2019/11/20(水) - 12:38
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素である熊野那智大社のお膝元を通り、那智山の頂を目指す熊野古道ヒルクライム。今年で14回目を数える同大会で300人のライダーが山頂を目指した。2年前に年代別優勝を果たした自転車ライター・浅野真則が、自己ベスト更新と総合優勝を目指して再びレースに挑戦。果たして結果は――?
世界遺産の熊野那智大社や那智の滝を臨む好コース
紀伊山地の那智山を目指す大雲取コースの選手たち。コースの後半は簡易舗装の激坂があり、大会の名物になっている
ユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素である熊野那智大社のお膝元・和歌山県那智勝浦町を舞台に繰り広げられる熊野古道ヒルクライム。熊野古道を駆け上がり、日本一の落差を誇る那智の滝をコースから望み、那智山の頂を目指すヒルクライムレースだ。
雄大な自然、修験者の霊場としての重厚な空気、南国を思わせる開放感など、熊野という土地が持つさまざまな表情が渾然一体となって醸し出される独特の雰囲気は、旅情を大いに刺激する。この土地の雰囲気を味わうだけでもこのレースに出る価値があると思うほどだ。
下山後に行われたトークショー。キナンサイクリングチームの選手に加え、山の神・森本誠さんや筧五郎さんも壇上に上がり、ヒルクライムで必要な減量の仕方などについて話した
でも、この大会の魅力はそれだけにあらず。レースではキナンサイクリングチームがホストチームとして参加し、山の神・森本誠さん、テレビや雑誌などで活躍する筧五郎さんがゲストライダーとして参加。一般の選手たちと同じコースを走る。もちろん食らいついていく脚力があれば、レースで一緒に走ることもできるし、下山時には先導してくれるので話しかけることもできる。これはなかなかない機会だ。
さらにレース後には生マグロと郷土食のめはり寿司、マグロのつみれ汁が振る舞われ、ホストチームのキナンサイクリングチームの選手たちによるトークショーも行われる。また、表彰式後の抽選会では、熊野の名産品やキナンサイクリングチームのオリジナルグッズも当たる。参加者に対して当選数が多いので、かなりの確率で何かが当たるほど。アフターレースもバッチリ楽しめるのだ。
表彰式後に行われた抽選会。キナンサイクリングチームのオリジナルグッズに加え、生マグロなどの目玉商品も! しかも当選確率は高め!
僕はこの大会の魅力に見せられた一人で、プライベートで過去に2回出場した経験がある。最初は第1回大会にフルサスMTBで出場して完走したのみだったが、2017に再出場したときは総合2位、年代別優勝を果たした。単純にクライマー向けのコースではないのが魅力だと思う。
登坂力は必要だが、下りの能力も実は重要
コースは、全長30.7km、標高差931mの大雲取山頂コースと、全長14.6km、標高差568mの妙法山阿弥陀寺コースがある。僕がエントリーした大雲取山頂コースはラスト3kmほどの簡易舗装の激坂区間が有名だが、途中500mほどの下り区間が2回あり、ワインディングで道幅も細く路面が荒れているところもある。単純に上りの速さだけでなく、タイムを詰めるには下りコーナーを安全に速く走るテクニックが求められる。また、上り重視の軽量タイヤだとパンクリスクも高まるので、特にタイヤ選びは重要だ。
そこでバイクは決戦用のバイクを基本にしつつ、このコースで求められる激坂&下り対策、パンク対策を行うため、次のような装備で臨んだ。
ライター浅野が熊野古道ヒルクライム時に使用したバイク。足まわりはDTスイスの35mmハイトカーボンリムのチューブレスホイールとビットリア・コルサスピードG2.0の組み合わせ
