2024年の発足以来、世界各地でマウンテンバイクのトレイル造成や擁護活動を支援してきたシマノのTrail Born Fundプログラム。持続可能なフィールドの維持・整備に向けた支援は日本国内でも始まります。トレイルの開発や保護活動、コミュニティへの投資を通じ、マウンテンバイク体験をより良いものにするために。

Trail Born Fundが日本初採択。神戸と大阪で行政・地域とともに持続可能なトレイル整備がスタート

一枚板のフィールド看板を前に並ぶ神戸エリアマウンテンバイク協会のメンバーたち ©シマノ

国土の約7割を山林が占める日本。山林が生活圏に比較的近いという地理的利点を活かせる一方で、その利用には多様な配慮と丁寧なプロセスが求められます。森林はレジャー空間のみならず、環境保全、地域社会との関係、安全管理など、いくつもの要素が重なった資源として位置づけられているからです。そのため、マウンテンバイクのフィールドづくりもスポーツ施設としての整備ではなく、地域や自然環境、そして安全性などを踏まえた長期的な取り組みとして進めていく必要があります。

数多くのトレイル管理運営モデルが存在する諸外国と比べ、日本では地域ごとに条件や制約が異なります。地権者との調整や行政との綿密な連携を経て安全性を確保し、他のフィールド利用者と共存していくことが前提となります。こうした背景から、フィールドづくりは初期段階から地域・行政・運営団体が協働し、環境に合わせたモデルを構築していくことが重要です。

左から神戸市建設局・牛若健吾さん、神戸エリアマウンテンバイク協会理事長・村山千春さん、シマノセールス・島田真琴さん ©シマノ

シマノが世界各国のトレイルネットワーク構築に向け、10ヵ年で総額約15億円を支援するプログラム「Trail Born Fund(トレイルボーン・ファンド)」は、今回新たに日本国内のフィールドを対象に選定し、兵庫県神戸市と大阪府箕面市の2地域が支援先として決まりました。持続可能なフィールド整備を支援し、地域・行政・運営団体の長期的な連携を可能にするモデルを形成していきます。

自ら掘り、盛り、叩いた路面は一瞬で通り過ぎる。しかし得られる満足感は大きい ©シマノ

両フィールドは大阪府堺市にあるシマノ本社から近いエリアにあります。シマノは自転車を競技のみならず生涯スポーツとして捉え、自転車文化を創造することを理念に掲げています。大都市に近接したこれら2都市で、子どもから大人までが利用できる入口のようなフィールドを整備することがマウンテンバイク文化の基盤形成につながると考え、今回の支援決定に至りました。

乗っては直しを繰り返し、道具の扱いにも慣れたもの ©シマノ


兵庫県神戸市 Mountain Bike Forest KOBE

人口約150万人を擁する神戸市では、都市部に近接する形で六甲山が広がり、古くから登山が親しまれてきました。2023年に来街者の増加を目指す「神戸登山プロジェクト」が始動し、登山を観光資源の一つとして位置づけた登山道の管理や環境整備が進められてきました。

神戸市建設局公園部魅力創造課の牛若健吾さんは、プログラムの経緯をこう振り返ります。
「六甲山は神戸市民にとって身近な自然です。登山に加え、新たなコンテンツを取り入れることで、より多くの方が山と関わるきっかけになると考えています」。

2024年にその新たなコンテンツとして追加されたのがマウンテンバイクです。候補地となった森林植物園内にある学習の森エリアについて、牛若さんが説明してくれました。
「学習の森エリアは神戸市が保有する森林植物園の一部で、もともとは環境学習の教育施設があったのですが、閉鎖後はあまり利用されておらず、うっそうとした森となっていました。その周辺では、以前からマウンテンバイカーがライドを楽しんでいた経緯があります。さらには2024年に森林保全を目的とした事業『森の未来都市神戸』が始動しました。これらを踏まえ、この場所で未経験者でも参加しやすいフィールドを段階的に整えていきながら、マウンテンバイクというコンテンツを通じて森林保全活動の裾野を広げる、という方針で事業を進めてきました」。

深いバームをつなぎ、高低差の影響を受けにくいコースレイアウト ©シマノ

このプロジェクトは、行政だけではなく民間事業者や地域住民と役割を分担しながら進められています。その中核を担うNPO法人 神戸エリアマウンテンバイク協会は、マウンテンバイクフォレスト神戸の造成・管理・運営を行い、行政と利用者の調整役も果たしています。
同協会理事長の村山千春さんは「神戸市・市民・民間が協働し、六甲山の自然環境を将来にわたって活かしていくことを目的としています。自然環境の保全と安全な利用を両立させ、世界から人が集まる新しい観光資源としての可能性を検証するモデルづくりです」と説明します。

フィールド利用だけでなく、整備にも老若男女が関わっている ©シマノ

方針を検討するにあたり、長野県白馬村・白馬岩岳マウンテンリゾートのフィールド運営方法・安全管理・持続可能なトレイル整備を参考にしました。さらには、マウンテンバイクに関する知識が少なかった市役所側に対し、「世界有数の先行事例を最初から視察するべきだ」という村山さんの助言を受け、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ノースバンクーバーも視察。神戸市と地形条件が似ているのも歓迎すべき点でした。

