ロシアはバイカル湖周辺を自転車で訪問した絹代さんによるレポートをお届けします。豊かな自然の中、人と触れ合いながら自転車を観光や地域振興に活用する方法を考える旅だ。

イルクーツク市内にて。たまねぎ帽子のロシア正教会の寺院が町中に建っている!イルクーツク市内にて。たまねぎ帽子のロシア正教会の寺院が町中に建っている!

おそらく、ロシアにサイクリングに行ったことのある方はあまりいないだろう。実際、首都モスクワで移動手段として自転車を使う人間は極めて少なく「自転車=遊びの道具」とされ、道路通行上の優先権もない。自転車の市民権は認められていないのだ。
だが、極度の交通渋滞を緩和するために、政府は自転車政策に着手しはじめたという。

そんな流れを受け、財団法人JKAの補助事業で、ロシアに自転車の観光利用の可能性を提案するという活動が立ち上がった。訪問から時間が経ってしまったが、ロシアの今を伝えるため、レポートさせていただきたい。

普通の近代的な街並みの中にも多くの宗教建築がみられる普通の近代的な街並みの中にも多くの宗教建築がみられる 伝統的な建物を再建築し、街並み再生を図っているエリア伝統的な建物を再建築し、街並み再生を図っているエリア


今回訪れたのはモンゴルに近い「イルクーツク」と、ブリヤートという地方の「ウラン・ウデ」というバイカル湖の北と南に位置する街だ。ここでの活動は、作成して来た日本の近年の自転車事情を伝える映像を上映し、講演を行うこと。日本の自転車を見てもらいたくて、悩んだ末、現地にはほぼ存在しないミニベロタイプの自転車をセレクト。どんな路面でも走れるよう、タルタルーガGTを輪行して持っていった。

公園には若者が自転車で遊びに来る光景もみられる公園には若者が自転車で遊びに来る光景もみられる ロシア料理の代表格、ボルシチ。店によってタイプは様々ロシア料理の代表格、ボルシチ。店によってタイプは様々


まずはイルクーツクに滞在した。モスクワと異なり、公園には自転車を楽しむカップルや、若者の集団が目につく。街並の中に、ロシア正教特有の「玉ねぎ帽子」が乗った教会が現れる姿が、新鮮だ。
道路は広く、走りやすい。青い窓枠の家々など、この地方特有の建築が復元された区画もあり、街並も美しい。

政府主催の「各分野のリーダー育成キャンプ」でも上映&講演会を行った政府主催の「各分野のリーダー育成キャンプ」でも上映&講演会を行った キャンプツーリングを楽しむ人も!キャンプツーリングを楽しむ人も!


ロシアでは自転車=MTBだ。練習場に行けば、BMXやトライアルはたくさんいるそうだが、軽快車やロードバイクに出合うことは珍しい。それでもDVDの上映・講演会に来てくれた方々の話を聞くと、夏にはバイカル湖の島「オリホン島」をキャンプしながら1週間かけて縦断するステージレースが開催されたり、冬場は凍結したバイカル湖の上を横断する自転車イベントが開催されているそうだ。さすが「ザ・バイカル」。イベントの規模もデカイ。「日本からの参加者を募れないか?」と真剣に打診された。イベントの様子は、ページ末尾に動画を紹介しておきます。

林、草原、湿地帯、山々を見ながら木の橋を渡るのは楽しい林、草原、湿地帯、山々を見ながら木の橋を渡るのは楽しい 映画に出てきそうな、自由気ままなドライバーに運転を託し、車でいざ、西岸経由でバイカル湖南岸へ。でこぼこ道をすさまじいスピードで突っ走るため、カラダは上下左右に飛ばされる。私は生まれて初めて車内で天井に頭を激突させた。

223kmの激揺れドライブを終え、ようやっとたどりついたのは南岸の「タンホイ」という街の国立公園だった。この公園では、自転車や車いす、歩行者が自然の中を散歩できるようなラダーのコースが設営されていた。
さっそく自転車で走ってみると、カタンカタンとトロッコに乗っているような感じで楽しい! 遠くの山々を見晴らしたり、湿地帯や白樺林を抜けたり、と、変わりゆく景色も美しい。面積の大きなこの公園では、公園内の移動に自転車の使用を検討中とか。

散策がてら、バイカル湖を観に行った。舗装道路から砂利道、そして草原へ。どーんと目の前に広がる紺色に近い真っ青な水面に一同声を上げる。絵の中に入り込んだように美しい!
バイカル湖は外周2100km、南北長636km。もはや景色が湖のそれではない。キャンプをする人も多く、水を汲んで使っている模様。のぞき込むと、水も澄んで美しかった。

真っ青な水面がどこまでも広がっているバイカル湖。でかい!真っ青な水面がどこまでも広がっているバイカル湖。でかい!

