2012/06/22(金) - 08:06
今回お邪魔した大会は"アルプスあづみのセンチュリーライド2012"。プロデューサーの鈴木雷太氏がホノルルセンチュリーライドをイメージして設定したコースは、北アルプスの景観を存分に味わいながらユッタリ走れる魅力にあふれた素敵なイベントだ。
この"アルプあづみのセンチュリーライド"は長野県安曇野〜白馬村を舞台に「最高のコースを最高の季節に走る日本で一番すてきなロングライドにしよう」を合言葉に開催されるだけあって、のどかな風景と壮大な山岳景観は折り紙つきの大会だ。
大会当日の朝。雲一つない晴天に恵まれた安曇野の長閑な景色に向けて次々とスタートして行く参加者の皆さん。私たちは取材のために160kmコース参加者の最後尾からのスタート予定だ。
取材に奔走する私たち編集部に置き去りにされたメタボ会長は、参加者の皆さんと談笑したり、MAVICのスタッフさんにチョッカイを出したりと、彼なりにうまく時間を潰してくれているようだ。
のんびりと順番待ちをしている私たちの所へ、スタート写真の撮影を終えた編集長が戻ってきた。その編集長がメタボ会長に対して、おもむろに口を開く。
「ところで会長って、いままでに160kmを走破した事ってありましたっけ?」何をいまさら?という質問に、オヤジが満面の笑顔でサラリと応える。
「ん?もちろん無いよ!1日の最高走破距離は、君たちと行った富士山と軽井沢の120kmだな。」
この答えは私にとっても意外なモノだった。いつも会社にメタボ号が置いてあるので、てっきりバリバリ乗っているものだと勝手に思い込んでいたからである。
「やっぱりそうですよね。私たちは取材なので160kmコースを走りますけど、会長も同じコースで平気ですか?もっとも、コースレイアウトが厳しくないので大丈夫だとは思いますが。」
少し曇りがちな表情で問いかける編集長に対し、得意げな表情でオヤジが答える。
「全く問題ないね!コース設定が折り返し型になってるから、体力が厳しくなったら途中で引き返してもイイってパンフレットに書いてあったぞ!この設定はとってもありがたいな。」
私個人はこの設定を把握していなかったが、自身が以前から楽しみにしていたイベントだけあって、彼の予習は完璧のようだ。「できれば完走して、俺もセンチュリーライダーの仲間入りしたいからガンバルよ!」今日のメタボ会長は上機嫌のご様子だ。
トップから1時間半遅れて、いよいよ私たちもスタートを切る。もちろんメタボ会長も一緒に。
抜けるように晴れ渡った青空の下、漕ぎ出した私たちを安曇野の広大な風景が迎えてくれる。
「いやぁ、朝っぱらから気持ちがイイな!」 メタボ会長もいきなり大満足の様子だ。今回のコースは60km地点の"大町温泉郷エイド"まではほぼ平坦にしか感じない道が続く。厳密に言えば、緩やかに登ってはいるのだが、安曇野の美しい景観が全く勾配を感じさせないのだ。
スタート時点では、心もち肌寒かった気温も太陽と共に上昇し、15℃辺りまで上がってきた。これでもかというほどの抜群の青空と程良い気温に恵まれた今日は、まさに絶好のサイクリング日和だ。薄々予想はしていたものの、やはりメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない。
無風の平坦コースを順調に車列は進む。穏やかな時間が過ぎる中、先頭を走るメタボ会長を何気なく観ていた私は、ふと彼の変化に気付いた。ギアがトップに入っていないのだ。
ケイデンスのテンポをオヤジに合わせてみると、75回転/分で33km/hの巡航をしている。今の条件で、私が知っている限りのメタボ会長であれば、間違いなくアウタートップを選択し、65回転/分辺りで走っているはずなのだが。
「会長、今日は脚が綺麗に廻ってますね。」 それとなくおだててみると
「おぉ?そうか?だってトップギア使うと編集長に怒られるからな! でも慣れてくると、これくらいのピッチが一番疲れない感じなんだよな!」