牛若さんは視察での様子やプロジェクト導入の決め手をこう話します。
「ノースバンクーバーでは住民がマウンテンバイクを日常的に楽しんでいました。マウンテンバイクが観光だけでなく、地域文化として根付いている点が印象的で、本プロジェクト導入の判断につながりました。自然環境に配慮した長期的な整備維持や啓蒙活動を行う現地NPO団体『ノースショア・マウンテンバイク・アソシエーション(NSMBA)』と行政との関係性や、企業からの資金支援の手法も、運営モデルを構築するうえで参考にしています」。

企業からの協賛も活用し、レンタルバイクはキッズバイクからE-MTBまでを完備。ヘルメットやプロテクター類も用意され、手ぶらでの来場にも対応している ©シマノ

こうして発足したマウンテンバイクフォレスト神戸では、2025年に未経験者でも楽しめる初級トレイルが完成しました。マウンテンバイクと親しむ入口を最初に用意することで、年齢や経験を問わずさまざまな利用者が集まる環境が生まれつつあります。その後は利用状況や登山者との関係も考慮しながら、中級・上級トレイルの拡張も進める計画です。また、フィールド拠点付近では屋内外のパンプトラック造成やレンタルバイクのサービス提供も進めています。利用者層の広がりや安全性を重視し、段階的に整えていく計画により、同フィールドは地域とともに成長する持続可能な場として位置づけられています。

Mountain Bike Forest KOBE(NPO法人 神戸エリアマウンテンバイク協会)

大阪府箕面市 箕面とどろみMTBフィールド

箕面とどろみMTBフィールドのゲートに飾られた鹿の頭骨とバナーのロゴが見事にマッチ ©シマノ

大阪府の北部に位置する箕面(みのお)市は、市街地からほど近くに自然環境が広がるエリアです。こうした環境のなかでマウンテンバイクを楽しむライダーが集まり、安全な利用環境の整備や自然環境との共存を目指して、「箕面マウンテンバイク友の会」が2012年に発足。都市近郊の里山環境において、市民による森林保全や清掃を通して地域貢献を行い、マウンテンバイクのマナー向上にも取り組んできました。

活動に参加するメンバーは全体の1割とのこと。それでも会員数が約300名にのぼり、作業日には多くのメンバーが集まる ©シマノ

現在は約300名の会員が参加しています。地域活動に積極的に関わることで地域との深い信頼関係を築き、長年の活動実績が評価され、箕面市と大阪府の協力のもと、マウンテンバイクフィールド造成の機会を得ることになりました。

人数の多さを活かし、バケツリレー方式で不法投棄されたゴミを回収していく ©シマノ

同会代表の中川弘佳さんは、こう話します。
「まずは森林整備や清掃など、地域貢献に寄与する活動から始めました。その積み重ねがフィールドづくりにつながっています」。

大阪府箕面市 原田亮市長から清掃活動に対する感謝状を受け取る箕面マウンテンバイク友の会代表 中川弘佳さん ©シマノ

こうして、2021年に大阪府の許可を得て、府有林と国有林内のダム建設予定地を借り受け、会員制の「箕面とどろみMTBフィールド」の造成を開始。間伐による放置林の再生と健全な森林環境の維持を目的とし、フィールドの維持管理と運営を会員が主体で行いながら、将来的な完全公開を目指しています。現在造成が終わったのは借り受けた土地のごく一部ですが、今後も拡張していく計画です。

リーダーの指導のもと、細かな修正を繰り返しながら煮詰めていく ©シマノ

コースは地形の起伏を活かした7本のルートが整備され、組み合わせて周回を楽しめるレイアウトです。造成は作業リーダーの指導のもと、手作業を中心に会員自らでルートを新規で切り拓いており、既存の山道は利用していません。
「作業リーダーは平日や週末に関わらず作業を行っています。また、フルタイムで働いているメンバーの中には、早朝から作業する方もいます」と、中川さん。2ヶ月に一度の会員向け作業日は、同会ウェブサイトやSNSで告知されています。

イベント時にはブースエリアも設置できる広大な敷地がある ©シマノ

フィールドにはハブスクエアと呼ばれる拠点が設けられ、整備に必要な道具を収納する倉庫が並ぶほか、舗装された路面によってイベント時には出店エリアとして活用できます。開放日には100名以上のライダーが集まり、会員制ながら活気に溢れています。さらに、マウンテンバイクに興味のある来訪者に向け、レンタルバイクの設置も計画されており、未経験者から上級者まで幅広いライダー層を対象とした環境づくりが進められています。

箕面の森の清掃にもMTB友の会のライダーたちで参加している ©シマノ

神戸市と箕面市の両フィールドは、年齢や経験を問わず楽しめるデザインとすることで、自然の中で運動するという生涯スポーツとしてのマウンテンバイクの魅力を伝えています。また、都市部に隣接した山林を活用しているため、新たなアウトドアレクリエーションの機会も生まれています。そして、フィールドの維持管理をNPO団体が主体で行うことで、地域貢献にもつながっています。加えて、行政が土地の利用に関わり、市民が維持管理や運営に携わることで、官民が連携した持続可能な運営モデルが形成されています。

自らの手で作り上げたフィールドを走るのは、マウンテンバイカー冥利に尽きる ©シマノ

箕面マウンテンバイク友の会

今後はこれら2地域での経験や知見を活かし、他地域のトレイルネットワークへの支援も視野に進めていく計画です。日本の環境に適したマウンテンバイクフィールドのノウハウを蓄積し、次世代に自転車文化やフィールドを継承しつつ、地域、行政、企業が一体となった環境づくりを目指していきます。
提供:シマノ 写真と文:西脇仁哉(MTBジャーナリスト)