2009/07/09(木) - 13:43
タイムトライアルバイクとして開発されたRXRと、マスドロード用のVXRSのテクノロジーを融合させて誕生したのがRXR ULTEAMだ。2009年はBboxブイグテレコムのメインバイクとなり、ツール・ド・フランスに出場する新城幸也もこのバイクを駆る。果たして、その実力は?
タイム RXR ULTEAM photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
RXR ULTEAMは、タイムが2009年モデルとして満を持して発表したハイエンドモデルだ。2008年のツール・ド・フランスでは、ブイグテレコムのトマ・ヴォクレールとピエリック・フェドリゴの2枚看板がプロトタイプを実戦テスト。その優秀性を世界最高の舞台で証明したのであった。
今年はBboxブイグテレコムのメインバイクとなり、ツール・ド・フランス出場を決めた我らが日本のヒーロー新城幸也もこのバイクを駆っている。そういった意味で、今もっとも注目のバイクだと言えるだろう。
RXR ULTEAMの作りはタイムの伝統を踏襲するものだ。すなわち、高品質なHM(ハイモジュラス=高弾性)カーボンチューブをカーボン製のラグでつなぐというもの。カーボンフレームの主な生産地がヨーロッパから台湾へと移り、製法もフロントトライアングルをモノコックで成形するのが主流となってきたが、このRXR ULTEAMはいかにもフランス製らしい手の込んだ作りが魅力だ。
カーボン地を生かしたヘッドマークのデザイン。この角度から見ると、トップチューブの形状がよくわかる
トップチューブの形状。シートチューブとの接合部は、トップチューブ自身が外ラグのような形状となっている
ラグ方式の場合、「スケルトンの自由度がある」「一番応力が集中するチューブ接合部が強い」など様々なメリットがある。スケルトンの自由度があるとはいっても、プロ選手でもない限りその恩恵にあずかることは難しいだろうが、チューブ接合部が強いというメリットは誰にでも体感することができる。
エアロ形状の「トランスリンク」シートチューブ&シートポストポスト
タイム・SAFE+2フォーク
それでは、インプレッションをお届けしよう。
インプレッション
「素晴らしいバランス。レースからロングライドまでシチュエーションを選ばない」西谷雅史 「素晴らしいバランス。レースからロングライドまでシチュエーションを選ばない」
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
乗った瞬間に良さがわかるバイクだ。乗って5秒で「オォー!」と思った。剛性感は比較的高く、硬めの乗り味。しかし、見た目のボリュームからイメージされる「ガチガチの硬さ」ではなく、レース用として適度な「バランスの良い硬さ」だ。
決して乗り心地の良さも犠牲にしていない。推進力を生み出すための硬さと、ライダーに緊張感を与えない乗り心地の良さをハイレベルで両立させている。振動吸収性はかなり良い感じで、乗っていて「これぞ一級品!」と思った。距離の短いレースを走るだけならもっと硬くしても良かったのだろうが、200kmを越えるのが当たり前のヨーロッパのプロのレースでは、乗り心地の良さも必須なのだ。さすがプロの実戦で鍛え上げられたバイクだと言えるだろう。
タイムトライアルバイクのような外観だが、ハンドリングは素直でまったくクセがない。思い通りのラインでコーナリングすることができる。バイク全体が適度にしなる感じで、ハイスピードのコーナリングでもしっとりと路面に食いつく感覚がある。本当に扱いやすいバイクだ。
エアロ形状の「トランスリンク」シートチューブ&シートポストポスト かなり軽量なバイクであるにもかかわらず、ブレーキングをしてもビビり感はなく、思い通りにスピードを殺すことができる。この辺も、さすがプロユースのバイクという感じだ。
性能とは関係ない部分だが、見た目のシルエットの良さも抜群! 特に前を走っているライダーがこのバイクに乗っているのを見ると、そのバックからのシルエットにうっとりしてしまう。
難を挙げるとすれば、前後のバランスの問題なのか、踏み込んだときの伸びがイマイチだと感じた。シート高の調整が難しいのも難点と言えば難点か? また些細なことなのだが、ワイヤーのアジャストボルトがチープな感じだった。私だったら、すぐにボルトを交換する。それ以外はパーフェクトと言っても過言ではない。
使用用途としては、やはりロードレースで使うのが一番だ。また、乗り心地が良いのでロングライドで使うのにも良い。価格は高いが、それだけの価値があるバイクだと言えるだろう。
「エアロフォルムとは相反する汎用性の高さ。上りも抜群だった」仲沢 隆 「エアロフォルムとは相反する汎用性の高さ。上りも抜群だった」
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
個人的にエアロ形状のバイクは大好きなので、このRXR ULTEAMも以前から気になっていたバイクである。何よりも、その見た目がカッコイイ! 壁に立てかけて眺めてみると、思わずため息が出てしまう。実に「華のある」バイクだ。趣味のバイクとして、これはとても重要な部分だと思う。
乗っても素晴らしかった。もともとタイムトライアルバイクのRXRをベースとして設計されているので、平坦のハイスピード走行に特化した「平坦番長」だろうと思っていたのだが、その予想は見事に裏切られた。ハンドリングの軽快さ、コーナリングの素直さ、ブレーキング性能、どれを取っても不満な点は見当たらない。
中でも驚いたのが、上りの軽快さだ。「エアロ系のバイク=上りは苦手」という図式は、このバイクにはまったく当てはまらない。ちょっとした上りなら、アウターのままグイグイと行けるのだ。これには、かなり驚かされた。ペダルへかけた力が効率的に推進力へと変換されている証拠だろう。ヒルクライムバイクとして使っても、不満は出ないはずだ。
BBまわりからチェーンステーにかけての造形 エアロ系のバイクは、その形状から縦に硬くなりがちで、逆に横へは剛性不足になりがちだ。そのため、エアロ系バイクの中には乗り心地が悪く、ウィップが大きいというモノも散見される。しかし、このRXR ULTEAMは思いのほか振動吸収性が高く、BBのウィップもうまく押さえ込んでいる。この辺がペダリングを効率的に推進力へ変換する秘密なのだろう。さすがタイムだ。プロの実戦で鍛え上げられたノウハウが生きている。
もちろん、平坦の高速走行も得意だ。40km/hくらいで巡航すると、「ああ、風を切っているな」という感覚を味わうことができる。ちょっと脚自慢の人なら、このバイクに乗れば200kmくらい簡単に走り切れてしまうのではないだろうか? そう思わせるほど、エアロ効果も高そうだ。
唯一の欠点は「価格の高さ」か。かなり稼いでいる方でも、これだけのお金を払うのは清水の舞台から飛び降りる覚悟が必要だろう。しかし、いつもの走り慣れたコースを走っていて、ふと目線を下に落とすと艶めかしい容姿のRXR ULTEAMがあるというシチュエーションはかなり魅力だ。「至福の時間が手に入れられる」と言っても過言ではない。思い切って、清水の舞台から飛び降りるのも悪くないのではないだろうか?
タイム・RXR ULTEAM photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
フレーム素材 RXR ULTEAMウィッシュボーン・オプティマイズドカーボンHM+ベクトランチューブ
フォーク タイム・SAFE+2
ヘッドセット タイム・クイックセット
BB規格 ENG(JIS 68mm)
カラー レッド、ホワイト
サイズ XXS, XS, S, M, L, XL
付属品 CMTシートポストヘッド、RXR ULTEAM専用デザインモノリンクステム、カーボンボトルケージ
フレーム単体重量 1100g(フレームのみ)、1700g(モジュール)
希望小売価格(税込み) 699,000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
www.o-vest.com
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
ウェア協力:カステリ(インターマックス)、カンパニョーロ
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真

