2018/08/08(水) - 12:00
夏真っ盛りの海の日に、南会津の山々を巡った「走ってみっぺ!南会津」。暑い夏だからこそ楽しめる、どこかちょっと懐かしめな風景とボリュームたっぷりのエイドを味わったライドのレポートをお届けします。
湯ノ花温泉から唐沢峠へのアプローチを走っていく
湯ノ花温泉からのぼっていく
唐沢峠へのアプローチへ
さて、第1エイドを出発した私たちは、さっそく悩ましい選択を迫られていた。左へ曲がれば、一山越える100kmの本コース、まっすぐ進めば60kmコースと同じルートを辿る通称「さぼってみっぺ!南会津」へと続くのだ。
このルートが実装されてから、割と毎年悩まされつつも、実は毎年左に曲がっているのだけれど、今年は自分のほかにもう一人取材班がいるのだ。そう、あのメタボ会長である。普段であれば、登りが大嫌いな会長だが、跨っているのは最近手に入れたE-BIKE。ご満悦顔の会長が「どっちに行くんだ?」と訊いてくる。E-BIKEなら登りが一つ加わっても大丈夫でしょ、ということで今年も左折。
温泉通が泣いて喜びそうな鄙びた雰囲気が魅力的な湯ノ花温泉街を抜け、唐沢峠へ。割と本格的な峠の雰囲気を味わえる一方で、実質的な登り区間は2kmほどというコストパフォーマンス(?)の良さが魅力的な峠。走り出したばかりのフレッシュな状態であれば、そこまで手ごわい峠でもないはず。
ジリジリとした日差しの下、唐沢峠を登っていく
まるで勾配を感じさせない、余裕そうな男が一人
とはいえ、最大では10%を越えるような斜度の箇所もあり、それなりに苦しいのもまた事実。そんな中、涼しい顔でE-BIKEが駆け上がっていく。満面の笑みで駆け抜けていくメタボ会長は本当に楽しそうで、毎度坂でヒィヒィ言っていた姿は微塵もない。テクノロジーの偉大さを噛み締めつつ、後を追う。
しかしこの夏の暑さは、山の木々にとっては嬉しいことのようで、いつもよりも森の緑も深いように感じる。ピークの橋を写す定番の撮影ポイントも、例年よりも青々と生い茂った木々に阻まれてしまって少し撮りづらいほど。
このころにはかなり気温も上がってきている。唐沢トンネルのひんやりした空気はヒルクライムで火照った身体を冷ますのにはちょうど良い。トンネルを抜けた先のエイドステーションで、コーラを戴きダウンヒルへ。再び国道352号へと合流し、60kmと30kmの参加者たちと一緒に。
第2エイドで酒まんじゅうをゲット!
舘岩川を渡っていく
何度も舘岩川を渡っていく。からみあうような道だ
舘岩川と伊南川の合流地点に設けられた3つ目のエイドには、全コースの参加者が集合し、ちょっとしたお祭りのような賑わいに。こちらでは、じゅうねん味噌と呼ばれる甘めの味噌がトッピングされた「ばんでい餅」や、フレッシュなアスパラガスにキュウリなどが振舞われる。
この先は伊南川の上流へ向けて、ゆるゆると登っていく。お昼も近くなってきており、高原と言えどだいぶ暑くなってきた。ところどころに現れるスノーシェッドが作り出す日陰がオアシスのように感じる。実際、日陰の気温は26度ほどで、避暑地らしい涼やかな気候なのだ。
常に隣を流れる伊南川にはカヌーを浮かべる人もいれば、釣り竿を出す人も。そして私たちは自転車で。思い思いにこの南会津を楽しんでいる。ゆったりした時間が流れる中、折り返し地点となる屏風岩エイドステーションへ向かってペダルを回す。
アスパラやキュウリ、ばんでい餅が振舞われた
途中には私設エイドも登場
伊南川の左岸へ
燦燦と日差しが降り注ぐ中走っていく
気温は26度とかなり涼しいのは事実
往路と復路のライダーがすれ違っていく
少し長めの小豆温泉スノーシェッドをくぐりぬけて、少し行くと鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが。走ってみっぺ名物、ボリュームたっぷりのマトン丼だ!ずらりと並べられた鉄板の上で、次々と焼かれていくマトンたち。焼かれたマトンはご飯の上に載せられて、甘辛いタレをかけられ、名物の一丁あがり。
湯気を立てるマトン丼を手に入れたみなさん、駐車場に車座になり、はたまた東屋で腰かけて思い思いにランチを頂いている。牛や豚とは少し違う独特の、ちょっと野性っぽい風味がこんな暑い日だとスタミナに変換されそうな気がしてしまう。
どんどんと肉を焼いていく
家族でいっしょにランチをいただき!
