ジロ・デ・イタリアは雨に降られ続けている。「ノコギリの歯」に形容されるギザギザのジェットコースターステージは、開幕前から地元イタリア勢を中心に注目されていた。ウィギンズの1分24秒のタイムロスは痛いが、個人タイムトライアルで簡単に挽回してしまうのではという声も。

ルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)がピンクの風船を解き放つルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)がピンクの風船を解き放つ photo:Kei Tsuji
ジロはモリーゼ州をスキップしてプーリア州からアブルッツォ州に移動。アドリア海に沿って北上を続けている。

連日200kmレースして、その後200km移動して次のステージを迎えるような北上の仕方。北に向かうに連れて路面状況は良くなり、海沿いにはリゾートホテルが並び始め、沿道の声援のボリュームは下がる。同じアドリア海の海の色も違って見えてくるから不思議だ。

ゴール地点のペスカーラは、ダニーロ・ディルーカ(イタリア、ヴィーニファンティーニ)の地元。チームメイトののファビオ・タボッレ(イタリア)とマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア)もアブルッツォ州出身。それだけに朝からチームバスの周りには大きな人だかりが出来る。

スカイプロサイクリングは38x28Tを装備スカイプロサイクリングは38x28Tを装備 photo:Kei Tsuji
ファビオ・フェリーネ(イタリア、アンドローニジョカトリ)のサングラスはセレーブのプロトモデルファビオ・フェリーネ(イタリア、アンドローニジョカトリ)のサングラスはセレーブのプロトモデル photo:Kei Tsujiメカニックがブラドレー・ウィギンズ(イギリス、スカイプロサイクリング)のシューズの位置を確認メカニックがブラドレー・ウィギンズ(イギリス、スカイプロサイクリング)のシューズの位置を確認 photo:Kei Tsuji

レース後にはディルーカが出席した記者会見が行なわれたが、ディルーカの進退に関する記者会見ではなく、ディルーカの繋がりでアブルッツォ州の会社が新たにヴィーニファンティーニのスポンサーに加わるというものだった。急速にスポンサーを集めているヴィーニファンティーニが狙うのはUCIプロチーム入りか?チームの規模の面ではUCIプロチームとすでに肩を並べている。

そんな最も注目を集めていたチームバスに、このジロの3週間チームに帯同している大西恵太メカニックの姿があった。この日までホテル移動ばかりでレース会場に姿を見せていなかったが、この日ようやくチャンスが回って来たと言う。

「メカニック3人で全員のバイクを担当しています」。スペアバイクやタイムトライアルバイクを併せると30台以上あるバイクを日々調整。スタッフ全員が着ている蛍光イエローのTシャツが眩しいが「作業中は汚れるので黒いTシャツを着ていますよ」と笑う。サングラスからシューズまでとにかく黄色い。この日、大西メカニックは第2チームカーでレースを追った。

ヴィーニファンティーニに帯同する大西恵太メカニックヴィーニファンティーニに帯同する大西恵太メカニック photo:Kei Tsuji
アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)と言えば、ツアー・オブ・ターキーでカスタムカーボンシューズを履いていた選手。足形を取り、カーボンを巻き付けて成形したというシューズは驚異の105g。もちろんジロでもそのシューズを履いている。ただ、「普段からシューズカバーを付けるのが好き」という理由でシューズが覆われていることが多く、シューズを撮りたいフォトグラファーたちをやきもきさせている。

あと、ハンドルの幅の狭さが特徴的。明らかにハンドルが肩幅よりも狭く、両腕で挟み込むようにしてハンドルを掴むフォームは独特だ。身長183cmで体重75kg。ガタイが良いのでハンドル幅42〜44cmを使ってもよさそうなのに、なんとハンドル幅は38cm(芯-芯)しかない。

「これ、狭くない?」と聞くと「いやいや、この幅がちょうどいいんだ。幅広のハンドルも試したけど、全然しっくりこなかった」と返す。「ただ、ハンドルの選択肢が少ないのが問題かな」。

アブルッツォ州の丘陵地帯を行くメイン集団アブルッツォ州の丘陵地帯を行くメイン集団 photo:Kei Tsuji
ジロ・デ・イタリアが通りますジロ・デ・イタリアが通ります photo:Kei Tsuji
珍しく180mmのクランクを使うなど、一風変わったバイクに乗るハンセン。コンピュータープログラマーとして働き、トライアスロンで最も苦手だったバイクを延ばすために自転車競技に打ち込んだという異色の経歴の持ち主で、チームの中ではムードメーカー役。ハンセンの周りにはいつも笑いが溢れている。とにかく人望が厚い。

ハンセンはアンドレ・グライペル(ドイツ)のリードアウトトレイン要員として活躍することが多いが、実はかなり登れる。ツアー・オブ・ターキーの山岳ステージでも比較的上位でフィニッシュ。その登坂力があってこそ、昨年グランツール全戦完走が可能だったのだろう。

ターキーで(おそらく世界で最初に)カーボンシューズに突っ込みを入れてから仲が良くなったので、ハンセンの勝利に大きな喜びを感じている。そんなハンセンは5月11日に32回目の誕生日を迎える。

スプリントポイントが置かれた激坂を越え、キエーティの街に入るスプリントポイントが置かれた激坂を越え、キエーティの街に入る photo:Kei Tsuji
逃げグループから生き残ったアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)とエマヌエーレ・セッラ(イタリア、アンドローニジョカトリ)が逃げ続ける逃げグループから生き残ったアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)とエマヌエーレ・セッラ(イタリア、アンドローニジョカトリ)が逃げ続ける photo:Kei Tsuji雨のペスカーラにゴールするアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)雨のペスカーラにゴールするアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji

第7ステージは「ティレーノ〜アドリアティコのようなステージ」。同じ地域で行なわれた今年のティレーノ〜アドリアティコ第6ステージでも、スカイのイギリス人vsヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)という闘いが繰り広げられた。

ティレーノ〜アドリアティコで闘ったのは、クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)とニーバリ。登りで先行したニーバリに対してフルームがタイムを失い、結果ニーバリが総合優勝に輝いたという経緯がある。その日もスタートは晴れで、ゴールは雨だった。

ざっくり言って、ジロでもスカイのイギリス人vsニーバリという闘いは同じ。ニーバリが先行し、ウィギンズがタイムを失った。果たしてウィギンズが失った1分24秒のタイムはマリアローザ争いにどれだけ影響するのだろうか。

見事な逃げ切り勝利を果たしたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)見事な逃げ切り勝利を果たしたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji
翌日は54.8kmの個人タイムトライアル。ウィギンズが本領を発揮すればニーバリから3〜4分奪うことは可能だと見られている。TTを得意とするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)もこの闘いに加わる。ウィギンズが1分24秒を失ったことが、結果的に混沌とした総合争いを演出してしまっている。

引き続き気になるのはイタリアの天気だ。個人タイムトライアル当日の5月11日も、雲の流れに合わせて雨が降るような天気。スタート時間によって路面コンディションに差が出るだろう。前半はテクニカルなワインディングが続くので、路面が濡れているのと濡れていないのでは大きな差が出る。総合23位にダウンしたウィギンズと、総合トップ10の選手たち。どちらが有利なのかは始まってみないと分からない。

text&photo:Kei Tsuji in Pescara, Italy

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