RXR ULTEAMは、タイムが2009年モデルとして満を持して発表したハイエンドモデルだ。2008年のツール・ド・フランスでは、ブイグテレコムのトマ・ヴォクレールとピエリック・フェドリゴの2枚看板がプロトタイプを実戦テスト。その優秀性を世界最高の舞台で証明したのであった。
今年はBboxブイグテレコムのメインバイクとなり、ツール・ド・フランス出場を決めた我らが日本のヒーロー新城幸也もこのバイクを駆っている。そういった意味で、今もっとも注目のバイクだと言えるだろう。
RXR ULTEAMの作りはタイムの伝統を踏襲するものだ。すなわち、高品質なHM(ハイモジュラス=高弾性)カーボンチューブをカーボン製のラグでつなぐというもの。カーボンフレームの主な生産地がヨーロッパから台湾へと移り、製法もフロントトライアングルをモノコックで成形するのが主流となってきたが、このRXR ULTEAMはいかにもフランス製らしい手の込んだ作りが魅力だ。


ラグ方式の場合、「スケルトンの自由度がある」「一番応力が集中するチューブ接合部が強い」など様々なメリットがある。スケルトンの自由度があるとはいっても、プロ選手でもない限りその恩恵にあずかることは難しいだろうが、チューブ接合部が強いというメリットは誰にでも体感することができる。