女子たちもがっつりいただきます!
車座でマトン丼をいただきます!
中天に差し掛かった太陽が熱するじりじりとした空気から逃げるように向かった先は、屏風岩。その名の通り、まるで屏風のようにそそり立つ断崖とその足元を流れる伊南川が、とっても涼しげな絶景スポットなのだ。見ているだけでマイナスイオンたっぷりで、かなりの癒しスポットである。
たっぷりとした水量を湛えた清流で、ちょっと浸かりたいなーと思っているとライブガーデンの吉川選手らが水遊びを始めたではないか!これ幸い、撮影を名目に自分も靴を脱ぎ、浅瀬へ足を踏み入れたら、苔に足を取られてスッテーンと転んでしまった。なんとかカメラは守り切ったので、ぎりぎりセーフ!いや、危なかった……。でも転んだときに、濡れたレーパンが涼しい……できればちょっと泳ぎたいくらい。
大会のハイライトでもある屏風岩
屏風岩の下で水遊び開始!
参加者の方も水に足を漬けたり、ジャージを濡らしたりと、各々涼を求めて水辺へと近づいていく。熱中症予防のためには、やっぱり体温を下げるのが一番。ひんやりとした冷たさと、蒸発時の気化熱の2段構えの冷却手段として、ジャージを濡らすのはオススメだ。
自分たちもジャージをびしょびしょに濡らしたいくらいだけど、背負ったカメラが壊れてしまうといけないので、ほどほどに。さて、ひとしきり涼んだら、後半戦へスタート。涼しい流れに後ろ髪をひかれつつも、取材を再開することに。
ミホさんも水と戯れ中
来た道を下り、100kmコースと60kmコースの分岐へ。だが、100kmコースへ行くには少し気温も高くなってきている気がする。どうしたものか、と思案していると相変わらず下りは速いメタボ会長が迷うことなく分岐を60kmコースへと右折していく。
「急に予定を変えられると困るのですが……」と声をかけると「暑くて敵わないな!環境省のガイドラインだと、運動は中止した方がいいレベルだぞ!君は環境省よりも偉いのか?」とよくわからない理論が降ってくるが、これはどちらかというと渡りに船。「環境省より僕が偉いわけないじゃないですか!仕方ないですねー」と声音だけは仕方なさそうに取り繕いつつ、ついていくのだった。ちなみに体調に合わせて短いコースへ変更することは、公認されているので安心してほしい。
南会津らしい風景が広がる
舘岩川をさらに遡上していく
美しい川の流れとともに走っていく
ここからは再び川沿いを緩やかに登っていくことに。しばらく行くと第1エイドであった舘岩物産館が最後のエイドとして再登場。きのこをたっぷり使ったお蕎麦が用意されており、最後のたかつえスキー場へのヒルクライム前に、エネルギーと塩分を補給できる。
さらに、今年は前夜祭でも登場した古式整体法の「腱引き」のサービスが物産館の中で行われており、ラストスパート前にコンディションを整えておくことが出来る。いつのまにやら我らがメタボ会長もちゃっかり肩をマッサージされている。「僕たちは仕事で来ているんですが……」と、喉まで出かかった言葉をグッと飲み込む。まあ、そんなに混雑している時間帯でもなかったので、わざわざネガティブな文句を言うこともあるまい。
最後のエイドではきのこ蕎麦が振舞われた
ブリッツエンの飯野選手と小野寺選手も蕎麦いただきます!
