2018/03/12(月) - 12:17
イタリアで開催されたC64の発表会にあわせ、コルナゴ社の特別な計らいでテストライドの機会を得ることができた。ミラノ北部の丘陵地帯でフルに乗り込んでの実走インプレッションをお届けする。後半部ではカーボン専用工房での制作風景も取材した。
コルナゴ本社があるミラノ近郊の街カンビアーゴから北に20km。コモ湖に近いコムーネ(自治体)モンテヴェッキアの街へと向かった。今回、C64のテストライドを事前にリクエストして現地へ渡ったが、その願いが聞き入れられ、マイサイズのコルナゴC64が特別に用意されていた。展示車両こそ世界各国に数台づつ先行デリバリーされていたが、ライドできる試乗車を組み上げて用意してくれていたのだ。
身長168cmの自分にぴったりの480Sサイズに、カンパニョーロ・スーパーレコードEPS&ボーラULTRA35ホイール仕様。フィットデータからは450Sと480Sとで迷ったが、選べるサイズの細かさ・豊富さ(全14サイズ)はさすがだ。シートポストは標準オフセット量15mmのものがセットされていたが、0と30mmも選べる。ちなみに前作C60は自分にとってライドフィールがお気に入りの一台。果たしてイタリアンロードの頂点に位置するプレミアムバイクはどう変わったのだろう?
テストライドにはコルナゴ社のふたりのスタッフが付き合ってくれた。90年代にフランスのカジノチームで走った元プロ選手のアレッサンドロ・トルチ氏と、C64開発担当のダヴィデ・フマガーリ氏が案内してくれたのは、コッパ・アゴストーニで使われるモンテヴェッキアの登りだ。トルチ氏はジロ・ディ・ロンバルディア覇者、五輪金メダリストのパスカル・リシャールのアシストとして活躍した元選手で、この地域一帯がホームコース。C64の性能を引き出せるアップダウンに富むルートへと案内してくれた。
手に持ったC64は、C60よりも軽さが際立つ。フレーム重量は900g(500Sサイズ、未塗装)という公式発表。フレームでC60と比較して186gの軽量化だが、ヘッドや小物、システムの軽量化ぶんを入れればバイク全体で約200gの軽量化に相当する。その違いは手に持っても明らかだ。どちらかというと登りの多いコースで不利と考えられていたCシリーズが軽量モデルの範疇に入ったことはそれだけで喜ばしいこと。ではその走りはどうか?
走り出して感じるのはC60同様の剛性の高さだ。そしてC60とは全てが違う新しいモデルながら、フォルムが似ているようにライドフィールも似ているという第一印象だ。この剛性の高さは最近の他社の方向性とは違うと感じるぐらいにがっしりとしたもの。
C60との違いを感じ取るべく、ヒルクライムを続ける。モンテヴェッキアは標高約470mの小山の頂に教会が建つ美しい集落。周囲に取り付く道路は急勾配で、ロードバイクの運動性能がフルに試される。
ダンシングを多用しての登りでは、フロント周りの剛性の高さが好印象だ。ストレートフォークに体重を載せていけば、素直な伸びを感じさせてくれる。BB周りはC60よりも剛性感が少し和らいだ印象がある。C60は自分の脚質には硬すぎると思っていた面があるが、C64のBB周辺はしなるほどではないが、少しマイルドさを感じる。非力さを跳ね返さない懐の深さもあり、フレーム剛性に負ける感じがしないのは好感触だ。
緩斜面のアップダウンや平坦路ではペダリングが気持ち良く、後ろからグイグイと押されて進むような感覚を味わうことができる。この踏み味こそラグドフレーム独特のもので、「乗る喜び」を感じられるテイストだ。BB周辺にはウィップ(しなり)はまるで感じないが、剛性が高すぎて足にくる感じではない。反応性は素晴らしく、まさにロードレースのためのバイクだ。
ダイレクトマウントブレーキの制動力は強力だが、バックステーのブリッヂも頑丈な設計で、アーチの力に負けてシートステイが左右に広がったりといったこともない。リムサイドのブレーキ面に全天候型のAC3処理のあるボーラなら、カーボンホイールであっても制動力とコントロール性に不満はまったく感じない。
フレームには振動吸収性を高めるような工夫や造形はとくに見当たらない。エンデュランスバイクにあるような快適さは求めるべくもないが、路面の荒れた箇所を走ってもC60よりスムーズな感じがするのはなぜだろう? 「リアステーとフォークのバーティカルコンプライアンス(縦方向の振動吸収性)を高めてある」とダヴィデ氏は言う。あるいはConceptで定評を得た特殊樹脂テクノポリマーを組み合わせたヘッドパーツを採用していることが吉と出ているのか。あるいは全体重量が軽くなったこと、カーボンチューブの肉厚もレイアップもすべてが変わっていることが良い方向に作用しているのだろうか。
