2015/01/06(火) - 13:09
ブリヂストンアンカーが満を持して発表したタイムトライアルバイク「RT9」。4月の発売に先立ち、伊豆ベロドロームでプレス向き試乗会とユニークな「公開実践検証」走行が行われた。TTバイクの有効性を実証する興味深い実験だ。
来春、アンカーから遂にデビューするフルカーボン製タイムトライアルバイク「RT9」は、空気抵抗を最大限削減するフォルムやDi2専用設計、深い前傾姿勢を可能とするジオメトリーなど、選手の要求に応えるべく誕生したハイパフォーマンスモデルだ。
アンカーにはそれまでロードTTバイクがなかったが、RT9の登場でロード&トラックのレーシングモデルのフルラインナップが完成したことになる。
RT9の開発にあたっては、サポートする「ブリヂストンアンカー」に所属する選手からのフィードバックのもと、高速巡航を維持するタイムトライアル種目に特化させるべく進められた。走行時に最大の妨げとなる空気抵抗の軽減とフォーク、ダウンチューブ、チェーンステーの剛性を高め、限りなく低重心であることを目指したTTバイクだ。詳しい製品紹介はRT9デビュー取材記事を参照して欲しい。
メディア向けテストライドに先立って、伊豆ベロドロームを舞台に興味深い実走実験が行われた。ノーマルのロードバイクにTTハンドル(DHバー)を取り付けたもの、アンカーチームが過去使っていたプロトタイプのタイムトライアルバイク(西薗良太が2012年全日本選手権個人TTを制したものと同じモデル)、そしてRT9の3台のバイクが用意された。
この3台を同じ条件で乗り比べることで、RT9がタイムトライアルにおいて速いということを実証しようという公開実験だ。実験に先立ち行われたプレゼンテーション。RT9が狙った性能やコンセプトがブリヂストンサイクルの出井光一さんの説明により改めて紹介された。
「アンカーはレーシングバイクである」という基本理念に沿ってスタートした開発。RT9はそんなアンカーの方針を忠実に継承するレーシングモデルだ。
アンカーがスポーツバイク開発にあたって大切にしている考えは4つ。ダウンチューブからチェーンステイにかけてのボトムラインで剛性をコントロールすること。そして、ヘッドチューブからシートステイにかけてのアッパーラインでバイクの振りをコントロールすること。左右非対称のチェーンステイデザインによりドライブトレイン側を支え、高効率の駆動力を確保すること。また、フレームワークをはじめバッテリー等の重量物をし低位置にレイアウトすることでフレームを低重心とすること。これらはTTバイクに限らずアンカーのバイク開発の基本的な考え方だ。もちろんRT9にも生かされていると言う。
加えてRT9では空気抵抗の軽減に関しては前面投影面積を抑えた翼断面を持つチューブによりフレームを形成。整流効果を目指したオリジナルステム(アルミ製)により高いエアロダイナミクスを実現している。低重心化のためにDi2バッテリーはBB下部から挿入するユニークな方式を採用している。
そしてRT9の開発にあたっては、デザインやスタイリングにもこだわったと言う。フレームの構造や乗り味、剛性を決めるデザインエンジニアと、スタイリングを担当するグラフィックエンジニアが開発初段階から手を取り合い、性能とスタイリングの両面を高いレベルで満たすべくプロジェクトを進めた。デザイン上はボトムラインを硬く・力強く見せ、左右非対称デザインのチェーンステイを強調し、アッパーラインをしなやかに鋭く見せるグラフィックエレメントを採用。フレーム性能をペイントやデザインでも目に見えるように表現したのだ。これはライダーにも心理的に良い効果をもたらすことだろう。
ベロドロームは実際に選手が走行ができる屋内施設であり、かつ風などの外乱が少なく安定した環境であることから、バイクの性能テストにはうってつけの環境であるとの考えから、この公開検証が企画された。
実験の条件は、ノーマルロード、プロトタイプ、RT9の3台のバイクでそれぞれ45km/hの一定速度での同条件で距離3kmを走行し、その結果、平均出力が少ないモデルが効率の良い走行ができていると言うことができる。これはすなわち空気抵抗の差ということができる。「TTバイクはエアロダイナミクスに優れ、速く走れる」と言われているが、本当にそうなのかを検証しようというのがこの試みだ。
テストライダーには3人のアンカーライダーが登場した。井上和郎と椿大志、そしてこのプレゼン中にサプライズとして現役復帰が発表された西薗良太だ。2014年の全日本選手権TTで井上は7位、椿は10位、西薗は2012年に優勝している。なおRT9の実践検証走行は椿が担当する。
実戦検証走行の合間には、井上と西薗によるRT9に乗ってのゼロスタートからの3kmTTアタックが行われた。ちなみに井上のタイムは3分46秒76で平均時速47.6km/h。西薗は3分41秒79で平均時速48.7km/hをマーク。西薗は1年のブランクをまったく感じさせない好走で周囲を驚かせた。