「ゔあああ!効く!!」と悶絶するメタボである
いや!でも調子がいいな!とご満悦の様子
それにしてもなぜ肩なのだろう?といぶかしんでいるのを察知したのか、「E-BIKEは、脚には来ないんだけど、フラットバーだとポジションが窮屈なんだよ。ドロップハンドルのE-BIKEが出てくれば平坦ももっと楽になると思うんだけどな」としたり顔で解説するメタボ。ふーん、そんなものか、と思いつつ最後の登りへと出発だ。
スタート直後には爽快なダウンヒルだったコースが、帰りは強烈な上り坂として立ちはだかる。距離は約2.8km、平均勾配6.8%とかなり走り応えのある登りなので、健脚ライダーでも満足できるはず。場所によっては、かなり勾配がきついところもあり、自転車を押して歩く人も。
最後の登りをこなしていく
もう少しでフィニッシュですよ!頑張って!
あと一頑張り!
ちらほら目に付くのは、小学生くらいの子供たち。緑のゼッケンは60kmコースを走ったことを示すもので、頑張りながら最後の坂を登っていく姿はなんとも愛らしい。その一方で、いかにもヒルクライマーです!という細身の参加者が、すごい勢いで登っていく。それぞれの楽しみ方でラストクライムをこなしていくが、どうしてもつらい!という人には心強いサポートが用意されている。
那須ブラ―ゼンや宇都宮ブリッツェンのプロライダーたちが、この最後の壁を文字通りサポートしてくれるのだ。グイグイと背中を押して登っていくプロ選手たちの力強い走りを、実際に体感できる貴重な機会でもある。
さて、一方で我らがメタボ会長である。一つめの登りでは、ブイブイモーターを鳴らしながら余裕の表情で登っていたが、60km走った後もE-BIKEはしっかりアシストしてくれるのだろうか。もし途中で電池切れなんてことになってしまったら、「押してくれえ!」なんて無茶なお願いをされるのでは?と想像してしまい、背筋に悪寒が走る。
8%勾配の登坂中に、まさかのガッツポーズ!E-BIKEって、そんなに楽チンなの??
先にゴールした参加者が応援してくれていました
厄介事からは離れるに限る。「撮影のために先行しておきますね!」とE-BIKEが苦手な平坦区間で速度を上げ、先行してラストクライム区間へ。皆さんが奮闘する様子を撮影しつつ、全体の3/4ほどの地点で停車してシャッターを切っていると、ファインダーに飛び込んできたのは笑顔のメタボ会長である。
普段であれば絶対敵わなさそうな「シュッ」としたサイクリストがダンシングしている横で、笑いながら登ってくるのだ。なんなら、応援しながら何人かを抜いている。「嘘やん」思わず、出身の関西弁で呟いてしまうほど衝撃の光景である。人類史上でも後ろから数えた方が早いほど登りが遅く、苦手だったあのメタボ会長が、スイスイと駆け上がってくるのだ。
宇宙の法則が乱れているのか、と思わんばかりのショックに、カメラを構える手が震える。慌ててシャッタースピードを調整し、何とか撮影に成功したのが、この一枚だ。E-BIKEおそるべし。自慢気に走ってないで、なんならつらい人を押してあげて欲しいと思うほどの余裕っぷりである。
フィニッシュしたメタボ会長と仲間たち(?)
華麗に通り過ぎた会長を追って、再び自転車にまたがる。一体どれくらいのパワーで登っているのか。同じペースで登り、パワーメーターに目をやると大体250wほどの出力を示している。今の自分の体重が63kgほどなので、大体4w/kgほどで延々と登ることができるようだ。FTPが4w/kgというと、それなりに乗り込んでいないと到達できない領域だ、富士ヒルクライムでいうとシルバーを目指すことができるレベルである。今の編集部員だと敵わない可能性が高い。
内心ヒヤヒヤしつつ、フィニッシュラインへ飛び込む。メインMCの棚橋麻衣さんがハイタッチでお出迎えしてくれ、エアアーチをくぐりぬける。完走証をゲットした後は、大会会場に隣接する会津アストリアホテルの「白樺の湯」でさっと汗を流しサッパリ。参加者はゼッケンを提示すれば、無料で入浴できるのだ。最後は前夜祭以上の規模で行われる大抽選会で〆。今年は巨大あみだくじで当選者を決めていく形式となっていた。
棚橋さんがお迎えしてくれました
今回の抽選会は巨大あみだくじに
取材を終え、撤収を始めていると「いやあ、こんなにも最後の坂は短かったっけ?なんか、後半はヤスオカ君もきつそうだったな!」なんて得意げに話しかけてくる会長。(いや、それはE-BIKEの力であって、あんたの実力は1ミリも変わってないから!)と、思いつつも、「楽しかったようでなによりです、実際どれくらい電池は使ったんですか?」と笑顔で返した私を褒めてほしい。