●スプロケットはカンパニョーロ12スピードの11-29Tとし、下りも激坂も対応できるように。チェーンリングは楕円タイプのローターQXL52-36T。
●重量の軽さより転がりの軽さを重視し、DTスイスのチューブレスレディ対応ホイールに、転がり抵抗の低さに定評のあるヴィットリア・コルサスピードG2.0を組み合わせた。シーラントを使うことでちょっとした貫通パンクなら自己治癒するので、パンク対策もバッチリ。
メインコンポーネントはカンパニョーロ12スピードで、チェーンリングはローターの楕円チェーンリングQXLを組み合わせる。スプロケットは11-29T
実はこのレースの1週間前に行われた台湾KOMチャレンジにもこのバイクで出ていて、スプロケットのみ11-32Tだったのを交換しただけだった。さすがに台湾KOMのような27%もある激坂はないので、29Tで十分との算段だった。
招待選手の後ろについて走りたい!と思ったら……
さて、レース当日。開会式が行われた6時半の時点で気温は12~13℃ぐらいあったと思われ、冬用のウォームアップオイルを塗っていれば半袖+秋用インナーで行けるぐらい。待機時間だけ薄手のウインドブレーカーを羽織り、スタート前にバックポケットに入れることにした。
まずは午前7時にパレード走行がスタート。開会式会場のブルービーチ那智(那智海水浴場)から大門坂駐車場までの5.4kmをゆっくり走る。大門坂駐車場に到着後、改めて選手たちが整列し直し、大雲取山頂コースの選手からスタート。大門坂駐車場から大雲取山頂(妙法山阿弥陀寺コースは阿弥陀寺)までが計測区間となる。
キナンサイクリングチームの選手やゲストライダーが勢ぞろい。
大雲取山頂コースは安全確保のため今年から3組に分かれて時差スタートすることになったようだ。安全対策のためという。淡々と走ってもレポートとして面白くないので、できることなら玉砕覚悟で招待選手の後ろにできるだけ付いていって、レポートしたいと思っていたのだが、キナンサイクリングチームの加藤康則監督に話を聞くと「ガチで走る招待選手は1組目で出走する」という。速く走れる選手なら招待選手の後ろについて走りたいと思うだろうが、今回そういう選手が2組目以降スタートとなったケースも見られた。組み分けでスタートするなら速く走りたい人を1組目に集めるか、従来通り全員一斉スタートとするか、来年以降の改善をお願いしたいところだ。
さて、僕はもともとエントリーをプライベートで行っていたため、本来2組目でのスタートだったのが、取材で必要な写真撮影の都合上、主催者の許可を得て特別に1組目で出走させていただくことになった。これで面白い記事が書ける、はず!
いつの間にか先頭集団の一般参加選手は僕だけに
午前7時半、号砲とともにスタート。クリートをしっかりキャッチして、キナンサイクリングチームの選手と森本さんと五郎さんがいる先頭列車に乗った。2年前の大会ではここでいきなり鬼引きによるセレクションがあったのだが、今年はそれに比べるといくらか楽な気もするし、そうでない気もする。まだ先は長いのでなるべく脚を使わないように、風向きを読んで集団最後尾をコバンザメのように走る。
序盤のハイライトは那智の滝を臨むつづら折り。まだ勾配はそれほどきつくないが、キナンサイクリングチームの選手の引きでかなりハイスピードだった
那智の滝を臨むポイントを通過したあたりでちらっと後ろを見ると、一般参加選手はかなりバラバラになっている。序盤は山本元喜選手が先頭固定で引いていて、途中大久保陣選手をはさんで10分ほどたったあたりで山本大喜選手が先頭に立つとペースが上がった! 必死のパッチで食らいついていくと、いつの間にか先頭集団の一般参加選手は僕一人になっていた。
