2013/03/08(金) - 16:07
STRADE BIANCHE、ストラーデビアンケ、つまり白い道。自転車とのつながりの原点とも言える場所に帰ってきた。イタリア中部のトスカーナ地方を自転車とともに堪能したフォトグラファー辻啓の1週間を、旅の日記で振り返ってみるシリーズ前編。
いつどこで何を見たかは定かではないけど、緩やかに連なる丘に、白い道が伸び、糸杉が凛と立った風景写真。なんてことないトスカーナの風景だけど、10代半ばで見たそんな写真が記憶の片隅にしつこく残った。そして惹かれた。「あんなところを自転車で走ってみたい」。淀川のサイクリングロードを通って大学に行き、鍋谷峠を往復していた学生は、単純にそう思った。
この景色を見るために何度も脚を運んだ photo:Kei Tsuji
フィレンツェに着く。バイクを組み立てる。何も問題はない photo:Kei Tsuji2004年、留学先を決める際に選んだのがトスカーナのシエナだった。正直、レース写真を撮るという現在の仕事に就きたいとぼんやりと思っていた時期でもあり、第3言語の習得を考えた末に、フランスとイタリアで迷った(なぜかスペインは最初から頭になかった)。
フィレンツェを見下ろすフィエーゾレの街 photo:Kei Tsuji最初はドイツや北欧も候補に挙がったものの、彼らとは英語でコミュニケーションが取れる。ならばフランスかイタリア。ご飯が美味しそうという理由で後者を選んだのはここだけの話だけど、その判断は間違ってなかったと思う。まぁそのおかげで「辻はツール・ド・フランスが嫌いなんだ」なんて言われる始末。ツールが嫌いなわけじゃない。ジロが好きなんです。
もちろん自分のロードバイクを留学に連れて行った。日本のメーカーなのにイタリア語の名前を冠したカーボンバックのバイクで、10ヶ月間の留学中、ほぼ毎日、午後はトスカーナの丘を走りまくり、シーズン中は可能な限りレースを見に行った。そんな留学生活を送った。
あくまでも「あの景色の中で自転車に乗りたい」というのが自分の原点。とにかく、10ヶ月間のイタリア留学で、自分の中に自転車文化の下地が出来た。ミラノ〜サンレモは今でも感覚的に春を告げるレースだ。
フォトグラファーの砂田弓弦さんと初めて会ったのも留学中で、彼の雑誌CICLISTIに留学体験記を寄稿させていただいた。その頃、この仕事をしようと心に決めたんだと思う。ちなみに、その留学体験記を切っ掛けにRapha Japanの矢野さんと繋がりが生まれたという素敵なおまけもある。
緩やかに高度を上げるサンバロントの登り photo:Kei Tsuji
サイクリストがたむろするバールで腹ごしらえ photo:Kei Tsuji
太陽は暖かく、トスカーナの春は近い photo:Kei Tsuji
また走りたかった。でも一人で行くには気が引けるし、家族を連れて行って一人で抜け駆けするのも嫌だ(うちの2歳児はキックバイクを華麗に乗りこなすけど、本格的なライドには連れて行けない)。レース取材のついでに走るのは気が進まない。というのも、どっさりとしたカメラ機材とバイクを一緒に持ちたくない。トスカーナを、出来ることなら他の人と分かち合いたい。他の人にも走ってもらいたいという欲求。
これがトスカーナの風景 photo:Kei Tsujiそんなこんなで声をかけて集まったのは、自分を含めて5人。移動の際のレンタカーのキャパシティの問題で、上限が5人だと考えていたのでちょうど良い。
シエナから南に向かう photo:Kei Tsujiメンバーは上が54歳で下が27歳の関西人5名。キラキラした眼で計画に耳を傾けてくれた木多さん、シクロクロス世界選手権と悩んだあげくイタリアを選んだヴィンちゃん、イタリアについて(特に食事やワインやクルマ)自分よりずっと造詣の深い赤井さん、フランス経験の長いRapha Cycle Club Osakaスタッフの遼君、そして自分。
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ photo:Kei Tsuji年齢も経歴も仕事も脚質もバラバラ。5人に共通していたのはイタリアを走りたいという気持ち。あと、ビステッカ(ステーキ)という言葉を聞くと鼻息が荒くなるという点では共通している。
翌々日に迫ったストラーデビアンケの看板を取り付ける photo:Kei Tsujiそうして「トスカーナツアー」なんて銘打って計画を進めたものの、いざチケットとホテルとレンタカーを予約して、出発が近づくにつれ、インフルエンザで倒れる人や、仕事の関係で半分あきらめた上に気管支炎で苦しむ人…。「これ、ほんまに行けるんか?」出発3日前には真剣にそう思った。
それでも5人全員が根性で関空からローマ行きのエアバスに乗り込んだ。みんなの執念に感心した。
2月25日、ローマからフィレンツェに入る。予定ではフィレンツェに三泊した後、シエナに三泊。毎日宿泊地を転々とするツーリングもいいけど、連泊することで余裕が生まれ、街をゆったりと観光でき、食事も堪能できる。ストイックに距離を伸ばすために来ているんじゃない。1週間で380kmぐらいしか走らないヤワな旅だ。