「距離60kmを走って、電池残量が72%だね。2つの登り以外は、25km/h以上で走るところも多かったからこんなもんじゃないか?ここ南会津のような優しいコースレイアウトなら、バッテリー満タンで200km近く走れそうだよ。それとバッテリーのおかげで体力の消耗がロードバイクの1/2って感じだ。E-BIKEって楽しいぞ!」とのことで、どうやら電池切れを心配していたのは杞憂だったようだ。
さて、暑さを心配されるなか、しっかり楽しむことができた「走ってみっぺ!南会津」。参加者が1000名を越えるような大規模ロングライドイベントの影に隠れがちだけれど、実際に走って楽しいのはこれぐらいの規模のイベントだ。アットホームで気配りが行き届いた運営に、初心者でも走りやすい平坦基調のコース、そして満腹なエイドステーション。
一度走って満足、というイベントも多い中で、また来年、「帰ってきたいなあ」と思わせてくれるゆったりとした空気感。それが走ってみっぺ!南会津だ。きっとまた来年、ここに訪れるのだろうな、と予感しつつ帰路へと着くのだった。
text&photo:Naoki.Yasuoka
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さて、第1エイドを出発した私たちは、さっそく悩ましい選択を迫られていた。左へ曲がれば、一山越える100kmの本コース、まっすぐ進めば60kmコースと同じルートを辿る通称「さぼってみっぺ!南会津」へと続くのだ。
このルートが実装されてから、割と毎年悩まされつつも、実は毎年左に曲がっているのだけれど、今年は自分のほかにもう一人取材班がいるのだ。そう、あのメタボ会長である。普段であれば、登りが大嫌いな会長だが、跨っているのは最近手に入れたE-BIKE。ご満悦顔の会長が「どっちに行くんだ?」と訊いてくる。E-BIKEなら登りが一つ加わっても大丈夫でしょ、ということで今年も左折。
温泉通が泣いて喜びそうな鄙びた雰囲気が魅力的な湯ノ花温泉街を抜け、唐沢峠へ。割と本格的な峠の雰囲気を味わえる一方で、実質的な登り区間は2kmほどというコストパフォーマンス(?)の良さが魅力的な峠。走り出したばかりのフレッシュな状態であれば、そこまで手ごわい峠でもないはず。
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しかしこの夏の暑さは、山の木々にとっては嬉しいことのようで、いつもよりも森の緑も深いように感じる。ピークの橋を写す定番の撮影ポイントも、例年よりも青々と生い茂った木々に阻まれてしまって少し撮りづらいほど。
このころにはかなり気温も上がってきている。唐沢トンネルのひんやりした空気はヒルクライムで火照った身体を冷ますのにはちょうど良い。トンネルを抜けた先のエイドステーションで、コーラを戴きダウンヒルへ。再び国道352号へと合流し、60kmと30kmの参加者たちと一緒に。
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舘岩川と伊南川の合流地点に設けられた3つ目のエイドには、全コースの参加者が集合し、ちょっとしたお祭りのような賑わいに。こちらでは、じゅうねん味噌と呼ばれる甘めの味噌がトッピングされた「ばんでい餅」や、フレッシュなアスパラガスにキュウリなどが振舞われる。
この先は伊南川の上流へ向けて、ゆるゆると登っていく。お昼も近くなってきており、高原と言えどだいぶ暑くなってきた。ところどころに現れるスノーシェッドが作り出す日陰がオアシスのように感じる。実際、日陰の気温は26度ほどで、避暑地らしい涼やかな気候なのだ。
常に隣を流れる伊南川にはカヌーを浮かべる人もいれば、釣り竿を出す人も。そして私たちは自転車で。思い思いにこの南会津を楽しんでいる。ゆったりした時間が流れる中、折り返し地点となる屏風岩エイドステーションへ向かってペダルを回す。
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少し長めの小豆温泉スノーシェッドをくぐりぬけて、少し行くと鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが。走ってみっぺ名物、ボリュームたっぷりのマトン丼だ!ずらりと並べられた鉄板の上で、次々と焼かれていくマトンたち。焼かれたマトンはご飯の上に載せられて、甘辛いタレをかけられ、名物の一丁あがり。
