2013/02/08(金) - 08:44
私たち編集部の取材初めは例年通り”美ら島オキナワ・センチュリーラン”で幕を開ける。本来なら新年早々からのリゾートライドに、私たちの心は躍動を隠せない筈なのだが、今回は重苦しい空気が漂っている。もちろん、あの男の存在が原因なのは言うまでもない。
過度な円高やデフレが是正される気配を見せつつ穏やかに開けた2013年。1月も中旬になり、寒さが一段と堪える頃、暖かな沖縄での待ち遠しいイベントがやってくる。しかし....。
「今年の美ら島オキナワの取材には俺も同行するからヨロシクな!」沖縄出発の2日前、用も無く編集部に遊びにきたメタボ会長がさらりと発した言葉に、さすがの編集長も動揺の色を隠せない。
「急に言われましても、会長のエアチケットやホテルの手配は一切してませんし、今からだと手配が間に合わない可能性が高いと思いますが・・・。」
うろたえる編集長に対し、いつもの不敵な笑みを浮かべたメタボ会長が応える。
「大丈夫だよ。君たちが乗る飛行機の20分後の便が取れたし、君たちと同じホテルも押さえてある!レンタカーだけ相乗りさせてくれれば問題なしだよ。」
いやいや、手配に問題はなくても、アナタが同行すること自体が大問題なんですけど! 困惑する編集長に代わって、こんな言葉を発したくなる衝動に駆られる私である。それにしても自身が遊ぶためなら手段を選ばないオヤジの完璧な段取りは、お見事と言わざるを得ないのも事実だ。
失意とともに那覇空港に降り立った私たちを、沖縄の温暖な気候が迎えてくれる。後着のメタボ会長と合流し、彼の思惑通りにレンタカーに相乗りし、同じホテルにチェックインを済ませる。まるで用意周到なオヤジに操られているかのような錯覚を覚えるような動きに、悲しさすら覚える。
ただ、私たちも業務で来ている以上、いつまでも現況を悲観してばかりもいられない。気を取り直して荷解きを進め、撮影機材のチェックをしていると、おもむろに部屋の内線が鳴った。
「今回のイベント用に新型バイク持って来たからさ! 荷解きが落ち着いたら見に来いよ! 712号室だから間違えるなよ!」受話器から漏れるその声は、興奮を抑えきれない子供の声そのものである。
風の便りで、昨年末にメタボ会長がニューバイクをオーダーした事は知ってはいたのだが・・・。
しばしの後、712号室を訪ねた私たちの前に、得意満面な表情を浮かべたメタボ会長が立ちはだかる。
「じゃじゃ~ん!これが俺の新兵器イエロードマーネ号だ! カッコイイだろ~? 」
ドヤ顔丸出しでオヤジが取り出したのは、トレックが誇る”ドマーネ”だ。イエロー単色に塗りあげられたその車体は素晴らしい輝きを放っている。
「あらら、マドンに続いてまたトレックにされたんですか? しかし、こりゃまたずいぶんと激しい色ですね。」苦笑いを浮かべながら問いかける編集長に対し、満面の笑みでオヤジが応える。
「乗り心地最優先で選んでたら、結局コイツになっちゃったんだよね。流石に手痛い出費だったけど、この乗り心地の良さに値段は付けられないぜ!」嬉しそうに応えるメタボ会長を見ているとコチラまで幸せな気分になってくるから不思議だ。よくよく考えると、単にオヤジの自慢話を聞かされながら美しいオーラを放つ新車を見ているだけなのだが、やはり私たちの身体に流れる自転車バカの血は隠せないようだ。
こうして迎えた1月20日、”美ら島オキナワ・センチュリーラン”当日の朝。スタート地点の”恩納村コミュニティーセンター”は参加者の皆さんで溢れている。
過去2回にわたり天候に恵まれなかった同大会であるが、今日の天気予報は”晴れ時々曇り、最高気温20℃”、絶好のサイクリング日和に参加者さんや大会関係者の表情も明るい。毎度のことながらメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない力量を秘めているようだ。そんな神秘的な力に感心する私たちをよそに、当のメタボ会長はといえば、あちらこちらで鼻息も荒く女性ライダーさんとの記念撮影に熱中している。
「おいおい、このイベントは女性ライダー比率がかなり高いな。美ら島オキナワって素晴らしい大会だな。」締りのない顔で息巻くこんなエロオヤジが我社のトップである事が堪らなく恥ずかしい。ひと仕切り記念撮影を終えた所で、いよいよ”美ら島オキナワ・センチュリーラン、古宇利島・桜コース”のスタートだ。南国の青空の下、笑顔の皆さんが次々とコースに踊り出て行く。
今回のルートは距離100kmと短く、コースの8割がシーサイドを走る平坦基調で、沖縄リゾートライドを最も感じられる設定になっているため、女性ライダーに大人気のコースだ。
沖縄ならではの美しいエメラルドグリーンの海を楽しみながら笑顔の集団が進む。メタボ会長も早々から大満足のご様子だ。大枚叩いて投入した新型イエロードマーネも眩しいくらいに輝いている。