最初の下りで息を整えたものの、再び上り返したところでだんだんしんどくなってきた。明らかにオーバーペースだったが20分だけ頑張ろうと決めて20分過ぎたあたりで集団から脱落。そこからは少しペースを落とした筧五郎さんと一緒に走った。以前「56練」と呼ばれる五郎さんの練習会に参加させていただいていたことがあるが、一緒に走るのは本当に久しぶり。下りや平坦では僕が前を引き、上りでは五郎さんに何とか付いていくという感じ。脚はかなりきつかったけれど、ちぎれると怒られそうだったので必死に食らいつく。
最後の激坂を越え、山頂に広がる絶景
熊野古道ヒルクライム名物の最後の激坂区間。3kmほどで平均勾配は8%ほど。瞬間的には10%を優に超える急勾配もあり、道も荒れている
熊野古道ヒルクライムでは、下りはタイムを稼ぐ重要な区間でもある。特に僕のようなピュアクライマーではない選手が上位を目指すなら、下りでリードを奪うことは重要だ。ギヤをかけて踏みつつも、コーナーは安全にクリアすることを第一に。ラインを読みながら、必要なポイントではしっかりブレーキングすることを心がけた。コーナーの途中に溝があってグレーチングに隙間があるところもあるので、慎重にラインを選ばないとパンクしたり転倒したりする可能性もあるのだ。そうなってしまっては元も子もない。
2つめの細いテクニカルなワインディングの下りを終えると、いよいよラスト3kmの激坂区間だ。ここから先は29Tのローギヤもフル活用して上る。激坂区間では五郎さんに置いて行かれる。さらにつづら折りで下を見ると、後続の選手が数人、猛烈な勢いで迫ってきている! おそらく2組目のトップ集団だ。しかもまだまだ激坂は続く。ペダルをこいでもこいでも進まないような気がする。ここでペースを上げてリードを広げたかったが、追い抜かれないようにするのがやっとだった。
最後の力を振り絞ってフィニッシュする参加者にキナンサイクリングチームの選手やゲストライダーが声援を送る
フィニッシュ地点の大雲取山頂からの眺め。果てしなく続く山並みが熊野の自然の雄大さを物語る
フィニッシュ地点には一般選手では最初に飛び込んだ。その30秒ほど後に2組目の先頭集団の選手が飛び込んできた。僕のタイムは1時間1分45秒。2年前のベストタイムのほぼ1分落ちだったが、今のベストは出せたと思う。
上着を着て下山待ちする間の楽しみは、大雲取山頂から臨む山頂からの絶景だ。条件がよければ紀伊山地を一望することができるのだが、まるで山が幾重にも重なる波のように見えて圧倒される。この山々にいにしえの旅人が通った世界遺産の熊野古道があり、山々の向こうにある熊野本宮大社や高野山など紀伊山地の霊場へとつながっている。ここまで上ったのだという感慨とともに熊野の奥深さと雄大さを感じ、ここにまた来たいと思うのだ。
おこぼれで年代別の表彰台末席確保。でも悔しい
40歳代クラスで表彰台末席の3位に入賞。最低限の結果は残せたが、やっぱり悔しい。来年は個人ベストタイムを更新したい
下山してリザルトを確認したら年代別3位。ギリギリ表彰台を確保した。個人総合優勝の亀甲真次選手は僕と同じ40歳代だが、個人総合優勝の選手は年代別表彰の対象にはならないため、40歳代の選手で4位だった僕が繰り上げで年代別表彰を受けることになったのだ。いわばおこぼれでゲットした表彰台でなんとも複雑な心境だ。
生マグロとめはりずしを食べ、あたたかいまぐろのつみれ汁で人心地付いたところで、来年リベンジしたいという思いが強くなった。来年は個人総合優勝とベストタイム更新を目指したい。
下山後に参加者全員に無料で振る舞われためはり寿司とマグロのつみれ汁、生マグロの刺身。これだけでもレースに出る価値がある!?
個人総合優勝 亀甲真次選手(VC VELOCE)
今年初めてJエリートツアーに登録して各地のヒルクライムに参戦したのですが、表彰台に立てても優勝はなくて最高が2位だったんです。だから「このレースで絶対勝つ!」という強い気持ちを持って臨みました。今日は妻も子どもたちと家族旅行も兼ねて来ているので、子どもたちの前で「カッコイイ父ちゃん」を見せることができて本当によかったです!
