2013/06/10(月) - 11:49
ディフェンディングチャンピオンの西薗良太(チャンピオンシステム)はスタート前に「窪木が速いのは分かっている。あと、このコースでは大場も速い」と警戒した。その言葉通り、トップタイムを叩き出したのは、「ひたすらマイペースで走った」という24歳の大場政登志(Cプロジェクト)だった。
全日本選手権タイムトライアルの舞台は今年も秋田県大潟村のソーラースポーツライン。かつて日本第2位の面積を誇った八郎潟の広大な干拓地を、ほぼ一直線、ほぼ真っ平らなコースが貫いている。
今年はツール・ド・コリアやJプロツアー第6戦栂池高原と日程が重なったため、例年よりもメンバーは薄い。全日本チャンピオンを決める全日本選手権だと言うのに、アクセスの悪さも影響し、出場選手は実業団レースに劣る。全日本ロードと比較して、取材するメディアの数が驚くほど少ないのが現実だ。
昨年、男子エリートのコースは30km(30km x 1周)から42km(21km x 2周)に変更された。片道10km強の往復直線路を2度行って帰ってくる。ちょうどレースの中間地点でスタート地点を通過するため、ラップタイムを参考にしたペース配分がいくらか容易になる。これは観戦する側にとっても有り難いコース変更だ。
レース当日は曇り時々晴れのコンディションで、午後にかけて気温は22度前後まで上昇する。好タイムが期待出来る弱風のコンディションだが、路面の影響なのか空気の影響なのか、何故か「今日はバイクが進みにくかった」というのがライダー共通の見解。
1周回を完了した時点で暫定トップに立ったのは、多くの有力選手に「あいつは速い」と名指しされていた窪木一茂(和歌山県教育委員会)。マトリックス所属だが、和歌山県教育委員会のオレンジジャージを着て走った窪木が前半から飛ばす。遅れること5秒差で大場、23秒差で西薗という状況。いずれの3名も余裕のある表情で1周目を終え、2周目の直線路に視線を移して再び踏み込む。
「去年は前半から飛ばした影響で後半にガクンとペースが落ちた。だから今年はペース配分を考えて、前半は出来るだけ抑えて走りました。だからまさか自分が23秒もリードしているとは思わなかった」と話す窪木が、トップタイムを維持したままゴールに向かう。
2周目にペースを上げるのはどの選手も共通。後半にかけてタイムを大きく挽回したのは西薗で、2周目の折り返し(残り10km)の時点で窪木とのタイム差を5秒まで詰める。9秒差で大場という状況に。
スタート順の関係で先にゴールしたのは大場で、55分19秒の暫定トップタイムをマーク。続く窪木は好ペースを維持したが、ラスト1kmを切ったところで前輪がパンクしてしまう。窪木はゴールに向かってスピードを乗せることが出来ず、大場から24秒遅れのタイムでゴールした。
そして最終走者、ディフェンディングチャンピオンの西薗が全開でもがきながらゴールにやってくる。タイム表示は55分20秒。僅か1秒、大場に届かなかった。
西薗と窪木の接戦を破った大場が、目を赤らめながら表彰台に向かう。新チャンピオンが誕生した。
全日本チャンピオンジャージに袖を通した大場は「勝利の秘訣は…マイペースです。周りからの情報は一切聞かず、マイペースで、目標のスピードに合わせて走っていただけです。全開で行けるだけ行ってみた。(往復コースで)すれ違う時、2人(西薗と窪木)が速いとしか思わなかった。負けたくないという気持ちだけで走っていました」と話す。
「これまで結果が出ず、勝てないレースが続いていたので本当に嬉しい。家族とスポンサーと、彼女に感謝しています」と照れながら話す大場。今年からCプロジェクト(キャノンデール・チャンピオンシステム)に所属する24歳が、ロードレース初勝利、ならびに初の全日本タイトルを手にした。
大場は過去に全日本学生個人タイムトライアルで西薗に次いで2位。昨年までチームユーラシアに所属し、橋川健監督のもとベルギーで活動した。昨年までのチームメイトで、現在ベルギーのコルバ・スペラーノハムで活動する竹之内悠に勝利を報告したいと大場は笑う。
