2019/03/18(月) - 11:50
東京の臨海部にある流通センターで毎年恒例のハンドメイドバイシクル展が開催された。今年は会場が変わり、装いも新たに過去最多となる52のブースが出展した。ビルダー達のこだわりが詰められたユニークなバイクの数々を紹介していこう。
毎年1月に東京で開催されているハンドメイドバシクル展。競輪選手にフレームを供給するビルダーが中心となり、1988年から開催されているハンドメイドバイクの展示会である。今年は例年使用している東京・千代田区にある科学技術館が改修中ということで、大田区にある東京流通センターに会場を移しての開催となった。
出展ブースは過去最多となる52ブース。クラシックなランドナーやロードレーサーを出展するブースや、ハンドメイドならでの特別なオーダーフレームを展示するブース、時代の流れに合わせてディスクブレーキに対応したロードバイクやグラベルロードなど、多種多様なバイクが登場。出展数は年を追うごとに増えており、ハンドメイドバイクと自転車文化の多様性が垣間見る事が出来るのだ。
そしてこの展示会一番のポイントが実際にフレームを作るビルダー達と直に話をすることが出来るということ。各ブースに展示車両はあるものの、それは各ビルダーにとって一例に過ぎない。ハンドメイドというからには、可能な限り夢を現実にしたバイクを制作する事ができるのだ。そんなフレームを実際にビルディングするビルダーと話をすることにより、その信念や誇り、細かな技術手腕に共感し、ビルダーと共に最高の1台を作り上げることが出来るのが、ハンドメイドバイクの醍醐味とも言えよう。
会場奥に設けられたイベントスペースでは、ロウ溶接を施したパイプのヤスリがけ体験をすることができ、フレーム制作の一端を自らの手で体験することができた。また、「BIXXIS」を手がけるドリアーノ・デローザさんが来日しておりトークショーも開催。希望者にはその場でドリアーノさんが身体を採寸しジオメトリーを設計してくれる採寸会も行われた。
ここからは各ブースに焦点を当てて各ブランドを紹介していこう。
岡安製作所(TUBAGRA)
埼玉県川口市にある岡安製作所は工業製品の溶接加工全般を行う事ができる工房。特にTIG溶接についてはフレームビルディング界の中でも屈指の技術力を誇り、他のビルダー達も工房へ見学に来ることがあるそうだ。そんな岡安製作所が制作しているのが、ストリート系マウンテンバイクチームTUBAGRAのMOZUシリーズだ。
TIG溶接というのは電気を用いたアーク溶接の一種。一般的なロウ付けに比べてパイプに対する焼入れの範囲が少なくなることから、パイプが持つ本来の強度を保つ事ができ、軽量にも仕上げることが出来るという。この溶接方法はフレームに大きな負荷がかかるトリックやジャンプをするためのマウンテンバイクに最適であり、TUBAGRAのライダーがこぞって使い始めたのブランド創設のきっかけだ。
そこから製品化やラインアップ拡充という形でブランドが成長していき、ハンドメイドバイクブランドとして確率されるに至っている。そんな中でも今回出展されたのがTUBAGRA croMOZU275。27.5インチ(650B)ホイールに対応しており、アクションしながらトレイルを下るようなアグレッシブなライドを楽しむコンセプトで作り出された1台だ。
フロントアップなどのトリックをしやすいようにチェーンステーを極限まで短くしているのが特徴で、バニーホップやダートジャンプなどがしやすいアクション系バイクに仕上がっている。またそういったトリックはフレームに大きな負荷を与えるため、一般的な工法のフレームだと短期間でクラックが入ったりしてしまうのだが、高精度なTIG溶接により、ハードな使い方をしても3年ほどの期間使えるフレームとなるのだとか。
今回は27.5インチに対応したフレームを持ち出し展示。エアボリュームのあるタイヤがアッセンブル可能となっており、ストリートだけでなくトレイルに持ち出して飛び跳ねながらトリッキーにライドを楽しむためのバイクだという。印象的な溶接痕が記憶に残るバイクでした。
Helavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)
東京の東麻布という都心のど真ん中に工房を構えるHelavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)。来年で10周年という節目を迎えるということで、これまでの制作を振り返り、その集大成として作り出したのが、Helavna Signature Road Racerだ。これまで街乗りバイクやランドナー、カスタムキャリアなど様々なバイクを制作してきたとのことだが、シンプルであることに着目し、純粋に自転車で走ることの楽しさを追求したロードバイクとなっている。
