2017/01/10(火) - 18:29
人目を避けるように、ホテルの地下室で我々の到着を待っていた新型DOGMA、F10。ルックスこそF8と見紛うばかりだが、その中身と走りは圧倒的な「正統進化」を遂げていたー。12月初頭、南イタリアはシチリア島で行われたプレゼンテーションの模様と、インプレッション、そしてファウスト・ピナレロ代表とチームスカイの選手へのインタビューを交え、DOGMA F10を掘り下げていきたい。まずは車体の紹介編から。
そして(一般人の目から隠すのに絶好な)ホテルの地下搬入口に通されたそこに、これまで極秘裏に開発が進められていたピナレロの新たなフラッグシップモデル「DOGMA F10」が、ずらり我々の到着を待っていた。
先代であるDOGMA F8のデビューは2014年夏のこと。ジャガーとの共同開発の末に導き出されたエアロフォルムを纏ったそれは、すぐさまチームスカイへと供給。
2015年と2016年にはクリス・フルーム(イギリス)によるツール・ド・フランス制覇を筆頭に、ワウト・ポエルス(オランダ)のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)やダニー・ヴァンポッペル(オランダ)のスプリント勝利など、タイプを問わず数々の勝利を生み出してきた。それまでの歴代DOGMAと同じように。
「より強く、軽く、そしてエアロに」。ツール・ド・フランス連覇という至上命題を背負うF10のコンセプトは、レーシングバイクとして極めてシンプルだ。
「強度、軽量性、そして走りなどを含め、現在のピナレロにとってベストバランスの形状」というF8の正統進化版として、ピナレロらしい素直なハンドリングとウィップ感を保つというチームスカイからの要望を加味した。F8開発時点では導入されていなかった新技術を用い、数台のプロトタイプを経て製品版へと繋げている。
歴代DOGMAの特徴として挙げられるのが、軽量やエアロなど、一つのジャンルに特化していない点だ。F10もその血統を受け継いだオールラウンダーであり、空力面に関しては、フルームのツール制覇に貢献したBOLIDE TT、そしてブラドレー・ウィギンズのアワーレコード樹立や、ヴィヴィアーニの五輪金メダル獲得を支えたトラックバイク、BOLIDE HRからのフィードバックを落とし込み進化を果たした。
使用されるカーボンは、ピナレロが密接な関係を持つ東レのカーボンファイバー「TORAYCA(トレカ)」で、自転車業界ではピナレロのみに独占供給される最高級素材「T1100 1K」。F8から変更は無いが、ここで考えてみてほしい。素材と大きな形状変更無く、性能向上を果たすことがいかに難しいかを。
開発チームはF8の軽量山岳用モデル「Xlight」の経験を活かし、コンマ数ミリ単位でのカーボンレイアップの見直しや、熱処理の工夫などによってレジン使用量の削減に成功。結果的に530サイズのフレーム重量は820g(ペイント、スモールパーツを除く)とF8比較で6.3%軽量化し、加えて+7%の剛性強化と、相反する要素を共に引き上げてみせた。これはひとえにピナレロの技術力を裏付ける数字に他ならない。F8 Xlightと比較すれば若干重たいが、これはオールラウンダーとしてのバランスを追求した結果だ。
ピナレロのお家芸たる左右非対称デザインも進化し、F8に対してごく僅かながらシートチューブを駆動側に寄せることで徹底的なバランスの均等化を図った。
エアロに関しては前述の通りBOLIDEの設計を取り入れており、特にダウンチューブのボトル取り付け部分は見所の一つだろう。上部にくぼみを設けた「Concave(=つまり凹み)Down Tube」によってボトルとダウンチューブの距離を縮め、フラントフォーク部分からエアフローが一体化するよう工夫されている。
また、細かな部分ではあるものの、乱流を生みやすいフロントフォーク先端にはBOLIDE同様にフィン状の「フォークフラップ」を設け、さらに重量を削減するためBOLIDEよりも小型となっている部分も見逃せない。ピナレロの資料によれば、これら細やかなアップデートの積み重ねによって、F8に対して-12.6%もの空力低減を成し遂げているという。
0、18、35mmのセットバックが用意されるシートポストや内蔵バッテリーシステム、ヘッドベアリング規格などは全てF8と共通だが、Di2システムに関しては「eLink」なる、ダウンチューブ内にジャンクションAを埋め込む新機能が登場している。コックピット周りの空力改善とスマートなルックスにも一役買う部分であり、もちろん機械式コンポーネントにも対応するThink2も引き継がれた。
