2017/10/21(土) - 09:08
さて、サイクリングイベントとは思えないレベルの蕎麦が供された第一エイド。「グル麺ライド」の名に恥じない麺のおいしさに、「早く次の麺を食べたい!」という思いでいっぱいになった私は足早に2つ目のエイドへと向かうのでした。山形と宮城をまたぐグルメロングライドイベントのレポート後編をお届けします。前編はこちらから
さて、満々と水を湛える七ヶ宿ダムのほとりにある道の駅・七ヶ宿を出発し、次に目指すのは2つ目のエイドとなる材木岩公園だ。交通量の少ない七ヶ宿ダムの右岸のルートは湖面も近く、その景色を堪能できる絶景ルート。宮城県内最大の規模を持つ七ヶ宿ダムの堤体を上から眺められるスポットもあり、記念撮影する方も。
その先のトンネルをくぐると、細い下り坂が現れる。斜度もかなりきついので少し気を付けて下った方がいいだろう。下り切ったら第二エイドの材木岩公園はすぐそこだ。材木岩とは、高さ100mにも及ぶ柱状節理によって形作られた断崖絶壁で、その岩肌が材木をならべたように見えることから名付けられたのだとか。
そんな材木岩を頂くようにして設けられたのが材木岩公園であり、古民家風のお土産屋さんや食事処が軒を連ねるレトロな雰囲気が魅力的なスポットだ。そんな第二エイドで振舞われたのは、白石市のご当地麺である「温麺(うーめん)」。初めてその名を聞く読者も多いだろう、かくいう私もその一人。
温麺とは、素麺の一種で通常生地を延ばすときに使う油を使わずに作るものなのだとか。そんな話を伺いつつ、手渡された温麺の見た目は確かにちょっと太めの素麺という印象。チャーシューと天かすがトッピングされているのがユニーク。温い麺と書いてうーめんなのだが、素麺の様に冷やして食べるのももちろんアリ。今回このエイドではあったかいものを頂いたのだけれど、そのあっさりさっぱりとした味ともっちりとした歯ごたえが素麺とは似て非なるものだと感じさせてくれる。
麺に油を使っていないからだろうか、チャーシューと天かすという油っぽいトッピングが逆にピッタリとマッチする。つるっと食べられる麺にボリューム感をプラスしてくれるこの組み合わせを考えた人は控えめに言って天才だろう。あっという間にぺろりと平らげ、しばし休憩モードに入る。
この先は通ってきた道を戻るというコースなのだが、先ほどの下りがかなり狭いため一度このエイドで参加者を集め、コースがクリアになってから再度出発するということになったのだ。トンネルの片側規制といい、潤沢なコーススタッフの配置といい、参加者の安全に対する配慮も非常に高いレベルにあることを感じる。初回大会だといろいろな問題も出てくるものだが、何よりも安全を優先する姿勢はとても好感を持てるところ。
さて、最後尾が材木岩公園へと到着したのを皆でお出迎えしたら、後半戦へと突入だ。コースとしては来た道を戻るのだけれど、途中の七ヶ宿ダムでは巨大な噴水が稼働して目を楽しませてくれるサプライズも。ちなみに七ヶ宿街道といわれる国道113号線は別名「みちのくおとぎ街道」とも呼ばれており、今回通過する4つの市町それぞれにゆかりの民話が存在するのだ。そのうちの一つ、振袖地蔵がコース脇に立っており、山形方面へと向かって走る参加者を優しい目で見守っていた。
おとぎ街道をひた走り、3つのトンネルを抜け(帰路もトンネル内は片側交通規制がかけられていた!)ると、小休止をとることが出来る休憩ポイントが再び現れる。蛭沢湖へと向かう登りの前に少し英気を養っていこうということで、ピットイン。ここで用意されていたのは、山形県といえばの大粒のシャインマスカット!