そう答えるメタボ会長の表情は笑顔に溢れている。同行する私にとっても、このご機嫌状態が今日一日続いてくれれば、それほど有難い事はないというものである。
恐ろしいほど順調に進んだ私たちは40km地点の"大町エイド"に滑り込む。このエイドは国営アルプスあづみの公園内に位置し、今大会で最も充実したエイドとなっている。
この国営アルプスあづみの公園は、今回のイベントコース西側に拡がる広大な自然公園で、安曇野地区と大町松川地区を合わせると100haを優に超える大規模国営公園だ。国土交通省の計画では、今後も公園範囲を拡大し最終的には350haを越える規模を目指しているというから驚きの事業規模である。
このエイドでは、地元の信濃國松川響岳太鼓子供会による太鼓の演舞やアルプホルンの演奏が迎えてくれる。補給のおにぎりを片手に演舞を鑑賞する参加者さん各々の表情も柔らかい。
そんな穏やかな空気の中、メタボ会長から声がかかる。「ほら、君たちも食ってみな!ネギ味噌も美味いし、シャリ自体が最高に美味いぞ。」
そう言いながら、大口を開いて温かいおにぎりにカブリつくオヤジの表情は最高に幸せそうだ。ただ、私たちの取材参加と云う立場上、補給テントの正面に陣取るのは如何なものか?と思いながらもメタボ会長に注意できない私の立場が悲しい。良識ある私たち編集部は、参加者さんの邪魔にならないように、手早くおにぎりを受け取る。実際、ネギ味噌をつけながら頂く温かいオニギリは最高の味だった。
休憩と補給を兼ねた取材で小一時間を"大町エイド"で費やした私たちは、再度コースに戻る。ここから先は所々に登りを有するレイアウトになっている。とは云え、その登りも5%程度のモノなので、いまのメタボ会長には障害にはならない。
溢れる新緑の中を順調に進むと、遥か前方に冠雪に覆われた後立山連峰が見え隠れし始める。
「折り返し地点の白馬ジャンプ競技場はあの雪山の麓ですから、頑張ってくださいね!」
優しく声をかける編集長に対し、甘えん坊オヤジが弱音を吐く。
「あれのことか?ありゃまた遥か彼方って感じだな。ちょっと自信がなくなってきたぞ。」
編集長も私も取材用の機材で重装備なのに、アンタは身体ひとつじゃんか!取材を舐めんなよ!私が懐いたこの感情は決して間違っていないはずだ。
120km/160kmコース分岐点の西原交差点を過ぎ、いよいよ今日唯一の10%越えの登坂を迎える。ここまでの7%程度の登坂は順調にこなしてきたメタボ会長ではあるが、10%を越えるととたんにオヤジの脚が止まる事を私たちは知っている。
案の定、一気にペースダウンしたオヤジは厳しい表情でペダルを廻す。彼が苦しめば苦しむほど、私の心が晴れやかになってゆくのを感じる(笑)。
「会長、練習の時みたいに頑張ってケイデンスを維持してください!ギアをインナーローまで落として!」
編集長からの優しい助言にも、へこたれそうな表情で弱音を垂れ流す。
「何だよこの坂は?センチュリーライドは楽チンだって聞いてたのに、こんな坂があるんじゃ山岳ライドだよ…。」
メタボ会長の苦しむ姿を楽しむ私であったが、この坂もわずか2kmほどで頂上を迎えてしまった。私の至福の時間もわずか15分ほどで幕引きとなり、少々ガッカリである。
峠越えを終え平坦路に戻ると、先程までは遥か彼方に感じた冠雪に覆われた後立山連峰が目前に迫っている。この壮大な景観には感動すら覚えるほどだ。此処が今大会の最大の醍醐味であることは間違いなさそうだ。
「この景色は東京じゃお目にかかれないな!なるほどアルプスを感じるよ!」毒舌のメタボ会長もこの壮観には納得と云った所らしい。正面に拡がる北アルプスに見とれながら無言で車列は進む。折り返しポイントの"白馬ジャンプ競技場"までの直線10km区間こそ今大会のハイライトであろう。
素晴らしい壮観を存分に味わいながらジャンプ場に到着した私たちであったが、ここまでで既に5時間半ほど費やしている。少し時間を気にし始めた私たちに対し、メタボ会長が得意げに説明を始める。
