2018/11/01(木) - 17:32
MTBコンポーネントの最高峰、シマノXTR M9100シリーズが1✕12スピードやサイレンスハブなど数々の新規格を導入し刷新を遂げた。スロベニアで開催されたメディアキャンプでの3日間のテストライドや開発の経緯を掘り下げる記事などを通じて新コンポの全貌を掘り下げて紹介する。
1✕12スピード エンデューロスペックのシマノXTR M9100搭載バイク photo:Makoto.AYANO
待望の登場となったM9100系シマノ新型XTR。プロレーサーたちは今春よりすでにワールドカップや世界選手権などで使用してきたが、一般へのデリバリー体制も整い、いよいよMTBシーンへの本格投入が始まる。この特集の第1章ではパーツそれぞれの細部にフォーカスしていこう。
XTR M9100搭載バイクを駆るマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) photo:Irmo Keiser
マウンテンバイクの進化はとどまるところを知らない。レースは年々コースが厳しくなり、バイクに要求される性能もより高いものになっている。ライダーが軽量なセットアップを望む半面、バイクに要求される機能はより万能なものへとなっていく。どんな状況にも対応できる機材が求められる今、新型XTRはMTBレーサーが勝利するために求めるスピードやコントロール性能を満たすべく生まれたMTBコンポーネントだ。
XTR M9100はレースにフォーカスして開発されたMTBコンポーネントだ photo:Irmo Keiser今、MTBレースは大きくはXC、エンデューロ、マラソンの3つに分化し、それぞれのジャンルにおけるレース形態も変化を遂げている。レーサーたちはMTBコンポに対し、スピードとコントロール性の高いバランスを求める。新XTRの開発にあたっては、それらの要素分析と最適化が追求され、「究極のレースコンポーネント」というXTRの原点に立ち返ったコンセプトが再確認されたという。
新XTRを特徴づけるうえでもっとも顕著なのはリア12スピードの採用だろう。シマノ初となる12枚のスプロケットにより構成されるリアカセットは、10−51Tあるいは10−45T。そして待望のフロントシングル化による1✕12スピードの実現と、マラソン等のよりワイドなギアレンジへの要求を満たすフロントダブルによる2✕12スピード、そしてより強いホイールを求めるライダーのための1✕11も用意するという、今考えられうるドライブトレインのバリエーションをすべて揃えたことだ。
XTR M9100 1x12 (エンデューロ向け) (c)シマノ
他に特徴的なスペックを挙げれば、新機構「マイクロスプライン」や「サイレンステクノロジー」が可能にしたまったく新たな構造のハブ、2ピストンあるいは4ピストンから選べるブレーキ、ライダーのコントロールしやすいレバーポジションを選べる新マウント採用のブレーキレバー、素早い操作と最適な調整が可能なドロッパーポストレバーなど、大きな刷新を遂げている。そして新機構の数々を搭載しながらも、XCセットアップで前モデルのM9000シリーズ比で約150g、エンデューロセットアップで約90gの軽量化も果たしている。
12スピードを可能にした新規格のマイクロスプライン フリーハブ photo:Irmo Keiser
シマノヨーロッパ プロジェクトチームリーダーのバス・ファンドーレン氏は言う。「Speed、Focus、Control。それが新XTRの開発を進める上でのキーワードでした。駆動効率を大きく向上させ、素早い加速とスピードを得るために、駆動・変速系統を刷新させました。新しいブレーキシステムは高精度で、操作系のピンポイントで直感的なセットアップが可能です。あらゆる抵抗を低減し、効率を追求。新XTRはM9000からの単なるアップデートではなく、クロスカントリー、エンデューロ、マラソンなどのMTBレースでのベストを求めて根本的にリ・デザインされた新たなコンポーネントなのです。レーサーたちの高い要求に応える精度と信頼性をもつこと。それが究極のレースコンポであるXTRに課せられた使命です」。
XTRには「 The attitude second to none 」(=誰にも負けない姿勢)というキャッチフレーズが添えられる。そこにはレーサーたちがレースでの勝利を目指すように、エンジニアたちもその勝利のためにすべてを賭けてコンポーネントを開発するという、強いメッセージが込められている。
オフロードコンポと思えないほどの美しい仕上がりを見せるシマノXTR M9100シリーズ photo:Irmo Keiser
ここからは新XTRの各パーツの主な特徴を紹介してゆこう。
新設計となる1✕12ドライブトレイン photo:Makoto.AYANO
12スピード 10-51Tスプロケット スチール、チタン、アルミ素材の違いにより色が違う photo:Makoto.AYANO
最大51の12Sスプロケット ロー3枚39-45-51Tはアルミ製で特殊処理により強度と耐摩耗性を追求 photo:Makoto.AYANO
トルクを掛けながらでもスムーズで高精度なシフト操作が可能なHYPERGLIDE+ photo:Makoto.AYANO
