2016/03/22(火) - 07:55
マヨルカ島はこの日、いつもの輝くような太陽は姿を見せず、代わりに冷たい雨と風が吹き荒れた。それでも走りに行こうというのか? 宮澤崇史さんはraphaトラベルのグループとともに岬を目指すライドに出かけた。
アルクーディアは島の最北端に近く、紀元前2千年からある古い街だという。旧市街は城壁で囲まれている。私達が5日間を過ごしたアパルトメントもこの広場に面していた。
人々がゆったりとした時間を過ごしている、スペインらしい街だ。しかし今日は昨日までとは打って変わって朝から横殴りの雨が吹きつけるあいにくの天候。今日はライドの予定だったが、どうなるのだろう。
朝の集合時間近くに朝食を摂りに階下へ行くと、当然のようにライドの用意をする仲間たち。しまった。raphaはこういう時こそ走るブランド。raphaトラベルのゲストたちも、そのraphaの世界観どおりのメンタルの強さをもつツワモノたちが集まっているようだ(笑)。
気持ちを落としている暇はない。パンにしっかりとバターをたっぷり塗って胃に詰め込み、走る準備をする。集合場所に行くと、待ってましたとばかりに新作シャドージャージを渡され、試着する。ほぼ完全防水に近いこのジャージの存在は知ってはいたものの、使ったことはなかった。こんな冷たい雨の日は絶好のテスト日和だ。悪くない。
小雨の降る街を走りだしたながら、「なんとかこのまま悪化しないでくれよ」と心の中で願いながら、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニア各地から集まった20名ほどの仲間たちとスタートした。
アルクーディアから40kmほど北に半島があり、その先の先端にフォルメントル岬がある。まずはそこが目指すべき第1ポイントだ。
途中、アップダウンが激しく、平均勾配5%ほどの丘が4kmほど続く。この丘の頂上にはミラドールコロメールという展望スポットがある。標高400mほどの頂上から向こうは断崖絶壁。そして地中海の海が一望できる。
海岸沿いはグリーンで海の底がはっきりと見えるほど透明度が高い。しかしすぐ20m先からは濃い青の海となる。さすがに泳ぐような時期ではないが、この島に生まれ育ったなら、もしかしたら行きたいと思うかもしれない。
針葉樹が続く海岸沿いは風が強い。この先にある何かのために、今はただ進むだけ。皆、吹き付ける雨と風のなか、淡々とペダルを回す。寡黙な時間が続く。
岬に近くなると樹木はほぼなくなり、風が強く岩肌に当たった風は前から左から容赦なく襲ってくる。時折吹く海風は突風になることもあり、高いディープリムではハンドルが持ってかれそうになる。ヨーロッパの風は乾燥している土地では向かい風も軽いが、湿度のある場所では風が重く感じることをまさにこの時体感した。
折り返しは岬のちょっと手前。さすがに風が強く、その先は危なかっただろう。
チームスカイが使っているSISのバーとジェルをサポートバンからもらい、食べる。「あ〜、懐かしい。選手の時はよくこんなもの食べていたな〜」と、そんな気持ちになった。
帰り道は追い風で一気に進んでいく。雨脚も強くなり、手足、頭はびしょ濡れ状態だ。昼近くになった頃、ようやく待ちに待ったピッツェリアに入る。
店内には暖炉があった。寒さに凍えている子羊が群がるように、みんな一斉に暖炉脇で温まる。濡れたジャージから湯気が立ち上るが、「冷えきって一向に温まりゃしない」と誰かがぼやいた。
でも、自分はそれほど辛い感じはなかった。なぜなら身体は濡れていなかったのだ。そういえばシャドージャージは雨粒を弾いてしまうため、長く走ったというのに身体はまったく濡れていないのだ。ジャージ自体もすぐに乾いてくれて、再出発した時は完全に乾いてくれていた。
濡れていないから乾くのが早いのは当たり前なのだが、この当たり前を現実として受け止めるのに「何故だろう?」と考えてしまうところが、自分も歳をとったのだろうか(笑)。
さて、暖かいピッツァが迎えてくれるはずが、昼間はピッツァはやっていないらしく、残念だがパスタでお腹を温めた。こんなヨーロッパらしいやる気の無いレストランに「いつも通りだよな〜」って、そんな気持ちになってしまう。ここはスペインだし。
ランチの後も雨はいっこうに止む気配を見せず、せっかく温めた身体を再び雨のなかへと走らせる。クルマの来ないローカル道を選び、おしゃべりを楽しみながら走る。