ボトムブラケット規格はDOGMAシリーズが頑なに守り続けるイタリアン式であり、SRAMのワンバイコンポーネントと、タイムトライアルでの使用に対応するべく、取り外し可能なフロントディレイラー台座も備える。25cタイヤに併せた設計が行われており、扱いやすさは数あるロードバイクの中でもトップクラスと言えるだろう。
そうして生まれたDOGMA F10。その高性能を包み込むのは、ピナレロの「aesthetics(美学)」である美しく、人を魅了するフレームデザインだ。CFD解析で導き出された形状に、職人によるハンドワークを加えることで、美しさも性能のひとつと考える「ピナレロデザイン」へと昇華させている。細部に至るまで緻密に繋げられた曲線には、美の国イタリアを代表するトップブランドたる威信を感じずにはいられない。
次章では、イタリアはシチリア島でのプレゼンテーションに付随して開催された、テストライドで感じたインプレッションをお伝えしたい。
1月15日から開幕するツアー・ダウンアンダーにて実戦デビューを飾る予定のDOGMA F10。日本国内ではフレームセットとデュラエースDi2完成車での販売となり、それぞれ価格は625,000円(税抜)と1,180,000円(税抜)の予定。完成車はホイールにフルクラムのRACING QUATTRO CARBON、ハンドル類はMOstの最高級グレードで固められる。入荷は1月中旬からとなる見込みだ。
シチリアでのプレゼンテーション 新たなるフラッグシップのデビュー
レオナルド・ダ・ヴィンチの名を冠したローマ国際空港から、シチリア島の都市カターニアまでは国内便でおよそ2時間。車で30分も走ると、かの有名なエトナ山の麓にあるホテル「グランドホテル・ヴィッラ・イトリア」に到着した。南イタリアらしい、飾らない雰囲気のこの街を舞台に、これからピナレロの新車発表会が開催されるのだ。そして(一般人の目から隠すのに絶好な)ホテルの地下搬入口に通されたそこに、これまで極秘裏に開発が進められていたピナレロの新たなフラッグシップモデル「DOGMA F10」が、ずらり我々の到着を待っていた。
先代であるDOGMA F8のデビューは2014年夏のこと。ジャガーとの共同開発の末に導き出されたエアロフォルムを纏ったそれは、すぐさまチームスカイへと供給。
2015年と2016年にはクリス・フルーム(イギリス)によるツール・ド・フランス制覇を筆頭に、ワウト・ポエルス(オランダ)のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)やダニー・ヴァンポッペル(オランダ)のスプリント勝利など、タイプを問わず数々の勝利を生み出してきた。それまでの歴代DOGMAと同じように。
強く、軽く、そしてエアロに。コンセプトは正統進化
そこから僅か2年半という短スパンで今回デビューを飾ったDOGMA F10。FlatBack形状のチューブを用い、ミドルグレードのGANシリーズにも波及した現在の「ピナレロスタイル」はF8から引き継がれており、空力面で進化したダウンチューブを除けば、一見しただけでは変化に気づきにくいかもしれない。しかし実際には全てが見直されており、開発陣の一人は「過去最高傑作」とインタビューに対して胸を張る。「より強く、軽く、そしてエアロに」。ツール・ド・フランス連覇という至上命題を背負うF10のコンセプトは、レーシングバイクとして極めてシンプルだ。
「強度、軽量性、そして走りなどを含め、現在のピナレロにとってベストバランスの形状」というF8の正統進化版として、ピナレロらしい素直なハンドリングとウィップ感を保つというチームスカイからの要望を加味した。F8開発時点では導入されていなかった新技術を用い、数台のプロトタイプを経て製品版へと繋げている。
歴代DOGMAの特徴として挙げられるのが、軽量やエアロなど、一つのジャンルに特化していない点だ。F10もその血統を受け継いだオールラウンダーであり、空力面に関しては、フルームのツール制覇に貢献したBOLIDE TT、そしてブラドレー・ウィギンズのアワーレコード樹立や、ヴィヴィアーニの五輪金メダル獲得を支えたトラックバイク、BOLIDE HRからのフィードバックを落とし込み進化を果たした。