それでは、インプレッションをお届けしよう。
インプレッション

西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
乗った瞬間に良さがわかるバイクだ。乗って5秒で「オォー!」と思った。剛性感は比較的高く、硬めの乗り味。しかし、見た目のボリュームからイメージされる「ガチガチの硬さ」ではなく、レース用として適度な「バランスの良い硬さ」だ。
決して乗り心地の良さも犠牲にしていない。推進力を生み出すための硬さと、ライダーに緊張感を与えない乗り心地の良さをハイレベルで両立させている。振動吸収性はかなり良い感じで、乗っていて「これぞ一級品!」と思った。距離の短いレースを走るだけならもっと硬くしても良かったのだろうが、200kmを越えるのが当たり前のヨーロッパのプロのレースでは、乗り心地の良さも必須なのだ。さすがプロの実戦で鍛え上げられたバイクだと言えるだろう。
タイムトライアルバイクのような外観だが、ハンドリングは素直でまったくクセがない。思い通りのラインでコーナリングすることができる。バイク全体が適度にしなる感じで、ハイスピードのコーナリングでもしっとりと路面に食いつく感覚がある。本当に扱いやすいバイクだ。

性能とは関係ない部分だが、見た目のシルエットの良さも抜群! 特に前を走っているライダーがこのバイクに乗っているのを見ると、そのバックからのシルエットにうっとりしてしまう。
難を挙げるとすれば、前後のバランスの問題なのか、踏み込んだときの伸びがイマイチだと感じた。シート高の調整が難しいのも難点と言えば難点か? また些細なことなのだが、ワイヤーのアジャストボルトがチープな感じだった。私だったら、すぐにボルトを交換する。それ以外はパーフェクトと言っても過言ではない。
使用用途としては、やはりロードレースで使うのが一番だ。また、乗り心地が良いのでロングライドで使うのにも良い。価格は高いが、それだけの価値があるバイクだと言えるだろう。

仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
個人的にエアロ形状のバイクは大好きなので、このRXR ULTEAMも以前から気になっていたバイクである。何よりも、その見た目がカッコイイ! 壁に立てかけて眺めてみると、思わずため息が出てしまう。実に「華のある」バイクだ。趣味のバイクとして、これはとても重要な部分だと思う。
乗っても素晴らしかった。もともとタイムトライアルバイクのRXRをベースとして設計されているので、平坦のハイスピード走行に特化した「平坦番長」だろうと思っていたのだが、その予想は見事に裏切られた。ハンドリングの軽快さ、コーナリングの素直さ、ブレーキング性能、どれを取っても不満な点は見当たらない。
中でも驚いたのが、上りの軽快さだ。「エアロ系のバイク=上りは苦手」という図式は、このバイクにはまったく当てはまらない。ちょっとした上りなら、アウターのままグイグイと行けるのだ。これには、かなり驚かされた。ペダルへかけた力が効率的に推進力へと変換されている証拠だろう。ヒルクライムバイクとして使っても、不満は出ないはずだ。

もちろん、平坦の高速走行も得意だ。40km/hくらいで巡航すると、「ああ、風を切っているな」という感覚を味わうことができる。ちょっと脚自慢の人なら、このバイクに乗れば200kmくらい簡単に走り切れてしまうのではないだろうか? そう思わせるほど、エアロ効果も高そうだ。
唯一の欠点は「価格の高さ」か。かなり稼いでいる方でも、これだけのお金を払うのは清水の舞台から飛び降りる覚悟が必要だろう。しかし、いつもの走り慣れたコースを走っていて、ふと目線を下に落とすと艶めかしい容姿のRXR ULTEAMがあるというシチュエーションはかなり魅力だ。「至福の時間が手に入れられる」と言っても過言ではない。思い切って、清水の舞台から飛び降りるのも悪くないのではないだろうか?

タイム RXR ULTEAM スペック
フレーム素材 RXR ULTEAMウィッシュボーン・オプティマイズドカーボンHM+ベクトランチューブ
フォーク タイム・SAFE+2
ヘッドセット タイム・クイックセット
BB規格 ENG(JIS 68mm)
カラー レッド、ホワイト
サイズ XXS, XS, S, M, L, XL
付属品 CMTシートポストヘッド、RXR ULTEAM専用デザインモノリンクステム、カーボンボトルケージ
フレーム単体重量 1100g(フレームのみ)、1700g(モジュール)
希望小売価格(税込み) 699,000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
www.o-vest.com

ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
ウェア協力:カステリ(インターマックス)、カンパニョーロ
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
フォトギャラリー