パンパンに身が詰まりはちきれそうな粒がいくつもついた房を頂き、ぱくり。プツンと薄皮が破れた瞬間にこれ以上ない甘い果汁が口いっぱいに広がっていく。ぷりぷりの果肉もたまらない、またしてもあっという間に頂いた分を食べつくしてしまう。美味しいのは麺だけではない、恐ろしいポテンシャルを持ったイベントであることを再認識しつつ、残る2つの麺を求めて再びコースへ。
蛭沢湖への緩やかな登りをこなせば、南陽市へのダウンヒル。ぶどうまつたけラインと、またまた食欲を刺激する名前が付けられた広域農道を走っていき、第3エイドのハイジアパーク南陽へ駆け込む。ここで振舞われるのはなんとラーメン。正直ラーメンがでてくるロングライドイベントというのは寡聞にして聞いたことがない。
気温もだいぶ高くなっていたこともあり、冷やしラーメンが心地よく胃の中に収まっていく。透明な醤油スープが、塩分を失いつつある身体にはまたじんわりとしみいるようで、スープまで完食する人もたくさん。その上デザートには、またもブドウが!ここではシャインマスカットにくわえ、安芸クィーン、高尾という3つの品種が用意され、それぞれに異なる味わいを楽しむことが出来た。
ちなみに南陽市はラーメン激戦区とのことだが、その中でも有名だというのが味噌スープに辛味噌を溶かして食べる赤湯ラーメン。コース脇には赤湯ラーメンの名店「龍上海」があり、この日も行列が出来ていた。地元出身のプロロードレーサーである土井雪広選手は、龍上海のラーメンはソウルフードというレベルで通い詰めていたのだとか。
さて、そんな南陽市名物を頂き、残すグル麺はあと一つ。リンゴ畑を通り過ぎ、熊野大社の休憩ポイントで巫女さん手ずから辛味噌玉こんにゃくをいただき、最後の麺に向かってフィニッシュ地点を目指していく。あたり一面に広がる金色の田園風景にこの上ない秋を感じつつ、ラストスパートだ。
8時間前に出発した高畠町文化ホールまほらに、120kmの旅を経て再び帰還。最後のスタンプをカードに押してもらって、受け取ったのは、「ひっぱりうどん」だ。馴染みのない方に説明すると、釜揚げのうどんを納豆やサバ缶、そして麺つゆなどと絡めて食べるというもの。なんでひっぱりなのかは諸説あるものの、私は納豆が糸をひくから、という説を信じている。
極めて個人的な話で恐縮だが、実は筆者、大学時代に過ごしたサイクリング部での朝食がほぼ必ずひっぱりうどんであり、思い出の味でもあるのだ。そんな懐かしの味を堪能すべくうどんを口へ運んだ瞬間、自分のひっぱりうどんに対する概念が物凄い勢いで書き換えられていくのを感じた。
ひとことで言うと美味い、美味すぎる。大学時代にひっぱりうどんと称してちょっと不満を抱えながらエネルギー補給のために食べていたのは、ひっぱりうどんの形式をなぞっただけの何かでした、全山形の人に謝りたい。むっちりとして食べ応えのある麺に、納豆の粘り気とサバ缶の濃厚な味が合わさり、渾然一体となる。ひっぱりうどんがこんなにも幸せな食べ物であったと5年越しに気づかされ、ちょっと涙ぐんでしまった。
定番の蕎麦に、郷土料理の温麺、ご当地名物のラーメンに、真の実力を教えてくれたひっぱりうどん。どれも勝るとも劣らない4つのグル麺たち、そしてリンゴやブドウといった山形ならではのフルーツが彩る「グル麺ライド」は初回大会ながらも、グルメライドとして一際大きな存在感を持つロングライドイベントだった。山形といえば米沢牛だとか、さくらんぼだとか有名なグルメは沢山あるけれど、教えてもらわないと出会えない地域自慢のローカルフード、自転車でなければ通り過ぎてしまいそうな煌く景色たち、そんなロングライドイベントならではの発見がたくさん詰まった大会として、来年はもっと人気を集めそうな予感がする。