カンビアーゴ市街の石畳は、状態は良くても自転車の細いタイヤには容赦なく振動をぶつけてくる、ロンド・ファン・フラーンデレンに登場するような、四角く尖った石のブロックによるパヴェだ。C64はこういった路面は苦手だった。小さな振動には滑らかに対応するが、大きな凹凸に対しては弾かれてしまって推進力が活かせない。もっとも28Cのタイヤを許容するクリアランスがあるのだから、そういった路面はタイヤを換えることで対応するということなのだろう。つまり、C64は快適性ではなく、レーシング性能を追求したピュアなロードレーサーであるということだ。
終日走り回って、軽くなったC64のメリットは十分実感できた。ただ軽くなっただけでなく、より強く、スムーズに、コントローラブルに。走りの質が向上していることも感じられた。マイナス200gという数値データからも、バイクの軽さが結果を左右するヒルクライムなどにも心理的な躊躇なく駆り出すことができるだろう。
軽くなったとは言え、C64は「スーパーライトウェイトバイク」ではない。しかしモノコック製法のバイクと遜色ない軽量さながら、ラグドフレームに独特の、パワーのすべて推進力に変換するような重厚なペダリング感覚を味わいながら走ることができるキャラクターこそが魅力だ。快適さを追求するロングライドやエアロダイナミクスが有利に働くソロライドには別の選択肢があるのだろうが、C64はライド中いつも走る悦びを感じることができる稀有なオールラウンドバイクだと感じた。
また、個人的趣味の話になってしまうが、芸術品とでも言いたくなるようなフレームの造型やペイント、各部の仕上げは骨抜きにされてしまうほど魅力的だ。ヨーロッパの伝統美を感じさせ、レーシングマインドを刺激するテイスト溢れるデザインもコルナゴの魅力だ。所有する悦びも満たしてくれる素晴らしいバイク。今回はまさにハンドメイドと呼べる製造工程まで見ることができ、憧れの気持ちに一層拍車がかかってしまった。コルナゴとは、やはり欧州ロードバイク界、ロードレース界の頂点に位置するブランド。今も変わらないその立ち位置や、過去の歴史や栄光に触れると、「C」の持つ意味や価値がこの上なく大きく感じられるのだ。
ラグドフレームは接着により組み上げられる。この工程では1本のフレームに対し2人が担当し、カットされたカーボンチューブとラグの双方に接着剤を、箇所に合わせた様々な形状のコテで手塗りして行く職人の連携作業だ。2液を少量づつ混ぜ、捏ねることで生成される黒いグルー。原始的にも見えるその作業だが、この接着剤は航空宇宙産業で使用されているものと同等のカーボン専用の特殊グルーだという。
カーボンチューブはラグの奥でチューブ同士が接するが、その曲面がピタリと一致するように入念なつ正確に面取りされて切削される。ケーブルガイドなどを取り付ける箇所はコンピュータ制御のマシンにより加工される。工作機械と手作業によるリアルなハンドメイドだ。
組み上げ基礎となるジグ(治具)はフレームサイズごとに固定された専用のジグが用意される。つまり展開14サイズそれぞれに専用のジグが使用されるのだ。これには操作によって精度が狂うことや人為的なミスを防ぐ意味もあるという。
組み上げられた接着状態のフレームはオーブンに入れられ、低温で乾燥される。はみ出して硬化した接着剤を削り、仕上げることで素地フレームの状態としては完成となる。C64の生産量は週に100本ほどだという。
この後フレームはミラノより南に300kmのピサ近郊にあるコルナゴ専用塗装工房であるパマペイント社へと送られ、塗装が施される。エアブラシを用いた芸術的なペイントなど、同社の塗装技術は他の追随を許さないほどの高評価を得ている。つまりコルナゴC64はフレームビルドから塗装まで100%イタリア国内で完結するイタリアン・テーラーメイドなのだ。
コルナゴ本社があるミラノ近郊の街カンビアーゴから北に20km。コモ湖に近いコムーネ(自治体)モンテヴェッキアの街へと向かった。今回、C64のテストライドを事前にリクエストして現地へ渡ったが、その願いが聞き入れられ、マイサイズのコルナゴC64が特別に用意されていた。展示車両こそ世界各国に数台づつ先行デリバリーされていたが、ライドできる試乗車を組み上げて用意してくれていたのだ。
身長168cmの自分にぴったりの480Sサイズに、カンパニョーロ・スーパーレコードEPS&ボーラULTRA35ホイール仕様。フィットデータからは450Sと480Sとで迷ったが、選べるサイズの細かさ・豊富さ(全14サイズ)はさすがだ。シートポストは標準オフセット量15mmのものがセットされていたが、0と30mmも選べる。ちなみに前作C60は自分にとってライドフィールがお気に入りの一台。果たしてイタリアンロードの頂点に位置するプレミアムバイクはどう変わったのだろう?