12スピードのスプロケット「CS-M9100-12」には、ワイドレンジスペックの10−51Tとリズムステップスペックの10-45Tの2種がある。ワイドレンジの10−51Tは「10-12-14-16-18-21-24-28-33-39-45-51T」で構成され、ロー側の3枚が6Tづつの歯数差となり、均等なケイデンスを生み出す。
そして「リズムステップ」と呼ぶ10−45T・12スピードスプロケットは、歯数差が少なく、かつ贅肉を削ぎ落としたようなセットアップ。これは極限の軽量性と同時にリズムの乱れにくいペダリングを可能にし、エネルギーロスを最小限にとどめたいXCレーサーのために開発された。
10−45Tの歯数は「10-12-14-16-18-21-24-28-32-36-40-45T」で構成され、より高いスピード域のレースライド、あるいは勾配の少ないコースにおいてよりケイデンス差の少ないペダリングを可能とする。しかしフロントダブル仕様と組み合わせれば最大のギアレンジをもつこととなり、すべてのトレイルを走破するマラソンライダーに向けたドライブトレインとなる。
CS M9110 11スピードスプロケット 12スピードのものからロー側1枚を取り除いたものと同じだ (c)シマノそしてスプロケットにおける第3の選択肢は 11スピードスプロケットの「CS-M9110-11」だ。これはより軽量で強靭なホイールを求めるライダーのためのもの。10-51Tスプロケットの51Tを取り除くことで11スピードとしたカセットを使用することで、フランジ幅の広いハブを使用して、より強靭なホイールを組むことを可能にした。またショートケージのディレイラーを使用することやチェーンを短くできることにより、パーツをシェイプアップすることでドライブトレインひいてはバイク重量の軽量化を追求することが可能になる。12スピードと同じチェーン、シフターを使用しながらも、オチョコ量が少ない高剛性で強靭なホイールを求めるエンデューロライダーに最適なセットアップとなる。
最小歯数10T、そして最大が51Tというスプロケットの素材には、軽量性と堅牢性のバランスから3種類の異なる金属が素材として使用されている。ロー側の大スプロケットはアルミニウム、中間5枚はチタニウム、トップ側4枚はスチール製だ。 シフト中にもペダリングを続けられる HYPERGLIDE+により、トルクを掛けながらでもスムーズで高精度なシフト操作が可能だ。
マイクロスプライン、サイレンステクノロジー採用のリアハブ photo:Makoto.AYANO
12スピードスプロケットを実現させるために、シマノはフリーハブのデザインから根本的に見直し、「マイクロスプライン」テクノロジーにより小口径のフリーハブボディを新設計した。そして同時にリアハブには新たな「サイレンステクノロジー」を採用。この革新的な新技術は従来のラチェット式フリーハブとはまったく構造が異なるもので、ペダリングを止めた滑走時の抵抗を著しく減らすことに成功した、ほぼ無音のフリーハブ。滑走時のハブ内部の摩擦抵抗が少なく、ラチェット音もほとんどしないため、ライダーはトレイルの状況によりフォーカスすることが可能になる。駆動剛性は+30%を実現。最大7.6°のクイックエンゲージメントにより素早い漕ぎ出しをサポートする。
ノーマルスポーク仕様のハブ HB-M9110 15mmスルーアクスルを採用、100mmと110mm幅が選べる photo:Makoto.AYANOフロントハブは15mmスルーアクスルを採用し、100mmと110mm幅が選べる。リアハブは15mmスルーアクスルの142mmと、12mmスルーアクスルの148mmの 「HB-M9110/-B / FH-M9110/-B」から選べる。(※シマノではブースト規格という呼称は使用しない)またストレートプルスポークに対応するフランジを備えたBSタイプハブもラインナップする(110/148mm・28H仕様のみ)。
11速専用モデルとしてFH-M9125-Bも用意。11速フリーの寸法を極限まで煮詰めたワイドフランジハブとなっており、12速対応ハブよりもドライブサイドのフランジを4.7mm外側へと配置。スポークテンションの左右差が少なくなり、より高剛性のホイールを組み上げることができる。
ストレートプルスポークに対応するフランジを備えたBSタイプハブもラインナップ (c)シマノ
シマノ FH-M9110-BS リアハブ (c)シマノ
ダイレクトマウントを採用したクランクセット FC-M9100シリーズ 。左は2x12のフロントダブル仕様モデル photo:Makoto.AYANO
新型チェーンホイールは、ダイレクトマウントとワンキーリリースの採用により軽量で強度の高いデザイン、そして簡単なチェーンリング交換を実現している。フロントシングル/ダブルのチェーンリング交換も容易にした(クランクセットはシングル・ダブルで共通で使用可能)。もちろんホローテックⅡを採用している。
ダイレクトマウント式チェーンリングによりチェーンリング交換も非常に簡単な構造だ photo:Makoto.AYANO
チェンリング嵌合部。容易に歯数交換ができる photo:Makoto.AYANO
