2018/05/25(金) - 08:50
長野県の安曇野と白馬エリアを脚と目、舌で満喫するロングライドイベント「アルプスあづみのセンチュリーライド」。今回は、桜のAACRから白馬から松本へと戻る復路を電車で一気に移動するサイクルトレインコースを実走レポート。時間を優雅に使うことができるラグジュアリーなサイクリング旅行でした。
午前6時10分過ぎ、サイクルトレインコースの参加者が出発地点に並んだ
朝焼けに包まれる中、長野県松本市の梓水苑を飛び出していった桜のアルプスあづみのセンチュリーライドの150kmカテゴリーを走るライダー達。第1組がスタートしてもなお数多くの参加者たちは梓水苑で待機している。それもそのはず。この大会には約1500名近くがエントリーしており、大会は参加者や地域のみなさん全員が安全でいられるように、サイクリストを分散させてくれているのだ。
丸一日サドルの上で過ごすことになる健脚が集まるロングコース全3組のうち2組を見送った後に、白馬までのワンウェイをサイクリングで楽しみ、帰路は特別列車で揺られるサイクルトレインコースの方々がスタートする。時間は6時10分すぎ。天気予報は季節外れの暖かさとはいえ、まだまだ肌寒さを感じられるため防風ギアはマストだ。
朝の強い日差しを浴びながら梓水苑を飛び出していく
眼の前に広がる北アルプスの山をめがけてスタートする
160kmの参加者たちはいかにもロードバイク乗りという感じでウェアをバッチリ決めた方が多いように感じられたが、サイクルトレインコースは雰囲気は少し柔らかめ。数あるレジャーの1つとして自転車を選んでいるよう。サイクリングだからバイクジャージというルールは無いから、好きなものを着れば良い。なかにはAACRに参加するためにロードバイクを始め、今回の90kmのワンウェイサイクリングが「ビッグチャレンジ」という方や、親御さんがAACRに参加するのに一緒についてきたキッズなどが一生懸命にペダルを回しはじめた。
AACRのサイクルトレインコースも他カテゴリーと同様に白馬岩岳を目指していく北上ルートを走行する。走り出してみると朝の空気は体を一層シャキッとさせるほど冷たく、これから続く90kmのライドに向けて体と脳を再び叩き起こす。
大会会場である梓水苑の桜は散ってしまっていたが、500mも進まないところの桜は花を力強く咲かせていた
朝もやのかかる盆地を眺めながら徐々に標高を上げていく
日本のマッターホルンとも呼ばれ、数多くのアルピニストが足を運ぶ槍ヶ岳や穂高岳の雪解け水を運ぶ梓川の流れに沿って風が吹き付けてくるため、風が一層冷たく感じる。この風は、長距離ライドを敢行する我々に「シャンとせい!ボーっとしてたら危ないで!」と注意を促してくれていたのかもしれない。どんなライドも無事であることが最大のプライズであり、そこに心を癒やしてくれる風景などが加点されていくのだ。まだ見ぬ絶景への期待をペダルに込め、先へと急ぐ。
第1エイドの国営アルプスあづみの公園(堀金・穂高)越しに顔を覗かせる冠雪の山が美しい
ブルーベリーやストロベリーなど様々な種類のジャムサンドが用意されており、どれを選ぼうか迷ってしまう
あづみのの銘菓「あずさ」も振る舞われた
公園内は色とりどりのチューリップが咲いており記念撮影をする方も多い
実は筆者の藤原は4年前のAACRに参加しており、その時の記憶を辿りながらライドとなる。インターネットではルートの変更情報などを追っており、なんとなくの雰囲気も掴んだつもりだった。しかし、実際に走ってみると五感から得られるものの多さに圧倒される。何気ない田園風景、果樹園を一直線に貫く日本アルプスサラダ街道全てが美しい。やはり外へ出ないと何もわからないのかもしれない。
県道25号塩尻鍋割穂高線、通称”山麓線”は北アルプスと安曇野の接点に続く道路であり、松本盆地の西端だ。この道が走る場所は犀川が流れる盆地中央部よりも標高が高く、朝もやのかかる安曇野エリアを所々見ることができる。工場の煙突から煙がもくもくと立ち上る様子を見ると、かつては民家から朝餉の支度をする煙だったのかなあなんて思ってしまう。朝の強い光線を浴びる町という綺麗な光景をそれほど力を掛けずに拝めるルートなんてなかなか無いはずだ。
日本の原風景というのはこのような景色のことだろうか。のどかで、平和。こういう場所でのんびりとした時間を使いたい
