2016/06/08(水) - 08:34
4月、山梨県南アルプス市に世界でも類を見ない会員制のMTBトレイルがオープンした。入会条件は地域との関係を理解し、マナーを身につけた人。地域に歓迎され、暖かく迎えられるフリーライドトレイルだ。首都圏からも近い期待のフィールドを紹介しよう。
4月下旬、山梨県南アルプス市に60人のマウンテンバイカーが集まった。この日からオープンするMTBトレイルのお披露目イベントに参加するためだ。平日の水曜日だというのに、MTB界に身をおく輪界人たちの熱い期待を集めていたのだ。
この新たなMTBフィールドのこれまで歩みについては、昨年11月末に仮オープンした際の走行会の模様を以下の記事で紹介している。
(※:記事「アルプス市櫛形山・里山トレイルをオープンにするために 山梨県・南アルプス市からの第一歩)
当日はオープン前に最後の体験走行ができる日ということで、地元関係者も総出で参加者たちを迎えた。
この「櫛形山トレイル」は、冒険家でフリーライディングの第一人者マット・ハンター(カナダ)が走ったことでも知られる。その様子の動画「Trail Hunter Japan」は日本の名トレイル数箇所を紹介、櫛形山トレイルはその一番目に登場する。
マット・ハンターをして「ゴキゲンなルートだな」と唸らせた櫛形山トレイル。1年半を経た一般公開ということでも期待が集まる。この日、集まった人たちの多くは近県の有名MTBショップの店長ライダーやトレイルでのライドツアーを生業とするMTBガイド、インストラクター達など。この地での試み、そして今後に期待を寄せる人たちだ。
地域の物産を扱うコミュニティスペース「ほたるみ館」が拠点となり、お披露目イベントはスタートした。
中心人物の『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の弭間亮(はずまりょう)さんをはじめ、地元自治体の関係者らによる挨拶で、これまでの道のりが語られた。
簡単に経緯を綴ると、この地に惚れ込んだ弭間さんらが2年半の歳月をかけて櫛形山に昔から残る古道を再生し、ルートをつくってきた。MTBで走れるように地元と対話しながら、地域の人達にも歓迎され、MTBが地域活性にもつながるという関係づくりを進めてきた。そして晴れて会員制のトレイルとして一般に公開されることになったのだ。
MTBトレイルといっても、ゴンドラ等があるわけでもなく、ごく自然に近いフィールドでMTBに乗れるルートになっている。トレイルは現在のところ2本。櫛形山の中腹から下るかたちで走るため、下界からは舗装路を使って約5kmの自走ヒルクライムでアプローチする必要がある。
そのアプローチは5kmで約500mを登る勾配のあるコースとなるため、ペダルアップの場合はそれなりの走力が求められる(仲間と一緒ならトランポにMTBを積んで乗り合いで登ることができる)。
また、トレイルもテクニカルな下りを楽しむというものであるため、中上級の腕前が求められる。これらの点で今回紹介するトレイルはMTB初心者に勧められるものではない。初心者向けのトレイルは低地に整備済みで、基礎練習ができる場所もあり、さらに面白くなるように改良をしていく予定だという。
筆者も取材とはいえプライベートで加入しているMTBクラブの仲間たちと一緒に現地入りし、グループで参加した。まず実走1本目は自走でアプローチした。曇っていたため暑くはなかったが、大量の汗をかきつつのペダルアップに要した時間は50分ほど。XCレースが走れるレベルの人でも40分はかかるだろう。オトナは1時間ぐらいみておきたい。
トレイルの入り口は会員になれば教えてもらえるが、場所が特定できる写真やGPSログの公開は控えるのが原則。今回公開されたのは2ルート。1つはUの字型のハーフパイプ系トレイルが続き、丸太よけセクションなどもある下りの楽しいルート。もう1つは無数の180°ターンのスイッチバックと、途中に人工バームや橋があるルート。どちらも木々の合間を走るシングルトラックが様々な表情で待ち受ける。
テクニックをフルに使って下るのが楽しい。整地されているためクロカン系MTBでも楽しめるが、やはりオールマウンテン〜フリーライド系の下りバイクがより楽しい。ただしDHバイクの使用は会則で禁止になっている。