1✕12システムクランクセット「FC-M9100/M9120-1」は、ダイレクトマウント式チェーンリングにより80gもの軽量化を達成しつつ、チェーンリング交換も非常に簡単な構造になっている。歯数は30T、32T、34T、36T、38Tから選ぶことができ、素早く歯数が交換でき、かつ固定も確実だ。
エンデューロライダーなら1✕12スピードに、様々なマウントに対応したXTRチェーンデバイス(SM-CD800 E マウント、Dマウントまたは ISCG05 タイプ) をセットすることができる。ワイドなQファクターに合わせたFC-M9120も用意し、昨今のブースト規格採用によってBB幅の広がるフレームが多い傾向にも対応する(FC-M9100:Qファクター162mm / FC-M9120:Qファクター168mm。チェーンラインはどちらも52mm)。
フロントダブルモデルのダイレクトマウント部。クランクセットはシングルモデルと共通だ photo:Makoto.AYANO
Qファクターにより162mm/168mmで異なるシャフト長さ photo:Makoto.AYANO
マラソンなど、より広いレンジのワイドギアレシオを望むライダーや、厳しい地形を走破するライダーに向けては2x12のフロントダブル仕様チェーンホイール「FC-M9100 / M9120-B2」をラインナップする。38-28Tのフロントダブルチェーンホイールとリア10-45Tカセットの組合わせにより、612%のギアレンジとなる(1✕12・リア10-51Tの場合は510%)。より細かなギアステップとともに、登りの厳しい急峻な地形もこなせる超ワイドギアレンジが可能となるのだ。
左クランクはワンキーレリーズにより着脱が可能だ photo:Makoto.AYANO
新ドライブシステム専用設計のチェーン「CN-M9100」。クイックリンクのみ対応 photo:Makoto.AYANO
新ドライブシステム専用設計のチェーン「CN-M9100」はフロントチェーンリング、カセットスプロケットの歯と接するインナープレートの面積を広げることでチェーン保持力を向上。同時にシフティング性能を強化している。接続は新型クイックリンクのみによる。
新ケージデザインを採用し安定感を増したリアディレイラー RD-M9100 photo:Makoto.AYANO
XTRでは組み合わせにより最適な3つのタイプのリアディレイラーを用意する。1✕12の2種のスプロケットに対応するRD-M9100には、ショートケージのGS(10-45Tのみに対応・11/12速兼用)とロングケージタイプのSGS(10-51Tまで対応・12速専用)を用意。そしてフロントダブルに対応したロングケージのRD-M9120を用意。
プーリーは従来の11Tから13Tに大径化されシフトパフォーマンスが向上 photo:Makoto.AYANO
プーリーケージは表と裏でアシンメトリーなデザイン photo:Makoto.AYANO
シフトパフォーマンス向上のためプーリーは従来の11Tから13Tに。横への突起量が少ない「シャドーRD+」デザインとともに、チェーンテンションを高め、荒れた路面においてもチェーン暴れを少なく抑える。「サイレントドライブトレイン」はローギアポジション時にリアディレイラーテンションが減少し、チェーンがハイテンションになるのを防止。またリアディレイラープーリーケージにバンパーを設けることで静音化にも成功している。
フロントダブルギアに対応するフロントディレイラーはフレーム形状によりD、E、Mタイプの3種を用意 photo:Makoto.AYANO
フロントダブルギアに対応するフロントディレイラーは、フレーム形状によりD、E、Mタイプの3種を用意。いずれもが驚異的な引きの軽さを実現するサイドスウィング構造を採用している。
I-SPEC-EV機構によりシフター本体を横方向に14mm、垂直方向に60°の角度調整が可能 photo:Makoto.AYANO
シフターには新I-SPEC-EV機構が搭載された。シフター本体を横方向に14mmスライドさせることができ、かつ垂直方向には60°の角度調整が可能なスウィング機構が採用される。このエルゴノミックな新操作系により多様なコックピットのレイアウトが可能となり、よりライダーにフィットするレバー取り付け位置調整が実現している。レバーへのアクセス時間は20%短縮。シフティング時の操作力はM9000比で35%減となり、軽い入力での操作が可能だ。
「ラピッドファイヤー・プラス」や「2ウェイリリース」、「マルチリリース」といった機構はM9000から引き継いでいるが、レバーに新たに搭載される新機構として11/12速コンバーターがある。これは12速レバーで11速の変速を可能にする切り替え機構で、ハブフランジが広くホイール剛性の高められる11スピード仕様を選択するエンデューロレーサーのためのもの。
フロントダブルに使用するフロント変速レバーは1本のレバーでシフトアップとダウンを行うモノレバー方式を採用 photo:Makoto.AYANO
フロント変速レバー SL-M9100-IL裏側 レバーはプッシュ/プルどちらも操作可能だ photo:Makoto.AYANO
そしてフロントダブルに使用するフロント変速レバー「SL-M9100-IL / SL-M9100-L」には、1本のレバーでシフトアップとダウンを行うモノレバー方式を採用。プッシュでもプルでも操作が可能で、シンプルかつ明快な操作性を獲得している。
