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香港にあるチャンピオンシステム本社オフィスを訪ね、創業者であり現在も第一線でブランドを牽引するルイス・シー氏にインタビューを行った。長年に渡るプロチームサポートから得たものと、製品への落とし込み方。ブランドの方針や今後登場する新製品について、そして11月1日に発表された新しいユーザーサポート「コミットメント」について聞いた。

世界規模で成長を続けるチャンピオンシステム

チャンピオンシステムがカスタムオーダーウェアに着手してから今年で13年目。香港の本社オフィスから中国深圳とタイの自社工場を直接コントロールできるという強みを活かし、サイクリングを筆頭にトライアスロンやランニング、そしてアフターウェアとビジネスを展開し、年々規模と世界シェアを拡大してきた。

中国工場内の清潔感あるデザインルーム。50人を越えるデザイナーが的確に仕事をこなす中国工場内の清潔感あるデザインルーム。50人を越えるデザイナーが的確に仕事をこなす photo:So.Isobeこちらは印刷フロア。プリンターや転写機が次々とジャージに息を吹き込むこちらは印刷フロア。プリンターや転写機が次々とジャージに息を吹き込む photo:So.Isobe

こちらは縫製部門。フロア一面のミシンが唸りを上げる様子は壮観だこちらは縫製部門。フロア一面のミシンが唸りを上げる様子は壮観だ photo:So.Isobe
そんな成長著しいチャンピオンシステムを率いるのが、創業者であり、今もなお現場の最前線で采配を振るうルイス・シー氏だ。筆者はアジア初のハンマーシリーズ開催で話題となったサイクルイベント「香港サイクロソン」に合わせて香港に飛び、本社と中国深圳にある本社工場を訪問。ハイテクと職人技が融合する生産現場を見学し(本社工場の様子は昨年のレポートに詳しい)、ルイス氏へとインタビューする機会を得た。

リーズナブルかつ高機能なオーダーウェアを生み出し続ける理由やノウハウ、UAEチームエミレーツとの関わり、自転車競技に対する情熱、そしてチャンピオンシステムの今後などについて、現役サイクリストであるルイス氏に話を聞いた。

ルイス・シー氏に聞くチャンピオンシステムの過去未来

「より良い製品開発のためにプロチームをサポートする」

― 今日はよろしくお願いします。まずはプロチームとの関わりについてお伺いします。もうUAE(以前はランプレ)に供給して長い年月が経ちますが、その理由と、その中で得たものを教えて下さい。

チャンピオンシステム代表、ルイス・シー氏。現在も第一線でブランドを率いる原動力だチャンピオンシステム代表、ルイス・シー氏。現在も第一線でブランドを率いる原動力だ photo:So.Isobeランプレ・メリダに始まり、現UAEチームエミレーツとなったチームとの付き合いは来年で6年目となります。正直に言えばワールドツアーチームのスポンサーとなるには相当な労力と金銭が発生するのですが、それでも続けるのは第一により良いウェアを生み出すため。プロ選手から発せられるウェアへの要求は、私たちにとって何よりも大切なことです。

ワールドツアーチームへのサポートを開始した年、私はジロ・デ・イタリアに帯同し山頂フィニッシュステージをチームカーの中で過ごす機会を得ました。そこで驚いたのは「選手たちは1回のレース中にどれだけ着替えをしているんだ!」ということ。平坦、登り、下り、登り、下り。その度に選手たちはチームカーに戻り、ジャケットやウォーマー類を脱ぎ着していたんです。5月のイタリアはまだ寒く、気温もマイナスから25℃まで有り得る。そこで私は改めてウェアの重要性に気づき、そして彼らに脱ぎ着を減らせる高機能ウェアを供給してあげなくては!と感じたんですね。

来シーズンはチームに供給するウェアも大多数が新製品だったり、既存製品に何かしらの改良を行ったものになる予定です。例えば今年話題になったジッパーレスタイプのウェアはもっと多くの選手が着用するでしょうし、ワンピースのウェアも選手の声を反映させたものに切り替わります。面白いところでは、フリース素材を使った製品も登場させる予定ですよ。

ハンマーシリーズ前日にはUAEチームエミレーツの選手たちと共に走り、意見交換をしていたハンマーシリーズ前日にはUAEチームエミレーツの選手たちと共に走り、意見交換をしていた photo:So.Isobe

「我々のTTスーツはクイックステップの製品より5W速く走れる」

― チームからはどんなフィードバックが寄せられるのでしょうか?

