2019/06/10(月) - 12:00
ディスクブレーキの使用がUCIによって正式に解禁され、レースへの投入が始まった。エアロロードの流行と合わせ、これからのレース機材を変えていくことが予想される。シマノレーシングは国内レースでいち早くディスクロードを投入。エアロロードのジャイアントPROPELとともにレースを走り出した。先鞭をつけた彼らに、エアロ&ディスクロードの可能性を語ってもらう。
世界に通じる若手選手を育成することをチーム哲学とするシマノレーシング。おなじみの青いジャージが目印の、全員が20代の選手で構成された若きチームだ。
チームのメインスポンサーは日本が誇るサイクルパーツメーカーのシマノ。そしてバイクスポンサーをジャイアントがつとめ、Jプロツアーや国内外のUCI(国際自転車競技連合)のレースに挑んでいる。常勝のトップ選手は居ない代わりに、若手たちをのびのびと育て、失敗を恐れずに挑戦するスタイルを取れるのがチームの強みだ。
そんなシマノレーシングは、今期からいち早くディスクブレーキ仕様のバイクをレースに実戦投入しはじめた。他のチームがまだディスクブレーキ仕様のバイクの投入に二の足を踏むなか、ディスク化にいち早く踏み切れるのはコンポーネントメーカーのシマノの後押しと、国内レースの多くでニュートラルサポートにあたるシマノブルーチームとの協働体制があるからに他ならない。今後のレースシーンを見越して、先陣を切る理由はあるのだ。
彼らが駆るバイクはジャイアントのTCRとPROPEL、TRINITYの3車種。そしてもちろんシマノ・デュラエースコンポーネントやホイールを使用する。TT以外のロードステージで中心となるのはオールラウンドバイクのTCRとエアロロードのPROPEL。その両方のディスクブレーキ仕様バイクを、この5月のツアー・オブ・ジャパンで実戦投入し始めたのだ。
世界のトップロードレースシーンにおいて、最新のトレンドとなっているのは「エアロディスクロード」。つまり「エアロダイナミクスに優れたディスクブレーキ採用バイク」だ。今回の特集ではシマノレーシングの選手たちに、彼らが駆るジャイアントPROPEL DISCについて、そしてエアロディスクロードの可能性について、実体験をもとに語り合ってもらった。
若き選手たちは最新トレンドのバイクをどう感じ取ったのだろう。ツアー・オブ・ジャパンのレース期間中に生の声を取材した。
シマノレーシングチームがレースで駆るジャイアントPROPEL DISCは、基本的に日本で販売される市販バージョンと同じPROPEL ADVANCED SL 0 DISCだが、カラーリングとパーツ構成がチーム仕様のスペシャルとなる。カラーがジャイアント本社提供の特別カラーとなるが、フレームやハンドル周りは市販モデルと同一。そしてパーツ類はシマノ・デュラエースコンポーネントに同C40・60ホイールをチョイスして使用している。
シマノレーシングが語るジャイアントPROPEL、エアロディスクロードの可能性
ツアー・オブ・ジャパンのレース期間中、第5ステージ終了後の御殿場のホテルで取材に応じてくれたのは木村圭佑(キャプテン)、横山航太、中井唯晶の3人。
― どのようなシーンやコースでPROPEL DISCを選んで乗りますか?
木村 :まずオールフラット(平坦)ならPROPELというのは確実にあります。今回のTOJでいえば堺ステージの個人TT、そして東京ステージです。選ぶ理由としては、率直に速い。それは本当に体感することができます。「エアロロードって本当に速いんだ」と言えるぐらい、速くスムーズに走れる。
― そんなに違うんですね
木村: パワーメーターのデータでみても、明らかに小さな出力値で進んでいます。去年との比較タイムで10秒違います。PROPELのおかげだと思います。
横山:堺のTTでは、乗った瞬間に「絶対これ速い!」と感じて、実際に速かったんです。入部正太郎選手の場合は、感覚的に速いとは感じなかったようですけど、タイムでは速かったようです。
中井:僕はアップダウンのある美濃ステージでもPROPELに乗りました。激坂でない限りPROPELは使えます。坂があっても流れるようなローリングコースならPROPELを選ぶ。アドバンテージが有りますから。
木村: じつはPROPELを渡されたのが数日前で、メンバー全員が練習ではまだほとんど使ったことがなくて、ポジション出しをした程度で十分に乗りこなさないうちにこのTOJのレースに投入したというのが実情なんです。それでも効果を実感しています。
― それは空気抵抗の低さでそう感じるんでしょうか?
