィアーティで飛び出したホアキン・ロドリゲス(スペイン) photo:Kei Tsuji一方、ベルギーの支配下に置かれたメイン集団ではニーバリが落車。沿道に座り込んで万事休すかと思われたが、開催国イタリアの期待を背負うニーバリは何とかレースに復帰し、チームカーを縫ってメイン集団に戻った。
ロドリゲスを追うヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア) photo:Kei Tsuji先頭ヴィスコンティとフザルスキーは最終周回突入前に吸収。メイン集団は42名に絞られた状態で最終周回へと入って行く。すると、スピードのあるフィリップ・ジルベール(ベルギー)やファビアン・カンチェラーラ(スイス)、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)、ペーター・サガン(スロバキア)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)らを振るい落とすべく、フィエーゾレの登りでクライマーたちの攻撃が始まった。
最終周回のサルヴィアーティを遅れて登るペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsujiミケーレ・スカルポーニ(イタリア)のリードアウトを受け、フィエーゾレの頂上500m手前でニーバリがアタック。これにホアキン・ロドリゲス(スペイン)が追いつき、2人で最後のフィエーゾレをクリアする。
後方ではアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)とリゴベルト・ウラン(コロンビア)、ルイ・コスタ(ポルトガル)が追走グループを組織。そこにカンチェラーラやサガン、ボアッソンハーゲンの姿は無かった。
下りで派手に落車したウランを除く追走2名が先頭2名に追いつき、先頭はロドリゲス、バルベルデ、ニーバリ、コスタの四強に。ゴール5km手前の急勾配サルヴィアーティでロドリゲスが攻撃を仕掛けたもののニーバリがこれを許さない。先頭4名がまとまったまま、登りでの勝負が終了した。
スペイン2、イタリア1、ポルトガル1という数の利を活かしてラスト2kmでロドリゲスがアタック。当然バルベルデはこれを追わず、ニーバリが身を粉にして追走する。するとラスト1.5kmでカウンターアタックを仕掛けたコスタが、単独で先頭のロドリゲスを捕まえた。
ロドリゲスの先行交代要求に応じないコスタが残り200mを切ってからスプリント。ロドリゲスには対抗する力が残っていなかった。
ゴールスプリントを繰り広げるホアキン・ロドリゲス(スペイン)とルイ・コスタ(ポルトガル) photo:TDWsport/Kei Tsuji
ガッツポーズを繰り出すルイ・コスタ(ポルトガル) photo:TDWsport/Kei Tsujiポルトガル生まれの世界チャンピオンが誕生。イタリアやスペイン、ベルギーによる攻撃をしのぎ、ダークホースとして常にビッグネームをマークしていた26歳が勝利した。
ロード世界選手権エリート男子ロードレース表彰台 photo:TDWsport/Kei TsujiUCIのブライアン・クックソン新会長からアルカンシェルを受け取ったコスタは「夢が叶った。今はまだ何が起こったのか理解できていない」と喜ぶ。「まさか勝てるとは思っていなかったけど、終盤に4人になったとき、チャンスがあると分かった。4人の中で一番スプリント力のないロドリゲスが先にアタックすることは想像できていた。タイミングを待って、アタックして、彼に追いついたんだ。スプリントを前に息を整えたよ。誇りに満ちた勝利を手にすることができた」。
コスタは今年ツール・ド・スイスで大会連覇を果たし、ツール・ド・フランスでは逃げ切りでステージ2勝している実力者。今年80回目を迎えるロード世界選手権エリートロードの中で、初めてポルトガル人が表彰台に上がった。
2位のロドリゲスは表彰台で涙した。昨年のジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャ、そして今年のツール・ド・フランスやリエージュ〜バストーニュ〜リエージュなどで常にトップスリーに入りながら、あと一歩勝利に届かないロドリゲス。「このメダルには満足できない。今日はスペインにとって大きなチャンスだった。コスタが追いついてきた時点でチャンスはないと思った」。
同様に表彰台で表情を曇らせたのは、ゴールスプリントでニーバリを破って3位に入ったバルベルデ。ゴール手前の動きが、同じスペインのロドリゲスではなく、チームメイトであるコスタに有利に働いたことに批判が集まったが、バルベルデはこう反論する。「270kmオーバーのレースで出来ることは限られている。戦略を間違ったと言われているけど、そうは思わない。コスタがアタックしたとき、単純に反応できる脚が残っていなかったんだ」。
近年稀に見る厳しいコースと、気温17度で大雨という気象コンディション。出走した208名のうち、フィニッシュラインに到達したのは61名だった。
ロード世界選手権2013エリート男子ロードレース結果
1位 ルイ・コスタ(ポルトガル) 7h25'44"(Ave.36.65km/h)