「時間は大丈夫だよ。往路は登り基調だけど復路は下り基調になってるから楽チンですってホームページに書いてあったからさ。下りの80kmならどんなにかかったって3時間だよ。」
この言葉には私たちも正直感心させられそうになるほど、今回のメタボ会長の下調べは充実している。普段の取材ではコース図を見る事も無い男が、ホームページの隅々までチェックしている辺りから、オヤジ自身が如何にこの大会を楽しみにしていたが覗える。
復路に入った私たちは、メタボ会長の言葉通り、下り基調のコースを颯爽と走る。もちろん多少のアップダウンはあるものの、往路のそれとは比較にならないほど快適である。快調に走りながら上機嫌を維持したままのメタボ会長が笑顔で話しかけてくる。
「さっきから感じてたんだけど本当に空気が美味しいかもな。これだけの新緑に豊富な水量の雪解け水とくればマイナスイオンもたっぷり溢れてるだろうから、この辺りに引っ越してくれば誰でも健康体になっちゃうな。」
いやいや、いくら空気が綺麗でマイナスイオンに溢れてても、毎日40本ものタバコを吸ってりゃ台無しなのは誰の目にも明らかである。
今大会のもう一つの特徴に女性ライダーが多いことも挙げられる。スタート地点でも、やたら女性の姿が目付くな、とは感じていたが、この景観とこのコースレイアウトであれば、なるほど女性ライダーが多い理由も十分に納得できる。折り返しまでの80kmさえクリアできれば、ほぼ全員が160km完走を約束されるレイアウトは安心だろう。
往路では迂回した青木湖畔、木崎湖畔を楽しみながら順調に走る私たちは、壮大な山岳景観から安曇野の長閑な風景の中に帰ってきた。途中、自腹エイドでソフトクリームを味わいつつも全て順調に事は進む。残り40kmは往路で通ったコースをそのまま戻る。朝の記憶が残っている事で先の状況が把握できる為、なおさら気楽に走る事が出来るというものだ。ラスト20kmを切った辺りでは、山間部に光のカーテンが差し込む幻想的な絵まで楽しめる偶然に出会えた。
「このコースは全体に渡って全然クルマがいないから最高だったな。東京だとクルマに気を遣いながら走るのが当たり前だけど、アルプスあづみのはまさに自転車天国だよ。」そんな独り言を呟きながら、メタボ会長の初160kmはゴールを迎えた。
完走後の記念撮影を終え、流石に疲労の色を隠せないメタボ会長に対し、編集長が問いかける。
「会長、完走おめでとうございます。はじめて走ったセンチュリーライドは如何でしたか?」
これに対し、意外な事にオヤジが真面目に答え始める。
「あづみのって云う土地の魅力が素晴らしかったよ。ドライブやツーリングと同じ感覚でサイクリングを楽しめるのがセンチュリーライドの魅力だな。アップダウンが厳しくないコース設定も、俺たちオヤジ連中には丁度ピッタリだと思う。厳しくなれば途中で引き返せるって保険があったから、かえって余裕ができて気持ち良く完走できたってところかな。こういうゆったり系のイベントは初心者や女性が参加するにもハードルが低くてイイと思うよ。自転車人気の裾野を広げる意味でも価値ある大会じゃないか?もっとも、一番素晴らしいのは160kmコースをあっさり走破してしまうくらい、日々の精進を続けてきた俺ってことになってしまうけどな!」
予想通り自画自賛の答えが返ってくるものの、メタボ会長の充実感に溢れる笑顔を見ていると、改めて自転車の魅力に気付かされる思いだ。やっぱり、自転車イベントってイイもんである。
「来年も絶対取材に来ような!」 完走の興奮冷めやらぬまま幸せそうに発するメタボ会長のこの言葉に、一切耳を貸すことなく黙々と帰り支度を進める私たちであった。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"アルプスあづみのセンチュリーライド2012"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