中井: バイク全体のエアロ効果だと実感しています。平地はすごく流れるように走るんです。走っていて気持ちがいい。擬音では「ビョーン」と伸びて、「スルスル〜」と進む。人の後ろについていても違うんです。
― なんとなくイメージできます(笑)。そんな感じなら乗り方自体も変わってきますか?
木村: TCRと比べると、PROPELがホリゾンタル(トップチューブ水平)で、TCRがスローピングになっていて、フレーム形状が大きく違うんですが、ジオメトリーはあまり変わらないのか、乗った感じは似ているんです。カーボン素材もおそらく似ているんでしょう。だから乗って違和感を感じることは少ないですね。
横山:ハンドリングもTCRに似ている感じがして、それはメーカーとしての特性なのかもしれないけれど、似た感じで乗れます。TCRとPROPELを乗り換えた時にも大きな違和感は無いです。
木村:それは無いですね。レース中にでも乗り換えられるぐらいです。だからTCRで走るステージのスペアバイクにPROPELをチームカーのルーフに積んでいるのですが、それで不都合や不安は感じないです。パンクしてスペアに乗り換えてもそのまま走り出せるから、ホイール交換にこだわったりもしません。
― PROPELの性能を印象づけているのはバイクのどの部分なんでしょうか?
木村: PROPELは専用設計のハンドルになっているので、そのあたりの空気抵抗が少ない感じはしますね。そしてハンドル形状や剛性もPROPELに最適に設計されているのか、速く、乗っていて気持ちがいいんです。
横山:ヘッド周りの剛性感がすごく高いですね。ハンドル、ステム、ヘッドチューブ、フォークコラムなどが一体となるように設計されているので、そこから感じる総合的な性能なんだと思います。初めて乗った日にスプリントを掛けてみたら、すごく「かかり」が良いので驚きました。
中井:僕も最初からかなりいい感触でしたね。ケーブルがほとんど露出していないことと、ディスクブレーキだということも良く働いているんでしょうね。スムースな空気の抜けを感じる。
― もう一方のTCRのキャラクターは?
TCRは万能ロードです。どんな地形でも走れる性能のバランスと、コスパがいいので、もし自分で買うバイクの1台目としては現在のすべてのバイクを比べても必ず筆頭候補に入ってきます。戦闘力が高いので、もしPROPELが無くてもレースを1台で走るには不満はない。ただそれぐらいの完成度の高さだから、PROPELかTCRかで迷うところはあります。
木村 :TCRもPROPELもどちらにも言えることなんですが、明らかにコーナリングが速いですね。PROPELはディスクで、TCRはキャリパー(リムブレーキ)で比較することになりますが、恐怖心、あるいは安心感がまるで違います。ディスクは心に余裕を持って恐怖心無く突っ込んでいける。ブレーキングの安定感が違う。乗り換えているとはっきりわかりますね。
横山:飯田ステージに「TOJコーナー」と呼ばれる難所があるんです。下りで70km/h出ているところから一気に減速して曲がるヘアピンコーナーなんですが、そこで明らかにキャリパーを使用する他チームの選手を5人ぐらいパスしてしまえるんです。ブレーキングを遅らせることができるからです。それを毎周回で繰り返すことになるので、レース終盤の脚の残り具合が変わってきます。
― 同じ条件なら、5人を抜くためにはペダルを踏んでいかなくてはならないですよね。
横山:そうです。それがただ下りのブレーキングだけで抜けるんですから。それぐらいメリットが大きいです。今回のTOJではチーム右京やNIPPOヴィーニファンティーニなど数チームで、ステージによってディスクブレーキを使う選手が数人居ましたね。ルーマニアのチーム、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマーの選手はディスクを使い慣れているようで、僕らよりずっと激しくコーナーに突っ込んでいました(笑)。
木村 :PROPELに乗ると、平地でもそういう現象が起きます。普通にペダリングしているだけでするすると前に上がれてしまう。ちょっと踏んでやると、PROPELはそのまま惰性で伸びていくんです。楽ですよ。堺のクリテリウムではそれで楽ができました。ラスト1周に入るときも隊列を組んで苦もなく前に上がって行けたので、自転車のエアロ効果は確実にあると思います。
― PROPELの乗り心地やフィーリングはいかがですか?