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン)
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン) +16"
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)
5位 アンドレー・グリブコ(ウクライナ) +31"
6位 ペーター・サガン(スロバキア) +34"
7位 サイモン・クラーク(オーストラリア)
8位 マキシム・イグリンスキー(カザフスタン)
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー)
10位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス)
text&photo:Kei Tsuji in Firenze, Italy
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メイン集団を牽引したのはイギリスで、トスカーナに居を構える元世界チャンピオンのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が長時間メイン集団を牽引。逃げグループとメイン集団は8分差をキープしながら、雨雲とともにフィレンツェに到着した。
雨に濡れたフィレンツェの旧市街を抜けると、フィエーゾレ(登坂距離4370m・平均勾配5.2%)とサルヴィアーティ通り(登坂距離600m・平均勾配10.2%)を含む16.57kmの周回コースがスタート。エリート男子は、雷鳴が轟くこの周回コースを10周する。
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下りで派手に落車したウランを除く追走2名が先頭2名に追いつき、先頭はロドリゲス、バルベルデ、ニーバリ、コスタの四強に。ゴール5km手前の急勾配サルヴィアーティでロドリゲスが攻撃を仕掛けたもののニーバリがこれを許さない。先頭4名がまとまったまま、登りでの勝負が終了した。
スペイン2、イタリア1、ポルトガル1という数の利を活かしてラスト2kmでロドリゲスがアタック。当然バルベルデはこれを追わず、ニーバリが身を粉にして追走する。するとラスト1.5kmでカウンターアタックを仕掛けたコスタが、単独で先頭のロドリゲスを捕まえた。
ロドリゲスの先行交代要求に応じないコスタが残り200mを切ってからスプリント。ロドリゲスには対抗する力が残っていなかった。
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コスタは今年ツール・ド・スイスで大会連覇を果たし、ツール・ド・フランスでは逃げ切りでステージ2勝している実力者。今年80回目を迎えるロード世界選手権エリートロードの中で、初めてポルトガル人が表彰台に上がった。
2位のロドリゲスは表彰台で涙した。昨年のジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャ、そして今年のツール・ド・フランスやリエージュ〜バストーニュ〜リエージュなどで常にトップスリーに入りながら、あと一歩勝利に届かないロドリゲス。「このメダルには満足できない。今日はスペインにとって大きなチャンスだった。コスタが追いついてきた時点でチャンスはないと思った」。
同様に表彰台で表情を曇らせたのは、ゴールスプリントでニーバリを破って3位に入ったバルベルデ。ゴール手前の動きが、同じスペインのロドリゲスではなく、チームメイトであるコスタに有利に働いたことに批判が集まったが、バルベルデはこう反論する。「270kmオーバーのレースで出来ることは限られている。戦略を間違ったと言われているけど、そうは思わない。コスタがアタックしたとき、単純に反応できる脚が残っていなかったんだ」。
近年稀に見る厳しいコースと、気温17度で大雨という気象コンディション。出走した208名のうち、フィニッシュラインに到達したのは61名だった。
ロード世界選手権2013エリート男子ロードレース結果
1位 ルイ・コスタ(ポルトガル) 7h25'44"(Ave.36.65km/h)
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン)
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン) +16"
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7位 サイモン・クラーク(オーストラリア)
8位 マキシム・イグリンスキー(カザフスタン)
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー)
10位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス)
text&photo:Kei Tsuji in Firenze, Italy
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