ムービーでみる伊豆ベロドロームでの公開検証
パワーメーターを使用して採取された3つのバイクの実践検証のデータはすぐさま解析され、数字の結果となって提示された。ロードバイクにDHバーを取り付けたバイクによる平均出力数は344ワット。プロトタイプのTTバイクは334ワット。RT9は316ワット。つまりRT9の効率がもっとも良かったことが実証された。
ロードバイク(RMZ)+DHバーは深い前傾姿勢がとれず、ややフォームが起きているためそもそもライダーの空気抵抗が多いと推測される。プロトタイプのTTバイクとRT9ではフォームが同じであるため、バイクそのものの空気抵抗が差となって現れたということになる。つまりRT9が他の2台のバイクに比べてもっともエアロダイナミクスに優れているという結果が出たのだ。これは、TTバイクの有効性に疑問を持つ人には決定的なインパクトを持つものだろう。
なお、開発陣の話ではアンカー内比較だけでなく、他社のTTバイクとの比較実験も行った結果、RT9は非常に良い結果を残したという。「それらの結果と今日の実験をあわせ、RT9は自信を持って世に送り出せます」と話す。
ブリヂストンサイクルのマーケティング担当者の予測では、最近のトライアスロン人口の増加により、日本ではマーケット的にはロードサイクリストよりもトライアスリートの購買者のほうが多いであろうことが予想されるという。しかしRT9はあくまでロードTTバイクとして開発したもので、日本のアマチュアトライアスリートに多い、ハンドルが高く設定されたリラックスポジションを狙って設計をしたわけではないという。そこが「アンカーはレーシングバイクである」ということ。タイムトライアルを速く走れるように攻撃的な低いエアロポジションが可能となっているのだ。
開発の中西さんによれば、4月の発売時までにそれらのポジションにも対応できるステムをオプションで用意することも考えているという。3ピースのアルミ製ステムはエアロダイナミクスに優れるとともにハンドル固定力が高く、長さや角度が選択できればTTにもトライアスロン(ロングディスタンスTT)的な使用にも適応度が高まることになる。
「リサーチの結果、(アマチュア)トライアスリートの方は理想のTTポジションよりも3cmハンドルが高めというデータも収集しました。ですのでそれに対応することも考えています」と中西さん。さらにアンカーラボでの研究開発を進めると言う。
そしてRT9の嬉しい点は、サイズ展開が小柄な日本人に嬉しいSSサイズから用意されることだ。これにより適応身長は156cmから189cmとなり、とくに小柄な女性からも充分乗りこなすことができる。現況、海外ブランドのTTバイクは小サイズが用意されないことが多く、170cm以下のサイクリストには選択肢が極端に少なかった状況だ。RT9の登場は多くの日本人に福音となるだろう。
「今日は西薗、井上がSサイズ、椿がMサイズに乗りました。アンカーチームには身長187cmあるダミアン・モニエがいるので、彼もポジションニングマシン上で開発サンプルとして協力を仰ぎました。RT9は小柄〜大柄の人でも理想のポジションで乗れるように研究開発を進めています」と開発担当者は語る。RT9は春の発売に向けて、現在すでに受注状態にある。レースシーンでのRT9の活躍を目にするのはもうすぐだ。
photo&text:Makoto.AYANO
※ベロドロームでの走行・撮影は特別な許可を得たうえで行っています。
来春、アンカーから遂にデビューするフルカーボン製タイムトライアルバイク「RT9」は、空気抵抗を最大限削減するフォルムやDi2専用設計、深い前傾姿勢を可能とするジオメトリーなど、選手の要求に応えるべく誕生したハイパフォーマンスモデルだ。
アンカーにはそれまでロードTTバイクがなかったが、RT9の登場でロード&トラックのレーシングモデルのフルラインナップが完成したことになる。
RT9の開発にあたっては、サポートする「ブリヂストンアンカー」に所属する選手からのフィードバックのもと、高速巡航を維持するタイムトライアル種目に特化させるべく進められた。走行時に最大の妨げとなる空気抵抗の軽減とフォーク、ダウンチューブ、チェーンステーの剛性を高め、限りなく低重心であることを目指したTTバイクだ。詳しい製品紹介はRT9デビュー取材記事を参照して欲しい。
メディア向けテストライドに先立って、伊豆ベロドロームを舞台に興味深い実走実験が行われた。ノーマルのロードバイクにTTハンドル(DHバー)を取り付けたもの、アンカーチームが過去使っていたプロトタイプのタイムトライアルバイク(西薗良太が2012年全日本選手権個人TTを制したものと同じモデル)、そしてRT9の3台のバイクが用意された。