私のような小心者にとってこのイエロー単色のチョイスは、内心憧れが有るものの周囲の冷たい視線を考えるとなかなか踏み切る勇気は湧いて来ないのだが、それを何の臆面も無くこの色をチョイスできるメタボ会長が本当に羨ましくも思える。
「会長のイエロードマーネ号は調子良さそうですね。」南国の解放感に心緩んだまま気軽に声を掛ける編集長に、待ってましたとばかりにオヤジが応える。
「もちろん最高だよ! シートチューブのリンクのお陰でお尻は超快適! おまけにフロント廻りが最高にイイんだよ。落ち着きがあって突き上げが全く来ないんだよな。ドマーネの本当の実力はフロントフォークに凝縮されてるって個人的には感じてるくらいだよ。」
「ただし、唯一の欠点は値段が半端無いってことかな?ぶっちゃけ軽自動車が新車で買えちゃう勢いだもんな。高給取りの俺でさえ決断には結構な勇気が必要な値段だったから、少なくとも君たちが手にする可能性はほぼゼロに等しいだろうな! ガハガハ」と、高笑いしながら悪態をつくこのオヤジを、目前の海に叩き込みたい衝動に駆られたのは私だけではない筈である。
この一言にすっかりリゾート気分をブチ壊されながらも車列を進める私たち。ただ、南国の暖かい日射しとエメラルドグリーンの海に、たちまち心癒されたのは言うまでも無い。リゾート地のみが持つ懐深い魅力は計り知れない大きさがある。こんな素敵な場所をサイクリングできるなんて至福の極みであろう。ましてやこれが業務の一環なのだから私は本当に恵まれた環境に身を置いているのかも知れない。
青い海と空のおかげで、何事も無かったかのように穏やかな沖縄を味わいながら進んでいると、先程、偶然に遭遇した”シマノレーシング”の車列が迫ってくる。これを見つけたオヤジが編集長に吠える。
「おっ?イイのが来たぞ!これに乗っかっちゃえば楽チンだぞ!」そう言うや否や、たちまち無賃乗車を決め込む。「会長!怒られますよ!それに私たちは取材がありますから・・・」編集長の呼びかけなど一切気に止める事もなく車列にぶら下がり、あっという間に視界から遠ざかって行くメタボ会長。
「マジかよ!これは本当にシャレにならないぞ。後でシマノレーシングの皆さんに謝りに行かなきゃ・・・」
こんな編集長の虚しい言葉と共に、遠ざかっていくオヤジの背中を茫然と見送るしかできない私たちだった。
次回も”美ら島オキナワ・センチュリーラン”です。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
過度な円高やデフレが是正される気配を見せつつ穏やかに開けた2013年。1月も中旬になり、寒さが一段と堪える頃、暖かな沖縄での待ち遠しいイベントがやってくる。しかし....。
「今年の美ら島オキナワの取材には俺も同行するからヨロシクな!」沖縄出発の2日前、用も無く編集部に遊びにきたメタボ会長がさらりと発した言葉に、さすがの編集長も動揺の色を隠せない。
「急に言われましても、会長のエアチケットやホテルの手配は一切してませんし、今からだと手配が間に合わない可能性が高いと思いますが・・・。」
うろたえる編集長に対し、いつもの不敵な笑みを浮かべたメタボ会長が応える。
「大丈夫だよ。君たちが乗る飛行機の20分後の便が取れたし、君たちと同じホテルも押さえてある!レンタカーだけ相乗りさせてくれれば問題なしだよ。」
いやいや、手配に問題はなくても、アナタが同行すること自体が大問題なんですけど! 困惑する編集長に代わって、こんな言葉を発したくなる衝動に駆られる私である。それにしても自身が遊ぶためなら手段を選ばないオヤジの完璧な段取りは、お見事と言わざるを得ないのも事実だ。
失意とともに那覇空港に降り立った私たちを、沖縄の温暖な気候が迎えてくれる。後着のメタボ会長と合流し、彼の思惑通りにレンタカーに相乗りし、同じホテルにチェックインを済ませる。まるで用意周到なオヤジに操られているかのような錯覚を覚えるような動きに、悲しさすら覚える。
ただ、私たちも業務で来ている以上、いつまでも現況を悲観してばかりもいられない。気を取り直して荷解きを進め、撮影機材のチェックをしていると、おもむろに部屋の内線が鳴った。
「今回のイベント用に新型バイク持って来たからさ! 荷解きが落ち着いたら見に来いよ! 712号室だから間違えるなよ!」受話器から漏れるその声は、興奮を抑えきれない子供の声そのものである。
風の便りで、昨年末にメタボ会長がニューバイクをオーダーした事は知ってはいたのだが・・・。
しばしの後、712号室を訪ねた私たちの前に、得意満面な表情を浮かべたメタボ会長が立ちはだかる。
「じゃじゃ~ん!これが俺の新兵器イエロードマーネ号だ! カッコイイだろ~? 」
ドヤ顔丸出しでオヤジが取り出したのは、トレックが誇る”ドマーネ”だ。イエロー単色に塗りあげられたその車体は素晴らしい輝きを放っている。
「あらら、マドンに続いてまたトレックにされたんですか? しかし、こりゃまたずいぶんと激しい色ですね。」苦笑いを浮かべながら問いかける編集長に対し、満面の笑みでオヤジが応える。