ここから再び車に乗り込んでウラン・ウデへ。ほぼモンゴルに近いこの街は、見た目日本と中国と台湾と韓国のひとたちであふれているかのようで、不思議な親近感!

おもてなしに出される肉まん「ブーズ」。上部の穴から、中の肉汁を吸う。美味!おもてなしに出される肉まん「ブーズ」。上部の穴から、中の肉汁を吸う。美味! 怖くなるくらい広大な草原と山々を見ながらサイクリング。気持ちいい!怖くなるくらい広大な草原と山々を見ながらサイクリング。気持ちいい!


翌日は大学を訪れ、上映/講演会を行った。強い関心を持ってくれたようで、質疑応答では、なぜか聴衆が次々演台に出て来て自分の意見の演説。お国柄ってすごい..。

終了後、聴衆のひとりがやってきて、熱心に自分の経営するリゾートで自転車を活用できないか? と言うのだ。ブリヤートと呼ばれる地域の特色を活かしたリゾート施設と聞き、私たちも強い興味を持った。急遽その地に向かうことに。

園内のパオ(宿泊施設)の前で、現地の皆さんと。アジア人みたい!園内のパオ(宿泊施設)の前で、現地の皆さんと。アジア人みたい!

車を飛ばし数時間。たどり着いたのはアツァガットという村。幹線道路がある以外、ほとんどのエリアが広大な草原に覆われている。屋外ステージでは民族衣装をまとった方々が音楽を奏でるコメディー系のお芝居が展開され、にぎやかだ。
ふと見ると、子供たちが自転車に乗っている!!真新しいゲルが立ち並び、中をのぞき込むと、絨毯が敷かれ、すごく豪華。ホールで披露宴を挙げ、新婚カップルがここに泊まるというケースも多いらしい。

結婚式前に様々な場所で撮影をするのが流行。こんな山の上にも数組のカップルが結婚式前に様々な場所で撮影をするのが流行。こんな山の上にも数組のカップルが 地元の方推奨の絶景サイクリングルートを散策地元の方推奨の絶景サイクリングルートを散策


実はオーナーは、「この施設内に自転車のコースを作り、周囲も自転車で周遊できるようにしたら喜ばれるのではないか」と思いついたらしい。この周囲は広大な草原。走ったらきっとすっごく楽しい!
さっそくタルタルーガに乗って周囲に出発。見渡す限りの草原、目を凝らすと遥か彼方に連なる山々..。ストレスなんて消えてしまいそう。未舗装道路ではあるが、しっかりと固まった土なので、走行に不自由はない。

敷地内にはお子さんを対象とした、ちょっとアスレチックなお遊びコースを作り、周囲は来訪者が散策できるような仕組みを作ろう!ということで決着。みなさんこのアイデアにすごく喜んでくれた。

最終日は、現地の方が強く薦める「タルバガタイ」というエリアに。草原を貫く幹線道路をひたすら走り、たどり着いたのは、岩山がそびえ立つビューポイント。なんと壮大で美しい!
さっそく岩山の上に上ると、眼下には油絵のように美しい川が流れている!これはバイカル湖に注ぎ込む、バイカルの水源。夢のように美しい光景に、一同息を飲む。

バイカル湖に注ぐ雄大な流れを見渡す絶景スポットにてバイカル湖に注ぐ雄大な流れを見渡す絶景スポットにて

この岩山の周辺にMTBで散策するコースを作る構想があるそうだ。
さっそく出陣。美しい川面を眺め、雄々しい岩山を見上げ、豊かな草原を走る。これは楽しい!ゆくゆくはMTBや障害を持った方々が遊べるようなエリアを作り上げたいそうだ。
ここに向かって来る幹線道路の眺めもすばらしい。地元の方の話では、サポートカーを付け、ロングライドを楽しんでもらうような企画の実現も不可能ではないと言う。

川の水面がまるで鏡のよう川の水面がまるで鏡のよう

いざ帰路へ。ミニベロながらもオフロードOKのタルタルーガGTは大活躍だったいざ帰路へ。ミニベロながらもオフロードOKのタルタルーガGTは大活躍だった こんなに美しく雄大な土地を駆け抜ける経験ができたら、生涯に刻まれる貴重な経験になることだろう。後ろ髪を引かれる思いで自転車を車に積み込み、ウラン・ウデ市への帰路をたどった。

非常に自転車に消極的なイメージのあったロシアだが、それでもこんなに熱いひとたちが活動しているとは。政府の動きもあり、もしかするとロシアがサイクリングのメジャーな行き先になる日も遠くないかもしれない。
おそらく今後もロシアと日本の自転車情報の交流は続き、発展して行くことだろう。走りに行く場所のアイデアに尽きた方は、ロシアも選択肢に入れてみては?

photo&text Kinuyo 絹代

バイカル・バイクトロフィー の映像(プロモーションムービー)

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