2015/07/06(月) - 09:18
JCA全日本ヒルクライムシリーズの初戦として6月28日に長野県松本市にて開催された「ツール・ド・美ヶ原高原自転車レース大会」。約1700人が集まり、頂上を目指して激坂を走り抜けたヒルクライムイベントの様子をレポートします。
今年で16回目を迎えるツール・ド・美ヶ原。全国の強豪クライマーが集う老舗イベントとして認知されているヒルクライムである。ヒルクライマーにとって特別な存在ともいえる全日本マウンテンサイクリングin乗鞍や、Mt.鳥海バイシクルクラシックと共に、JCA全日本ヒルクライムシリーズを構成し、その初戦となるイベントでもある。
例年、梅雨時の開催時期や変わりやすい山の天候もあり、青空を見ることは少なかったツール・ド・美ヶ原。今年も大会2日前の天気予報では、「今年一番の大雨になるでしょう」と報じられるほど。土砂降りを覚悟して取材準備を整え、会場となる浅間温泉へと向かった。
しかし、そんな予報に反して大会当日は青空が広がり、むしろ暑いと感じるほど。参加者や大会関係者のみなさんも、良い意味で裏切られたことに嬉しそうである。取材班としても、わざわざ用意してきた雨用の重装備が無駄になってしまったことなんて、まるで問題にならないサプライズだ。
この時期には見えづらい北アルプスがくっきりと表れるほどの澄んだ空気の中、スタート会場となる松本市野球場には多くの人が集まってきた。下山用荷物を預け終わったら、スタートまでの間の過ごし方は人それぞれ。会場周辺でもくもくとアップする人もいれば、大会ボードの前で記念撮影をする人なども。
7時を回ると、開会のあいさつなどが行われ一気にスタートへ向けて参加者たちも集中した表情に。1分前からレースクイーンによってボードが出され、カウントダウンが行われたのち、7時30分にチャンピオンクラスがスタートしていく。スタートゲートを出るとすぐに右折し、浅間温泉の真ん中を抜けて走っていく。
700mほど進むと、ぐぐっと勾配がきつくなる。そう、ここから先が美ヶ原名物の「最強激坂」だ。時には20%を越える勾配もある直登区間は、まさに壁と形容するにふさわしい区間。スタートから間もないということもあり、沢山の観客が詰めかけ激坂に苦しむ参加者に檄を飛ばしている。
トップクラスの選手は蛇行もせずにヒョイヒョイと登っていくが、大多数の参加者はフラフラになりながら登っていく。歓声に押されてなんとか脚をつかずに登る意地を見せる人もいれば、耐えきれず押しが入る人も。正直言って、この区間では押している人が4分の1ほどを占めるので、なんら恥じることでは無い。むしろ、この後に残された長丁場のことを考えれば、見栄を張って脚を使い果たすよりはトータルで速い可能性すらある。
最も苦しいS字になっているコーナーを抜ければ斜度はいったん落ち着く。といっても、20%が10%になりました。ということなので、キツイことに変わりは無いのだけれど常識の範囲内に戻るということだ。乱れ切った呼吸をだましだまし、美鈴湖への登りをこなす。S字から美鈴湖までは1.8km、平均勾配10%。激坂ではないが、かなり斜度はキツめの部類に入るだろう。
ここを抜けてしまえば、美鈴湖畔の平坦区間。記録を狙う人であれば、ここは力を抜けない区間。しかも、地元の小学生たちが太鼓を叩いて応援してくれるので、ついつい頑張ろうという気にさせてくれる。緩く下ったさきには右コーナーが現れるので、スピードを出し過ぎてオーバーランしないように注意したい。
美鈴湖の水面が綺麗に見える堤防を過ぎると第一チェックポイント兼給水所が現れる。予想外の好天もあり、水を受け取る人が多い。水の入ったコップを走りながら受け取る方式なので、記録を狙う選手も補給を受けやすいのはうれしいポイントだ。ただ、前の人が減速するかもしれないので、給水所ではあまり前走者に近づき過ぎない方がいいだろう。
さて、ここから武石峠に向けてこの大会のメインディッシュともいえる登りが始まる。距離12km、平均勾配7.4%のヒルクライムだ。森の中を登っていく沢山のサイクリストたち。淡々と登っていきたいところだが、斜度の変化が意外に大きく、状況に合わせたギア選択が重要になってくる、テクニカルなコースでもある。