「乗り心地最優先で選んでたら、結局コイツになっちゃったんだよね。流石に手痛い出費だったけど、この乗り心地の良さに値段は付けられないぜ!」嬉しそうに応えるメタボ会長を見ているとコチラまで幸せな気分になってくるから不思議だ。よくよく考えると、単にオヤジの自慢話を聞かされながら美しいオーラを放つ新車を見ているだけなのだが、やはり私たちの身体に流れる自転車バカの血は隠せないようだ。
こうして迎えた1月20日、”美ら島オキナワ・センチュリーラン”当日の朝。スタート地点の”恩納村コミュニティーセンター”は参加者の皆さんで溢れている。
過去2回にわたり天候に恵まれなかった同大会であるが、今日の天気予報は”晴れ時々曇り、最高気温20℃”、絶好のサイクリング日和に参加者さんや大会関係者の表情も明るい。毎度のことながらメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない力量を秘めているようだ。そんな神秘的な力に感心する私たちをよそに、当のメタボ会長はといえば、あちらこちらで鼻息も荒く女性ライダーさんとの記念撮影に熱中している。
「おいおい、このイベントは女性ライダー比率がかなり高いな。美ら島オキナワって素晴らしい大会だな。」締りのない顔で息巻くこんなエロオヤジが我社のトップである事が堪らなく恥ずかしい。ひと仕切り記念撮影を終えた所で、いよいよ”美ら島オキナワ・センチュリーラン、古宇利島・桜コース”のスタートだ。南国の青空の下、笑顔の皆さんが次々とコースに踊り出て行く。
今回のルートは距離100kmと短く、コースの8割がシーサイドを走る平坦基調で、沖縄リゾートライドを最も感じられる設定になっているため、女性ライダーに大人気のコースだ。
沖縄ならではの美しいエメラルドグリーンの海を楽しみながら笑顔の集団が進む。メタボ会長も早々から大満足のご様子だ。大枚叩いて投入した新型イエロードマーネも眩しいくらいに輝いている。
私のような小心者にとってこのイエロー単色のチョイスは、内心憧れが有るものの周囲の冷たい視線を考えるとなかなか踏み切る勇気は湧いて来ないのだが、それを何の臆面も無くこの色をチョイスできるメタボ会長が本当に羨ましくも思える。
「会長のイエロードマーネ号は調子良さそうですね。」南国の解放感に心緩んだまま気軽に声を掛ける編集長に、待ってましたとばかりにオヤジが応える。
「もちろん最高だよ! シートチューブのリンクのお陰でお尻は超快適! おまけにフロント廻りが最高にイイんだよ。落ち着きがあって突き上げが全く来ないんだよな。ドマーネの本当の実力はフロントフォークに凝縮されてるって個人的には感じてるくらいだよ。」
「ただし、唯一の欠点は値段が半端無いってことかな?ぶっちゃけ軽自動車が新車で買えちゃう勢いだもんな。高給取りの俺でさえ決断には結構な勇気が必要な値段だったから、少なくとも君たちが手にする可能性はほぼゼロに等しいだろうな! ガハガハ」と、高笑いしながら悪態をつくこのオヤジを、目前の海に叩き込みたい衝動に駆られたのは私だけではない筈である。
この一言にすっかりリゾート気分をブチ壊されながらも車列を進める私たち。ただ、南国の暖かい日射しとエメラルドグリーンの海に、たちまち心癒されたのは言うまでも無い。リゾート地のみが持つ懐深い魅力は計り知れない大きさがある。こんな素敵な場所をサイクリングできるなんて至福の極みであろう。ましてやこれが業務の一環なのだから私は本当に恵まれた環境に身を置いているのかも知れない。
青い海と空のおかげで、何事も無かったかのように穏やかな沖縄を味わいながら進んでいると、先程、偶然に遭遇した”シマノレーシング”の車列が迫ってくる。これを見つけたオヤジが編集長に吠える。
「おっ?イイのが来たぞ!これに乗っかっちゃえば楽チンだぞ!」そう言うや否や、たちまち無賃乗車を決め込む。「会長!怒られますよ!それに私たちは取材がありますから・・・」編集長の呼びかけなど一切気に止める事もなく車列にぶら下がり、あっという間に視界から遠ざかって行くメタボ会長。
「マジかよ!これは本当にシャレにならないぞ。後でシマノレーシングの皆さんに謝りに行かなきゃ・・・」
こんな編集長の虚しい言葉と共に、遠ざかっていくオヤジの背中を茫然と見送るしかできない私たちだった。
次回も”美ら島オキナワ・センチュリーラン”です。
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メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 3年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 3年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。