テストライドにはコルナゴ社のふたりのスタッフが付き合ってくれた。90年代にフランスのカジノチームで走った元プロ選手のアレッサンドロ・トルチ氏と、C64開発担当のダヴィデ・フマガーリ氏が案内してくれたのは、コッパ・アゴストーニで使われるモンテヴェッキアの登りだ。トルチ氏はジロ・ディ・ロンバルディア覇者、五輪金メダリストのパスカル・リシャールのアシストとして活躍した元選手で、この地域一帯がホームコース。C64の性能を引き出せるアップダウンに富むルートへと案内してくれた。
際立つ軽さと反応性の良さ 滑らかさも手に入れた
手に持ったC64は、C60よりも軽さが際立つ。フレーム重量は900g(500Sサイズ、未塗装)という公式発表。フレームでC60と比較して186gの軽量化だが、ヘッドや小物、システムの軽量化ぶんを入れればバイク全体で約200gの軽量化に相当する。その違いは手に持っても明らかだ。どちらかというと登りの多いコースで不利と考えられていたCシリーズが軽量モデルの範疇に入ったことはそれだけで喜ばしいこと。ではその走りはどうか?
走り出して感じるのはC60同様の剛性の高さだ。そしてC60とは全てが違う新しいモデルながら、フォルムが似ているようにライドフィールも似ているという第一印象だ。この剛性の高さは最近の他社の方向性とは違うと感じるぐらいにがっしりとしたもの。
C60との違いを感じ取るべく、ヒルクライムを続ける。モンテヴェッキアは標高約470mの小山の頂に教会が建つ美しい集落。周囲に取り付く道路は急勾配で、ロードバイクの運動性能がフルに試される。
ダンシングを多用しての登りでは、フロント周りの剛性の高さが好印象だ。ストレートフォークに体重を載せていけば、素直な伸びを感じさせてくれる。BB周りはC60よりも剛性感が少し和らいだ印象がある。C60は自分の脚質には硬すぎると思っていた面があるが、C64のBB周辺はしなるほどではないが、少しマイルドさを感じる。非力さを跳ね返さない懐の深さもあり、フレーム剛性に負ける感じがしないのは好感触だ。
緩斜面のアップダウンや平坦路ではペダリングが気持ち良く、後ろからグイグイと押されて進むような感覚を味わうことができる。この踏み味こそラグドフレーム独特のもので、「乗る喜び」を感じられるテイストだ。BB周辺にはウィップ(しなり)はまるで感じないが、剛性が高すぎて足にくる感じではない。反応性は素晴らしく、まさにロードレースのためのバイクだ。
ダウンヒルでも乱れないハンドリング性能
ダウンヒル性能の高さは特筆モノだ。今回セットされていたワイドリムのボーラULTRA35ホイールは全体に剛性が高く、タイヤは普段から使い慣れているヴィットリアCORSAの25Cだった。ヨレないレーシングホイールにグリッピーなチューブラータイヤの組み合わせで、タイトターンを繰り返すワインディングロードも意のままに操れるハンドリング性能に感心した。高速でのレーンチェンジも素速く、しかし安定感のあるハンドリング特性で挙動が乱れない。フォークにブレやビビリは微塵も無く、コーナリングのラインもピタリと決まる。クイックすぎず、ふらつかず、極めて扱いやすいニュートラルなハンドリングで、かつ両手放しでウィンドブレイカーを脱ぎ着する際などの安定性はコルナゴのバイクに共通したものだ。ダイレクトマウントブレーキの制動力は強力だが、バックステーのブリッヂも頑丈な設計で、アーチの力に負けてシートステイが左右に広がったりといったこともない。リムサイドのブレーキ面に全天候型のAC3処理のあるボーラなら、カーボンホイールであっても制動力とコントロール性に不満はまったく感じない。
フレームには振動吸収性を高めるような工夫や造形はとくに見当たらない。エンデュランスバイクにあるような快適さは求めるべくもないが、路面の荒れた箇所を走ってもC60よりスムーズな感じがするのはなぜだろう? 「リアステーとフォークのバーティカルコンプライアンス(縦方向の振動吸収性)を高めてある」とダヴィデ氏は言う。あるいはConceptで定評を得た特殊樹脂テクノポリマーを組み合わせたヘッドパーツを採用していることが吉と出ているのか。あるいは全体重量が軽くなったこと、カーボンチューブの肉厚もレイアップもすべてが変わっていることが良い方向に作用しているのだろうか。
コルナゴ創業の地、カンビアーゴ市街の石畳を走る