ピンクと白様々な色の花がサイクリストを迎えてくれる
国営アルプスあづみの公園(大町・松川)には林間ゾーンがあり、トレイルを走っているかのような雰囲気に包まれる
スタートから20km走行したところでAACR一団は国営アルプスあづみの公園(堀金穂高地区)に構えられたエイドに駆け込むため県道25号線を離れる。進路を北から西へと変更すると雪を被った北アルプスの山が目に飛び込んでくる。あれはどの山だ?とテンションが上がってしまうのは、私の名前に「岳」の字がついているから自然と惹かれるのか、漫画「岳」のファンだからだろうか。いやいや、そんなことよりも、有難みを感じてしまうほど目の前に広がる絶景に圧倒されてしまう。
エイドステーション手前の眺望エリアで何時間も眺めていたいが、悲しいことにサイクルトレインの乗車時間は決まっている。そこにたどり着く必要があるためエイドステーションでジャムサンドを頂き、足早にエイドステーションを後にする。
第2エイドは美味しいお米で作ったオニギリに、ネギ味噌など3種類の味噌を好きなだけ乗せて食べられるという天国のような休憩ポイントだ
デザートに羊羹が用意されているのも嬉しい
ツヤツヤの白米にコクのあるお味噌をたっぷり乗せていただきます!
所々で撮影のために足を止めると、体から汗がじわりと滲み出てきた。時間は朝8時前だと言うのに17℃、刻々にサイクルコンピューターが指し示す気温は上昇していき、9時頃には20℃近くまでに。日常ならまだ寝ぼけ眼をこすっている時間にもかかわらず、20℃を越えてしまい、この日は天気予報通り夏日になることを覚悟せざるを得ないようだ。
とはいえ風や空気はまだまだ冷たく、心地よくサイクリングを楽しめるほど。参加者の方々もウィンドブレーカーを着ていたり、脱いでいたりと様々。第2エイドステーションの国定アルプスあづみの公園(大町・松川)のセンターゾーンまでの林間エリアは、陽の光が遮られ気温、風が良い塩梅でバランスが取れていて、軽く流していると非常に気持ちが良い。
第2エイドからの爽快な下り区間
ついに現れた後立山連峰!ダイナミックで壮観だ。春の信州に訪れるのはこれがあるからと言っても過言ではないはずだ
このエイドで用意されたネギ味噌オニギリも絶妙なタイミングでの登場だ。若干汗をかき失った塩分、これから気温が高まるに連れて失われるであろう塩分を補給しておくことができる。その上、「伝説の」と前置きされた定番ネギ味噌の他に、青唐辛子を加えた味噌、辛こしょうの麹味噌が用意されており、味覚でもオニギリを存分に楽しめるようになっている。
白米が大好きな私・藤原にとってこのエイドは至高の休憩ポイントだ。「おかわりしても大丈夫ですよー」というスタッフさんの声に甘え、今回は2つもオニギリを頂いてしまった。本当ならば満腹になるまで甘いお米と塩辛い味噌のハーモニーを楽しんでいたいのだけれど、気になるのはカロリーとサイクルトレインの出発時間。後ろ髪をひかれながら、泣く泣くエイドを後にしてしまった……。
第3エイドはお漬物バイキングだ。沢山の種類が用意されており、全てを盛っていたら大変な量に!
第2エイドを越えた頃から、現れる景色と気温とともに本番が始まる。気温は25℃にものぼりウィンドブレーカーを着用している人はほぼいなくなった。真夏日になることは前もって予想されていたので、私は日焼け止めを顔、首筋、腕、足へと塗り込んでいる。
ミッドシーズン用のアームカバーはできる限り外さない、サイクルキャップはツバを後ろに向けて首筋への直射日光を避けるという万全の準備と作戦で臨んでいるため、最高の快晴もどんと来いという気持ちだ。日焼けのダメージが尾を引くようになってしまったので、UVプロテクトをはじめたのはここだけの秘密にしておいて欲しい。
第3エイドをすぎると木崎湖の畔をのんびりと走行する
木崎湖の登りでは悪魔おじさんが応援してくれていた!元気をもらったという方も多くいた
景色の本番というのは、冠雪の山塊が目の前に迫るエリアに突入したため。これまでは森の奥に頂上が顔を覗かせる程度であったが、ここからは山体も拝めるようになる。岩肌と雪のコントラスト、図体の大きさをしっかりと感じられるのだ。後立山連峰の爺ヶ岳がまずサイクリストの前に姿を現す。これよ!これ!と参加者も思っていたのか、見晴らしの良いところでは記念撮影のために足を止める方が多い。