この"アルプあづみのセンチュリーライド"は長野県安曇野〜白馬村を舞台に「最高のコースを最高の季節に走る日本で一番すてきなロングライドにしよう」を合言葉に開催されるだけあって、のどかな風景と壮大な山岳景観は折り紙つきの大会だ。
大会当日の朝。雲一つない晴天に恵まれた安曇野の長閑な景色に向けて次々とスタートして行く参加者の皆さん。私たちは取材のために160kmコース参加者の最後尾からのスタート予定だ。
取材に奔走する私たち編集部に置き去りにされたメタボ会長は、参加者の皆さんと談笑したり、MAVICのスタッフさんにチョッカイを出したりと、彼なりにうまく時間を潰してくれているようだ。
のんびりと順番待ちをしている私たちの所へ、スタート写真の撮影を終えた編集長が戻ってきた。その編集長がメタボ会長に対して、おもむろに口を開く。
「ところで会長って、いままでに160kmを走破した事ってありましたっけ?」何をいまさら?という質問に、オヤジが満面の笑顔でサラリと応える。
「ん?もちろん無いよ!1日の最高走破距離は、君たちと行った富士山と軽井沢の120kmだな。」
この答えは私にとっても意外なモノだった。いつも会社にメタボ号が置いてあるので、てっきりバリバリ乗っているものだと勝手に思い込んでいたからである。
「やっぱりそうですよね。私たちは取材なので160kmコースを走りますけど、会長も同じコースで平気ですか?もっとも、コースレイアウトが厳しくないので大丈夫だとは思いますが。」
少し曇りがちな表情で問いかける編集長に対し、得意げな表情でオヤジが答える。
「全く問題ないね!コース設定が折り返し型になってるから、体力が厳しくなったら途中で引き返してもイイってパンフレットに書いてあったぞ!この設定はとってもありがたいな。」
私個人はこの設定を把握していなかったが、自身が以前から楽しみにしていたイベントだけあって、彼の予習は完璧のようだ。「できれば完走して、俺もセンチュリーライダーの仲間入りしたいからガンバルよ!」今日のメタボ会長は上機嫌のご様子だ。
トップから1時間半遅れて、いよいよ私たちもスタートを切る。もちろんメタボ会長も一緒に。
抜けるように晴れ渡った青空の下、漕ぎ出した私たちを安曇野の広大な風景が迎えてくれる。
「いやぁ、朝っぱらから気持ちがイイな!」 メタボ会長もいきなり大満足の様子だ。今回のコースは60km地点の"大町温泉郷エイド"まではほぼ平坦にしか感じない道が続く。厳密に言えば、緩やかに登ってはいるのだが、安曇野の美しい景観が全く勾配を感じさせないのだ。
スタート時点では、心もち肌寒かった気温も太陽と共に上昇し、15℃辺りまで上がってきた。これでもかというほどの抜群の青空と程良い気温に恵まれた今日は、まさに絶好のサイクリング日和だ。薄々予想はしていたものの、やはりメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない。
無風の平坦コースを順調に車列は進む。穏やかな時間が過ぎる中、先頭を走るメタボ会長を何気なく観ていた私は、ふと彼の変化に気付いた。ギアがトップに入っていないのだ。
ケイデンスのテンポをオヤジに合わせてみると、75回転/分で33km/hの巡航をしている。今の条件で、私が知っている限りのメタボ会長であれば、間違いなくアウタートップを選択し、65回転/分辺りで走っているはずなのだが。
「会長、今日は脚が綺麗に廻ってますね。」 それとなくおだててみると
「おぉ?そうか?だってトップギア使うと編集長に怒られるからな! でも慣れてくると、これくらいのピッチが一番疲れない感じなんだよな!」
そう答えるメタボ会長の表情は笑顔に溢れている。同行する私にとっても、このご機嫌状態が今日一日続いてくれれば、それほど有難い事はないというものである。
恐ろしいほど順調に進んだ私たちは40km地点の"大町エイド"に滑り込む。このエイドは国営アルプスあづみの公園内に位置し、今大会で最も充実したエイドとなっている。