アルクーディアが近づいてくると、自然に集団のペースが上がりだす。どうやらスプリント合戦になる気配だ。最後はraphaトラベルを自走でガイドするイタリア人のマッティアと掛け合いになり、最後は自分がモノにした。さすが走ることが仕事の彼。手ごわかったが、負けるワケにはいかない(笑)。
ホテルに着くと、お約束のように雨は上がった。ライド2日目はこうして雨のライドとなったが、マヨルカらしい場所をライドできて、久しぶりにワクワクしたサイクリングだった。
アルクーディアでは、ハモンセラーノと美味しいワインを探して街に出てみた。ゴキゲンな店はすぐに見つかった。肉屋とチーズ屋、ワイン屋を兼ねた小綺麗なショップが、アパルトマンからすぐ近くにあったのだ。
手頃なハモンセラーノとワインを買って、アパルトマンで食べよう。ついでにワイングラスも購入した。旅に出ると、ついワイングラスを買ってしまう。ハモンセラーノもサラミもチーズも、どれも良質なのに驚くほど安かった。これは外せない旅の楽しみだ。
文:宮澤崇史
写真:綾野 真
story:Takashi.MIYAZAWA
photography&edit:Makoto.AYANO
宮澤崇史プロフィール
1978年2月27日生まれ 長野県出身 自転車プロロードレーサー(2014年引退)
高校卒業後、イタリアのチームに所属しロードレーサーとしての経験を積む。しかし23歳の時に母に肝臓の一部を生体移植で提供、成績振るわず戦力外通告によりチーム解雇される。その後フランスで単独活動、オリンピック出場や 日本チャンピオン、アジアチャンピオンなど実績を重ねる。イタリアのアミーカチップス、ファルネーゼヴィーニを経て34歳の時にUCIプロチーム サクソバンクに所属。在籍中にリーダージャージ(個人総合時間賞)・ポイントジャージ(スプリントポイント賞)に日本人選手として唯一袖を通した。18年間の海外レース活動を経て、2014年に引退。現在はチームマネジメントやコーチング、スポーツサイクリング関連のアドバイザーやメディア出演など多方面で活躍。
【主な戦歴】
2006年〜2007年 ツール・ド・おきなわ 大会史上初の2年連続優勝
2007年 アジア選手権ロード優勝 アジアチャンピオン
2008年 北京オリンピック出場
2008〜2009年 ツール・ド・北海道 大会史上初2年連続総合優勝
2010年 全日本選手権ロードレース優勝
2010年 アジア大会ロード出場(アジアオリンピック)銀メダル獲得
オフィシャルサイト:bravo
アルクーディアは島の最北端に近く、紀元前2千年からある古い街だという。旧市街は城壁で囲まれている。私達が5日間を過ごしたアパルトメントもこの広場に面していた。
人々がゆったりとした時間を過ごしている、スペインらしい街だ。しかし今日は昨日までとは打って変わって朝から横殴りの雨が吹きつけるあいにくの天候。今日はライドの予定だったが、どうなるのだろう。
朝の集合時間近くに朝食を摂りに階下へ行くと、当然のようにライドの用意をする仲間たち。しまった。raphaはこういう時こそ走るブランド。raphaトラベルのゲストたちも、そのraphaの世界観どおりのメンタルの強さをもつツワモノたちが集まっているようだ(笑)。
気持ちを落としている暇はない。パンにしっかりとバターをたっぷり塗って胃に詰め込み、走る準備をする。集合場所に行くと、待ってましたとばかりに新作シャドージャージを渡され、試着する。ほぼ完全防水に近いこのジャージの存在は知ってはいたものの、使ったことはなかった。こんな冷たい雨の日は絶好のテスト日和だ。悪くない。
小雨の降る街を走りだしたながら、「なんとかこのまま悪化しないでくれよ」と心の中で願いながら、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニア各地から集まった20名ほどの仲間たちとスタートした。
アルクーディアから40kmほど北に半島があり、その先の先端にフォルメントル岬がある。まずはそこが目指すべき第1ポイントだ。
途中、アップダウンが激しく、平均勾配5%ほどの丘が4kmほど続く。この丘の頂上にはミラドールコロメールという展望スポットがある。標高400mほどの頂上から向こうは断崖絶壁。そして地中海の海が一望できる。
海岸沿いはグリーンで海の底がはっきりと見えるほど透明度が高い。しかしすぐ20m先からは濃い青の海となる。さすがに泳ぐような時期ではないが、この島に生まれ育ったなら、もしかしたら行きたいと思うかもしれない。
針葉樹が続く海岸沿いは風が強い。この先にある何かのために、今はただ進むだけ。皆、吹き付ける雨と風のなか、淡々とペダルを回す。寡黙な時間が続く。
