鮮やかに晴れたバスティアで迎える第2ステージの朝。スタート時間は午後1時20分とやや遅めの設定。大量落車の発生したカオスな一日が明け、身体に包帯を巻いた負傷した選手の姿が目立つ。

マイヨジョーヌの黄色があしらわれたマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)のフェルト・F1マイヨジョーヌの黄色があしらわれたマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)のフェルト・F1 photo:Makoto.Ayanoトム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・シャープ)のステムの上にはトリケラトプストム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・シャープ)のステムの上にはトリケラトプス photo:Makoto.Ayano


オリカ・グリーンエッジのバスも無事スタート地点にやってきた。屋根の状態は下からは見えない。マシュー・ホワイト監督は意地悪な質問をぶつけるメディアの対応に忙しい。運転手もちょっとした人気者だ。ASOはグリーンエッジに損壊の弁償として1600ユーロの罰金を科したそうだ。(誘導ミスなのに、なぜ?)

しかし今日も警察官の誘導が良くない印象を受けた。朝のスタートまでの誘導でも、自走でスタート地点に向かうアルゴス・シマノの選手たちがスタート地点に向かおうとしているのに、「自転車を通していいとは本部から聞いていない」と、選手たちと押し問答していた。当然、選手はVIP以上の存在。マイヨジョーヌ色のパンツを履いたキッテルも居るというのに!」

ツール未経験の島の警官による運営が心配だ。例年警備に当たるジャンダルムリー(憲兵隊)の数が著しく少ないように感じる。

アスタナのチームエリアに現れたアレクサンドル・ヴィノクロフ“大佐”アスタナのチームエリアに現れたアレクサンドル・ヴィノクロフ“大佐” photo:Makoto.Ayano昨ステージで問題を起こしたオリカ・グリーンエッジのバスも無事スタートするが、1600ユーロの罰金が課された昨ステージで問題を起こしたオリカ・グリーンエッジのバスも無事スタートするが、1600ユーロの罰金が課された photo:Makoto.Ayano

大怪我を追ったトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)はスタートラインに並んだ(写真は第1ステージ)大怪我を追ったトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)はスタートラインに並んだ(写真は第1ステージ) photo:Makoto.Ayanoサインをするフルーム。KASKの新型エアロヘルメット・INFINITYが目立つサインをするフルーム。KASKの新型エアロヘルメット・INFINITYが目立つ photo:Makoto.Ayano

アスタナのチームエリアにプレゼンテーションには並ばなかったアレクサンドル・ヴィノクロフが登場。髪は伸びたが精悍な顔つきとオーラは変わらず、いつでも再び走り出しそうな雰囲気だ。

今日のステージでのアタックに意欲を見せる新城幸也今日のステージでのアタックに意欲を見せる新城幸也 photo:Makoto.Ayano昨日もっともひどい怪我を負ったトニ・マルティンの姿を確認すべくオメガファーマ・クイックステップのバスに向かう。バスの前で広報担当は言う。「マルティンは走るよ。体中傷だらけだけれど、骨折はなかった。昨日は眠れたようだし、食事も食べれた。でも見た感じ、ともかくスタートを切る彼には脱帽だよ!ドクターもOKを出したし、チームとしては今日一日を見守るしかない。」

昨年のツールでマルティンはもっとも運の悪い選手だった。開幕タイムトライアルでマイヨジョーヌを狙うも、メカトラブルに見舞われる。そして第2ステージで落車して手首を骨折、しかしギプスをして走り続けた。次の個人タイムトライアルにこぎつけたが、再びメカトラに見舞われ、そしてリタイア。TT世界チャンピオンのジャージを着ながら、ツールでは何もできなかった。

そしてまた今年も落車。昨日は落車してからもゴールまで走り続け、バスに到着して2度意識を失ったという。肩の骨が折れているという情報も飛び交った。左肺あたりに挫傷、おしりと左ひざ、肩、背中と、広範囲を負傷した状態。包帯だらけだ。

「60km以上のハイスピードで転んで、後ろから選手が突っ込んできて何も出来なかった。」と言うマルティン。公式サイトにムービーでコメントを発表した。

ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)は今年も包帯に包まれたジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)は今年も包帯に包まれた photo:Makoto.Ayano「クラッシュはとても激しかった。走り終わった後はとても悪い状態で、そして病院に運ばれた。皆が心配してくれて、僕のためにベストを尽くしてくれた。昨日は良く眠れたし、バイクに乗れそうだからまたスタートすることにしたんだ。べストを尽くすよ。チームタイムトライアルがまず目標で、それは大きなモチベーションになる。ただそれだけじゃなく、マーク(カヴェンディッシュ)をサポートすることが仕事。チームはそのために組まれたし、最終目標はゴールのパリに到達すること。」