木村 :エアロダイナミクスと剛性のバランスがいいと感じます。フレームがかなり戦闘的で「いかつく」見えますが、剛性はそんなに硬いわけでもなくて、乗り心地が良いんです。ルックスからの印象の割には快適バイクです。
中井:100km走っても疲れないんです(笑)。距離を走ってもびっくりするぐらい身体が楽。ラクができちゃうんです。
木村 :レースで攻めるときにも使えるし、休むステージでも使えます。例えば2日後に狙いたいステージがあって、今日のステージはそのために脚を休めたいという時にPROPELに乗れば、脚を溜めることができます。戦略的に使えますね。
横山 :もちろん集団コントロールを担うときも楽です。集団の先頭に立ったり、引き続けてスプリンターをアシストするときなども本当に負担が少なく、牽引しやすい。
中井:PROPELにリム高60mmのディープリムを履かせて走れば、すごく流れます。PROPELの性格としては、ロードとTTバイクの中間のような乗り心地でしょうか。
木村:先頭を引く仕事には本当に使えますね。あの専用ハンドルは腕を添えてフォームを固定しやすいんです。あと、サイコンマウントも専用設計でがっしりしているので、その部分を手でグリップしてエアロポジションをとることができるんです。これは一般サイクリストの皆さんには真似して欲しくない裏技ですけれど!(笑)。
― 重量のデメリットは感じますか?
木村 :それは正直、少しですがあります。Sサイズで、C60のディープリムホイールをセットして車重7.5kg。C40ホイールなら7.3kgほどなので、重いというほどではない数字です。むしろ「TCRが軽い」ので、登りのあるレースにはTCRを選びますね。いっぽうで平坦路やローリングコースでは車重のあることが慣性力につながる面もあると思うのですが、PROPELが速いです。
中井 :あとは選手がアシストが役目なのか、ゴールスプリントや登りフィニッシュで勝負に挑むのかなど、戦い方によって選びます。
横山:チームメカニックは電動ドリルツールを用いたりはしていません。普通にレバー付きのスルーアクスルを使用しているので、それをクルクル回してのホイール交換か、急ぐならバイクごとの交換でしょう。幸いチームで採用しているタイヤ(編集注:ヴィットリアCORSAチューブラー)が優秀でパンクが無いんです。まだレース中のパンクはゼロですね。ですのでまだ不都合は感じてないというのが実情です。
木村:オフィシャルのニュートラルサービスが用意するホイールのローター径が、フロント160mm、リア140mmなので、それに合わせたローターを使っています。
横山:僕はむしろスルーアクスルの効果を感じます。乗ってみると足回りの硬さ、剛性の高さを感じます。ハイスピードのコーナリングがブレずに安定しているし、スプリントが良くかかるし、でも快適性も備える感じに仕上がっている。エアロバイクだけど硬いだけじゃなく、乗り心地の良さもあります。
中井:東京ステージでは牽引役の選手は皆PROPEL、黒枝咲哉選手がTCRに乗る予定です。
― 黒枝選手はなぜTCRを東京ステージで乗るんでしょうか。
黒枝:ゴールスプリントの最後のもがきの時に低いハンドルポジションが欲しいんです。ステム選択でそのポジションが出せるTCRを今は選んでいます。PROPELはステムやハンドルが専用で、ポジションが限定される面もあるので、TCRで勝負をかけます。この後ポジションが出せたらPROPELを使うことになると思います。
Jプロツアー 那須塩原クリテリウムでPROPELを駆った中井唯晶が優勝
ツアー・オブ・ジャパン、そしてツール・ド・熊野に続くJプロツアー第7戦那須塩原クリテリウムにおいて、中井唯晶と木村圭佑が10人の逃げからさらにアタックした6人の逃げに入り、絞り込まれた最後のスプリントを制した中井唯晶が優勝を飾った。中井と木村はいずれもPROPELを駆り、勝負に挑んでいた。
優勝した中井選手のコメント:「コース的にもフルフラットのレイアウトということでプロペルを選択。コースの特性で逃げができると差が縮まりにくいと知っていたので、積極的に逃げに乗っていくことを考えました。逃げているときもプロペルの圧倒的巡航能力、つまりエアロ効果を感じました。そしてコーナーの安定性の高さも実感。今回のコースには180度ターンが3ヶ所あり、自分は180度ターンに苦手意識がありましたが、プロペルは安定してコーナリングすることができました。ストップ&ゴーが多いコースだったので、加速と高速巡航性能のバランスから今回はハイトが40mmのデュラエースC40ホイールを選択したのも功を奏しました」。