使用されるカーボンは、ピナレロが密接な関係を持つ東レのカーボンファイバー「TORAYCA(トレカ)」で、自転車業界ではピナレロのみに独占供給される最高級素材「T1100 1K」。F8から変更は無いが、ここで考えてみてほしい。素材と大きな形状変更無く、性能向上を果たすことがいかに難しいかを。
開発チームはF8の軽量山岳用モデル「Xlight」の経験を活かし、コンマ数ミリ単位でのカーボンレイアップの見直しや、熱処理の工夫などによってレジン使用量の削減に成功。結果的に530サイズのフレーム重量は820g(ペイント、スモールパーツを除く)とF8比較で6.3%軽量化し、加えて+7%の剛性強化と、相反する要素を共に引き上げてみせた。これはひとえにピナレロの技術力を裏付ける数字に他ならない。F8 Xlightと比較すれば若干重たいが、これはオールラウンダーとしてのバランスを追求した結果だ。
ピナレロのお家芸たる左右非対称デザインも進化し、F8に対してごく僅かながらシートチューブを駆動側に寄せることで徹底的なバランスの均等化を図った。
エアロに関しては前述の通りBOLIDEの設計を取り入れており、特にダウンチューブのボトル取り付け部分は見所の一つだろう。上部にくぼみを設けた「Concave(=つまり凹み)Down Tube」によってボトルとダウンチューブの距離を縮め、フラントフォーク部分からエアフローが一体化するよう工夫されている。
また、細かな部分ではあるものの、乱流を生みやすいフロントフォーク先端にはBOLIDE同様にフィン状の「フォークフラップ」を設け、さらに重量を削減するためBOLIDEよりも小型となっている部分も見逃せない。ピナレロの資料によれば、これら細やかなアップデートの積み重ねによって、F8に対して-12.6%もの空力低減を成し遂げているという。
0、18、35mmのセットバックが用意されるシートポストや内蔵バッテリーシステム、ヘッドベアリング規格などは全てF8と共通だが、Di2システムに関しては「eLink」なる、ダウンチューブ内にジャンクションAを埋め込む新機能が登場している。コックピット周りの空力改善とスマートなルックスにも一役買う部分であり、もちろん機械式コンポーネントにも対応するThink2も引き継がれた。
ボトムブラケット規格はDOGMAシリーズが頑なに守り続けるイタリアン式であり、SRAMのワンバイコンポーネントと、タイムトライアルでの使用に対応するべく、取り外し可能なフロントディレイラー台座も備える。25cタイヤに併せた設計が行われており、扱いやすさは数あるロードバイクの中でもトップクラスと言えるだろう。
そうして生まれたDOGMA F10。その高性能を包み込むのは、ピナレロの「aesthetics(美学)」である美しく、人を魅了するフレームデザインだ。CFD解析で導き出された形状に、職人によるハンドワークを加えることで、美しさも性能のひとつと考える「ピナレロデザイン」へと昇華させている。細部に至るまで緻密に繋げられた曲線には、美の国イタリアを代表するトップブランドたる威信を感じずにはいられない。
次章では、イタリアはシチリア島でのプレゼンテーションに付随して開催された、テストライドで感じたインプレッションをお伝えしたい。
1月15日から開幕するツアー・ダウンアンダーにて実戦デビューを飾る予定のDOGMA F10。日本国内ではフレームセットとデュラエースDi2完成車での販売となり、それぞれ価格は625,000円(税抜)と1,180,000円(税抜)の予定。完成車はホイールにフルクラムのRACING QUATTRO CARBON、ハンドル類はMOstの最高級グレードで固められる。入荷は1月中旬からとなる見込みだ。
ピナレロ DOGMA F10 スペック
フレームサイズ | 42、44、46.5、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62 |
カラー | 167 / BLACK LAVA |
グループセット | シマノ デュラエースDi2 2017 VERSION |
ホィール | フルクラム RACING QUATTRO CARBON |
サドル | フィジーク ANTARE R3 CARBON RAIL |
ステム | MOst TIGER ULTRA 3K |
ハンドルバー | MOst JAGUAR XC 3K |
完成車価格 | 1,180,000円(税抜) |
フレームセット価格 | 625,000円(税抜) |
提供:ピナレロ・ジャパン text:シクロワイアード編集部