この国営アルプスあづみの公園は、今回のイベントコース西側に拡がる広大な自然公園で、安曇野地区と大町松川地区を合わせると100haを優に超える大規模国営公園だ。国土交通省の計画では、今後も公園範囲を拡大し最終的には350haを越える規模を目指しているというから驚きの事業規模である。
このエイドでは、地元の信濃國松川響岳太鼓子供会による太鼓の演舞やアルプホルンの演奏が迎えてくれる。補給のおにぎりを片手に演舞を鑑賞する参加者さん各々の表情も柔らかい。
そんな穏やかな空気の中、メタボ会長から声がかかる。「ほら、君たちも食ってみな!ネギ味噌も美味いし、シャリ自体が最高に美味いぞ。」
そう言いながら、大口を開いて温かいおにぎりにカブリつくオヤジの表情は最高に幸せそうだ。ただ、私たちの取材参加と云う立場上、補給テントの正面に陣取るのは如何なものか?と思いながらもメタボ会長に注意できない私の立場が悲しい。良識ある私たち編集部は、参加者さんの邪魔にならないように、手早くおにぎりを受け取る。実際、ネギ味噌をつけながら頂く温かいオニギリは最高の味だった。
休憩と補給を兼ねた取材で小一時間を"大町エイド"で費やした私たちは、再度コースに戻る。ここから先は所々に登りを有するレイアウトになっている。とは云え、その登りも5%程度のモノなので、いまのメタボ会長には障害にはならない。
溢れる新緑の中を順調に進むと、遥か前方に冠雪に覆われた後立山連峰が見え隠れし始める。
「折り返し地点の白馬ジャンプ競技場はあの雪山の麓ですから、頑張ってくださいね!」
優しく声をかける編集長に対し、甘えん坊オヤジが弱音を吐く。
「あれのことか?ありゃまた遥か彼方って感じだな。ちょっと自信がなくなってきたぞ。」
編集長も私も取材用の機材で重装備なのに、アンタは身体ひとつじゃんか!取材を舐めんなよ!私が懐いたこの感情は決して間違っていないはずだ。
120km/160kmコース分岐点の西原交差点を過ぎ、いよいよ今日唯一の10%越えの登坂を迎える。ここまでの7%程度の登坂は順調にこなしてきたメタボ会長ではあるが、10%を越えるととたんにオヤジの脚が止まる事を私たちは知っている。
案の定、一気にペースダウンしたオヤジは厳しい表情でペダルを廻す。彼が苦しめば苦しむほど、私の心が晴れやかになってゆくのを感じる(笑)。
「会長、練習の時みたいに頑張ってケイデンスを維持してください!ギアをインナーローまで落として!」
編集長からの優しい助言にも、へこたれそうな表情で弱音を垂れ流す。
「何だよこの坂は?センチュリーライドは楽チンだって聞いてたのに、こんな坂があるんじゃ山岳ライドだよ…。」
メタボ会長の苦しむ姿を楽しむ私であったが、この坂もわずか2kmほどで頂上を迎えてしまった。私の至福の時間もわずか15分ほどで幕引きとなり、少々ガッカリである。
峠越えを終え平坦路に戻ると、先程までは遥か彼方に感じた冠雪に覆われた後立山連峰が目前に迫っている。この壮大な景観には感動すら覚えるほどだ。此処が今大会の最大の醍醐味であることは間違いなさそうだ。
「この景色は東京じゃお目にかかれないな!なるほどアルプスを感じるよ!」毒舌のメタボ会長もこの壮観には納得と云った所らしい。正面に拡がる北アルプスに見とれながら無言で車列は進む。折り返しポイントの"白馬ジャンプ競技場"までの直線10km区間こそ今大会のハイライトであろう。
素晴らしい壮観を存分に味わいながらジャンプ場に到着した私たちであったが、ここまでで既に5時間半ほど費やしている。少し時間を気にし始めた私たちに対し、メタボ会長が得意げに説明を始める。
「時間は大丈夫だよ。往路は登り基調だけど復路は下り基調になってるから楽チンですってホームページに書いてあったからさ。下りの80kmならどんなにかかったって3時間だよ。」
この言葉には私たちも正直感心させられそうになるほど、今回のメタボ会長の下調べは充実している。普段の取材ではコース図を見る事も無い男が、ホームページの隅々までチェックしている辺りから、オヤジ自身が如何にこの大会を楽しみにしていたが覗える。
