2009/05/28(木) - 15:48
前編に引き続き、佐渡ロングライド210の実走レポート。雨に削られた体力で前半の難所、2つの上り坂「Z坂」と「大野亀」に挑む!
雨降り止まぬ入崎AS(エイドステーション)を出る。グローブは雨に濡れて手先が冷たい。シューズカバーを持っていなかったので足もすっかりずぶ濡れ。ホビーサイクリストの僕は、普段は雨の中を走る機会が無いので雨対策を怠ったのだ。自分の怠慢を呪いつつ、先を急ぐ。
雨の中を走るというのは、思った以上に大変なことだ。寒さもあるし、サングラスには水滴がついて視界が悪くなる。前走行者や自分の前輪のハネ上げた泥水がぼけーっと開いたクチに入って「うげー、げっげっ!」ともなる。
でも雨の中を走るのも(寒いけれど)ロングライドイベントならではだなぁ、なんて考えていたら前方に小高い山が見えてきた。山腹にはうっすらとアルファベットの「Z」が認められる。怪盗ゾロがその剣で一閃していったのだろうか。いやいや、こここそが前半の山場「Z坂」だ。坂の前に設置されたトイレからは、向こうに霧にけむったZ坂がでんと構えているのが見える。
レンズを望遠にしてZ坂を見ると、そのZ文字の上に赤や黄色やオレンジ、白い粒がぷつぷつと点在しているのが見える。そう、先行して登っているサイクリストたちだ。Z線上の彼ら…。
Z坂は最初はゆるく、次第に勾配がきつくなってゆく。上り口で前を走るサイクリストのペアの会話をまたも盗み聞き。
「Z坂って言っておいて、実際はもっと細かく登りがあって、『Σ坂』だったら嫌っすね」
「うへぇ〜それは嫌だなぁ」僕も嫌です。
幸いにも(?)Z坂はZのままでいてくれて、その勾配のきつさだけが僕たちを苦しめる。ふぅふぅ言いながらじわりじわりとペダルを踏みこんでいく。ちょっと思い立って、坂の途中でカメラをリュックから取り出して参加者のみなさんの表情を捉えることにする。苦しいときこそ、人間の表情は豊かになるもの。
勾配がきつく、ダンシングで登りをこなす参加者のみなさんの表情はぎゅっと苦痛にゆがむ。でもまだどこか余裕のある感じでもある。まだまだ先は長いことをみんな知っているのだ。
苦しかった分だけ、登り切って眼下に眺める海はとても清々しい。標高差130mは中々の高さだ。惜しからむは天候だけれど、登り切った達成感が海を美しく見せてくれる。登った後には下りあり。晴れていれば最高のダウンヒルも雨の日は要注意。ブレーキの効きも鈍るからコーナーで落車しないようにゆっくり下る。そうじゃなくてもスピードを出すと雨が顔に当たって痛いのだ。
山あれば谷あり、とはよく言ったものだ。しかし佐渡ではひとつ山を越えてひとつ谷を下っただけでは終らないのだ。Z坂の余韻に浸る間もなく現れるは大野亀。佐渡島を代表する巨大な一枚岩で、その存在感はまさに一頭の巨亀。
この大きな亀の甲羅の横をぐるりと登っていくのだが、これがなかなかの勾配を誇る登り坂。あっという間にギアはインナー・ローで、あえぎあえぎ進んでいく。この大野亀は佐渡に特有のトビシマカンゾウの自生地として有名なのだという。事前に聞いていたのだが、坂の厳しさに登っている最中にそのことを忘れてしまっていた。余裕が無いとなにかと損をする。これは自転車だけに限ったことではないが…。
2つの山場を越えて72km地点、はじき野ASに到着。ここは佐渡島の北端にして東端。頭の中で佐渡の地図を思い描いて、佐和田からだいぶ走ってきたことを実感。でもここでようやく全行程の3分の1。まだ南端も西端も残っている。
Z坂を越えてのこのAS。走ってみての感想を参加者の方に聞いてみた。神奈川県川崎市からお越しのチッチーさんとヨコさん。「雨が強いです。晴れるといいなー。(Z坂は)脱力ダンシングで乗り切りました!まだまだ脚は残っているので完走目指して頑張ります。実はヒザ裏が痛いんだけど(笑)」
次の両津AS(100km地点)でお昼ご飯タイムだ。体が冷えないうちに再出発しよう。登りのせいかちょっと体に疲れを感じ始める。両津までの28kmはとにかくずっと海岸線を走る。その途中でおよそ1.8kmのトンネルを通過。ほとんどの参加者の方がヘッドライトとテールライトを装着していることに気づく。視界の悪い雨天時もさることながら、こうした大人数で走るロングライドイベントでは周りの人に迷惑をかけない配慮も大切だ。さすがに210kmに挑戦するサイクリストは意識も高い。
210kmも走るとなると人間、調子のいい時と悪い時があるものだ。今回、僕はこの100kmにかけての距離がとてもツラいものになった。寒さと水しぶきに集中力をすっかり奪われ、おまけに恥骨が痛み出してぼろぼろとペースダウン。しょぼしょぼと止まりそうなペースで風の吹き荒れる海岸線を進む。うう、人生の荒波、そして日本海。
とろとろと走っていると、ふわりと襲いかかってくる睡魔。睡魔?自転車に乗ってペダルまで回しているのに眠いなんて信じられない!これで寝たらどうなっちゃうんだろう。寝ててもペダルは無意識に回し続けるんだろうか。眠りながらも泳ぎ続けるある種の回遊魚のように。脚が回る回らないよりも、意識が飛ぶか飛ばないかで苦しむことしばらく、なんとか4つ目の両津ASに到着。この区間はサイクリストと言うよりも人間として危機を感じた区間だった…。