嬉しい勝利を挙げたシマノレーシングは、PROPELのエアロダイナミクスを活かしたレース展開に可能性を感じているという。今後も若きチームの活躍に期待しよう。
PROPEL ADVANCED SL 0 DISC
ディスクブレーキ専用仕様として開発された最新・最上級のエアロロードバイク「プロペル アドバンスド SL」。グランツールを走るプロチームからのフィードバックと進化した風洞実験により史上最高のエアロダイナミクスを実現。パワーメーター付DURA-ACE Di2フルコンポと軽量フルカーボンエアロホイールによる完全無欠のプロレース仕様。(→製品ページへ)
PROPEL ADVANCED SL DISC SE:ジャイアント・ジャパン30周年特別色
ディスクブレーキ専用仕様として開発された最上級のエアロロードバイク「プロペル アドバンスド SL」を、ジャイアント・ジャパン30周年特別色にペイントしたスペシャル・エディション。様々な光に反応してカラーを変化させるカメレオンカラーが、エアロ形状のフレームをより際立たせる。(→製品ページへ)
TCR ADVANCED SL DISC RED
世界最高峰のロードレースで戦い続ける「トータルレースバイク」TCRにスラムの新型レッドeTAP AXSをフルスペック。無線電動コンポ「eTAP」とリア12速の歯数構成でスムースなシフティングを実現。さらにスマートフォンのアプリとの連携でよりユーザーフレンドリーに進化。スペシャルモデルとして虹色に輝く特別なIRISデカールを採用。(→製品ページへ)
ディスクブレーキを投入したシマノレーシング
世界に通じる若手選手を育成することをチーム哲学とするシマノレーシング。おなじみの青いジャージが目印の、全員が20代の選手で構成された若きチームだ。
チームのメインスポンサーは日本が誇るサイクルパーツメーカーのシマノ。そしてバイクスポンサーをジャイアントがつとめ、Jプロツアーや国内外のUCI(国際自転車競技連合)のレースに挑んでいる。常勝のトップ選手は居ない代わりに、若手たちをのびのびと育て、失敗を恐れずに挑戦するスタイルを取れるのがチームの強みだ。
そんなシマノレーシングは、今期からいち早くディスクブレーキ仕様のバイクをレースに実戦投入しはじめた。他のチームがまだディスクブレーキ仕様のバイクの投入に二の足を踏むなか、ディスク化にいち早く踏み切れるのはコンポーネントメーカーのシマノの後押しと、国内レースの多くでニュートラルサポートにあたるシマノブルーチームとの協働体制があるからに他ならない。今後のレースシーンを見越して、先陣を切る理由はあるのだ。
彼らが駆るバイクはジャイアントのTCRとPROPEL、TRINITYの3車種。そしてもちろんシマノ・デュラエースコンポーネントやホイールを使用する。TT以外のロードステージで中心となるのはオールラウンドバイクのTCRとエアロロードのPROPEL。その両方のディスクブレーキ仕様バイクを、この5月のツアー・オブ・ジャパンで実戦投入し始めたのだ。
世界のトップロードレースシーンにおいて、最新のトレンドとなっているのは「エアロディスクロード」。つまり「エアロダイナミクスに優れたディスクブレーキ採用バイク」だ。今回の特集ではシマノレーシングの選手たちに、彼らが駆るジャイアントPROPEL DISCについて、そしてエアロディスクロードの可能性について、実体験をもとに語り合ってもらった。
若き選手たちは最新トレンドのバイクをどう感じ取ったのだろう。ツアー・オブ・ジャパンのレース期間中に生の声を取材した。
シマノレーシングが駆るPROPEL ADVANCED SL 0 DISC
シマノレーシングチームがレースで駆るジャイアントPROPEL DISCは、基本的に日本で販売される市販バージョンと同じPROPEL ADVANCED SL 0 DISCだが、カラーリングとパーツ構成がチーム仕様のスペシャルとなる。カラーがジャイアント本社提供の特別カラーとなるが、フレームやハンドル周りは市販モデルと同一。そしてパーツ類はシマノ・デュラエースコンポーネントに同C40・60ホイールをチョイスして使用している。
シマノレーシングが語るジャイアントPROPEL、エアロディスクロードの可能性
ツアー・オブ・ジャパンのレース期間中、第5ステージ終了後の御殿場のホテルで取材に応じてくれたのは木村圭佑(キャプテン)、横山航太、中井唯晶の3人。レースで実感できるエアロロードの速さ
― どのようなシーンやコースでPROPEL DISCを選んで乗りますか?