途中、九十九折れ区間が現れると一気に景色が開ける場所もあり、爽やかな緑と青空のコントラストを眺めながら走る場面も。心が折れそうになると、平地が現れたり、綺麗な景色が出てきたり。もう少し頑張ろうという気にさせてくれる、ご褒美を要所要所で配置してくれているのが美ヶ原なのだ。
そして、武石峠を越えると、美ヶ原高原の絶景が待っている。晴れ渡る青空と草原の緑を更に引き立てるのがレンゲツツジの朱色。遠くにはアルプスを望みながら、ダウンヒルを満喫できる。まるでスイスの様な風景を満喫しながら走ることが出来るヒルクライムレースはそう多くない。
あまり景色に心奪われ過ぎて、コースアウトしないように。高原区間で脚を回復させたら、ゴールへむけてラスト1kmの登りを全力で踏みこもう。先にゴールした選手たちの応援の中、フィニッシュラインを切った時の達成感は格別のものがあるはずだ。
フィニッシュ地点では、ひんやり冷たいトマトを配ってくれる。疲れ切った身体に、ひんやりとしたトマトの酸味が沁みわたっていくのを感じるころにはきっと、来年も登ってやる!という気持ちになっているはずだ。荷物を受け取ったら、下山の途に。でも途中に広がる絶景ポイントで立ち止まって写真を撮る参加者も多い。左側に寄る人が多いので、少し気をつけて。止まるときは、合図を忘れずに。
スタート地点まで戻ったら、ミネラルウォーターや地元銘菓の「花ぐるみ」、そして具だくさんの豚汁が待っている。その後は、表彰式と豪華景品の当たる抽選会だ。地元産の果物や各協賛社からの自転車パーツなど、たくさんの賞品が当選者に贈られ、盛り上がる中今年のツール・ド・美ヶ原は幕を下ろした。
激坂ヒルクライムとして知られるツール・ド・美ヶ原だが、実は変化に富んだ飽きさせないコース、美ヶ原高原の美しい景観に、美味しいトマトに豚汁とグルメまで充実しているイベントでもあるのだ。確かに前半は厳しいものの、本当にキツイ区間は短いので歩いてしまっても完走はできる。激坂への苦手意識でこんなに素晴らしい体験を逃してしまうのは、なんとも勿体ないなと、強く感じた1日だった。
text&photo:Naoki.YASUOKA
今年で16回目を迎えるツール・ド・美ヶ原。全国の強豪クライマーが集う老舗イベントとして認知されているヒルクライムである。ヒルクライマーにとって特別な存在ともいえる全日本マウンテンサイクリングin乗鞍や、Mt.鳥海バイシクルクラシックと共に、JCA全日本ヒルクライムシリーズを構成し、その初戦となるイベントでもある。
例年、梅雨時の開催時期や変わりやすい山の天候もあり、青空を見ることは少なかったツール・ド・美ヶ原。今年も大会2日前の天気予報では、「今年一番の大雨になるでしょう」と報じられるほど。土砂降りを覚悟して取材準備を整え、会場となる浅間温泉へと向かった。
しかし、そんな予報に反して大会当日は青空が広がり、むしろ暑いと感じるほど。参加者や大会関係者のみなさんも、良い意味で裏切られたことに嬉しそうである。取材班としても、わざわざ用意してきた雨用の重装備が無駄になってしまったことなんて、まるで問題にならないサプライズだ。
この時期には見えづらい北アルプスがくっきりと表れるほどの澄んだ空気の中、スタート会場となる松本市野球場には多くの人が集まってきた。下山用荷物を預け終わったら、スタートまでの間の過ごし方は人それぞれ。会場周辺でもくもくとアップする人もいれば、大会ボードの前で記念撮影をする人なども。
7時を回ると、開会のあいさつなどが行われ一気にスタートへ向けて参加者たちも集中した表情に。1分前からレースクイーンによってボードが出され、カウントダウンが行われたのち、7時30分にチャンピオンクラスがスタートしていく。スタートゲートを出るとすぐに右折し、浅間温泉の真ん中を抜けて走っていく。
700mほど進むと、ぐぐっと勾配がきつくなる。そう、ここから先が美ヶ原名物の「最強激坂」だ。時には20%を越える勾配もある直登区間は、まさに壁と形容するにふさわしい区間。スタートから間もないということもあり、沢山の観客が詰めかけ激坂に苦しむ参加者に檄を飛ばしている。