第3エイドの漬物バイキングでは、撮影のためにと思い全種類をお皿の上に乗せていったら、小さな丘かな?と思うほど大量になってしまった。失敗したかな?と思ったが、それぞれ味が異なるので、食べ飽きること無くペロリと完食。デザートの草餅で口直ししてから次へと向かう。
青木湖の畔を気持ちよく駆け抜けていく
仁科三湖エリアを通り抜けると白馬連山が姿を現す。ダイナミックな姿にテンションが上り雄叫びを上げる方も
松川と白馬連山がこのエリアのハイライトだろう
木崎湖と中綱湖、青木湖の仁科三湖畔を走行するために、素晴らしい山々とはしばしのお別れ。上り基調の道を踏み進め、ようやく下り坂になったと思った瞬間、白馬連山が目に飛び込んでくる。遥か彼方にそびえる壁のような山々を見たときの高揚感は思わず奇声を挙げてしまうほどだ。参加者の方も同じようで、ヒョオオオオオオ!と歓声を上げながら下っていく方も居た。
これから先は白馬連山を十二分に楽しむ時間だ。雄大な自然に囲まれた平坦路を気持ち良い速度で走る一時は至福である。透き通った雪解け水が流れる松川越しに白馬の山を見るというメインディッシュを味わった後は、約2km、4%のヒルクライムというスパイスの効いた登りをこなし白馬岩岳スノーフィールドへ転がり込む。
美味しい蕎麦をいただきます!
折り返し地点となる第4エイドは白馬岩岳スノーフィールドに構えられた
第4エイドでは信州名物のお蕎麦を頂く
サイクルトレインコースはエイドステーションの後、白馬駅集合となる
サイクルトレインコースはここまで到達できればほぼゴールと言っても過言ではない。最後に信州名物である蕎麦に舌鼓を打った後、白馬駅まで下り、電車に乗って松本市まで戻るだけなのだ。白馬駅は、地元の方が紫米を使用したお赤飯や地元で取れた山菜、お饅頭など振る舞ってくれるというエクストラ・エイドステーションとなっていた。他のコースにはないスペシャルなおもてなしを堪能できるなんてラッキーである。
自転車を積み込んでから出発までの時間を利用してお土産を買う方もいたりと、余裕のある楽しみ方ができるのもこのコースならでは。自分が白馬まで到達したという勲章を手にすれば達成感もひとしおだろう。
駅のホームに自転車を持ち込むのは新鮮な気分だ
一般車両に自転車を固定していく
白馬の紫米を使用したお赤飯が振る舞われた
白馬駅では地元の方がグルメを振る舞ってくれた
出発した列車内での過ごし方は、この日のライドを振り返る話に花を咲かせる方、流れていく白馬の山々をボーッと眺め黄昏れる方、朝イチから動き回った疲れを癒やすべく仮眠を取る方など様々。午前中に一生懸命走破した道を一気に戻るラグジュアリーな旅を満喫していたようだ。
一日市場駅からは約6kmを自走し、再び梓水苑へと戻っていく。MCアケさんとChocoさんに迎え入れてもらいながら、AACRサイクルトレインコースが終了する。完走証と「めでたい焼き」を受け取った参加者は一様に笑顔でいっぱいだ。普段は自転車に乗らないという子も約90kmを走りきった疲労いっぱいの様子だが、どこか達成感もある笑顔を見せてくれた。
80km超のライドを終えホット一息
一日市場駅からは再び自走で梓水苑を目指す
自転車を購入したタイミングでAACRの存在を知り、すぐさまエントリーしたという自転車歴3ヶ月の方も、「走りきれるかわからなかったし、めっちゃキツかったけど、楽しめました!」と言う。エイドステーションで振る舞われるグルメも満喫できたようで、これからもイベントを中心に楽しんでいきたいと、これから広がる自転車ライフに期待を寄せていた。
桜のAACRでは最短距離のサイクルトレインコースは、自転車を存分に楽しんできた方でも満喫できると私は感じた。時間に余裕があるからこそ、普段のライドより巡航速度を落とすことができ、景色に目を向けやすくなる。カメラを携えていけば思い出をたくさん記録に残すこともできる。イベントでは普段のライドとは異なる濃密でラグジュアリーな時間を過ごしてみてはいかがだろうか。
桜が咲く道を駆け抜けるとフィニッシュだ
完走証とめでたい焼きをもち記念撮影!
大会バナー前での撮影は大人気で長蛇の列をなしていた
text&photo:Gakuto Fujiwara