木村 :まずオールフラット(平坦)ならPROPELというのは確実にあります。今回のTOJでいえば堺ステージの個人TT、そして東京ステージです。選ぶ理由としては、率直に速い。それは本当に体感することができます。「エアロロードって本当に速いんだ」と言えるぐらい、速くスムーズに走れる。
― そんなに違うんですね
木村: パワーメーターのデータでみても、明らかに小さな出力値で進んでいます。去年との比較タイムで10秒違います。PROPELのおかげだと思います。
横山:堺のTTでは、乗った瞬間に「絶対これ速い!」と感じて、実際に速かったんです。入部正太郎選手の場合は、感覚的に速いとは感じなかったようですけど、タイムでは速かったようです。
中井:僕はアップダウンのある美濃ステージでもPROPELに乗りました。激坂でない限りPROPELは使えます。坂があっても流れるようなローリングコースならPROPELを選ぶ。アドバンテージが有りますから。
木村: じつはPROPELを渡されたのが数日前で、メンバー全員が練習ではまだほとんど使ったことがなくて、ポジション出しをした程度で十分に乗りこなさないうちにこのTOJのレースに投入したというのが実情なんです。それでも効果を実感しています。
― それは空気抵抗の低さでそう感じるんでしょうか?
中井: バイク全体のエアロ効果だと実感しています。平地はすごく流れるように走るんです。走っていて気持ちがいい。擬音では「ビョーン」と伸びて、「スルスル〜」と進む。人の後ろについていても違うんです。
― なんとなくイメージできます(笑)。そんな感じなら乗り方自体も変わってきますか?
木村: TCRと比べると、PROPELがホリゾンタル(トップチューブ水平)で、TCRがスローピングになっていて、フレーム形状が大きく違うんですが、ジオメトリーはあまり変わらないのか、乗った感じは似ているんです。カーボン素材もおそらく似ているんでしょう。だから乗って違和感を感じることは少ないですね。
横山:ハンドリングもTCRに似ている感じがして、それはメーカーとしての特性なのかもしれないけれど、似た感じで乗れます。TCRとPROPELを乗り換えた時にも大きな違和感は無いです。
エアロのPROPEL、オールラウンドのTCR どう乗り換える?
― エアロとオールラウンド、性格の違う自転車を乗り換えるとストレスがあるのでは?と思いますが。木村:それは無いですね。レース中にでも乗り換えられるぐらいです。だからTCRで走るステージのスペアバイクにPROPELをチームカーのルーフに積んでいるのですが、それで不都合や不安は感じないです。パンクしてスペアに乗り換えてもそのまま走り出せるから、ホイール交換にこだわったりもしません。
― PROPELの性能を印象づけているのはバイクのどの部分なんでしょうか?
木村: PROPELは専用設計のハンドルになっているので、そのあたりの空気抵抗が少ない感じはしますね。そしてハンドル形状や剛性もPROPELに最適に設計されているのか、速く、乗っていて気持ちがいいんです。
横山:ヘッド周りの剛性感がすごく高いですね。ハンドル、ステム、ヘッドチューブ、フォークコラムなどが一体となるように設計されているので、そこから感じる総合的な性能なんだと思います。初めて乗った日にスプリントを掛けてみたら、すごく「かかり」が良いので驚きました。
中井:僕も最初からかなりいい感触でしたね。ケーブルがほとんど露出していないことと、ディスクブレーキだということも良く働いているんでしょうね。スムースな空気の抜けを感じる。
― もう一方のTCRのキャラクターは?