トップクラスの選手は蛇行もせずにヒョイヒョイと登っていくが、大多数の参加者はフラフラになりながら登っていく。歓声に押されてなんとか脚をつかずに登る意地を見せる人もいれば、耐えきれず押しが入る人も。正直言って、この区間では押している人が4分の1ほどを占めるので、なんら恥じることでは無い。むしろ、この後に残された長丁場のことを考えれば、見栄を張って脚を使い果たすよりはトータルで速い可能性すらある。
最も苦しいS字になっているコーナーを抜ければ斜度はいったん落ち着く。といっても、20%が10%になりました。ということなので、キツイことに変わりは無いのだけれど常識の範囲内に戻るということだ。乱れ切った呼吸をだましだまし、美鈴湖への登りをこなす。S字から美鈴湖までは1.8km、平均勾配10%。激坂ではないが、かなり斜度はキツめの部類に入るだろう。
ここを抜けてしまえば、美鈴湖畔の平坦区間。記録を狙う人であれば、ここは力を抜けない区間。しかも、地元の小学生たちが太鼓を叩いて応援してくれるので、ついつい頑張ろうという気にさせてくれる。緩く下ったさきには右コーナーが現れるので、スピードを出し過ぎてオーバーランしないように注意したい。
美鈴湖の水面が綺麗に見える堤防を過ぎると第一チェックポイント兼給水所が現れる。予想外の好天もあり、水を受け取る人が多い。水の入ったコップを走りながら受け取る方式なので、記録を狙う選手も補給を受けやすいのはうれしいポイントだ。ただ、前の人が減速するかもしれないので、給水所ではあまり前走者に近づき過ぎない方がいいだろう。
さて、ここから武石峠に向けてこの大会のメインディッシュともいえる登りが始まる。距離12km、平均勾配7.4%のヒルクライムだ。森の中を登っていく沢山のサイクリストたち。淡々と登っていきたいところだが、斜度の変化が意外に大きく、状況に合わせたギア選択が重要になってくる、テクニカルなコースでもある。
途中、九十九折れ区間が現れると一気に景色が開ける場所もあり、爽やかな緑と青空のコントラストを眺めながら走る場面も。心が折れそうになると、平地が現れたり、綺麗な景色が出てきたり。もう少し頑張ろうという気にさせてくれる、ご褒美を要所要所で配置してくれているのが美ヶ原なのだ。
そして、武石峠を越えると、美ヶ原高原の絶景が待っている。晴れ渡る青空と草原の緑を更に引き立てるのがレンゲツツジの朱色。遠くにはアルプスを望みながら、ダウンヒルを満喫できる。まるでスイスの様な風景を満喫しながら走ることが出来るヒルクライムレースはそう多くない。
あまり景色に心奪われ過ぎて、コースアウトしないように。高原区間で脚を回復させたら、ゴールへむけてラスト1kmの登りを全力で踏みこもう。先にゴールした選手たちの応援の中、フィニッシュラインを切った時の達成感は格別のものがあるはずだ。
フィニッシュ地点では、ひんやり冷たいトマトを配ってくれる。疲れ切った身体に、ひんやりとしたトマトの酸味が沁みわたっていくのを感じるころにはきっと、来年も登ってやる!という気持ちになっているはずだ。荷物を受け取ったら、下山の途に。でも途中に広がる絶景ポイントで立ち止まって写真を撮る参加者も多い。左側に寄る人が多いので、少し気をつけて。止まるときは、合図を忘れずに。
スタート地点まで戻ったら、ミネラルウォーターや地元銘菓の「花ぐるみ」、そして具だくさんの豚汁が待っている。その後は、表彰式と豪華景品の当たる抽選会だ。地元産の果物や各協賛社からの自転車パーツなど、たくさんの賞品が当選者に贈られ、盛り上がる中今年のツール・ド・美ヶ原は幕を下ろした。
激坂ヒルクライムとして知られるツール・ド・美ヶ原だが、実は変化に富んだ飽きさせないコース、美ヶ原高原の美しい景観に、美味しいトマトに豚汁とグルメまで充実しているイベントでもあるのだ。確かに前半は厳しいものの、本当にキツイ区間は短いので歩いてしまっても完走はできる。激坂への苦手意識でこんなに素晴らしい体験を逃してしまうのは、なんとも勿体ないなと、強く感じた1日だった。
text&photo:Naoki.YASUOKA
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