ドロッパーポストを操作するアジャスタブルシートポストレバー「SL-MT800-IL」 photo:Makoto.AYANOそしてドロッパーポストを操作するアジャスタブルシートポストレバー「SL-MT800-IL」もラインナップに加わる。他社製品を含め一般的なドロッパーポストを可動させることができるシンプルなレバーだ。
シフトレバーやドロッパーポストレバーなどのレバー類は、M9000シリーズに比べてもより軽いタッチで操作が可能なようチューニングされ、よりフィット感が高く、軽く、かつ指の移動量が少ないライトアクション操作を実現している。
クロスカントリー用のブレーキレバー&キャリパーセット BL-M9100 photo:Makoto.AYANO
ブレーキレバー&キャリパーセットは2ピストンキャリパーに対応するものに加え、4ピストンキャパーモデルの2種 (BL-M9100/M9120)を揃える。2ピストンタイプはより軽量なクロスカントリー用モデルで、ブレーキレバーにはカーボン、シリンダーにはマグネシウムが採用される。従来より30%少ないタイムラグ、かつ10%の制動力向上を果たしている。
エンデューロ仕様のBL-M9120 photo:Makoto.AYANO
4ピストンと組み合わせるエンデューロモデルのレバーは剛性の高いアルミ製 photo:Makoto.AYANO
エンデューロなど、より制動力の必要なシーンに向く4ピストンキャリパーにはアルミ製ブレーキレバーとワンピース製アルミシリンダーを組み合わせ、より剛性に優れた構成としている。レバーには工具無しでいつでもストローク幅を調整できるアジャスターバレルを備える。
エンデューロ仕様の4ピストンキャリパー BR-M9120 photo:Makoto.AYANO
2ピストンと4ピストンタイプいずれも短いフリーストロークにより素早いブレーキ操作を実現。4ピストンタイプにはサーボウェーブテクノロジーを搭載し、素早い初動とよりリニアなタッチ、パワフルな効きを実現している。
またM9000からはブレーキシリンダーのクランプバンド取り付け位置を変更、同時にハンドルバーに接するコンタクトポイントを設けたことによりレバー操作時の撓みをなくし、よりダイレクトなレバータッチを実現している。
左レバーはドロッパーポストを操作する「SL-MT800-IL」。I-SPEC EVにより混みあうハンドル周りをすっきりとまとめることができる (c)シマノ
4ピストンタイプ用のラジエターフィン付きパッド N03/4A レジン/メタル (c)シマノ
温度上昇を抑制するテクノロジー「アイステック・フリーザ」を採用したローター 写真は140mm (c)シマノ
140mm〜203mmを揃えるローターは、140mmと160mmでは従来比でそれぞれ5g、10gの軽量化。203mmローターではじつに30gもの軽量化 ( RT99比)を達成している。ローターにはブレーキングによる温度上昇を抑制するテクノロジー「アイステック・フリーザ」を採用し、180mmと203mmローターの場合で熱上昇を20°低減することに成功している。
クロスカントリー用のPD-M9100 アクスル長は52mmと55mmから選べる photo:Makoto.AYANO
エッジの丸められたスピンドル軸胴部により泥捌け性能を向上させたPD-M9100 photo:Makoto.AYANOすでに25年以上に渡り基本的な構造を継続しているSPDペダルに、細部がリファインされたXTRペダルの新モデル PD-M9100、PD-M9120が登場した。
XCおよびシクロクロスレーサー向けのPD-M9100は、シューズとのコンタクトエリアをさらに拡大しつつ、エッジの丸められたスピンドル軸胴部やオフセットされたビンディング部、細部形状の見直しによりさらにドロ捌け性能を向上している。
そして軸長が3mm短いショートアクスルモデルを追加。これはブースト化によりチェーンラインが広がる傾向にあるドライブトレインに対応したモデルで、ロードモデルのSPD-SLと同一のQファクターを実現。XC、シクロクロス、そしてハイスピードのグラベルライディングにおいてもよりスムースでダイレクトなペダリングを可能とする。
後方により広くなった踏み面のエンデューロ仕様ペダル PD-M9120 photo:Makoto.AYANO
PD-M9120 フラットソールにも対応。クリートスペーサーとあわせフィットを追求できる photo:Makoto.AYANOケージ付きボディによりより広い踏み面をもつトレイル&エンデューロモデルのPD-M9120はペダル後部にコンタクト面を拡大し、荒れた路面状況でもキャッチしやすく、かつダウンヒルやエンデューロで使用されるフラットソールをもつスニーカースタイルのシューズにも対応する。
いずれのペダルもクリートスペーサー(1mm)が付属することで、シューズのソール形状により適応させることができる。
XTR M9100 1x12 (クロスカントリー向け) (c)シマノ
XTR M9100 2x12 (マラソン向け) (c)シマノ
XTR M9100 1x11 (エンデューロ向け) (c)シマノ