photo:Masanori.Asano,Shunsuke.Fukumitu
浅野真則(あさのまさのり) 著者プロフィール
浅野真則
フリーランスの自転車ライター。自転車の楽しさや楽しみ方を伝えることをライフワークにしており、最近はふるさとの三重県の魅力をサイクリスト目線で伝えることに力を入れている。執筆活動の傍ら、自転車レースにも参戦し、今年は台湾KOMチャレンジにも出場。最近はタイムトライアルとヒルクライムばかり出ているが、ロードレースも好き。
世界遺産の熊野那智大社や那智の滝を臨む好コース
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ユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素である熊野那智大社のお膝元・和歌山県那智勝浦町を舞台に繰り広げられる熊野古道ヒルクライム。熊野古道を駆け上がり、日本一の落差を誇る那智の滝をコースから望み、那智山の頂を目指すヒルクライムレースだ。
雄大な自然、修験者の霊場としての重厚な空気、南国を思わせる開放感など、熊野という土地が持つさまざまな表情が渾然一体となって醸し出される独特の雰囲気は、旅情を大いに刺激する。この土地の雰囲気を味わうだけでもこのレースに出る価値があると思うほどだ。
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でも、この大会の魅力はそれだけにあらず。レースではキナンサイクリングチームがホストチームとして参加し、山の神・森本誠さん、テレビや雑誌などで活躍する筧五郎さんがゲストライダーとして参加。一般の選手たちと同じコースを走る。もちろん食らいついていく脚力があれば、レースで一緒に走ることもできるし、下山時には先導してくれるので話しかけることもできる。これはなかなかない機会だ。
さらにレース後には生マグロと郷土食のめはり寿司、マグロのつみれ汁が振る舞われ、ホストチームのキナンサイクリングチームの選手たちによるトークショーも行われる。また、表彰式後の抽選会では、熊野の名産品やキナンサイクリングチームのオリジナルグッズも当たる。参加者に対して当選数が多いので、かなりの確率で何かが当たるほど。アフターレースもバッチリ楽しめるのだ。
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僕はこの大会の魅力に見せられた一人で、プライベートで過去に2回出場した経験がある。最初は第1回大会にフルサスMTBで出場して完走したのみだったが、2017に再出場したときは総合2位、年代別優勝を果たした。単純にクライマー向けのコースではないのが魅力だと思う。
登坂力は必要だが、下りの能力も実は重要
コースは、全長30.7km、標高差931mの大雲取山頂コースと、全長14.6km、標高差568mの妙法山阿弥陀寺コースがある。僕がエントリーした大雲取山頂コースはラスト3kmほどの簡易舗装の激坂区間が有名だが、途中500mほどの下り区間が2回あり、ワインディングで道幅も細く路面が荒れているところもある。単純に上りの速さだけでなく、タイムを詰めるには下りコーナーを安全に速く走るテクニックが求められる。また、上り重視の軽量タイヤだとパンクリスクも高まるので、特にタイヤ選びは重要だ。
そこでバイクは決戦用のバイクを基本にしつつ、このコースで求められる激坂&下り対策、パンク対策を行うため、次のような装備で臨んだ。
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●スプロケットはカンパニョーロ12スピードの11-29Tとし、下りも激坂も対応できるように。チェーンリングは楕円タイプのローターQXL52-36T。
●重量の軽さより転がりの軽さを重視し、DTスイスのチューブレスレディ対応ホイールに、転がり抵抗の低さに定評のあるヴィットリア・コルサスピードG2.0を組み合わせた。シーラントを使うことでちょっとした貫通パンクなら自己治癒するので、パンク対策もバッチリ。
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招待選手の後ろについて走りたい!と思ったら……
さて、レース当日。開会式が行われた6時半の時点で気温は12~13℃ぐらいあったと思われ、冬用のウォームアップオイルを塗っていれば半袖+秋用インナーで行けるぐらい。待機時間だけ薄手のウインドブレーカーを羽織り、スタート前にバックポケットに入れることにした。
まずは午前7時にパレード走行がスタート。開会式会場のブルービーチ那智(那智海水浴場)から大門坂駐車場までの5.4kmをゆっくり走る。大門坂駐車場に到着後、改めて選手たちが整列し直し、大雲取山頂コースの選手からスタート。大門坂駐車場から大雲取山頂(妙法山阿弥陀寺コースは阿弥陀寺)までが計測区間となる。
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大雲取山頂コースは安全確保のため今年から3組に分かれて時差スタートすることになったようだ。安全対策のためという。淡々と走ってもレポートとして面白くないので、できることなら玉砕覚悟で招待選手の後ろにできるだけ付いていって、レポートしたいと思っていたのだが、キナンサイクリングチームの加藤康則監督に話を聞くと「ガチで走る招待選手は1組目で出走する」という。速く走れる選手なら招待選手の後ろについて走りたいと思うだろうが、今回そういう選手が2組目以降スタートとなったケースも見られた。組み分けでスタートするなら速く走りたい人を1組目に集めるか、従来通り全員一斉スタートとするか、来年以降の改善をお願いしたいところだ。
さて、僕はもともとエントリーをプライベートで行っていたため、本来2組目でのスタートだったのが、取材で必要な写真撮影の都合上、主催者の許可を得て特別に1組目で出走させていただくことになった。これで面白い記事が書ける、はず!