text&photo:Naoki.Yasuoka
さて、満々と水を湛える七ヶ宿ダムのほとりにある道の駅・七ヶ宿を出発し、次に目指すのは2つ目のエイドとなる材木岩公園だ。交通量の少ない七ヶ宿ダムの右岸のルートは湖面も近く、その景色を堪能できる絶景ルート。宮城県内最大の規模を持つ七ヶ宿ダムの堤体を上から眺められるスポットもあり、記念撮影する方も。
その先のトンネルをくぐると、細い下り坂が現れる。斜度もかなりきついので少し気を付けて下った方がいいだろう。下り切ったら第二エイドの材木岩公園はすぐそこだ。材木岩とは、高さ100mにも及ぶ柱状節理によって形作られた断崖絶壁で、その岩肌が材木をならべたように見えることから名付けられたのだとか。
そんな材木岩を頂くようにして設けられたのが材木岩公園であり、古民家風のお土産屋さんや食事処が軒を連ねるレトロな雰囲気が魅力的なスポットだ。そんな第二エイドで振舞われたのは、白石市のご当地麺である「温麺(うーめん)」。初めてその名を聞く読者も多いだろう、かくいう私もその一人。
温麺とは、素麺の一種で通常生地を延ばすときに使う油を使わずに作るものなのだとか。そんな話を伺いつつ、手渡された温麺の見た目は確かにちょっと太めの素麺という印象。チャーシューと天かすがトッピングされているのがユニーク。温い麺と書いてうーめんなのだが、素麺の様に冷やして食べるのももちろんアリ。今回このエイドではあったかいものを頂いたのだけれど、そのあっさりさっぱりとした味ともっちりとした歯ごたえが素麺とは似て非なるものだと感じさせてくれる。
麺に油を使っていないからだろうか、チャーシューと天かすという油っぽいトッピングが逆にピッタリとマッチする。つるっと食べられる麺にボリューム感をプラスしてくれるこの組み合わせを考えた人は控えめに言って天才だろう。あっという間にぺろりと平らげ、しばし休憩モードに入る。
この先は通ってきた道を戻るというコースなのだが、先ほどの下りがかなり狭いため一度このエイドで参加者を集め、コースがクリアになってから再度出発するということになったのだ。トンネルの片側規制といい、潤沢なコーススタッフの配置といい、参加者の安全に対する配慮も非常に高いレベルにあることを感じる。初回大会だといろいろな問題も出てくるものだが、何よりも安全を優先する姿勢はとても好感を持てるところ。
さて、最後尾が材木岩公園へと到着したのを皆でお出迎えしたら、後半戦へと突入だ。コースとしては来た道を戻るのだけれど、途中の七ヶ宿ダムでは巨大な噴水が稼働して目を楽しませてくれるサプライズも。ちなみに七ヶ宿街道といわれる国道113号線は別名「みちのくおとぎ街道」とも呼ばれており、今回通過する4つの市町それぞれにゆかりの民話が存在するのだ。そのうちの一つ、振袖地蔵がコース脇に立っており、山形方面へと向かって走る参加者を優しい目で見守っていた。
おとぎ街道をひた走り、3つのトンネルを抜け(帰路もトンネル内は片側交通規制がかけられていた!)ると、小休止をとることが出来る休憩ポイントが再び現れる。蛭沢湖へと向かう登りの前に少し英気を養っていこうということで、ピットイン。ここで用意されていたのは、山形県といえばの大粒のシャインマスカット!