待望の登場となったM9100系シマノ新型XTR。プロレーサーたちは今春よりすでにワールドカップや世界選手権などで使用してきたが、一般へのデリバリー体制も整い、いよいよMTBシーンへの本格投入が始まる。この特集の第1章ではパーツそれぞれの細部にフォーカスしていこう。

マウンテンバイクの進化はとどまるところを知らない。レースは年々コースが厳しくなり、バイクに要求される性能もより高いものになっている。ライダーが軽量なセットアップを望む半面、バイクに要求される機能はより万能なものへとなっていく。どんな状況にも対応できる機材が求められる今、新型XTRはMTBレーサーが勝利するために求めるスピードやコントロール性能を満たすべく生まれたMTBコンポーネントだ。

新XTRを特徴づけるうえでもっとも顕著なのはリア12スピードの採用だろう。シマノ初となる12枚のスプロケットにより構成されるリアカセットは、10−51Tあるいは10−45T。そして待望のフロントシングル化による1✕12スピードの実現と、マラソン等のよりワイドなギアレンジへの要求を満たすフロントダブルによる2✕12スピード、そしてより強いホイールを求めるライダーのための1✕11も用意するという、今考えられうるドライブトレインのバリエーションをすべて揃えたことだ。

他に特徴的なスペックを挙げれば、新機構「マイクロスプライン」や「サイレンステクノロジー」が可能にしたまったく新たな構造のハブ、2ピストンあるいは4ピストンから選べるブレーキ、ライダーのコントロールしやすいレバーポジションを選べる新マウント採用のブレーキレバー、素早い操作と最適な調整が可能なドロッパーポストレバーなど、大きな刷新を遂げている。そして新機構の数々を搭載しながらも、XCセットアップで前モデルのM9000シリーズ比で約150g、エンデューロセットアップで約90gの軽量化も果たしている。