いつの間にか先頭集団の一般参加選手は僕だけに
午前7時半、号砲とともにスタート。クリートをしっかりキャッチして、キナンサイクリングチームの選手と森本さんと五郎さんがいる先頭列車に乗った。2年前の大会ではここでいきなり鬼引きによるセレクションがあったのだが、今年はそれに比べるといくらか楽な気もするし、そうでない気もする。まだ先は長いのでなるべく脚を使わないように、風向きを読んで集団最後尾をコバンザメのように走る。
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那智の滝を臨むポイントを通過したあたりでちらっと後ろを見ると、一般参加選手はかなりバラバラになっている。序盤は山本元喜選手が先頭固定で引いていて、途中大久保陣選手をはさんで10分ほどたったあたりで山本大喜選手が先頭に立つとペースが上がった! 必死のパッチで食らいついていくと、いつの間にか先頭集団の一般参加選手は僕一人になっていた。
最初の下りで息を整えたものの、再び上り返したところでだんだんしんどくなってきた。明らかにオーバーペースだったが20分だけ頑張ろうと決めて20分過ぎたあたりで集団から脱落。そこからは少しペースを落とした筧五郎さんと一緒に走った。以前「56練」と呼ばれる五郎さんの練習会に参加させていただいていたことがあるが、一緒に走るのは本当に久しぶり。下りや平坦では僕が前を引き、上りでは五郎さんに何とか付いていくという感じ。脚はかなりきつかったけれど、ちぎれると怒られそうだったので必死に食らいつく。
最後の激坂を越え、山頂に広がる絶景
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2つめの細いテクニカルなワインディングの下りを終えると、いよいよラスト3kmの激坂区間だ。ここから先は29Tのローギヤもフル活用して上る。激坂区間では五郎さんに置いて行かれる。さらにつづら折りで下を見ると、後続の選手が数人、猛烈な勢いで迫ってきている! おそらく2組目のトップ集団だ。しかもまだまだ激坂は続く。ペダルをこいでもこいでも進まないような気がする。ここでペースを上げてリードを広げたかったが、追い抜かれないようにするのがやっとだった。
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上着を着て下山待ちする間の楽しみは、大雲取山頂から臨む山頂からの絶景だ。条件がよければ紀伊山地を一望することができるのだが、まるで山が幾重にも重なる波のように見えて圧倒される。この山々にいにしえの旅人が通った世界遺産の熊野古道があり、山々の向こうにある熊野本宮大社や高野山など紀伊山地の霊場へとつながっている。ここまで上ったのだという感慨とともに熊野の奥深さと雄大さを感じ、ここにまた来たいと思うのだ。
おこぼれで年代別の表彰台末席確保。でも悔しい
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生マグロとめはりずしを食べ、あたたかいまぐろのつみれ汁で人心地付いたところで、来年リベンジしたいという思いが強くなった。来年は個人総合優勝とベストタイム更新を目指したい。
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個人総合優勝 亀甲真次選手(VC VELOCE)
今年初めてJエリートツアーに登録して各地のヒルクライムに参戦したのですが、表彰台に立てても優勝はなくて最高が2位だったんです。だから「このレースで絶対勝つ!」という強い気持ちを持って臨みました。今日は妻も子どもたちと家族旅行も兼ねて来ているので、子どもたちの前で「カッコイイ父ちゃん」を見せることができて本当によかったです!
photo:Masanori.Asano,Shunsuke.Fukumitu
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浅野真則
フリーランスの自転車ライター。自転車の楽しさや楽しみ方を伝えることをライフワークにしており、最近はふるさとの三重県の魅力をサイクリスト目線で伝えることに力を入れている。執筆活動の傍ら、自転車レースにも参戦し、今年は台湾KOMチャレンジにも出場。最近はタイムトライアルとヒルクライムばかり出ているが、ロードレースも好き。
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