TCRは万能ロードです。どんな地形でも走れる性能のバランスと、コスパがいいので、もし自分で買うバイクの1台目としては現在のすべてのバイクを比べても必ず筆頭候補に入ってきます。戦闘力が高いので、もしPROPELが無くてもレースを1台で走るには不満はない。ただそれぐらいの完成度の高さだから、PROPELかTCRかで迷うところはあります。
ディスクブレーキとエアロロードはレースの走り方を変える
― ディスクブレーキのメリットとしてはどうですか?木村 :TCRもPROPELもどちらにも言えることなんですが、明らかにコーナリングが速いですね。PROPELはディスクで、TCRはキャリパー(リムブレーキ)で比較することになりますが、恐怖心、あるいは安心感がまるで違います。ディスクは心に余裕を持って恐怖心無く突っ込んでいける。ブレーキングの安定感が違う。乗り換えているとはっきりわかりますね。
横山:飯田ステージに「TOJコーナー」と呼ばれる難所があるんです。下りで70km/h出ているところから一気に減速して曲がるヘアピンコーナーなんですが、そこで明らかにキャリパーを使用する他チームの選手を5人ぐらいパスしてしまえるんです。ブレーキングを遅らせることができるからです。それを毎周回で繰り返すことになるので、レース終盤の脚の残り具合が変わってきます。
― 同じ条件なら、5人を抜くためにはペダルを踏んでいかなくてはならないですよね。
横山:そうです。それがただ下りのブレーキングだけで抜けるんですから。それぐらいメリットが大きいです。今回のTOJではチーム右京やNIPPOヴィーニファンティーニなど数チームで、ステージによってディスクブレーキを使う選手が数人居ましたね。ルーマニアのチーム、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマーの選手はディスクを使い慣れているようで、僕らよりずっと激しくコーナーに突っ込んでいました(笑)。
木村 :PROPELに乗ると、平地でもそういう現象が起きます。普通にペダリングしているだけでするすると前に上がれてしまう。ちょっと踏んでやると、PROPELはそのまま惰性で伸びていくんです。楽ですよ。堺のクリテリウムではそれで楽ができました。ラスト1周に入るときも隊列を組んで苦もなく前に上がって行けたので、自転車のエアロ効果は確実にあると思います。
― PROPELの乗り心地やフィーリングはいかがですか?
木村 :エアロダイナミクスと剛性のバランスがいいと感じます。フレームがかなり戦闘的で「いかつく」見えますが、剛性はそんなに硬いわけでもなくて、乗り心地が良いんです。ルックスからの印象の割には快適バイクです。
中井:100km走っても疲れないんです(笑)。距離を走ってもびっくりするぐらい身体が楽。ラクができちゃうんです。
木村 :レースで攻めるときにも使えるし、休むステージでも使えます。例えば2日後に狙いたいステージがあって、今日のステージはそのために脚を休めたいという時にPROPELに乗れば、脚を溜めることができます。戦略的に使えますね。
横山 :もちろん集団コントロールを担うときも楽です。集団の先頭に立ったり、引き続けてスプリンターをアシストするときなども本当に負担が少なく、牽引しやすい。
中井:PROPELにリム高60mmのディープリムを履かせて走れば、すごく流れます。PROPELの性格としては、ロードとTTバイクの中間のような乗り心地でしょうか。
木村:先頭を引く仕事には本当に使えますね。あの専用ハンドルは腕を添えてフォームを固定しやすいんです。あと、サイコンマウントも専用設計でがっしりしているので、その部分を手でグリップしてエアロポジションをとることができるんです。これは一般サイクリストの皆さんには真似して欲しくない裏技ですけれど!(笑)。
― 重量のデメリットは感じますか?