シマノヨーロッパ プロジェクトチームリーダーのバス・ファンドーレン氏は言う。「Speed、Focus、Control。それが新XTRの開発を進める上でのキーワードでした。駆動効率を大きく向上させ、素早い加速とスピードを得るために、駆動・変速系統を刷新させました。新しいブレーキシステムは高精度で、操作系のピンポイントで直感的なセットアップが可能です。あらゆる抵抗を低減し、効率を追求。新XTRはM9000からの単なるアップデートではなく、クロスカントリー、エンデューロ、マラソンなどのMTBレースでのベストを求めて根本的にリ・デザインされた新たなコンポーネントなのです。レーサーたちの高い要求に応える精度と信頼性をもつこと。それが究極のレースコンポであるXTRに課せられた使命です」。
XTRには「 The attitude second to none 」(=誰にも負けない姿勢)というキャッチフレーズが添えられる。そこにはレーサーたちがレースでの勝利を目指すように、エンジニアたちもその勝利のためにすべてを賭けてコンポーネントを開発するという、強いメッセージが込められている。

ここからは新XTRの各パーツの主な特徴を紹介してゆこう。
XC、エンデューロ、マラソンに完全対応する刷新されたドライブトレイン

より速くより滑らかな変速を可能にする新型スプロケット 最大51Tを擁するCS-M9100
ドライブトレインの開発においては、ライダーのペダリングにおけるケイデンスとリズムを最適化するためのギアチェンジ・ステップを探ることから始まった。その結果生まれたのが最大51Tをもつまったく新設計のスプロケットだ。


12スピードのスプロケット「CS-M9100-12」には、ワイドレンジスペックの10−51Tとリズムステップスペックの10-45Tの2種がある。ワイドレンジの10−51Tは「10-12-14-16-18-21-24-28-33-39-45-51T」で構成され、ロー側の3枚が6Tづつの歯数差となり、均等なケイデンスを生み出す。
そして「リズムステップ」と呼ぶ10−45T・12スピードスプロケットは、歯数差が少なく、かつ贅肉を削ぎ落としたようなセットアップ。これは極限の軽量性と同時にリズムの乱れにくいペダリングを可能にし、エネルギーロスを最小限にとどめたいXCレーサーのために開発された。
10−45Tの歯数は「10-12-14-16-18-21-24-28-32-36-40-45T」で構成され、より高いスピード域のレースライド、あるいは勾配の少ないコースにおいてよりケイデンス差の少ないペダリングを可能とする。しかしフロントダブル仕様と組み合わせれば最大のギアレンジをもつこととなり、すべてのトレイルを走破するマラソンライダーに向けたドライブトレインとなる。

最小歯数10T、そして最大が51Tというスプロケットの素材には、軽量性と堅牢性のバランスから3種類の異なる金属が素材として使用されている。ロー側の大スプロケットはアルミニウム、中間5枚はチタニウム、トップ側4枚はスチール製だ。 シフト中にもペダリングを続けられる HYPERGLIDE+により、トルクを掛けながらでもスムーズで高精度なシフト操作が可能だ。
新設計のマイクロスプライン/サイレンステクノロジー採用ハブ