湯気を立てるマトン丼を手に入れたみなさん、駐車場に車座になり、はたまた東屋で腰かけて思い思いにランチを頂いている。牛や豚とは少し違う独特の、ちょっと野性っぽい風味がこんな暑い日だとスタミナに変換されそうな気がしてしまう。
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中天に差し掛かった太陽が熱するじりじりとした空気から逃げるように向かった先は、屏風岩。その名の通り、まるで屏風のようにそそり立つ断崖とその足元を流れる伊南川が、とっても涼しげな絶景スポットなのだ。見ているだけでマイナスイオンたっぷりで、かなりの癒しスポットである。
たっぷりとした水量を湛えた清流で、ちょっと浸かりたいなーと思っているとライブガーデンの吉川選手らが水遊びを始めたではないか!これ幸い、撮影を名目に自分も靴を脱ぎ、浅瀬へ足を踏み入れたら、苔に足を取られてスッテーンと転んでしまった。なんとかカメラは守り切ったので、ぎりぎりセーフ!いや、危なかった……。でも転んだときに、濡れたレーパンが涼しい……できればちょっと泳ぎたいくらい。
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参加者の方も水に足を漬けたり、ジャージを濡らしたりと、各々涼を求めて水辺へと近づいていく。熱中症予防のためには、やっぱり体温を下げるのが一番。ひんやりとした冷たさと、蒸発時の気化熱の2段構えの冷却手段として、ジャージを濡らすのはオススメだ。
自分たちもジャージをびしょびしょに濡らしたいくらいだけど、背負ったカメラが壊れてしまうといけないので、ほどほどに。さて、ひとしきり涼んだら、後半戦へスタート。涼しい流れに後ろ髪をひかれつつも、取材を再開することに。
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「急に予定を変えられると困るのですが……」と声をかけると「暑くて敵わないな!環境省のガイドラインだと、運動は中止した方がいいレベルだぞ!君は環境省よりも偉いのか?」とよくわからない理論が降ってくるが、これはどちらかというと渡りに船。「環境省より僕が偉いわけないじゃないですか!仕方ないですねー」と声音だけは仕方なさそうに取り繕いつつ、ついていくのだった。ちなみに体調に合わせて短いコースへ変更することは、公認されているので安心してほしい。
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ここからは再び川沿いを緩やかに登っていくことに。しばらく行くと第1エイドであった舘岩物産館が最後のエイドとして再登場。きのこをたっぷり使ったお蕎麦が用意されており、最後のたかつえスキー場へのヒルクライム前に、エネルギーと塩分を補給できる。
さらに、今年は前夜祭でも登場した古式整体法の「腱引き」のサービスが物産館の中で行われており、ラストスパート前にコンディションを整えておくことが出来る。いつのまにやら我らがメタボ会長もちゃっかり肩をマッサージされている。「僕たちは仕事で来ているんですが……」と、喉まで出かかった言葉をグッと飲み込む。まあ、そんなに混雑している時間帯でもなかったので、わざわざネガティブな文句を言うこともあるまい。
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それにしてもなぜ肩なのだろう?といぶかしんでいるのを察知したのか、「E-BIKEは、脚には来ないんだけど、フラットバーだとポジションが窮屈なんだよ。ドロップハンドルのE-BIKEが出てくれば平坦ももっと楽になると思うんだけどな」としたり顔で解説するメタボ。ふーん、そんなものか、と思いつつ最後の登りへと出発だ。
スタート直後には爽快なダウンヒルだったコースが、帰りは強烈な上り坂として立ちはだかる。距離は約2.8km、平均勾配6.8%とかなり走り応えのある登りなので、健脚ライダーでも満足できるはず。場所によっては、かなり勾配がきついところもあり、自転車を押して歩く人も。
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ちらほら目に付くのは、小学生くらいの子供たち。緑のゼッケンは60kmコースを走ったことを示すもので、頑張りながら最後の坂を登っていく姿はなんとも愛らしい。その一方で、いかにもヒルクライマーです!という細身の参加者が、すごい勢いで登っていく。それぞれの楽しみ方でラストクライムをこなしていくが、どうしてもつらい!という人には心強いサポートが用意されている。