木村 :それは正直、少しですがあります。Sサイズで、C60のディープリムホイールをセットして車重7.5kg。C40ホイールなら7.3kgほどなので、重いというほどではない数字です。むしろ「TCRが軽い」ので、登りのあるレースにはTCRを選びますね。いっぽうで平坦路やローリングコースでは車重のあることが慣性力につながる面もあると思うのですが、PROPELが速いです。
中井 :あとは選手がアシストが役目なのか、ゴールスプリントや登りフィニッシュで勝負に挑むのかなど、戦い方によって選びます。
ホイール交換時間のネガは今後解消されていくのか
― パンク時のホイール交換などはどうしていますか? ディスクブレーキホイールは交換のタイムロスが大きいですよね。横山:チームメカニックは電動ドリルツールを用いたりはしていません。普通にレバー付きのスルーアクスルを使用しているので、それをクルクル回してのホイール交換か、急ぐならバイクごとの交換でしょう。幸いチームで採用しているタイヤ(編集注:ヴィットリアCORSAチューブラー)が優秀でパンクが無いんです。まだレース中のパンクはゼロですね。ですのでまだ不都合は感じてないというのが実情です。
木村:オフィシャルのニュートラルサービスが用意するホイールのローター径が、フロント160mm、リア140mmなので、それに合わせたローターを使っています。
横山:僕はむしろスルーアクスルの効果を感じます。乗ってみると足回りの硬さ、剛性の高さを感じます。ハイスピードのコーナリングがブレずに安定しているし、スプリントが良くかかるし、でも快適性も備える感じに仕上がっている。エアロバイクだけど硬いだけじゃなく、乗り心地の良さもあります。
中井:東京ステージでは牽引役の選手は皆PROPEL、黒枝咲哉選手がTCRに乗る予定です。
― 黒枝選手はなぜTCRを東京ステージで乗るんでしょうか。
黒枝:ゴールスプリントの最後のもがきの時に低いハンドルポジションが欲しいんです。ステム選択でそのポジションが出せるTCRを今は選んでいます。PROPELはステムやハンドルが専用で、ポジションが限定される面もあるので、TCRで勝負をかけます。この後ポジションが出せたらPROPELを使うことになると思います。
Jプロツアー 那須塩原クリテリウムでPROPELを駆った中井唯晶が優勝
ツアー・オブ・ジャパン、そしてツール・ド・熊野に続くJプロツアー第7戦那須塩原クリテリウムにおいて、中井唯晶と木村圭佑が10人の逃げからさらにアタックした6人の逃げに入り、絞り込まれた最後のスプリントを制した中井唯晶が優勝を飾った。中井と木村はいずれもPROPELを駆り、勝負に挑んでいた。
優勝した中井選手のコメント:「コース的にもフルフラットのレイアウトということでプロペルを選択。コースの特性で逃げができると差が縮まりにくいと知っていたので、積極的に逃げに乗っていくことを考えました。逃げているときもプロペルの圧倒的巡航能力、つまりエアロ効果を感じました。そしてコーナーの安定性の高さも実感。今回のコースには180度ターンが3ヶ所あり、自分は180度ターンに苦手意識がありましたが、プロペルは安定してコーナリングすることができました。ストップ&ゴーが多いコースだったので、加速と高速巡航性能のバランスから今回はハイトが40mmのデュラエースC40ホイールを選択したのも功を奏しました」。
嬉しい勝利を挙げたシマノレーシングは、PROPELのエアロダイナミクスを活かしたレース展開に可能性を感じているという。今後も若きチームの活躍に期待しよう。
ディスクブレーキ仕様のPROPELとTCRの最上位モデル
PROPEL ADVANCED SL 0 DISC
ディスクブレーキ専用仕様として開発された最新・最上級のエアロロードバイク「プロペル アドバンスド SL」。グランツールを走るプロチームからのフィードバックと進化した風洞実験により史上最高のエアロダイナミクスを実現。パワーメーター付DURA-ACE Di2フルコンポと軽量フルカーボンエアロホイールによる完全無欠のプロレース仕様。(→製品ページへ)
PROPEL ADVANCED SL DISC SE:ジャイアント・ジャパン30周年特別色
ディスクブレーキ専用仕様として開発された最上級のエアロロードバイク「プロペル アドバンスド SL」を、ジャイアント・ジャパン30周年特別色にペイントしたスペシャル・エディション。様々な光に反応してカラーを変化させるカメレオンカラーが、エアロ形状のフレームをより際立たせる。(→製品ページへ)
TCR ADVANCED SL DISC RED
世界最高峰のロードレースで戦い続ける「トータルレースバイク」TCRにスラムの新型レッドeTAP AXSをフルスペック。無線電動コンポ「eTAP」とリア12速の歯数構成でスムースなシフティングを実現。さらにスマートフォンのアプリとの連携でよりユーザーフレンドリーに進化。スペシャルモデルとして虹色に輝く特別なIRISデカールを採用。(→製品ページへ)
提供:ジャイアント、取材協力:シマノレーシング
text&photo:Makoto.AYANO
text&photo:Makoto.AYANO