12スピードスプロケットを実現させるために、シマノはフリーハブのデザインから根本的に見直し、「マイクロスプライン」テクノロジーにより小口径のフリーハブボディを新設計した。そして同時にリアハブには新たな「サイレンステクノロジー」を採用。この革新的な新技術は従来のラチェット式フリーハブとはまったく構造が異なるもので、ペダリングを止めた滑走時の抵抗を著しく減らすことに成功した、ほぼ無音のフリーハブ。滑走時のハブ内部の摩擦抵抗が少なく、ラチェット音もほとんどしないため、ライダーはトレイルの状況によりフォーカスすることが可能になる。駆動剛性は+30%を実現。最大7.6°のクイックエンゲージメントにより素早い漕ぎ出しをサポートする。

11速専用モデルとしてFH-M9125-Bも用意。11速フリーの寸法を極限まで煮詰めたワイドフランジハブとなっており、12速対応ハブよりもドライブサイドのフランジを4.7mm外側へと配置。スポークテンションの左右差が少なくなり、より高剛性のホイールを組み上げることができる。


ダイレクトマウント採用クランクセット FC-M9100シリーズ

新型チェーンホイールは、ダイレクトマウントとワンキーリリースの採用により軽量で強度の高いデザイン、そして簡単なチェーンリング交換を実現している。フロントシングル/ダブルのチェーンリング交換も容易にした(クランクセットはシングル・ダブルで共通で使用可能)。もちろんホローテックⅡを採用している。


1✕12システムクランクセット「FC-M9100/M9120-1」は、ダイレクトマウント式チェーンリングにより80gもの軽量化を達成しつつ、チェーンリング交換も非常に簡単な構造になっている。歯数は30T、32T、34T、36T、38Tから選ぶことができ、素早く歯数が交換でき、かつ固定も確実だ。
エンデューロライダーなら1✕12スピードに、様々なマウントに対応したXTRチェーンデバイス(SM-CD800 E マウント、Dマウントまたは ISCG05 タイプ) をセットすることができる。ワイドなQファクターに合わせたFC-M9120も用意し、昨今のブースト規格採用によってBB幅の広がるフレームが多い傾向にも対応する(FC-M9100:Qファクター162mm / FC-M9120:Qファクター168mm。チェーンラインはどちらも52mm)。


マラソンなど、より広いレンジのワイドギアレシオを望むライダーや、厳しい地形を走破するライダーに向けては2x12のフロントダブル仕様チェーンホイール「FC-M9100 / M9120-B2」をラインナップする。38-28Tのフロントダブルチェーンホイールとリア10-45Tカセットの組合わせにより、612%のギアレンジとなる(1✕12・リア10-51Tの場合は510%)。より細かなギアステップとともに、登りの厳しい急峻な地形もこなせる超ワイドギアレンジが可能となるのだ。


新ドライブシステム専用設計のチェーン「CN-M9100」はフロントチェーンリング、カセットスプロケットの歯と接するインナープレートの面積を広げることでチェーン保持力を向上。同時にシフティング性能を強化している。接続は新型クイックリンクのみによる。
新ケージデザインを採用 プーリー大径化で抵抗を軽減したリアディレイラー RD-M9100

XTRでは組み合わせにより最適な3つのタイプのリアディレイラーを用意する。1✕12の2種のスプロケットに対応するRD-M9100には、ショートケージのGS(10-45Tのみに対応・11/12速兼用)とロングケージタイプのSGS(10-51Tまで対応・12速専用)を用意。そしてフロントダブルに対応したロングケージのRD-M9120を用意。


シフトパフォーマンス向上のためプーリーは従来の11Tから13Tに。横への突起量が少ない「シャドーRD+」デザインとともに、チェーンテンションを高め、荒れた路面においてもチェーン暴れを少なく抑える。「サイレントドライブトレイン」はローギアポジション時にリアディレイラーテンションが減少し、チェーンがハイテンションになるのを防止。またリアディレイラープーリーケージにバンパーを設けることで静音化にも成功している。

フロントダブルギアに対応するフロントディレイラーは、フレーム形状によりD、E、Mタイプの3種を用意。いずれもが驚異的な引きの軽さを実現するサイドスウィング構造を採用している。
よりエルゴノミックに、素早い変速操作のシフター