もはや数え切れませんね! 例えばダニエル・マーティン(アイルランド)は直接私とメッセンジャーでウェアについてやり取りをしています。彼は昨年クイックステップから移籍してきたのですが、一番最初は我々のウェアに対して性能面で不安を抱いていました。「ルイス、来年どんなウェアを僕に提供してくれるんだい?」とね。

12月にミラノで行われたTTスーツの風洞実験。社外製品との比較が行われたという。写真はルイ・コスタ(ポルトガル)12月にミラノで行われたTTスーツの風洞実験。社外製品との比較が行われたという。写真はルイ・コスタ(ポルトガル) (c)www.uaeteamemirates.com「クイックステップが使用していたウェアより5ワット速く、着心地にも満足してもらえました」「クイックステップが使用していたウェアより5ワット速く、着心地にも満足してもらえました」 (c)www.uaeteamemirates.com

そこで12月にミラノで開催されたチームキャンプでは、彼がクイックステップで使っていたTTスーツと我々のTTスーツ、そしてチームスカイのTTスーツを用意し比較する風洞実験テストを行いました。そこで彼は初めて我々のウェアに袖を通したのですが、結果はクイックステップのものよりも5ワット低く、チームスカイのスーツより更に速かったわけです。彼は十分満足してくれましたし、着心地も気に入ってくれた。彼は性能と同じく着心地も重要視するタイプでしたから。

ダンが気に入って使ってくれているのは、ジッパーレスの「エリートジャージ」です。これはチームの要望ではなく我々のアイディアを形にしたものですが、ジッパーを無くしたぶん伸縮性に優れ、そして軽い。すぐにダンは愛用してくれて、ツール・ド・フランスでステージ優勝を挙げてくれました。とても嬉しかったですね。

エリートジャージを使い、ツール・ド・フランス第6ステージで勝利したダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ)エリートジャージを使い、ツール・ド・フランス第6ステージで勝利したダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ) photo:Luca Bettini
「チームからは数えきれないほど貴重なフィードバックを得てきた」「チームからは数えきれないほど貴重なフィードバックを得てきた」 photo:So.Isobeエリートジャージを愛用するダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ)エリートジャージを愛用するダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ) (c)CorVos

そして、そうしたフィードバックのやりとりは、製品自体のみならず、我々のオーダーシステムを改良する術にもなるんです。世界中どのプロチームも同じですが、これまではチームからの注文を基に一通りのセットを供給し、破損や汚れ、あるいは新製品完成のたびに追加発送する手法でした。でも来年は、エースのみならず全選手一人一人が自分の好きなウェアをオーダーできる新しい試みをスタートさせます。もちろん袖、裾、襟の高さや長さ、ポケットの有無、パッドの種類などなどカスタマイズ可能ですよ。このシステムは業界的にも画期的だと思いますし、近い将来日本を含めた一般ユーザーに対するサービスとして始めようと考えているので、これは予行練習といったところでしょうか。

「1着3万円もするジャージなんて、普通は買えないでしょう?」

― チャンピオンシステムの製品は非常にリーズナブルであることも特徴ですね。それでいて、すごく性能にもこだわっていることが特筆されます。

そう、例えば1着3万円もするような夏用ジャージを我々が製品化することはありません。なぜなら一般ユーザーにとって高価すぎるから。我々は、プロ選手を満足させ、同時に一般ユーザーが金銭的に大きな負担なく購入できる製品こそがベストだと信じています。他ブランドではプロ選手専用のコスト度外視モデルを供給することがありますが、それは我々のポリシーからはかけ離れたもの。UAEに製品開発途中の試作品を供給することは常に行なっていますが、それは全て市販化を見据えてのテストです。

「東京オリンピックに向けて新しいTTスーツを開発中です。楽しみにしていて下さい」「東京オリンピックに向けて新しいTTスーツを開発中です。楽しみにしていて下さい」 photo:So.Isobe
― 今現在のサイクリングウェアのトレンドといえばエアロダイナミクスですが、チャンピオンシステムの工夫は?

