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F1を筆頭に世界最高峰のレースシーンの足元を支え続けるイタリアのピレリ。2017年からロードレースシーンへカムバックし、同社のレーシングタイヤの代名詞たる"P ZERO"を冠したロードバイク用タイヤラインアップを発表した。

これからの2023シーズンにおいても、トレック・セガフレードをはじめとしたワールドチームと緊密な関係を築き、トップレースの最前線で戦い続けるレーシングタイヤを供給している。白珪なお磨くべし。登場時から高い評価を受けてきたP ZEROシリーズはレースシーンの中で更に磨かれ、その性能を向上させ続けてきた。

ピレリのラインアップの中でロードレーシングラインとして君臨するP ZERO RACEシリーズ photo:Makoto AYANO

現在、そのラインアップの中で最もコンペティティブなモデルとしてシリーズに君臨しているのが"P ZERO RACE"。ワールドチームの選手らからの信頼も厚い高性能を支えているのが、ピレリの誇る"SMART EVOコンパウンド"だ。

SMART EVOコンパウンドは、処女作であるP ZERO VELOと共にプロレースで戦った3年間のフィードバックを軸に、日進月歩で進化するモータースポーツで得た知見を取り入れ開発された最先端のコンパウンド。二輪、四輪を問わず、あらゆるレースシーンをサポートしてきたピレリならではの作品だ。

進化したSmarEVOコンパウンドを採用し、戦闘力を増したピレリ P ZERO RACE (c)カワシマサイクルサプライ

目標としたのは、ウェット路面でも信頼して倒しこめる高いグリップと、ライバルからアドバンテージを奪う低い転がり抵抗という相反する性能の両立。そのために、ピレリは3つの異なるポリマーをブレンドし、それぞれが持つ特性を発揮させることで、レーシングタイヤに求められる性能を非常に高い水準でバランスさせた。その名が示す通り、まさに"SMART"なポリマーブレンドが誕生したと、ピレリは胸を張る。

このSMART EVOコンパウンドを採用したP ZERO RACEはクリンチャー、チューブレスレディ、そしてチューブラーと3つの仕様が用意され、プロレーサーの要望に応えているフルラインアップを揃えた。特に現在主流となりつつあるチューブレスレディについては、ケーシング構造、そしてトレッドパターンの異なる2モデルを開発。軽量で走りの軽さを追求したP ZERO RACE TLR SLと、アンチパンクレイヤーを追加することで総合力を高めたP ZERO RACE TLRという選択肢を用意した。

ピレリのコーポレートカラーであるイエローに彩られたSmartube photo:Makoto AYANO

一方で、ピレリはクリンチャーとチューブラーについても大きな力を注いでいる。それぞれ1モデルのみの用意となるものの、ピレリはオリジナルのTPUチューブ"Smartube"を開発。ラテックスチューブに匹敵する転がり抵抗の軽さを有しつつ、圧倒的な軽量性と気密性を有する次世代チューブとの組み合わせによって、チューブドタイヤの性能を底上げすることに成功。

実際、クリンチャーモデルとSmartubeの組み合わせはサポートチームの選手らも実戦に投入しており、ツール・ド・フランスの勝負所となる山岳ステージにおいてもその姿は確認されているし、P ZERO RACE TUB SLは、TPUチューブ採用チューブラーという唯一無二の存在として、根強いチューブラー派からの熱視線を浴びている。

トレックセガフレードの選手らが語るピレリ P ZERO RACE

ジャパンカップ2022 クリテリムにて勝利を確信し、片手を力強く掲げるエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード) photo: Yuchiro Hosoda

自転車タイヤにピレリがカムバックして以来、多くのワールドチームが使用してきたP ZEROシリーズだが、やはりその中でも最も近しい関係を築いてきたチームはトレック・セガフレードだと言えるだろう。ジャパンカップに来日することも多く、過去にはフミこと別府史之が在籍していたこともあり、日本人にとっても馴染み深いチーム。

昨年のジャパンカップクリテリウムで二連覇を果たしたエドワード・トゥーンス(ベルギー)は、チューブレスレディのP ZERO RACE TLRの28Cタイヤで勝利。ワイドなボントレガーのAeolus RSL 51ホイールにベストマッチする組み合わせだ。

エドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)と、トレック Madone SLR photo:So Isobe

身長187cmと大柄なスプリンターであるトゥーンスだが、常用空気圧は5Bar以下。「いつでも低い気圧で走るのが好き」と繰り返したトゥーンスだが、その低圧でも登り勾配のスプリントでトップスピード67km/hをマークし、ライバルを一蹴。ピレリの誇るSMART EVOコンパウンドの低い転がり抵抗がトゥーンスのスプリントを支えていたことは間違いない。

今シーズン、既に4勝しているトレック・セガフレード。ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナの第2ステージで山頂フィニッシュのスプリントを制し、ヨーロッパでのレースで今シーズン初勝利をもたらしたジュリオ・チッコーネ(イタリア)は、クリンチャーも積極的に愛用する。

「SmarTubeとP ZERO RACEの組み合わせは、お気に入りのセットアップだ。チューブラーの感覚に近い部分がありつつ、全体的に見れば明らかに速いし、汎用性に長けている」と、2022シーズンから使い始めたクリンチャー×TPUチューブの魅力を語る。

チームに今季欧州初勝利をもたらしたジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) photo:CorVos

ステージによってはチューブレスレディを選択することもあるチッコーネだが、その基準については「どちらもハイパフォーマンスなセットアップであることは間違いないんだ」と前置きしつつ、「クリンチャーとSmarTUBEの組み合わせが優れているのは反応性。特に加速の鋭さや、ヒルクライムでの軽快感は圧倒的だね。チューブレスレディはパヴェや荒れた路面でもスピードを維持しやすいし、なにより快適。だから、山岳ステージではSmarTUBEのクリンチャーを、高速ステージではチューブレスレディがベストな選択になることが多いんだ」と語った。