朝焼けに包まれる中、長野県松本市の梓水苑を飛び出していった桜のアルプスあづみのセンチュリーライドの150kmカテゴリーを走るライダー達。第1組がスタートしてもなお数多くの参加者たちは梓水苑で待機している。それもそのはず。この大会には約1500名近くがエントリーしており、大会は参加者や地域のみなさん全員が安全でいられるように、サイクリストを分散させてくれているのだ。
丸一日サドルの上で過ごすことになる健脚が集まるロングコース全3組のうち2組を見送った後に、白馬までのワンウェイをサイクリングで楽しみ、帰路は特別列車で揺られるサイクルトレインコースの方々がスタートする。時間は6時10分すぎ。天気予報は季節外れの暖かさとはいえ、まだまだ肌寒さを感じられるため防風ギアはマストだ。


160kmの参加者たちはいかにもロードバイク乗りという感じでウェアをバッチリ決めた方が多いように感じられたが、サイクルトレインコースは雰囲気は少し柔らかめ。数あるレジャーの1つとして自転車を選んでいるよう。サイクリングだからバイクジャージというルールは無いから、好きなものを着れば良い。なかにはAACRに参加するためにロードバイクを始め、今回の90kmのワンウェイサイクリングが「ビッグチャレンジ」という方や、親御さんがAACRに参加するのに一緒についてきたキッズなどが一生懸命にペダルを回しはじめた。
AACRのサイクルトレインコースも他カテゴリーと同様に白馬岩岳を目指していく北上ルートを走行する。走り出してみると朝の空気は体を一層シャキッとさせるほど冷たく、これから続く90kmのライドに向けて体と脳を再び叩き起こす。