弭間さんらスタッフはこの日もコース整備をしていた。走るのに飽きたらこれに参加するのもありということで、バイクをスコップに持ち替えてトレイル整地に精を出すのもまた楽しいというもの。入会する条件として、このコース整備も体験必須だそうだ。
会員制トレイルという形態は、世界のトレイルを知り尽くした西脇仁哉さん(Chromag)らに聞いても心あたりがないということだった。おそらく世界でも類を見ない運営形態だ。弭間さんは次のように説明する。
「会員制トレイルにしたのは、無料開放にしてしまうと常設コースのようにガンガン路面が削れてしまい、維持管理が不可能になることが想定されたからです。また、むやみにスピードを出して走って事故を起こすと閉鎖に追い込まれてしまいます。会員制にし、やや敷居を高くすることでルールを徹底すれば何倍も維持しやすくなっていくからです。
いずれMTBが必要とされる存在となり、行政からも支援されるような時代が来るまでは僕たちのようなボランティアで維持していくしかありません。その維持費が必要になるという意味でも、どうしても会員制にしなければならないのです。これはまだまだ発展途上である日本のMTB文化ゆえのスタイルということだと思います。いずれは一般開放できるような時代が来るのを夢見て日々活動しています。
入会するには、『説明会』という名の整備&ライドもしくは地域活動を一日、スタッフと一緒に体験していただきます。楽しいはずです!(笑)。そのなかで会員についての様々なことをお伝えします。使わせていただいている山について、地域との関係、道づくりと維持管理について、実際の整備についてなど。もちろん移動はMTBですので、移動手段としてライドを普通に楽しんでいただけます。そして当会の趣旨やルールを理解・賛同していただけたら入会することができます」。
入会先は「南アルプス山麓いやしの里づくりの会」となり、会費は1万円だ。そのなかには地元の特産品約4,000円ぶんが含まれており、手元に届けられるという(これが非常にお値打ちだそうだ)。ちなみに本業がモンベルの社員である弭間さんらは、会社の休日やプライベート時間を利用して活動するボランティアとして会の運営を支える仕組みだ。
弭間さんは言う。「地元の人たちとコミュニケーションを取って、楽しく地域のことを理解して、役に立てることがあればやろうというノリでやってきました。声をかける=ナンパと呼んでいますが、地元のおじさん、おばちゃんをナンパしまくってきた結果、地域といい関係づくりができました。
人とつながって、地域のためにできることをして、その合間にトレイルの整備をしてMTBで走る。人が入るようになると、山が復活していくんです。以前は倒木が多くて荒れていた山が生き返る。
外から人がやってきて「遊ぶのが楽しい」と、移住する人が出てきたり、地元の魅力に気づいた人が楽しむようになって活性化する。すると、過疎にも歯止めがかかる。MTBが地域に欠かせない存在になるといいですね。ここだけでは小さな力だけど、全国のMTB関係者が同じ方向を向けば、面白い方に進めると思います」。
副代表の佐藤達哉さんは去年の12月からこの地にひとり移住し、普段は農業や山岳ガイドなどをしながら活動している。
「地域の人たちが暖かいんです。山にいると『何しているの』と声をかけられます。僕らがしているのは、MTBトレイルを造るというより『ずり引き道』などと呼ばれる、先祖代々使われてきた古道を再生していくこと。放っておくと荒れたり崩れたりして無くなってしまうけど、手を入れて通れるようにすると、地元の人たちも『オラの爺ちゃんが通っていた道を綺麗にしてくれるんだったら歩いてみるか』と、山に入ってくれるようになるんです。
山の中に残っている古道を、後世に残すために手を入れて、それをMTB遊びでも利用させてもらうという基本理念のもとにやっています。トレイルとしては非常に楽しいので、存分に楽しめますよ」。
4月末のオープンから、会は順調に運営されているようだ。東京からも2時間以内の好アクセスで、遠隔地という印象はない。昨今、トレイルランの大流行やハイカーの増加も問題を悪化させ、マウンテンバイカーも行き場を無くしているのが現状だ。トレイルを走るには地権者(山の持ち主)の合意がなければならないもの。そういう意味ではMTBゲレンデやパーク、コースといった施設はありがたい存在だ。櫛形山トレイルはそのひとつの解決策として条件をクリアしたフィールドになる。
たしかに会員制というのは少し敷居が高いと感じるかもしれないが、入会すればそこはMTBゲレンデという以上に「第2のふるさと」という存在になりそうだ。