ライドの後半、コルナゴ本社に戻る際にカンビアーゴ市街にも立ち寄った。エルネスト・コルナゴ氏が兄弟でフレーム造りを始めたという、街の一角の小さな店舗兼工場跡を表敬訪問し、石畳の敷き詰められた市街地を走ってみることにした。カンビアーゴ市街の石畳は、状態は良くても自転車の細いタイヤには容赦なく振動をぶつけてくる、ロンド・ファン・フラーンデレンに登場するような、四角く尖った石のブロックによるパヴェだ。C64はこういった路面は苦手だった。小さな振動には滑らかに対応するが、大きな凹凸に対しては弾かれてしまって推進力が活かせない。もっとも28Cのタイヤを許容するクリアランスがあるのだから、そういった路面はタイヤを換えることで対応するということなのだろう。つまり、C64は快適性ではなく、レーシング性能を追求したピュアなロードレーサーであるということだ。
終日走り回って、軽くなったC64のメリットは十分実感できた。ただ軽くなっただけでなく、より強く、スムーズに、コントローラブルに。走りの質が向上していることも感じられた。マイナス200gという数値データからも、バイクの軽さが結果を左右するヒルクライムなどにも心理的な躊躇なく駆り出すことができるだろう。
軽くなったとは言え、C64は「スーパーライトウェイトバイク」ではない。しかしモノコック製法のバイクと遜色ない軽量さながら、ラグドフレームに独特の、パワーのすべて推進力に変換するような重厚なペダリング感覚を味わいながら走ることができるキャラクターこそが魅力だ。快適さを追求するロングライドやエアロダイナミクスが有利に働くソロライドには別の選択肢があるのだろうが、C64はライド中いつも走る悦びを感じることができる稀有なオールラウンドバイクだと感じた。
また、個人的趣味の話になってしまうが、芸術品とでも言いたくなるようなフレームの造型やペイント、各部の仕上げは骨抜きにされてしまうほど魅力的だ。ヨーロッパの伝統美を感じさせ、レーシングマインドを刺激するテイスト溢れるデザインもコルナゴの魅力だ。所有する悦びも満たしてくれる素晴らしいバイク。今回はまさにハンドメイドと呼べる製造工程まで見ることができ、憧れの気持ちに一層拍車がかかってしまった。コルナゴとは、やはり欧州ロードバイク界、ロードレース界の頂点に位置するブランド。今も変わらないその立ち位置や、過去の歴史や栄光に触れると、「C」の持つ意味や価値がこの上なく大きく感じられるのだ。
カーボン専用の地下工房でのC64の製作風景を取材
コルナゴ本社のあるミラノ近郊の街カンビアーゴ。C64が生産されている工房は、コルナゴ本社の道路を挟んで向いに居を構えるエルネスト・コルナゴ氏の自宅の地下にある工房で生産されている。わずか6人ほどが働いているこの工房こそCシリーズ専用の生産拠点なのだ。今回は製造の様子を見ることができた。ラグドフレームは接着により組み上げられる。この工程では1本のフレームに対し2人が担当し、カットされたカーボンチューブとラグの双方に接着剤を、箇所に合わせた様々な形状のコテで手塗りして行く職人の連携作業だ。2液を少量づつ混ぜ、捏ねることで生成される黒いグルー。原始的にも見えるその作業だが、この接着剤は航空宇宙産業で使用されているものと同等のカーボン専用の特殊グルーだという。
カーボンチューブはラグの奥でチューブ同士が接するが、その曲面がピタリと一致するように入念なつ正確に面取りされて切削される。ケーブルガイドなどを取り付ける箇所はコンピュータ制御のマシンにより加工される。工作機械と手作業によるリアルなハンドメイドだ。
組み上げ基礎となるジグ(治具)はフレームサイズごとに固定された専用のジグが用意される。つまり展開14サイズそれぞれに専用のジグが使用されるのだ。これには操作によって精度が狂うことや人為的なミスを防ぐ意味もあるという。
組み上げられた接着状態のフレームはオーブンに入れられ、低温で乾燥される。はみ出して硬化した接着剤を削り、仕上げることで素地フレームの状態としては完成となる。C64の生産量は週に100本ほどだという。
この後フレームはミラノより南に300kmのピサ近郊にあるコルナゴ専用塗装工房であるパマペイント社へと送られ、塗装が施される。エアブラシを用いた芸術的なペイントなど、同社の塗装技術は他の追随を許さないほどの高評価を得ている。つまりコルナゴC64はフレームビルドから塗装まで100%イタリア国内で完結するイタリアン・テーラーメイドなのだ。
提供:エヌビーエス、photo&text : 綾野 真(Makoto AYANO)