コンセプトは「近代スチールの黄金時代」。スチール素材がプロレースで使われていた時代をイメージしており、細部に至るまでこだわり抜いた1台だ。
伝統的なラグドフレームだが、このラグはアメリカの名フレームビルダーであるリチャード・ザックス氏から提供を受けており、フレームの制作についても多くの技術的アドバイスを貰いながら進めたという。チューブには最新のテクノロジーで作られているコロンバスのSPRITを使用。本格的なロードバイクとしての走りを楽しめる。
この他にもオールロードバイク、The Urban Grinder PROも展示していたヘラブナサイクルズ。オーダーしてもらったお客様と納得行くまで打ち合わせし「本当に欲しい1台」を作り上げるために、手作業に限らず様々なアプローチでフレームを制作する事が出来る工房だ。
あぶくま自転車工房
福島県に拠点を構えるあぶくま自転車工房。代表である坂田さん曰く「ユーザーの妄想をカタチにするお手伝いをしています。」とのことで、可能な限り要望に答えてくれる工房だ。今回展示されていたタイムトライアル用ロードレーサーもオーナーさんのスケッチを元にイチから作り出した作品になっているという。
元々はカンパニョーロのエアロクランクを入手したところから始まったとのことで、そこからクロモリのタイムトライアルバイクを作ろうということになったとのこと。カーボンのエアロフレームのようなフレーム形状を目指し、専用のチューブなどをチョイス。カーボンで制作する方が簡単ではあるものの、それをクロモリで行うところに趣があると言えるだろう。
BB周りもカーボンフレームのようなボリューム感で、フォークからハンドルまですべて制作。フォークから生えたベースバーは過去の名車を連想させ、非常に魅力的だ。個性的なルックスだが、それでいて走るためのジオメトリーは長年の経験を元に設計しており、至って普通のバイクのように乗ることが出来るという。
まさにオーナーの妄想をカタチにしたバイクということで、工房コンセプトを体現していると言えよう。頭の中で様々な妄想をしている方の夢の具現化をお手伝いしたいという坂田さんの思いが現れた1台だ。
Sunrise cycles(サンライズサイクルズ)
東京の新宿区にワークショップ構えるSunrise cycles(サンライズサイクルズ)の高井さん。誰でもバイクビルディングが可能なレンタルスペース「BYOB Factory」なども運営しており、ハンドメイドバイクの裾野を広げようと活動しているビルダーの1人だ。
今回はショーモデルというわけではなく、たまたまお客さんからオーダーを受けていたという。ランドナースタイルのフレームを展示。仕事で移動することも多いというオーナーからの要望を受け、フレームを半分にすることが出来るカップラーをつけることでホイールほどの大きさに畳む事ができ、輪行なども行いやすいバイクに仕上がっている。
ランドナースタイルだが700Cのホイールが装着出来るようにといった、オーナーの要望を実現しつつ、ヘッド周りのラグフェレットの装飾や、エンド周りの装飾などのディテールにもこだわっているという。
WELD ONE(Ogre)
京都府に拠点を構えるWELD ONEの代表、小西さんはチタンバイクの作成が得意なフレームビルダー。今回出展したのはWELD ONEの名前を一躍有名にしたチタン製のフルサスペンションダウンヒルフレームだ。展示されたのは製作途中のフレームとなるが、メカ好きには堪らない造形美が印象的である。
このバイクの原型となったダウンヒルフレームはイギリスのビスポークUKHBS2015に出展し、喝采を浴びた1台。前作ではチタン板6枚を張り合わせ、六角形にしたダウンチューブとしたが、今回は丸チューブを使用。それでも絶妙な曲げ加工やトラス構造を採用したリアスイングアームなどは健在で、見るものを魅了する造形美がある。
このバイクを使用して神社の石段を下るレッドブルホーリーライドに出場している小坂さん。乗り味についてはチタンならではの粘りがあるため、トラクションが必要なところで粘ってくれて、コーナーリングスピードで差をつける事が出来るという。またリアサスペンションをオフロードオートバイのリンク式のような構造にすることで、接地感のある動きをしてくれるのも大きな特徴の1つだという。