他のスーツケースと一緒に輪行袋がフィレンツェ空港のターンテーブルに流れて来たのには少し驚いたものの、幸い5人全員のバイクにダメージは無い。
せっかくなので9月にフィレンツェで開催されるロード世界選手権の周回コースを走って苦しみ、プロ選手のトレーニング場所として定番のサンバロントを走り、3kgのビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを堪能してフィレンツェを後にする。
旅の目的地は、もちろん、フィレンツェの南に位置するシエナ。
シエナは中世の面影を色濃く残す街。その旧市街自体も美しいが、郊外の丘陵地帯にはとびっきりのコースが広がっていて、留学時代に走り尽くしている。今回の旅のクライマックスは、シエナからモンタルチーノを往復する未舗装路込みの110kmライドと、土曜日に開催されるプロレースのストラーデビアンケ観戦。
キアンティの赤ワインを何本も空けながら、賑やかに、笑いを絶やさず、5人の旅は後半へと入って行く。
夕食を楽しく振る舞ってくれたパペイのおじさん photo:Kei Tsuji
何百年も変わらない光景 photo:Kei Tsuji
後編へ続く。
text&photo:Kei Tsuji in Siena, Italy
いつどこで何を見たかは定かではないけど、緩やかに連なる丘に、白い道が伸び、糸杉が凛と立った風景写真。なんてことないトスカーナの風景だけど、10代半ばで見たそんな写真が記憶の片隅にしつこく残った。そして惹かれた。「あんなところを自転車で走ってみたい」。淀川のサイクリングロードを通って大学に行き、鍋谷峠を往復していた学生は、単純にそう思った。
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もちろん自分のロードバイクを留学に連れて行った。日本のメーカーなのにイタリア語の名前を冠したカーボンバックのバイクで、10ヶ月間の留学中、ほぼ毎日、午後はトスカーナの丘を走りまくり、シーズン中は可能な限りレースを見に行った。そんな留学生活を送った。
あくまでも「あの景色の中で自転車に乗りたい」というのが自分の原点。とにかく、10ヶ月間のイタリア留学で、自分の中に自転車文化の下地が出来た。ミラノ〜サンレモは今でも感覚的に春を告げるレースだ。
フォトグラファーの砂田弓弦さんと初めて会ったのも留学中で、彼の雑誌CICLISTIに留学体験記を寄稿させていただいた。その頃、この仕事をしようと心に決めたんだと思う。ちなみに、その留学体験記を切っ掛けにRapha Japanの矢野さんと繋がりが生まれたという素敵なおまけもある。
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また走りたかった。でも一人で行くには気が引けるし、家族を連れて行って一人で抜け駆けするのも嫌だ(うちの2歳児はキックバイクを華麗に乗りこなすけど、本格的なライドには連れて行けない)。レース取材のついでに走るのは気が進まない。というのも、どっさりとしたカメラ機材とバイクを一緒に持ちたくない。トスカーナを、出来ることなら他の人と分かち合いたい。他の人にも走ってもらいたいという欲求。
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それでも5人全員が根性で関空からローマ行きのエアバスに乗り込んだ。みんなの執念に感心した。
2月25日、ローマからフィレンツェに入る。予定ではフィレンツェに三泊した後、シエナに三泊。毎日宿泊地を転々とするツーリングもいいけど、連泊することで余裕が生まれ、街をゆったりと観光でき、食事も堪能できる。ストイックに距離を伸ばすために来ているんじゃない。1週間で380kmぐらいしか走らないヤワな旅だ。
他のスーツケースと一緒に輪行袋がフィレンツェ空港のターンテーブルに流れて来たのには少し驚いたものの、幸い5人全員のバイクにダメージは無い。
せっかくなので9月にフィレンツェで開催されるロード世界選手権の周回コースを走って苦しみ、プロ選手のトレーニング場所として定番のサンバロントを走り、3kgのビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを堪能してフィレンツェを後にする。
旅の目的地は、もちろん、フィレンツェの南に位置するシエナ。
シエナは中世の面影を色濃く残す街。その旧市街自体も美しいが、郊外の丘陵地帯にはとびっきりのコースが広がっていて、留学時代に走り尽くしている。今回の旅のクライマックスは、シエナからモンタルチーノを往復する未舗装路込みの110kmライドと、土曜日に開催されるプロレースのストラーデビアンケ観戦。
キアンティの赤ワインを何本も空けながら、賑やかに、笑いを絶やさず、5人の旅は後半へと入って行く。
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後編へ続く。
text&photo:Kei Tsuji in Siena, Italy
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