最近のトレンド言えば、やはりエアロを意識した溝付き素材でしょう。ビオレーサーなど多数のブランドが使用している素材ですが、世界屈指の実力を誇るニュージーランドのトラックナショナルチームがテストした結果、我々が東京オリンピックに向けて開発中のTTスーツがより空気抵抗を抑えられることが証明されました。詳しくはまだ秘密なのですが...(笑)。ちなみに現在ラインナップしている「スピードスーツ」ですら、溝付き素材のスキンスーツより良い値が出ているんです。

それと、個人的にカステリ、特にカステリの冬用ジャケット類はすごく良い仕上がりなのでライバル視していますね。でも彼らの唯一の弱みは価格です。チャンピオンシステムのハイエンドジャケットは同等製品の半額くらいですし、来年ボトムグレード(TECHシリーズ)に新しいジャケットを追加する予定ですので、アドバンテージは我々に傾くでしょう。先ほどの話とも被りますが、一般ユーザーが無理なく買える高品質な製品こそ我々の目標ですから。

ゼッケンポケット付きのスピードスーツ。これも当然一般購入可能な製品だゼッケンポケット付きのスピードスーツ。これも当然一般購入可能な製品だ photo:So.Isobe
我々には上から順にAPEX、PERFORMANCE、TECHと3つのグレードがありますが、チャンピオンシステム全体の売り上げの40〜45%がTECHです。30〜35%がPERFORMANCE、そしてAPEXは15%くらい。これを見れば我々が何を重視すれば良いかは明らかでしょう?

それでもなお、APEXでも他社のトップグレードと比べれば非常にリーズナブルで、それでいて性能はトップグレード。私個人もいちサイクリストとしてAPEXシリーズを愛用していますが、もうPERFORMANCEやTECHには戻れせん(笑)。

「私たちのカスタマーは私たちの仲間。仲間を応援するための"コミットメント"」

― 11月1日に発表される(取材時点では未発表だった)「コミットメント」についてですが、より深いカスタマーサービスを展開する理由は?

全てはスポーツを楽しむ人を応援するため、です。例えばサイクリングを始めた時にジャージサイズがXLだったとして、1年後にはL、あるいはMになっている可能性は結構ありますよね。そうなれば本当に素晴らしいことです。

「私たちの「私たちの"仲間"を応援するためのサービスがコミットメントです」 photo:So.Isobe
だから「よく頑張りました!もうそのジャージは合わないから新しいものに交換しましょう!もっと気持ちよく走れますよ、お代は頂きません」とね。そして体力レベルが向上してレースに出るとしましょう。すごく楽しく情熱を捧げられるものですが、残念ながら落車してしまうリスクもありますよね。だから「身体は大丈夫ですか?残念でしたがまた挑戦してみて下さい。ジャージは我々が無料で新しいものと交換しますから」という気持ちでクラッシュリプレイスメントを設けました。

自転車は心身共に健康になれるツールであり、私は多くの人にスポーツのある生活を楽しんでほしいと願っています。そして世界中のチャンピオンシステムユーザーは私たちの仲間です。仲間を応援したり、助けてあげるのは当然のことでしょう?だからコミットメントを制定しました。もちろん無料でできる範囲は限られますが、その中でできる限りユーザーサポートをすることが我々ウェアブランドとしての使命だと感じています。この機会に、より多くのカスタマーが我々チャンピオンシステムの製品に触れてくれることを期待しています。

提供:チャンピオンシステム photo&text:So.Isobe