text&photo:Kosuke.Kamata
毎年1月に東京で開催されているハンドメイドバシクル展。競輪選手にフレームを供給するビルダーが中心となり、1988年から開催されているハンドメイドバイクの展示会である。今年は例年使用している東京・千代田区にある科学技術館が改修中ということで、大田区にある東京流通センターに会場を移しての開催となった。
出展ブースは過去最多となる52ブース。クラシックなランドナーやロードレーサーを出展するブースや、ハンドメイドならでの特別なオーダーフレームを展示するブース、時代の流れに合わせてディスクブレーキに対応したロードバイクやグラベルロードなど、多種多様なバイクが登場。出展数は年を追うごとに増えており、ハンドメイドバイクと自転車文化の多様性が垣間見る事が出来るのだ。
そしてこの展示会一番のポイントが実際にフレームを作るビルダー達と直に話をすることが出来るということ。各ブースに展示車両はあるものの、それは各ビルダーにとって一例に過ぎない。ハンドメイドというからには、可能な限り夢を現実にしたバイクを制作する事ができるのだ。そんなフレームを実際にビルディングするビルダーと話をすることにより、その信念や誇り、細かな技術手腕に共感し、ビルダーと共に最高の1台を作り上げることが出来るのが、ハンドメイドバイクの醍醐味とも言えよう。
会場奥に設けられたイベントスペースでは、ロウ溶接を施したパイプのヤスリがけ体験をすることができ、フレーム制作の一端を自らの手で体験することができた。また、「BIXXIS」を手がけるドリアーノ・デローザさんが来日しておりトークショーも開催。希望者にはその場でドリアーノさんが身体を採寸しジオメトリーを設計してくれる採寸会も行われた。
ここからは各ブースに焦点を当てて各ブランドを紹介していこう。
岡安製作所(TUBAGRA)
埼玉県川口市にある岡安製作所は工業製品の溶接加工全般を行う事ができる工房。特にTIG溶接についてはフレームビルディング界の中でも屈指の技術力を誇り、他のビルダー達も工房へ見学に来ることがあるそうだ。そんな岡安製作所が制作しているのが、ストリート系マウンテンバイクチームTUBAGRAのMOZUシリーズだ。
TIG溶接というのは電気を用いたアーク溶接の一種。一般的なロウ付けに比べてパイプに対する焼入れの範囲が少なくなることから、パイプが持つ本来の強度を保つ事ができ、軽量にも仕上げることが出来るという。この溶接方法はフレームに大きな負荷がかかるトリックやジャンプをするためのマウンテンバイクに最適であり、TUBAGRAのライダーがこぞって使い始めたのブランド創設のきっかけだ。
そこから製品化やラインアップ拡充という形でブランドが成長していき、ハンドメイドバイクブランドとして確率されるに至っている。そんな中でも今回出展されたのがTUBAGRA croMOZU275。27.5インチ(650B)ホイールに対応しており、アクションしながらトレイルを下るようなアグレッシブなライドを楽しむコンセプトで作り出された1台だ。
フロントアップなどのトリックをしやすいようにチェーンステーを極限まで短くしているのが特徴で、バニーホップやダートジャンプなどがしやすいアクション系バイクに仕上がっている。またそういったトリックはフレームに大きな負荷を与えるため、一般的な工法のフレームだと短期間でクラックが入ったりしてしまうのだが、高精度なTIG溶接により、ハードな使い方をしても3年ほどの期間使えるフレームとなるのだとか。
今回は27.5インチに対応したフレームを持ち出し展示。エアボリュームのあるタイヤがアッセンブル可能となっており、ストリートだけでなくトレイルに持ち出して飛び跳ねながらトリッキーにライドを楽しむためのバイクだという。印象的な溶接痕が記憶に残るバイクでした。
Helavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)
東京の東麻布という都心のど真ん中に工房を構えるHelavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)。来年で10周年という節目を迎えるということで、これまでの制作を振り返り、その集大成として作り出したのが、Helavna Signature Road Racerだ。これまで街乗りバイクやランドナー、カスタムキャリアなど様々なバイクを制作してきたとのことだが、シンプルであることに着目し、純粋に自転車で走ることの楽しさを追求したロードバイクとなっている。