日本のマッターホルンとも呼ばれ、数多くのアルピニストが足を運ぶ槍ヶ岳や穂高岳の雪解け水を運ぶ梓川の流れに沿って風が吹き付けてくるため、風が一層冷たく感じる。この風は、長距離ライドを敢行する我々に「シャンとせい!ボーっとしてたら危ないで!」と注意を促してくれていたのかもしれない。どんなライドも無事であることが最大のプライズであり、そこに心を癒やしてくれる風景などが加点されていくのだ。まだ見ぬ絶景への期待をペダルに込め、先へと急ぐ。




実は筆者の藤原は4年前のAACRに参加しており、その時の記憶を辿りながらライドとなる。インターネットではルートの変更情報などを追っており、なんとなくの雰囲気も掴んだつもりだった。しかし、実際に走ってみると五感から得られるものの多さに圧倒される。何気ない田園風景、果樹園を一直線に貫く日本アルプスサラダ街道全てが美しい。やはり外へ出ないと何もわからないのかもしれない。
県道25号塩尻鍋割穂高線、通称”山麓線”は北アルプスと安曇野の接点に続く道路であり、松本盆地の西端だ。この道が走る場所は犀川が流れる盆地中央部よりも標高が高く、朝もやのかかる安曇野エリアを所々見ることができる。工場の煙突から煙がもくもくと立ち上る様子を見ると、かつては民家から朝餉の支度をする煙だったのかなあなんて思ってしまう。朝の強い光線を浴びる町という綺麗な光景をそれほど力を掛けずに拝めるルートなんてなかなか無いはずだ。



スタートから20km走行したところでAACR一団は国営アルプスあづみの公園(堀金穂高地区)に構えられたエイドに駆け込むため県道25号線を離れる。進路を北から西へと変更すると雪を被った北アルプスの山が目に飛び込んでくる。あれはどの山だ?とテンションが上がってしまうのは、私の名前に「岳」の字がついているから自然と惹かれるのか、漫画「岳」のファンだからだろうか。いやいや、そんなことよりも、有難みを感じてしまうほど目の前に広がる絶景に圧倒されてしまう。
エイドステーション手前の眺望エリアで何時間も眺めていたいが、悲しいことにサイクルトレインの乗車時間は決まっている。そこにたどり着く必要があるためエイドステーションでジャムサンドを頂き、足早にエイドステーションを後にする。



所々で撮影のために足を止めると、体から汗がじわりと滲み出てきた。時間は朝8時前だと言うのに17℃、刻々にサイクルコンピューターが指し示す気温は上昇していき、9時頃には20℃近くまでに。日常ならまだ寝ぼけ眼をこすっている時間にもかかわらず、20℃を越えてしまい、この日は天気予報通り夏日になることを覚悟せざるを得ないようだ。
とはいえ風や空気はまだまだ冷たく、心地よくサイクリングを楽しめるほど。参加者の方々もウィンドブレーカーを着ていたり、脱いでいたりと様々。第2エイドステーションの国定アルプスあづみの公園(大町・松川)のセンターゾーンまでの林間エリアは、陽の光が遮られ気温、風が良い塩梅でバランスが取れていて、軽く流していると非常に気持ちが良い。


このエイドで用意されたネギ味噌オニギリも絶妙なタイミングでの登場だ。若干汗をかき失った塩分、これから気温が高まるに連れて失われるであろう塩分を補給しておくことができる。その上、「伝説の」と前置きされた定番ネギ味噌の他に、青唐辛子を加えた味噌、辛こしょうの麹味噌が用意されており、味覚でもオニギリを存分に楽しめるようになっている。
白米が大好きな私・藤原にとってこのエイドは至高の休憩ポイントだ。「おかわりしても大丈夫ですよー」というスタッフさんの声に甘え、今回は2つもオニギリを頂いてしまった。本当ならば満腹になるまで甘いお米と塩辛い味噌のハーモニーを楽しんでいたいのだけれど、気になるのはカロリーとサイクルトレインの出発時間。後ろ髪をひかれながら、泣く泣くエイドを後にしてしまった……。

第2エイドを越えた頃から、現れる景色と気温とともに本番が始まる。気温は25℃にものぼりウィンドブレーカーを着用している人はほぼいなくなった。真夏日になることは前もって予想されていたので、私は日焼け止めを顔、首筋、腕、足へと塗り込んでいる。
ミッドシーズン用のアームカバーはできる限り外さない、サイクルキャップはツバを後ろに向けて首筋への直射日光を避けるという万全の準備と作戦で臨んでいるため、最高の快晴もどんと来いという気持ちだ。日焼けのダメージが尾を引くようになってしまったので、UVプロテクトをはじめたのはここだけの秘密にしておいて欲しい。