パンパンに身が詰まりはちきれそうな粒がいくつもついた房を頂き、ぱくり。プツンと薄皮が破れた瞬間にこれ以上ない甘い果汁が口いっぱいに広がっていく。ぷりぷりの果肉もたまらない、またしてもあっという間に頂いた分を食べつくしてしまう。美味しいのは麺だけではない、恐ろしいポテンシャルを持ったイベントであることを再認識しつつ、残る2つの麺を求めて再びコースへ。
蛭沢湖への緩やかな登りをこなせば、南陽市へのダウンヒル。ぶどうまつたけラインと、またまた食欲を刺激する名前が付けられた広域農道を走っていき、第3エイドのハイジアパーク南陽へ駆け込む。ここで振舞われるのはなんとラーメン。正直ラーメンがでてくるロングライドイベントというのは寡聞にして聞いたことがない。
気温もだいぶ高くなっていたこともあり、冷やしラーメンが心地よく胃の中に収まっていく。透明な醤油スープが、塩分を失いつつある身体にはまたじんわりとしみいるようで、スープまで完食する人もたくさん。その上デザートには、またもブドウが!ここではシャインマスカットにくわえ、安芸クィーン、高尾という3つの品種が用意され、それぞれに異なる味わいを楽しむことが出来た。
ちなみに南陽市はラーメン激戦区とのことだが、その中でも有名だというのが味噌スープに辛味噌を溶かして食べる赤湯ラーメン。コース脇には赤湯ラーメンの名店「龍上海」があり、この日も行列が出来ていた。地元出身のプロロードレーサーである土井雪広選手は、龍上海のラーメンはソウルフードというレベルで通い詰めていたのだとか。
さて、そんな南陽市名物を頂き、残すグル麺はあと一つ。リンゴ畑を通り過ぎ、熊野大社の休憩ポイントで巫女さん手ずから辛味噌玉こんにゃくをいただき、最後の麺に向かってフィニッシュ地点を目指していく。あたり一面に広がる金色の田園風景にこの上ない秋を感じつつ、ラストスパートだ。
8時間前に出発した高畠町文化ホールまほらに、120kmの旅を経て再び帰還。最後のスタンプをカードに押してもらって、受け取ったのは、「ひっぱりうどん」だ。馴染みのない方に説明すると、釜揚げのうどんを納豆やサバ缶、そして麺つゆなどと絡めて食べるというもの。なんでひっぱりなのかは諸説あるものの、私は納豆が糸をひくから、という説を信じている。
極めて個人的な話で恐縮だが、実は筆者、大学時代に過ごしたサイクリング部での朝食がほぼ必ずひっぱりうどんであり、思い出の味でもあるのだ。そんな懐かしの味を堪能すべくうどんを口へ運んだ瞬間、自分のひっぱりうどんに対する概念が物凄い勢いで書き換えられていくのを感じた。
ひとことで言うと美味い、美味すぎる。大学時代にひっぱりうどんと称してちょっと不満を抱えながらエネルギー補給のために食べていたのは、ひっぱりうどんの形式をなぞっただけの何かでした、全山形の人に謝りたい。むっちりとして食べ応えのある麺に、納豆の粘り気とサバ缶の濃厚な味が合わさり、渾然一体となる。ひっぱりうどんがこんなにも幸せな食べ物であったと5年越しに気づかされ、ちょっと涙ぐんでしまった。
定番の蕎麦に、郷土料理の温麺、ご当地名物のラーメンに、真の実力を教えてくれたひっぱりうどん。どれも勝るとも劣らない4つのグル麺たち、そしてリンゴやブドウといった山形ならではのフルーツが彩る「グル麺ライド」は初回大会ながらも、グルメライドとして一際大きな存在感を持つロングライドイベントだった。山形といえば米沢牛だとか、さくらんぼだとか有名なグルメは沢山あるけれど、教えてもらわないと出会えない地域自慢のローカルフード、自転車でなければ通り過ぎてしまいそうな煌く景色たち、そんなロングライドイベントならではの発見がたくさん詰まった大会として、来年はもっと人気を集めそうな予感がする。
text&photo:Naoki.Yasuoka
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