王者であるタイムトライアルでの走りと、カヴェンディッシュのためのラスト1kmまでのアシストがマルティンの役割だ。オメガファーマの当初の作戦は、第1ステージをカヴェンディッシュで勝利してマイヨジョーヌを獲得し、第2・3ステージのアップダウンでカヴェンディッシュがマイヨを失ったとしても第4ステージのニースのチームTTで再びマイヨを奪還することだった。走り続けてニースへと希望をつなぐ。

山岳ジャージ獲得記念の記念写真を撮るエウスカルテル・エウスカディ山岳ジャージ獲得記念の記念写真を撮るエウスカルテル・エウスカディ photo:Makoto.Ayano

ユキヤは朝から気合の入った表情でマシンの調整に余念がない。「今日は一応、アタックするメンバーには入っています。他のチームも皆が同じ考えでいるとは思いますけれど。」と話す。逃げて勝てばマイヨジョーヌがとれるため、誰もが逃げたいこのステージ。ユーロップカーとしても積極的に攻める作戦だ。

イタリアも近いため「コスタ・ヴェルデ(緑の海岸線)」という呼び名があった第1ステージはありきたりな海岸の風景だったが、第2、第3ステージは大自然の宝庫コルシカ島らしい風景が広がる島の内部へと進んでいく。

バスティアのサッカーチームの旗があちこちで目立つバスティアのサッカーチームの旗があちこちで目立つ photo:Makoto.Ayanoコルシカといえばナポレオンの応援(しかし外国人)コルシカといえばナポレオンの応援(しかし外国人) photo:Makoto.Ayano


沿道にコルシカのシンボル的な横顔の旗、バスティアのサッカーチームの旗がひるがえる。そしてナポレオンの帽子をかぶった観客も登場。今日もコースに迂回路はなく、関係車両はすべてゴール手前のアジャクシオまで先行する。フォトグラファーやプレスたちは今日もボートに乗ってゴール地点がある岬まで往復だ。


知性派のバケランツ プロ初勝利がツール、そしてマイヨ・ジョーヌ獲得

迫り来る集団を振り切るヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)迫り来る集団を振り切るヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos逃げグループからラスト1500mで独走の逃げを敢行、迫る集団から1秒差で逃げ切ったヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)。ジロ、そしてブエルタを2度完走しているが、ツールは初出場。プロ初勝利がツールでのステージ勝利、そしてマイヨ・ジョーヌ獲得という最高のものとなった。知名度がない選手のアタックに、フランスTVでさえマイケル・イリサールと勘違いして名前を連呼していたという。

2008年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュのU23レースで優勝し、アマチュア最高峰のレース、ツール・ド・ラヴニールで総合優勝したことがプロ入りにつながった。2009年ブエルタでは総合18位に入っている27歳のオールラウンダーだ。しかし、2010年のジロ・ディ・ロンバルディアで転倒して右膝と左肘を骨折したことから、不調の時期が続いた。

頭を抱えてゴールに飛びこむヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)頭を抱えてゴールに飛びこむヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード) photo:Makoto.Ayano

「その年、ジロではラクイラへゴールするステージで逃げに乗ったが、下りで落車してしまった。ブエルタでも逃げたが、チャンスは生かせなかった。今日は運とチャンス、両方が味方したね。惨めな時期が続いたが、チームにはこれで恩返しができる。」

今シーズン序盤に右膝の再手術を行ってから低迷していたバケランツ。復帰戦のツール・ド・ロマンディでは反対側の膝に炎症が出てレースをリタイヤ。レディオシャックは通常クリテリウム・ドーフィネとツール・ド・スイスに調整のため出場する選手からツールメンバーを最終決定するが、そのどちらにも出ていないバケランツの抜擢はチームメンバーにとってサプライズだったという。

感極まって歓喜のガッツポーズを見せる感極まって歓喜のガッツポーズを見せる photo:Makoto.Ayanoマイヨジョーヌを受け取ったヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)マイヨジョーヌを受け取ったヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード) photo:Makoto.Ayano


決め手となったのはツール・ド・ルクセンブルグと地元ベルギー開催レースでの活躍。そしてツール開幕前週のベルギー選手権での3位という結果だ。独走して優勝したのはチームメイトのステイン・デヴォルデルだったが、アラン・ガロパン監督はデヴォルデルをツールメンバーに抜擢せず、代わりにバケランツを推しメンバーに加えた。