景色の本番というのは、冠雪の山塊が目の前に迫るエリアに突入したため。これまでは森の奥に頂上が顔を覗かせる程度であったが、ここからは山体も拝めるようになる。岩肌と雪のコントラスト、図体の大きさをしっかりと感じられるのだ。後立山連峰の爺ヶ岳がまずサイクリストの前に姿を現す。これよ!これ!と参加者も思っていたのか、見晴らしの良いところでは記念撮影のために足を止める方が多い。
第3エイドの漬物バイキングでは、撮影のためにと思い全種類をお皿の上に乗せていったら、小さな丘かな?と思うほど大量になってしまった。失敗したかな?と思ったが、それぞれ味が異なるので、食べ飽きること無くペロリと完食。デザートの草餅で口直ししてから次へと向かう。



木崎湖と中綱湖、青木湖の仁科三湖畔を走行するために、素晴らしい山々とはしばしのお別れ。上り基調の道を踏み進め、ようやく下り坂になったと思った瞬間、白馬連山が目に飛び込んでくる。遥か彼方にそびえる壁のような山々を見たときの高揚感は思わず奇声を挙げてしまうほどだ。参加者の方も同じようで、ヒョオオオオオオ!と歓声を上げながら下っていく方も居た。
これから先は白馬連山を十二分に楽しむ時間だ。雄大な自然に囲まれた平坦路を気持ち良い速度で走る一時は至福である。透き通った雪解け水が流れる松川越しに白馬の山を見るというメインディッシュを味わった後は、約2km、4%のヒルクライムというスパイスの効いた登りをこなし白馬岩岳スノーフィールドへ転がり込む。




サイクルトレインコースはここまで到達できればほぼゴールと言っても過言ではない。最後に信州名物である蕎麦に舌鼓を打った後、白馬駅まで下り、電車に乗って松本市まで戻るだけなのだ。白馬駅は、地元の方が紫米を使用したお赤飯や地元で取れた山菜、お饅頭など振る舞ってくれるというエクストラ・エイドステーションとなっていた。他のコースにはないスペシャルなおもてなしを堪能できるなんてラッキーである。
自転車を積み込んでから出発までの時間を利用してお土産を買う方もいたりと、余裕のある楽しみ方ができるのもこのコースならでは。自分が白馬まで到達したという勲章を手にすれば達成感もひとしおだろう。




出発した列車内での過ごし方は、この日のライドを振り返る話に花を咲かせる方、流れていく白馬の山々をボーッと眺め黄昏れる方、朝イチから動き回った疲れを癒やすべく仮眠を取る方など様々。午前中に一生懸命走破した道を一気に戻るラグジュアリーな旅を満喫していたようだ。
一日市場駅からは約6kmを自走し、再び梓水苑へと戻っていく。MCアケさんとChocoさんに迎え入れてもらいながら、AACRサイクルトレインコースが終了する。完走証と「めでたい焼き」を受け取った参加者は一様に笑顔でいっぱいだ。普段は自転車に乗らないという子も約90kmを走りきった疲労いっぱいの様子だが、どこか達成感もある笑顔を見せてくれた。


自転車を購入したタイミングでAACRの存在を知り、すぐさまエントリーしたという自転車歴3ヶ月の方も、「走りきれるかわからなかったし、めっちゃキツかったけど、楽しめました!」と言う。エイドステーションで振る舞われるグルメも満喫できたようで、これからもイベントを中心に楽しんでいきたいと、これから広がる自転車ライフに期待を寄せていた。
桜のAACRでは最短距離のサイクルトレインコースは、自転車を存分に楽しんできた方でも満喫できると私は感じた。時間に余裕があるからこそ、普段のライドより巡航速度を落とすことができ、景色に目を向けやすくなる。カメラを携えていけば思い出をたくさん記録に残すこともできる。イベントでは普段のライドとは異なる濃密でラグジュアリーな時間を過ごしてみてはいかがだろうか。



text&photo:Gakuto Fujiwara
Amazon.co.jp