この3台を同じ条件で乗り比べることで、RT9がタイムトライアルにおいて速いということを実証しようという公開実験だ。実験に先立ち行われたプレゼンテーション。RT9が狙った性能やコンセプトがブリヂストンサイクルの出井光一さんの説明により改めて紹介された。
「アンカーはレーシングバイクである」という基本理念に沿ってスタートした開発。RT9はそんなアンカーの方針を忠実に継承するレーシングモデルだ。
アンカーがスポーツバイク開発にあたって大切にしている考えは4つ。ダウンチューブからチェーンステイにかけてのボトムラインで剛性をコントロールすること。そして、ヘッドチューブからシートステイにかけてのアッパーラインでバイクの振りをコントロールすること。左右非対称のチェーンステイデザインによりドライブトレイン側を支え、高効率の駆動力を確保すること。また、フレームワークをはじめバッテリー等の重量物をし低位置にレイアウトすることでフレームを低重心とすること。これらはTTバイクに限らずアンカーのバイク開発の基本的な考え方だ。もちろんRT9にも生かされていると言う。
加えてRT9では空気抵抗の軽減に関しては前面投影面積を抑えた翼断面を持つチューブによりフレームを形成。整流効果を目指したオリジナルステム(アルミ製)により高いエアロダイナミクスを実現している。低重心化のためにDi2バッテリーはBB下部から挿入するユニークな方式を採用している。
そしてRT9の開発にあたっては、デザインやスタイリングにもこだわったと言う。フレームの構造や乗り味、剛性を決めるデザインエンジニアと、スタイリングを担当するグラフィックエンジニアが開発初段階から手を取り合い、性能とスタイリングの両面を高いレベルで満たすべくプロジェクトを進めた。デザイン上はボトムラインを硬く・力強く見せ、左右非対称デザインのチェーンステイを強調し、アッパーラインをしなやかに鋭く見せるグラフィックエレメントを採用。フレーム性能をペイントやデザインでも目に見えるように表現したのだ。これはライダーにも心理的に良い効果をもたらすことだろう。
TTバイクは本当に速いのか?に答えを出す「公開実践検証」
アンカーのレーシングマシン開発では、ライダーとなる人が乗り、ペダリングを行うことによって進む動的な状況下における性能を重視している。風洞実験などの自転車を動かせない台上のテストではなく、実際の走行時のテストを重視するのだ。ベロドロームは実際に選手が走行ができる屋内施設であり、かつ風などの外乱が少なく安定した環境であることから、バイクの性能テストにはうってつけの環境であるとの考えから、この公開検証が企画された。
実験の条件は、ノーマルロード、プロトタイプ、RT9の3台のバイクでそれぞれ45km/hの一定速度での同条件で距離3kmを走行し、その結果、平均出力が少ないモデルが効率の良い走行ができていると言うことができる。これはすなわち空気抵抗の差ということができる。「TTバイクはエアロダイナミクスに優れ、速く走れる」と言われているが、本当にそうなのかを検証しようというのがこの試みだ。
テストライダーには3人のアンカーライダーが登場した。井上和郎と椿大志、そしてこのプレゼン中にサプライズとして現役復帰が発表された西薗良太だ。2014年の全日本選手権TTで井上は7位、椿は10位、西薗は2012年に優勝している。なおRT9の実践検証走行は椿が担当する。
実戦検証走行の合間には、井上と西薗によるRT9に乗ってのゼロスタートからの3kmTTアタックが行われた。ちなみに井上のタイムは3分46秒76で平均時速47.6km/h。西薗は3分41秒79で平均時速48.7km/hをマーク。西薗は1年のブランクをまったく感じさせない好走で周囲を驚かせた。
TTバイクはもっとも速く・効率良く走れることが実証された
椿による走行測定は、それぞれのバイクでフライング(助走つき)での45km/hスピード固定でトラック12周・3kmを走る。この日の椿の走行は精度が高く、きっちりと同じ速度を維持。集中力の高さと調子の良さを伺わせた。設計の中西安弘さんによれば、この精度が高いほど正確なデータが採取できる。タイムが2秒違えば出力に少なからず影響してしまうのだという。ムービーでみる伊豆ベロドロームでの公開検証
パワーメーターを使用して採取された3つのバイクの実践検証のデータはすぐさま解析され、数字の結果となって提示された。ロードバイクにDHバーを取り付けたバイクによる平均出力数は344ワット。プロトタイプのTTバイクは334ワット。RT9は316ワット。つまりRT9の効率がもっとも良かったことが実証された。