photo&text:綾野 真
4月下旬、山梨県南アルプス市に60人のマウンテンバイカーが集まった。この日からオープンするMTBトレイルのお披露目イベントに参加するためだ。平日の水曜日だというのに、MTB界に身をおく輪界人たちの熱い期待を集めていたのだ。
この新たなMTBフィールドのこれまで歩みについては、昨年11月末に仮オープンした際の走行会の模様を以下の記事で紹介している。
(※:記事「アルプス市櫛形山・里山トレイルをオープンにするために 山梨県・南アルプス市からの第一歩)
当日はオープン前に最後の体験走行ができる日ということで、地元関係者も総出で参加者たちを迎えた。
この「櫛形山トレイル」は、冒険家でフリーライディングの第一人者マット・ハンター(カナダ)が走ったことでも知られる。その様子の動画「Trail Hunter Japan」は日本の名トレイル数箇所を紹介、櫛形山トレイルはその一番目に登場する。
マット・ハンターをして「ゴキゲンなルートだな」と唸らせた櫛形山トレイル。1年半を経た一般公開ということでも期待が集まる。この日、集まった人たちの多くは近県の有名MTBショップの店長ライダーやトレイルでのライドツアーを生業とするMTBガイド、インストラクター達など。この地での試み、そして今後に期待を寄せる人たちだ。
地域の物産を扱うコミュニティスペース「ほたるみ館」が拠点となり、お披露目イベントはスタートした。
中心人物の『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の弭間亮(はずまりょう)さんをはじめ、地元自治体の関係者らによる挨拶で、これまでの道のりが語られた。
簡単に経緯を綴ると、この地に惚れ込んだ弭間さんらが2年半の歳月をかけて櫛形山に昔から残る古道を再生し、ルートをつくってきた。MTBで走れるように地元と対話しながら、地域の人達にも歓迎され、MTBが地域活性にもつながるという関係づくりを進めてきた。そして晴れて会員制のトレイルとして一般に公開されることになったのだ。
MTBトレイルといっても、ゴンドラ等があるわけでもなく、ごく自然に近いフィールドでMTBに乗れるルートになっている。トレイルは現在のところ2本。櫛形山の中腹から下るかたちで走るため、下界からは舗装路を使って約5kmの自走ヒルクライムでアプローチする必要がある。
そのアプローチは5kmで約500mを登る勾配のあるコースとなるため、ペダルアップの場合はそれなりの走力が求められる(仲間と一緒ならトランポにMTBを積んで乗り合いで登ることができる)。
また、トレイルもテクニカルな下りを楽しむというものであるため、中上級の腕前が求められる。これらの点で今回紹介するトレイルはMTB初心者に勧められるものではない。初心者向けのトレイルは低地に整備済みで、基礎練習ができる場所もあり、さらに面白くなるように改良をしていく予定だという。
筆者も取材とはいえプライベートで加入しているMTBクラブの仲間たちと一緒に現地入りし、グループで参加した。まず実走1本目は自走でアプローチした。曇っていたため暑くはなかったが、大量の汗をかきつつのペダルアップに要した時間は50分ほど。XCレースが走れるレベルの人でも40分はかかるだろう。オトナは1時間ぐらいみておきたい。
トレイルの入り口は会員になれば教えてもらえるが、場所が特定できる写真やGPSログの公開は控えるのが原則。今回公開されたのは2ルート。1つはUの字型のハーフパイプ系トレイルが続き、丸太よけセクションなどもある下りの楽しいルート。もう1つは無数の180°ターンのスイッチバックと、途中に人工バームや橋があるルート。どちらも木々の合間を走るシングルトラックが様々な表情で待ち受ける。
テクニックをフルに使って下るのが楽しい。整地されているためクロカン系MTBでも楽しめるが、やはりオールマウンテン〜フリーライド系の下りバイクがより楽しい。ただしDHバイクの使用は会則で禁止になっている。
弭間さんらスタッフはこの日もコース整備をしていた。走るのに飽きたらこれに参加するのもありということで、バイクをスコップに持ち替えてトレイル整地に精を出すのもまた楽しいというもの。入会する条件として、このコース整備も体験必須だそうだ。