岬に近くなると樹木はほぼなくなり、風が強く岩肌に当たった風は前から左から容赦なく襲ってくる。時折吹く海風は突風になることもあり、高いディープリムではハンドルが持ってかれそうになる。ヨーロッパの風は乾燥している土地では向かい風も軽いが、湿度のある場所では風が重く感じることをまさにこの時体感した。
折り返しは岬のちょっと手前。さすがに風が強く、その先は危なかっただろう。
チームスカイが使っているSISのバーとジェルをサポートバンからもらい、食べる。「あ〜、懐かしい。選手の時はよくこんなもの食べていたな〜」と、そんな気持ちになった。
帰り道は追い風で一気に進んでいく。雨脚も強くなり、手足、頭はびしょ濡れ状態だ。昼近くになった頃、ようやく待ちに待ったピッツェリアに入る。
店内には暖炉があった。寒さに凍えている子羊が群がるように、みんな一斉に暖炉脇で温まる。濡れたジャージから湯気が立ち上るが、「冷えきって一向に温まりゃしない」と誰かがぼやいた。
でも、自分はそれほど辛い感じはなかった。なぜなら身体は濡れていなかったのだ。そういえばシャドージャージは雨粒を弾いてしまうため、長く走ったというのに身体はまったく濡れていないのだ。ジャージ自体もすぐに乾いてくれて、再出発した時は完全に乾いてくれていた。
濡れていないから乾くのが早いのは当たり前なのだが、この当たり前を現実として受け止めるのに「何故だろう?」と考えてしまうところが、自分も歳をとったのだろうか(笑)。
さて、暖かいピッツァが迎えてくれるはずが、昼間はピッツァはやっていないらしく、残念だがパスタでお腹を温めた。こんなヨーロッパらしいやる気の無いレストランに「いつも通りだよな〜」って、そんな気持ちになってしまう。ここはスペインだし。
ランチの後も雨はいっこうに止む気配を見せず、せっかく温めた身体を再び雨のなかへと走らせる。クルマの来ないローカル道を選び、おしゃべりを楽しみながら走る。
アルクーディアが近づいてくると、自然に集団のペースが上がりだす。どうやらスプリント合戦になる気配だ。最後はraphaトラベルを自走でガイドするイタリア人のマッティアと掛け合いになり、最後は自分がモノにした。さすが走ることが仕事の彼。手ごわかったが、負けるワケにはいかない(笑)。
ホテルに着くと、お約束のように雨は上がった。ライド2日目はこうして雨のライドとなったが、マヨルカらしい場所をライドできて、久しぶりにワクワクしたサイクリングだった。
アルクーディアでは、ハモンセラーノと美味しいワインを探して街に出てみた。ゴキゲンな店はすぐに見つかった。肉屋とチーズ屋、ワイン屋を兼ねた小綺麗なショップが、アパルトマンからすぐ近くにあったのだ。
手頃なハモンセラーノとワインを買って、アパルトマンで食べよう。ついでにワイングラスも購入した。旅に出ると、ついワイングラスを買ってしまう。ハモンセラーノもサラミもチーズも、どれも良質なのに驚くほど安かった。これは外せない旅の楽しみだ。
文:宮澤崇史
写真:綾野 真
story:Takashi.MIYAZAWA
photography&edit:Makoto.AYANO
宮澤崇史プロフィール
1978年2月27日生まれ 長野県出身 自転車プロロードレーサー(2014年引退)
高校卒業後、イタリアのチームに所属しロードレーサーとしての経験を積む。しかし23歳の時に母に肝臓の一部を生体移植で提供、成績振るわず戦力外通告によりチーム解雇される。その後フランスで単独活動、オリンピック出場や 日本チャンピオン、アジアチャンピオンなど実績を重ねる。イタリアのアミーカチップス、ファルネーゼヴィーニを経て34歳の時にUCIプロチーム サクソバンクに所属。在籍中にリーダージャージ(個人総合時間賞)・ポイントジャージ(スプリントポイント賞)に日本人選手として唯一袖を通した。18年間の海外レース活動を経て、2014年に引退。現在はチームマネジメントやコーチング、スポーツサイクリング関連のアドバイザーやメディア出演など多方面で活躍。
【主な戦歴】
2006年〜2007年 ツール・ド・おきなわ 大会史上初の2年連続優勝
2007年 アジア選手権ロード優勝 アジアチャンピオン
2008年 北京オリンピック出場
2008〜2009年 ツール・ド・北海道 大会史上初2年連続総合優勝
2010年 全日本選手権ロードレース優勝
2010年 アジア大会ロード出場(アジアオリンピック)銀メダル獲得
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