ロードバイク(RMZ)+DHバーは深い前傾姿勢がとれず、ややフォームが起きているためそもそもライダーの空気抵抗が多いと推測される。プロトタイプのTTバイクとRT9ではフォームが同じであるため、バイクそのものの空気抵抗が差となって現れたということになる。つまりRT9が他の2台のバイクに比べてもっともエアロダイナミクスに優れているという結果が出たのだ。これは、TTバイクの有効性に疑問を持つ人には決定的なインパクトを持つものだろう。
なお、開発陣の話ではアンカー内比較だけでなく、他社のTTバイクとの比較実験も行った結果、RT9は非常に良い結果を残したという。「それらの結果と今日の実験をあわせ、RT9は自信を持って世に送り出せます」と話す。
テストライダーたちはRT9をこう評価する
RT9に乗った感想について、3人のプロライダーはそれぞれ次のように話してくれた。西薗良太
「以前にプロトのTTバイクに乗っていた時はちょっと特殊なバイクという感じが強かったのですが、RT9はいたって普通に乗れる感じがありますね。プロトに比べて直進安定性が良くなり、ヘッド周りのセッティングもTTバイクとしてよく出来ています。可変ステムなどを使うこと無く自然にポジションが出せたので、バランスよく設計されていると思います。井上和郎
あまり多く他のTTバイクに乗った経験はないのですが、RT9は扱いやすいバイクだと感じています。ハンドルの選び方も良かったのかもしれませんが、「直線番長」的な走りではなくて、どんなコースでもこなせる気がします。むしろ群馬CSCなどの起伏に富んだコースも速いと思います。扱いやすく、ダンシングの振りも軽いですね。開発にあたって選手としてリクエストを出したのは空力性能を高めることと、剛性を確保すること。両方に満足しています。先のテストライドでBBの剛性を少し上げてもらうように提案したので、製品版ではそれが反映される予定です。椿大志
ぱっと乗った感じでも、すごく乗りやすいのが印象的ですね。ダンシングが軽いし、ハンドリングも素直でいい。シートピラーも薄いながらもたわまず、力のロスを感じない。すごくしっかりつくりこまれています。僕からはメンテナンス性も高めてほしいというリクエストも出していました。僕はポジションを頻繁にいじるタイプなのですが、ハンドル周りやシート周りの固定方法など、確実に固定できて、かつ変化させやすい。ワイヤーの取り回しなどもスマートで無駄がなく、それがつまりトラブルの少ない整備性のいいバイクになっていると思います。最高のバイクに乗ったら、あとは結果を出すだけですね(笑)。小柄な日本人に対応するSSサイズから用意 トライアスロンへの対応も検討
ブリヂストンサイクルのマーケティング担当者の予測では、最近のトライアスロン人口の増加により、日本ではマーケット的にはロードサイクリストよりもトライアスリートの購買者のほうが多いであろうことが予想されるという。しかしRT9はあくまでロードTTバイクとして開発したもので、日本のアマチュアトライアスリートに多い、ハンドルが高く設定されたリラックスポジションを狙って設計をしたわけではないという。そこが「アンカーはレーシングバイクである」ということ。タイムトライアルを速く走れるように攻撃的な低いエアロポジションが可能となっているのだ。
開発の中西さんによれば、4月の発売時までにそれらのポジションにも対応できるステムをオプションで用意することも考えているという。3ピースのアルミ製ステムはエアロダイナミクスに優れるとともにハンドル固定力が高く、長さや角度が選択できればTTにもトライアスロン(ロングディスタンスTT)的な使用にも適応度が高まることになる。
「リサーチの結果、(アマチュア)トライアスリートの方は理想のTTポジションよりも3cmハンドルが高めというデータも収集しました。ですのでそれに対応することも考えています」と中西さん。さらにアンカーラボでの研究開発を進めると言う。
そしてRT9の嬉しい点は、サイズ展開が小柄な日本人に嬉しいSSサイズから用意されることだ。これにより適応身長は156cmから189cmとなり、とくに小柄な女性からも充分乗りこなすことができる。現況、海外ブランドのTTバイクは小サイズが用意されないことが多く、170cm以下のサイクリストには選択肢が極端に少なかった状況だ。RT9の登場は多くの日本人に福音となるだろう。
「今日は西薗、井上がSサイズ、椿がMサイズに乗りました。アンカーチームには身長187cmあるダミアン・モニエがいるので、彼もポジションニングマシン上で開発サンプルとして協力を仰ぎました。RT9は小柄〜大柄の人でも理想のポジションで乗れるように研究開発を進めています」と開発担当者は語る。RT9は春の発売に向けて、現在すでに受注状態にある。レースシーンでのRT9の活躍を目にするのはもうすぐだ。
photo&text:Makoto.AYANO
※ベロドロームでの走行・撮影は特別な許可を得たうえで行っています。