那須ブラ―ゼンや宇都宮ブリッツェンのプロライダーたちが、この最後の壁を文字通りサポートしてくれるのだ。グイグイと背中を押して登っていくプロ選手たちの力強い走りを、実際に体感できる貴重な機会でもある。
さて、一方で我らがメタボ会長である。一つめの登りでは、ブイブイモーターを鳴らしながら余裕の表情で登っていたが、60km走った後もE-BIKEはしっかりアシストしてくれるのだろうか。もし途中で電池切れなんてことになってしまったら、「押してくれえ!」なんて無茶なお願いをされるのでは?と想像してしまい、背筋に悪寒が走る。
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厄介事からは離れるに限る。「撮影のために先行しておきますね!」とE-BIKEが苦手な平坦区間で速度を上げ、先行してラストクライム区間へ。皆さんが奮闘する様子を撮影しつつ、全体の3/4ほどの地点で停車してシャッターを切っていると、ファインダーに飛び込んできたのは笑顔のメタボ会長である。
普段であれば絶対敵わなさそうな「シュッ」としたサイクリストがダンシングしている横で、笑いながら登ってくるのだ。なんなら、応援しながら何人かを抜いている。「嘘やん」思わず、出身の関西弁で呟いてしまうほど衝撃の光景である。人類史上でも後ろから数えた方が早いほど登りが遅く、苦手だったあのメタボ会長が、スイスイと駆け上がってくるのだ。
宇宙の法則が乱れているのか、と思わんばかりのショックに、カメラを構える手が震える。慌ててシャッタースピードを調整し、何とか撮影に成功したのが、この一枚だ。E-BIKEおそるべし。自慢気に走ってないで、なんならつらい人を押してあげて欲しいと思うほどの余裕っぷりである。

華麗に通り過ぎた会長を追って、再び自転車にまたがる。一体どれくらいのパワーで登っているのか。同じペースで登り、パワーメーターに目をやると大体250wほどの出力を示している。今の自分の体重が63kgほどなので、大体4w/kgほどで延々と登ることができるようだ。FTPが4w/kgというと、それなりに乗り込んでいないと到達できない領域だ、富士ヒルクライムでいうとシルバーを目指すことができるレベルである。今の編集部員だと敵わない可能性が高い。
内心ヒヤヒヤしつつ、フィニッシュラインへ飛び込む。メインMCの棚橋麻衣さんがハイタッチでお出迎えしてくれ、エアアーチをくぐりぬける。完走証をゲットした後は、大会会場に隣接する会津アストリアホテルの「白樺の湯」でさっと汗を流しサッパリ。参加者はゼッケンを提示すれば、無料で入浴できるのだ。最後は前夜祭以上の規模で行われる大抽選会で〆。今年は巨大あみだくじで当選者を決めていく形式となっていた。


取材を終え、撤収を始めていると「いやあ、こんなにも最後の坂は短かったっけ?なんか、後半はヤスオカ君もきつそうだったな!」なんて得意げに話しかけてくる会長。(いや、それはE-BIKEの力であって、あんたの実力は1ミリも変わってないから!)と、思いつつも、「楽しかったようでなによりです、実際どれくらい電池は使ったんですか?」と笑顔で返した私を褒めてほしい。
「距離60kmを走って、電池残量が72%だね。2つの登り以外は、25km/h以上で走るところも多かったからこんなもんじゃないか?ここ南会津のような優しいコースレイアウトなら、バッテリー満タンで200km近く走れそうだよ。それとバッテリーのおかげで体力の消耗がロードバイクの1/2って感じだ。E-BIKEって楽しいぞ!」とのことで、どうやら電池切れを心配していたのは杞憂だったようだ。
さて、暑さを心配されるなか、しっかり楽しむことができた「走ってみっぺ!南会津」。参加者が1000名を越えるような大規模ロングライドイベントの影に隠れがちだけれど、実際に走って楽しいのはこれぐらいの規模のイベントだ。アットホームで気配りが行き届いた運営に、初心者でも走りやすい平坦基調のコース、そして満腹なエイドステーション。
一度走って満足、というイベントも多い中で、また来年、「帰ってきたいなあ」と思わせてくれるゆったりとした空気感。それが走ってみっぺ!南会津だ。きっとまた来年、ここに訪れるのだろうな、と予感しつつ帰路へと着くのだった。
text&photo:Naoki.Yasuoka
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テイルウォーク(tailwalk) Troutia 43L/C-T 17295
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