会員制トレイルという形態は、世界のトレイルを知り尽くした西脇仁哉さん(Chromag)らに聞いても心あたりがないということだった。おそらく世界でも類を見ない運営形態だ。弭間さんは次のように説明する。
「会員制トレイルにしたのは、無料開放にしてしまうと常設コースのようにガンガン路面が削れてしまい、維持管理が不可能になることが想定されたからです。また、むやみにスピードを出して走って事故を起こすと閉鎖に追い込まれてしまいます。会員制にし、やや敷居を高くすることでルールを徹底すれば何倍も維持しやすくなっていくからです。
いずれMTBが必要とされる存在となり、行政からも支援されるような時代が来るまでは僕たちのようなボランティアで維持していくしかありません。その維持費が必要になるという意味でも、どうしても会員制にしなければならないのです。これはまだまだ発展途上である日本のMTB文化ゆえのスタイルということだと思います。いずれは一般開放できるような時代が来るのを夢見て日々活動しています。
入会するには、『説明会』という名の整備&ライドもしくは地域活動を一日、スタッフと一緒に体験していただきます。楽しいはずです!(笑)。そのなかで会員についての様々なことをお伝えします。使わせていただいている山について、地域との関係、道づくりと維持管理について、実際の整備についてなど。もちろん移動はMTBですので、移動手段としてライドを普通に楽しんでいただけます。そして当会の趣旨やルールを理解・賛同していただけたら入会することができます」。
入会先は「南アルプス山麓いやしの里づくりの会」となり、会費は1万円だ。そのなかには地元の特産品約4,000円ぶんが含まれており、手元に届けられるという(これが非常にお値打ちだそうだ)。ちなみに本業がモンベルの社員である弭間さんらは、会社の休日やプライベート時間を利用して活動するボランティアとして会の運営を支える仕組みだ。
弭間さんは言う。「地元の人たちとコミュニケーションを取って、楽しく地域のことを理解して、役に立てることがあればやろうというノリでやってきました。声をかける=ナンパと呼んでいますが、地元のおじさん、おばちゃんをナンパしまくってきた結果、地域といい関係づくりができました。
人とつながって、地域のためにできることをして、その合間にトレイルの整備をしてMTBで走る。人が入るようになると、山が復活していくんです。以前は倒木が多くて荒れていた山が生き返る。
外から人がやってきて「遊ぶのが楽しい」と、移住する人が出てきたり、地元の魅力に気づいた人が楽しむようになって活性化する。すると、過疎にも歯止めがかかる。MTBが地域に欠かせない存在になるといいですね。ここだけでは小さな力だけど、全国のMTB関係者が同じ方向を向けば、面白い方に進めると思います」。
副代表の佐藤達哉さんは去年の12月からこの地にひとり移住し、普段は農業や山岳ガイドなどをしながら活動している。
「地域の人たちが暖かいんです。山にいると『何しているの』と声をかけられます。僕らがしているのは、MTBトレイルを造るというより『ずり引き道』などと呼ばれる、先祖代々使われてきた古道を再生していくこと。放っておくと荒れたり崩れたりして無くなってしまうけど、手を入れて通れるようにすると、地元の人たちも『オラの爺ちゃんが通っていた道を綺麗にしてくれるんだったら歩いてみるか』と、山に入ってくれるようになるんです。
山の中に残っている古道を、後世に残すために手を入れて、それをMTB遊びでも利用させてもらうという基本理念のもとにやっています。トレイルとしては非常に楽しいので、存分に楽しめますよ」。
4月末のオープンから、会は順調に運営されているようだ。東京からも2時間以内の好アクセスで、遠隔地という印象はない。昨今、トレイルランの大流行やハイカーの増加も問題を悪化させ、マウンテンバイカーも行き場を無くしているのが現状だ。トレイルを走るには地権者(山の持ち主)の合意がなければならないもの。そういう意味ではMTBゲレンデやパーク、コースといった施設はありがたい存在だ。櫛形山トレイルはそのひとつの解決策として条件をクリアしたフィールドになる。
たしかに会員制というのは少し敷居が高いと感じるかもしれないが、入会すればそこはMTBゲレンデという以上に「第2のふるさと」という存在になりそうだ。
photo&text:綾野 真
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