少し昔であれば、チューブラータイヤが主流であったプロレースの世界。特に走りに直結するタイヤに対しては保守的な傾向が強いといわれるのがプロロードレーサーだ。そんな彼らが、テストや宣伝目的ではない勝負のための機材として実際のレースで使用するというのは、ピレリのタイヤが彼らの信頼を勝ち取ったという証明であり、なんとなれば旧い慣習を打ち砕くだけのパワーを有したプロダクトであるともいえる。

昨ツールではクリンチャーのピレリ P-ZERO RACEの使用率が高かった
一方、パヴェステージではチューブレスレディモデルが中心に



ワールドチームのレーサーからも高い評価を受けるP ZERO RACEシリーズ。次節では、その性能について、日本を代表するスポーツバイクショップである「なるしまフレンド」のメカニックであり、リオモベルマーレレーシングチームで国内トップカテゴリーを走るレーサーでもある小畑郁さんによるインプレッションをお届けしよう。

P ZERO RACEインプレッション by小畑郁(なるしまフレンド)

「非常にスムーズな走りが身上のタイヤ。特に低圧に出来るチューブレスレディモデルは乗り心地も抜群」小畑郁(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

ピレリのタイヤは、ちょうど出てきた頃に試して以来になります。当時はソフトな乗り心地のタイヤだな、という印象だったのですが、そのイメージのまま総合力を高めたレーシングタイヤへと進化していますね。

レースモデルらしい走りの軽さを持ったまま、グリップも安定感が増していて、トータルで使いやすいタイヤになっていますね。特に安心感につながるのが、ドライ路面とウェット路面でのグリップ力の差の少なさですね。ここのギャップが大きいタイヤはやはり使いづらい印象が強いのですが、ピレリのP ZERO RACEはその落ち込みが少ないのが好印象です。

ドライとウェットのグリップ力の差が小さく、安心できると語る小畑さん photo:Makoto AYANO

そういった意味でも、非常にスムーズな走りが身上のタイヤです。走行ノイズも少なくて、本当に転がりも軽いんだと五感で感じられます。どんなレベルの方でもこのタイヤの恩恵は感じられると思いますよ。

この性能については、Smart EVO コンパウンドの恩恵も大きいと思いますが、真円に近い断面形状であることも大きく寄与していると思います。挙動も掴みやすく、チューブラーにも近い感覚がありますね。

ロードノイズも少なく、スムーズに走るP ZERO RACE TLR photo:Makoto AYANO

ピレリはシーラントも3種類をラインアップ。ロード用モデルはCo2ボンベも使用可能な特別仕様だ photo:Makoto AYANO

特にチューブレスレディモデルは、空気圧も低めに設定できるので乗り心地の良さと軽さを高次元で両立できるのは魅力的です。具体的な数値で言えば、28Cで4気圧、下手すれば3.5気圧くらいまで落としても問題ないですね。選手同士での練習会でも、走行抵抗で損しているような感覚は全く無かったです。

クリンチャーも合わせてテストしていましたが、そちらはもう少し高めの空気圧、例えば4~4.5気圧くらいがちょうど良い感触でしたね。TPU素材のSmartubeと組み合わせていましたが、わかりやすく軽い一方でラテックスのような空気抜けの心配も無いですし、チューブレスレディの運用に不安がある方にはとても良い選択肢になると思います。

クリンチャーモデルは分かりやすく軽い」小畑郁(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

ピレリが力を入れるTPUチューブのSmartube photo:Makoto AYANO
Smartube用のパンク修理キットもそろえる photo:Makoto AYANO


とはいえ、チューブレスレディのタイヤの中ではP ZERO RACE TLRはかなり扱いやすいタイヤだと思います。最初のインストールではスムーズに作業できても、一度使ったタイヤを再利用する際にはエア漏れが起きるタイヤもありますが、このタイヤはそういった状況でもビードも上がりやすい。少なくとも今回のフルクラム Speed 25との相性で言えば、フロアポンプでもしっかりビードが上がりました。

付け加えるなら、タイヤの付け外しも素手で行えますし、タイヤレバーがあれば誰でも無理なく作業できるでしょう。あまり語られることが無い要素ですが、出先で修理できるかどうかというのは、パンクとは無縁でいられないスポーツバイクの機材として非常に重要な要素だと思います。修理不可能イコール、自力で帰宅できないということになりますから。

「タイヤの付け外しも素手で行えますし、タイヤレバーがあれば誰でも無理なく作業できる」小畑郁(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

実際、僕らのようなメカニックが環境の整った作業スペースでも厳しいな、と感じる組み合わせもあります。この作業性という側面でも、P ZERO RACEシリーズは安心してオススメできるタイヤです。

まとめると、転がりの軽さ、安定感のあるグリップ感と挙動の掴みやすさ、そしてメンテナンス性も良いと、ロードタイヤとして文句の付け所が無い一品ですね。乗り心地と軽さの両立を目指すのであればチューブレスレディが、走りの軽さと運用の手軽さを求めるのであればクリンチャーが、それぞれ最適解になるのではないでしょうか。

テストライダープロフィール

P ZERO RACEシリーズを日本屈指の走れるメカニック、なるしまフレンドの小畑郁がインプレッション photo:Makoto AYANO

小畑郁(おばたかおる)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高い、なるしまフレンドの技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。2020年以来、Hincapie LEOMO Bellmare Racing Teamの一員として国内レースを走る。

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提供:カワシマサイクルサプライ 制作:シクロワイアード編集部