復路に入った私たちは、メタボ会長の言葉通り、下り基調のコースを颯爽と走る。もちろん多少のアップダウンはあるものの、往路のそれとは比較にならないほど快適である。快調に走りながら上機嫌を維持したままのメタボ会長が笑顔で話しかけてくる。
「さっきから感じてたんだけど本当に空気が美味しいかもな。これだけの新緑に豊富な水量の雪解け水とくればマイナスイオンもたっぷり溢れてるだろうから、この辺りに引っ越してくれば誰でも健康体になっちゃうな。」
いやいや、いくら空気が綺麗でマイナスイオンに溢れてても、毎日40本ものタバコを吸ってりゃ台無しなのは誰の目にも明らかである。
今大会のもう一つの特徴に女性ライダーが多いことも挙げられる。スタート地点でも、やたら女性の姿が目付くな、とは感じていたが、この景観とこのコースレイアウトであれば、なるほど女性ライダーが多い理由も十分に納得できる。折り返しまでの80kmさえクリアできれば、ほぼ全員が160km完走を約束されるレイアウトは安心だろう。
往路では迂回した青木湖畔、木崎湖畔を楽しみながら順調に走る私たちは、壮大な山岳景観から安曇野の長閑な風景の中に帰ってきた。途中、自腹エイドでソフトクリームを味わいつつも全て順調に事は進む。残り40kmは往路で通ったコースをそのまま戻る。朝の記憶が残っている事で先の状況が把握できる為、なおさら気楽に走る事が出来るというものだ。ラスト20kmを切った辺りでは、山間部に光のカーテンが差し込む幻想的な絵まで楽しめる偶然に出会えた。
「このコースは全体に渡って全然クルマがいないから最高だったな。東京だとクルマに気を遣いながら走るのが当たり前だけど、アルプスあづみのはまさに自転車天国だよ。」そんな独り言を呟きながら、メタボ会長の初160kmはゴールを迎えた。
完走後の記念撮影を終え、流石に疲労の色を隠せないメタボ会長に対し、編集長が問いかける。
「会長、完走おめでとうございます。はじめて走ったセンチュリーライドは如何でしたか?」
これに対し、意外な事にオヤジが真面目に答え始める。
「あづみのって云う土地の魅力が素晴らしかったよ。ドライブやツーリングと同じ感覚でサイクリングを楽しめるのがセンチュリーライドの魅力だな。アップダウンが厳しくないコース設定も、俺たちオヤジ連中には丁度ピッタリだと思う。厳しくなれば途中で引き返せるって保険があったから、かえって余裕ができて気持ち良く完走できたってところかな。こういうゆったり系のイベントは初心者や女性が参加するにもハードルが低くてイイと思うよ。自転車人気の裾野を広げる意味でも価値ある大会じゃないか?もっとも、一番素晴らしいのは160kmコースをあっさり走破してしまうくらい、日々の精進を続けてきた俺ってことになってしまうけどな!」
予想通り自画自賛の答えが返ってくるものの、メタボ会長の充実感に溢れる笑顔を見ていると、改めて自転車の魅力に気付かされる思いだ。やっぱり、自転車イベントってイイもんである。
「来年も絶対取材に来ような!」 完走の興奮冷めやらぬまま幸せそうに発するメタボ会長のこの言葉に、一切耳を貸すことなく黙々と帰り支度を進める私たちであった。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"アルプスあづみのセンチュリーライド2012"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
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メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 3年弱
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 3年弱
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