シフターには新I-SPEC-EV機構が搭載された。シフター本体を横方向に14mmスライドさせることができ、かつ垂直方向には60°の角度調整が可能なスウィング機構が採用される。このエルゴノミックな新操作系により多様なコックピットのレイアウトが可能となり、よりライダーにフィットするレバー取り付け位置調整が実現している。レバーへのアクセス時間は20%短縮。シフティング時の操作力はM9000比で35%減となり、軽い入力での操作が可能だ。
「ラピッドファイヤー・プラス」や「2ウェイリリース」、「マルチリリース」といった機構はM9000から引き継いでいるが、レバーに新たに搭載される新機構として11/12速コンバーターがある。これは12速レバーで11速の変速を可能にする切り替え機構で、ハブフランジが広くホイール剛性の高められる11スピード仕様を選択するエンデューロレーサーのためのもの。


そしてフロントダブルに使用するフロント変速レバー「SL-M9100-IL / SL-M9100-L」には、1本のレバーでシフトアップとダウンを行うモノレバー方式を採用。プッシュでもプルでも操作が可能で、シンプルかつ明快な操作性を獲得している。

シフトレバーやドロッパーポストレバーなどのレバー類は、M9000シリーズに比べてもより軽いタッチで操作が可能なようチューニングされ、よりフィット感が高く、軽く、かつ指の移動量が少ないライトアクション操作を実現している。
2ピストン/4ピストンを揃えるブレーキレバー&キャリパー

ブレーキレバー&キャリパーセットは2ピストンキャリパーに対応するものに加え、4ピストンキャパーモデルの2種 (BL-M9100/M9120)を揃える。2ピストンタイプはより軽量なクロスカントリー用モデルで、ブレーキレバーにはカーボン、シリンダーにはマグネシウムが採用される。従来より30%少ないタイムラグ、かつ10%の制動力向上を果たしている。


エンデューロなど、より制動力の必要なシーンに向く4ピストンキャリパーにはアルミ製ブレーキレバーとワンピース製アルミシリンダーを組み合わせ、より剛性に優れた構成としている。レバーには工具無しでいつでもストローク幅を調整できるアジャスターバレルを備える。

2ピストンと4ピストンタイプいずれも短いフリーストロークにより素早いブレーキ操作を実現。4ピストンタイプにはサーボウェーブテクノロジーを搭載し、素早い初動とよりリニアなタッチ、パワフルな効きを実現している。
またM9000からはブレーキシリンダーのクランプバンド取り付け位置を変更、同時にハンドルバーに接するコンタクトポイントを設けたことによりレバー操作時の撓みをなくし、よりダイレクトなレバータッチを実現している。

パッド、ローター 新設計のブレーキシステム
刷新されたキャリパーに適合するように、パッドやローターも新たな形状で新設計された。4ピストンタイプには効率的な冷却のためのラジエターフィン付きのパッド (N03/4A レジン/メタル)を使用、2ピストンタイプのキャリパーには フィン無しのパッド(K02/4S レジン/メタル, オプションで K02/4Ti プレート)を使用する。

140mm〜203mmを揃えるローターは、140mmと160mmでは従来比でそれぞれ5g、10gの軽量化。203mmローターではじつに30gもの軽量化 ( RT99比)を達成している。ローターにはブレーキングによる温度上昇を抑制するテクノロジー「アイステック・フリーザ」を採用し、180mmと203mmローターの場合で熱上昇を20°低減することに成功している。
よりダイレクトで泥つまりに強いデザインへと刷新されたSPDペダル


XCおよびシクロクロスレーサー向けのPD-M9100は、シューズとのコンタクトエリアをさらに拡大しつつ、エッジの丸められたスピンドル軸胴部やオフセットされたビンディング部、細部形状の見直しによりさらにドロ捌け性能を向上している。
そして軸長が3mm短いショートアクスルモデルを追加。これはブースト化によりチェーンラインが広がる傾向にあるドライブトレインに対応したモデルで、ロードモデルのSPD-SLと同一のQファクターを実現。XC、シクロクロス、そしてハイスピードのグラベルライディングにおいてもよりスムースでダイレクトなペダリングを可能とする。


いずれのペダルもクリートスペーサー(1mm)が付属することで、シューズのソール形状により適応させることができる。



動画で理解するシマノXTR M9100
提供:シマノ、photo&text:綾野 真/Makoto.AYANO