「(竹之内)悠は得意分野であるシクロクロスで全日本チャンピオンになった。だから僕は得意なタイムトライアルで勝ちたかった」。同い年の2人は互いに高め合える存在のようだ。
「策士策に溺れました」とは、1秒差で連覇を逃した西薗の言葉。「去年いろいろ機材でミスした窪木が速いのは分かっていたし、学生時代から大場君が速いのも知っていた。普段のトレーニングでは20分走が多いので、20分間の自分の限界がどれぐらいかは感覚で分かる。でもそれ以上はパワーメーターに頼らないとペースを作りにくい。伴走車からタイム差を聞く予定が、風で全く聞こえなかった。今日はメーターの調子がおかしくて、目測で窪木との差を計って『これは危ない。踏むしかない』と思い一気にペースを上げましたが、修正が遅かった。1周目で余裕を持ちすぎてしまった。ペーシングには失敗したけど、走りとしてはそこまで悪くなかったと思います」。
チャンスを目前にしながらも3位に終わった窪木は「走る前から大場さんと『西薗さんはめちゃくちゃ速そう。西薗さんに負けないようにお互い頑張りましょうよ』と話していたんです。だから大場さんが勝ってとても嬉しい」と、1歳年上の大場の勝利祝福するが、表情から悔しさがにじみ出る。年齢の近い大場、西薗、窪木は今後もライバルとして闘い続けることになるだろう。
※その他のカテゴリーのレースレポートならびに機材特集は後ほどお伝えします。
全日本選手権タイムトライアル2013
男子エリート(42km)
1位 大場政登志(Cプロジェクト) 55'19"(Ave.45.54km/h)
2位 西薗良太(チャンピオンシステム) +01"
3位 窪木一茂(和歌山県教育委員会) +24"
4位 武井亨介(チームフォルツァ!) +44"
5位 豊田勉(豊田業務店) +1'00"
6位 安井雅彦(シマノレーシング) +1'07"
7位 郡司昌紀(宇都宮ブリッツェン) +1'14"
8位 嶌田義明(Team UKYO) +1'29"
9位 倉林貴彦(なるしまフレンド) +1'55"
10位 吉田隼人(シマノレーシング) +1'55"
text&photo:Kei Tsuji
全日本選手権タイムトライアルの舞台は今年も秋田県大潟村のソーラースポーツライン。かつて日本第2位の面積を誇った八郎潟の広大な干拓地を、ほぼ一直線、ほぼ真っ平らなコースが貫いている。
今年はツール・ド・コリアやJプロツアー第6戦栂池高原と日程が重なったため、例年よりもメンバーは薄い。全日本チャンピオンを決める全日本選手権だと言うのに、アクセスの悪さも影響し、出場選手は実業団レースに劣る。全日本ロードと比較して、取材するメディアの数が驚くほど少ないのが現実だ。
昨年、男子エリートのコースは30km(30km x 1周)から42km(21km x 2周)に変更された。片道10km強の往復直線路を2度行って帰ってくる。ちょうどレースの中間地点でスタート地点を通過するため、ラップタイムを参考にしたペース配分がいくらか容易になる。これは観戦する側にとっても有り難いコース変更だ。
レース当日は曇り時々晴れのコンディションで、午後にかけて気温は22度前後まで上昇する。好タイムが期待出来る弱風のコンディションだが、路面の影響なのか空気の影響なのか、何故か「今日はバイクが進みにくかった」というのがライダー共通の見解。
1周回を完了した時点で暫定トップに立ったのは、多くの有力選手に「あいつは速い」と名指しされていた窪木一茂(和歌山県教育委員会)。マトリックス所属だが、和歌山県教育委員会のオレンジジャージを着て走った窪木が前半から飛ばす。遅れること5秒差で大場、23秒差で西薗という状況。いずれの3名も余裕のある表情で1周目を終え、2周目の直線路に視線を移して再び踏み込む。
「去年は前半から飛ばした影響で後半にガクンとペースが落ちた。だから今年はペース配分を考えて、前半は出来るだけ抑えて走りました。だからまさか自分が23秒もリードしているとは思わなかった」と話す窪木が、トップタイムを維持したままゴールに向かう。