(後編につづきます)
雨降り止まぬ入崎AS(エイドステーション)を出る。グローブは雨に濡れて手先が冷たい。シューズカバーを持っていなかったので足もすっかりずぶ濡れ。ホビーサイクリストの僕は、普段は雨の中を走る機会が無いので雨対策を怠ったのだ。自分の怠慢を呪いつつ、先を急ぐ。
雨の中を走るというのは、思った以上に大変なことだ。寒さもあるし、サングラスには水滴がついて視界が悪くなる。前走行者や自分の前輪のハネ上げた泥水がぼけーっと開いたクチに入って「うげー、げっげっ!」ともなる。
でも雨の中を走るのも(寒いけれど)ロングライドイベントならではだなぁ、なんて考えていたら前方に小高い山が見えてきた。山腹にはうっすらとアルファベットの「Z」が認められる。怪盗ゾロがその剣で一閃していったのだろうか。いやいや、こここそが前半の山場「Z坂」だ。坂の前に設置されたトイレからは、向こうに霧にけむったZ坂がでんと構えているのが見える。
レンズを望遠にしてZ坂を見ると、そのZ文字の上に赤や黄色やオレンジ、白い粒がぷつぷつと点在しているのが見える。そう、先行して登っているサイクリストたちだ。Z線上の彼ら…。
Z坂は最初はゆるく、次第に勾配がきつくなってゆく。上り口で前を走るサイクリストのペアの会話をまたも盗み聞き。
「Z坂って言っておいて、実際はもっと細かく登りがあって、『Σ坂』だったら嫌っすね」
「うへぇ〜それは嫌だなぁ」僕も嫌です。
幸いにも(?)Z坂はZのままでいてくれて、その勾配のきつさだけが僕たちを苦しめる。ふぅふぅ言いながらじわりじわりとペダルを踏みこんでいく。ちょっと思い立って、坂の途中でカメラをリュックから取り出して参加者のみなさんの表情を捉えることにする。苦しいときこそ、人間の表情は豊かになるもの。
勾配がきつく、ダンシングで登りをこなす参加者のみなさんの表情はぎゅっと苦痛にゆがむ。でもまだどこか余裕のある感じでもある。まだまだ先は長いことをみんな知っているのだ。
苦しかった分だけ、登り切って眼下に眺める海はとても清々しい。標高差130mは中々の高さだ。惜しからむは天候だけれど、登り切った達成感が海を美しく見せてくれる。登った後には下りあり。晴れていれば最高のダウンヒルも雨の日は要注意。ブレーキの効きも鈍るからコーナーで落車しないようにゆっくり下る。そうじゃなくてもスピードを出すと雨が顔に当たって痛いのだ。
山あれば谷あり、とはよく言ったものだ。しかし佐渡ではひとつ山を越えてひとつ谷を下っただけでは終らないのだ。Z坂の余韻に浸る間もなく現れるは大野亀。佐渡島を代表する巨大な一枚岩で、その存在感はまさに一頭の巨亀。
この大きな亀の甲羅の横をぐるりと登っていくのだが、これがなかなかの勾配を誇る登り坂。あっという間にギアはインナー・ローで、あえぎあえぎ進んでいく。この大野亀は佐渡に特有のトビシマカンゾウの自生地として有名なのだという。事前に聞いていたのだが、坂の厳しさに登っている最中にそのことを忘れてしまっていた。余裕が無いとなにかと損をする。これは自転車だけに限ったことではないが…。
2つの山場を越えて72km地点、はじき野ASに到着。ここは佐渡島の北端にして東端。頭の中で佐渡の地図を思い描いて、佐和田からだいぶ走ってきたことを実感。でもここでようやく全行程の3分の1。まだ南端も西端も残っている。
Z坂を越えてのこのAS。走ってみての感想を参加者の方に聞いてみた。神奈川県川崎市からお越しのチッチーさんとヨコさん。「雨が強いです。晴れるといいなー。(Z坂は)脱力ダンシングで乗り切りました!まだまだ脚は残っているので完走目指して頑張ります。実はヒザ裏が痛いんだけど(笑)」
次の両津AS(100km地点)でお昼ご飯タイムだ。体が冷えないうちに再出発しよう。登りのせいかちょっと体に疲れを感じ始める。両津までの28kmはとにかくずっと海岸線を走る。その途中でおよそ1.8kmのトンネルを通過。ほとんどの参加者の方がヘッドライトとテールライトを装着していることに気づく。視界の悪い雨天時もさることながら、こうした大人数で走るロングライドイベントでは周りの人に迷惑をかけない配慮も大切だ。さすがに210kmに挑戦するサイクリストは意識も高い。
210kmも走るとなると人間、調子のいい時と悪い時があるものだ。今回、僕はこの100kmにかけての距離がとてもツラいものになった。寒さと水しぶきに集中力をすっかり奪われ、おまけに恥骨が痛み出してぼろぼろとペースダウン。しょぼしょぼと止まりそうなペースで風の吹き荒れる海岸線を進む。うう、人生の荒波、そして日本海。
とろとろと走っていると、ふわりと襲いかかってくる睡魔。睡魔?自転車に乗ってペダルまで回しているのに眠いなんて信じられない!これで寝たらどうなっちゃうんだろう。寝ててもペダルは無意識に回し続けるんだろうか。眠りながらも泳ぎ続けるある種の回遊魚のように。脚が回る回らないよりも、意識が飛ぶか飛ばないかで苦しむことしばらく、なんとか4つ目の両津ASに到着。この区間はサイクリストと言うよりも人間として危機を感じた区間だった…。
(後編につづきます)