チームメイトと祝杯を上げるヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)チームメイトと祝杯を上げるヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード) photo:Cor.Vosゴールを越えるときには頭を抱えるゼスチャー。記者会見場に登場しても、自分のしたことが信じられないかのような表情が続くバケランツ。「ガロパン監督には”君はツールでステージ優勝できる”と言われたけど、信じては居なかったよ。でもこんなに早くそれが本当になるなんて。」と話す。

チームメイトであることを問わず、多くの選手たちから祝福される選手だ。ベルギーのレーヴェンにある大学で学ぶ学生だった時にプロ入りし、バイオエンジニアリング・サイエンスの学位を取得している。

「モンフォールが君はプロトンの中では知性派のひとりで、いつもクルマや女の子の話ばかりしている連中とは違うと話していたけれど?」という記者の問いに対して笑いながら応える。

「マキシム、ありがとう(笑)。でも僕だってクルマや女の子の話はするよ。プロ入りしたときは学生で、ただ、自転車競技をするよりも人生には他にやることがあると思っていたけど、今は自転車レースが第一だね。」


12位に食い込んだユキヤ 

優勝したバケランツを1秒差まで追い込んだその集団の、絞れた集団のゴールスプリントに絡み12位でレースを終えたユキヤ。厳しいコースを経てのゴールスプリントで、その力を見せた。マイヨジョーヌ獲得に意欲を見せた有力選手たちと争い、ゴール直後に自転車を投げた。ゴール後に「ヒトケタ台の順位だと思う」と話す一団ゴールだった。悔しさを滲ませながら話す。

ステージ12位でゴールしたユキヤ(左端)ステージ12位でゴールしたユキヤ(左端) photo:Makoto.Ayano積極的に攻撃を仕掛けたユーロップカー積極的に攻撃を仕掛けたユーロップカー photo:Makoto.Ayano


「今日は久々の暑いレースで疲れました。最初から逃げに乗るつもりで前方に位置していたけど、チームメイトのダヴィ(ヴェイユー)が先に逃げに乗ったから、自分の出番はなかったんです。本当に暑くて、水ばかり飲んでたら、トマがボトルを取りにいってくれて、それを受け取るときに"スプリントに備えて温存しておけ"と言ってくれました。でも、12位じゃチームの評価としても足りない。まだ序盤だし、だんだん上がっていきますよ!」


血を滲ませてゴールしたトニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)。表情は明るい血を滲ませてゴールしたトニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)。表情は明るい photo:Cor.VosチームTTとカヴのサポート仕事への意欲を見せるマルティン

マルティンはカヴェンディッシュとともに17分遅れでゴールした。包帯には血と体液が滲む。しかし笑顔が出るほどに表情は明るい。

「スタート前にはなんともなかったから、走っていたら血が出てきたんだろう。そんなに悪くない。スタートできたことはハッピーだね。昨日落車した時に比べたら気分はいいよ。集団の前の方にいるようにして、最後はカヴと一緒に遅れた。全力で彼をサポートする必要があるけど、今日は彼の日じゃなかったから仕事はなかった。お陰でストレスもリスクもなくゴールできた。続ける気持ちはあるよ。今晩はよく寝られるといいね。ニースのチームTTは100%は無理だけど、90%ぐらいでは走りたい。」


アンディ好調?コンタドールは問題を抱える?

バケランツは記者会見の最後にチームメイトのアンディ・シュレクの好調ぶりを付け加えた。「今日はすごく調子のいいアンディを見ることができた。長い上りで、彼は僕と一緒だった。すごく調子が良いようだよ。僕が勝ったことでチームにも彼にもいい影響をもたらすと思う。」

第1ステージでの落車(写真)を引きずるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)第1ステージでの落車(写真)を引きずるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ) photo:Makoto.Ayano一方のアルベルト・コンタドールはツィッターで「昨日の落車のお陰でバイクの上で快適じゃなかった。でも問題なく一日を過ごせたのは良かった。」とつぶやいた。落車に弱いコンタドールの、少し気になる発言だ。

ツールはいよいよコルシカの3つのステージで最も危険と思われる第3ステージに入る。ヴォクレールやシャヴァネルといったバイクコントロール能力に長けたパンチャーが動くこと必至の、難しいステージだ。ユキヤも狙うはずだが、ちょっと神経質になっている。「明日のステージは、何かが起りそうな予感がする。すごい(過酷な)レースになりそうだね。」


text&photo:Makoto.Ayano


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