2周目にペースを上げるのはどの選手も共通。後半にかけてタイムを大きく挽回したのは西薗で、2周目の折り返し(残り10km)の時点で窪木とのタイム差を5秒まで詰める。9秒差で大場という状況に。
スタート順の関係で先にゴールしたのは大場で、55分19秒の暫定トップタイムをマーク。続く窪木は好ペースを維持したが、ラスト1kmを切ったところで前輪がパンクしてしまう。窪木はゴールに向かってスピードを乗せることが出来ず、大場から24秒遅れのタイムでゴールした。
そして最終走者、ディフェンディングチャンピオンの西薗が全開でもがきながらゴールにやってくる。タイム表示は55分20秒。僅か1秒、大場に届かなかった。
西薗と窪木の接戦を破った大場が、目を赤らめながら表彰台に向かう。新チャンピオンが誕生した。
全日本チャンピオンジャージに袖を通した大場は「勝利の秘訣は…マイペースです。周りからの情報は一切聞かず、マイペースで、目標のスピードに合わせて走っていただけです。全開で行けるだけ行ってみた。(往復コースで)すれ違う時、2人(西薗と窪木)が速いとしか思わなかった。負けたくないという気持ちだけで走っていました」と話す。
「これまで結果が出ず、勝てないレースが続いていたので本当に嬉しい。家族とスポンサーと、彼女に感謝しています」と照れながら話す大場。今年からCプロジェクト(キャノンデール・チャンピオンシステム)に所属する24歳が、ロードレース初勝利、ならびに初の全日本タイトルを手にした。
大場は過去に全日本学生個人タイムトライアルで西薗に次いで2位。昨年までチームユーラシアに所属し、橋川健監督のもとベルギーで活動した。昨年までのチームメイトで、現在ベルギーのコルバ・スペラーノハムで活動する竹之内悠に勝利を報告したいと大場は笑う。
「(竹之内)悠は得意分野であるシクロクロスで全日本チャンピオンになった。だから僕は得意なタイムトライアルで勝ちたかった」。同い年の2人は互いに高め合える存在のようだ。
「策士策に溺れました」とは、1秒差で連覇を逃した西薗の言葉。「去年いろいろ機材でミスした窪木が速いのは分かっていたし、学生時代から大場君が速いのも知っていた。普段のトレーニングでは20分走が多いので、20分間の自分の限界がどれぐらいかは感覚で分かる。でもそれ以上はパワーメーターに頼らないとペースを作りにくい。伴走車からタイム差を聞く予定が、風で全く聞こえなかった。今日はメーターの調子がおかしくて、目測で窪木との差を計って『これは危ない。踏むしかない』と思い一気にペースを上げましたが、修正が遅かった。1周目で余裕を持ちすぎてしまった。ペーシングには失敗したけど、走りとしてはそこまで悪くなかったと思います」。
チャンスを目前にしながらも3位に終わった窪木は「走る前から大場さんと『西薗さんはめちゃくちゃ速そう。西薗さんに負けないようにお互い頑張りましょうよ』と話していたんです。だから大場さんが勝ってとても嬉しい」と、1歳年上の大場の勝利祝福するが、表情から悔しさがにじみ出る。年齢の近い大場、西薗、窪木は今後もライバルとして闘い続けることになるだろう。
※その他のカテゴリーのレースレポートならびに機材特集は後ほどお伝えします。
全日本選手権タイムトライアル2013
男子エリート(42km)
1位 大場政登志(Cプロジェクト) 55'19"(Ave.45.54km/h)
2位 西薗良太(チャンピオンシステム) +01"
3位 窪木一茂(和歌山県教育委員会) +24"
4位 武井亨介(チームフォルツァ!) +44"
5位 豊田勉(豊田業務店) +1'00"
6位 安井雅彦(シマノレーシング) +1'07"
7位 郡司昌紀(宇都宮ブリッツェン) +1'14"
8位 嶌田義明(Team UKYO) +1'29"
9位 倉林貴彦(なるしまフレンド) +1'55"
10位 吉田隼人(シマノレーシング) +1'55"
text&photo:Kei Tsuji
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