コンセプトは「近代スチールの黄金時代」。スチール素材がプロレースで使われていた時代をイメージしており、細部に至るまでこだわり抜いた1台だ。
伝統的なラグドフレームだが、このラグはアメリカの名フレームビルダーであるリチャード・ザックス氏から提供を受けており、フレームの制作についても多くの技術的アドバイスを貰いながら進めたという。チューブには最新のテクノロジーで作られているコロンバスのSPRITを使用。本格的なロードバイクとしての走りを楽しめる。
この他にもオールロードバイク、The Urban Grinder PROも展示していたヘラブナサイクルズ。オーダーしてもらったお客様と納得行くまで打ち合わせし「本当に欲しい1台」を作り上げるために、手作業に限らず様々なアプローチでフレームを制作する事が出来る工房だ。
あぶくま自転車工房
福島県に拠点を構えるあぶくま自転車工房。代表である坂田さん曰く「ユーザーの妄想をカタチにするお手伝いをしています。」とのことで、可能な限り要望に答えてくれる工房だ。今回展示されていたタイムトライアル用ロードレーサーもオーナーさんのスケッチを元にイチから作り出した作品になっているという。
元々はカンパニョーロのエアロクランクを入手したところから始まったとのことで、そこからクロモリのタイムトライアルバイクを作ろうということになったとのこと。カーボンのエアロフレームのようなフレーム形状を目指し、専用のチューブなどをチョイス。カーボンで制作する方が簡単ではあるものの、それをクロモリで行うところに趣があると言えるだろう。
BB周りもカーボンフレームのようなボリューム感で、フォークからハンドルまですべて制作。フォークから生えたベースバーは過去の名車を連想させ、非常に魅力的だ。個性的なルックスだが、それでいて走るためのジオメトリーは長年の経験を元に設計しており、至って普通のバイクのように乗ることが出来るという。
まさにオーナーの妄想をカタチにしたバイクということで、工房コンセプトを体現していると言えよう。頭の中で様々な妄想をしている方の夢の具現化をお手伝いしたいという坂田さんの思いが現れた1台だ。
Sunrise cycles(サンライズサイクルズ)
東京の新宿区にワークショップ構えるSunrise cycles(サンライズサイクルズ)の高井さん。誰でもバイクビルディングが可能なレンタルスペース「BYOB Factory」なども運営しており、ハンドメイドバイクの裾野を広げようと活動しているビルダーの1人だ。
今回はショーモデルというわけではなく、たまたまお客さんからオーダーを受けていたという。ランドナースタイルのフレームを展示。仕事で移動することも多いというオーナーからの要望を受け、フレームを半分にすることが出来るカップラーをつけることでホイールほどの大きさに畳む事ができ、輪行なども行いやすいバイクに仕上がっている。
ランドナースタイルだが700Cのホイールが装着出来るようにといった、オーナーの要望を実現しつつ、ヘッド周りのラグフェレットの装飾や、エンド周りの装飾などのディテールにもこだわっているという。
WELD ONE(Ogre)
京都府に拠点を構えるWELD ONEの代表、小西さんはチタンバイクの作成が得意なフレームビルダー。今回出展したのはWELD ONEの名前を一躍有名にしたチタン製のフルサスペンションダウンヒルフレームだ。展示されたのは製作途中のフレームとなるが、メカ好きには堪らない造形美が印象的である。
このバイクの原型となったダウンヒルフレームはイギリスのビスポークUKHBS2015に出展し、喝采を浴びた1台。前作ではチタン板6枚を張り合わせ、六角形にしたダウンチューブとしたが、今回は丸チューブを使用。それでも絶妙な曲げ加工やトラス構造を採用したリアスイングアームなどは健在で、見るものを魅了する造形美がある。
このバイクを使用して神社の石段を下るレッドブルホーリーライドに出場している小坂さん。乗り味についてはチタンならではの粘りがあるため、トラクションが必要なところで粘ってくれて、コーナーリングスピードで差をつける事が出来るという。またリアサスペンションをオフロードオートバイのリンク式のような構造にすることで、接地感のある動きをしてくれるのも大きな特徴の1つだという。
text&photo:Kosuke.Kamata
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