2012/07/09(月) - 15:44
ツールで初めてのはずなのに、パリ〜ニースやドーフィネですでに見慣れたウィギンズのマイヨジョーヌ姿には新鮮味がない。ウィギンズ本人も浮かれた気配を見せず、静かにスタートを待つ。
サイン台ではチームスカイがチーム総合の表彰も受け、本命の選手と本命のチームが勝利に向けて着実に進んでいることを感じる。
スイスに向かうこの日、ジュラ山脈の懐で繰り広げられるステージは、距離が短いながら、フランスに3つ、スイスに4つ、合計7つの峠がぎっしり詰まっている。
峠やアップダウンの連続する中空山岳ステージとくれば逃げに最適なプロフィール。おまけに翌日はTTで、総合に関係のない選手は心置きなく脚を使える。
ベルフォールの城塞を背後に臨みながら、黄色に身をまとったウィギンズに率いられたプロトンがスタートしていく。序盤10数キロは平坦。しかしその後に始まるアップダウンは山間の村と村をつなぐ生活道路を含む、細く、険しい道。荒れた道は危険も多い。
2つめの3級山岳。昨ステージで演じたチームの失態を挽回するかのごとく、イェンス・フォイクト(レディオシャック・ニッサン)のアタックが火を吹いた。シルヴァン・シャヴァネル(オメガファーマ・クイックステップ)も続く。シャヴァネルは2年前の2010年ツール第7ステージで勝利したスタシオン・デ・ルスへのステージに良く似たこの日にチャンスを感じている。
そして集団から続々と続く選手たちがアタックしていく。集団はいくつにも分裂。ダウンヒルも騒然としてた。
スタート前に「今日は逃げません。レースは荒れるでしょうね」と話していた新城幸也(ユーロップカー)。警戒していたはずが、いくつにも分裂した集団の後方グループに取り残されてしまっていた。
3つめの峠、2級山岳を越えたところで前半の逃げグループがほぼ確定し、レース展開はようやく一旦落ち着きを見せる。しかしチームスカイは今日も数の力でマイヨジョーヌ集団をコントロール。ユキヤとカヴェンディッシュは後方グループに。
ラッキーナンバー8の日にレースを去ったサムエル・サンチェス
サムエル・サンチェス(エウスカルテル)とアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)。2人のスペイン人スターを含む落車が発生。頭を強く打ち、鎖骨を折ったサンチェスがレースを去った。バルベルデはまたしても落車で総合争いからは完全に脱落。そしてサンチェスはタイトル防衛を狙うロンドン五輪の出場が絶望的な結果に。
サンチェスの着るエウスカルテルオレンジのシャツには北京での王位を示す金色のストライプ。金色のシューズを履き、数字の「8」は中国で縁起のいい数字だとして、北京五輪を制した2008年8月8日からとった「8」をフレームにあしらって走っていたサンチェス。奇しくもリタイアしたのは第8ステージだったというのは、なんという皮肉だろうか…。
スイスの観客が詰めかけたラ・クロワ峠
フランス側で目立ったのがスタートから30kmほどの街で生まれたティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)の応援。昨ステージのほうがコースに近かったのでやや数は減ったが、それでもフランス期待の若者へのメッセージを書いた応援が目立つ。
そしてスイスに入ると目立つのはカンチェラーラ応援団だ。自国のヒーローは今日すでに黄色から普通のチームジャージに着替えてしまったが、赤十字ジャージを着て走る明日のTTへの期待も膨らむ。
勝負どころになる最後の1級山岳コル・デ・ラ・クロワ(クロワ峠)。標高は1000mにも満たない低い峠だが、その急勾配はジロに登場する峠のよう。わずか4kmで789mの頂上へ。平均9.2%、最大17%の峠は苦しむには十分。
2006年ツール・ド・ロマンディでは、クリス・ホーナーがここを通り、同じポラントリュイのゴールで勝利を挙げている。
このクロワ峠はスイスの自転車レースではよく使われ、伝説的な存在となっているという。
細い道を駆け上がる道にはスイスの観客であふれた。とくに頂上付近の勾配がきつくなる最終区間には、中級山岳とは思えないほどの観客が集まった。しかも多くの人達がキャラバングッズとして配られた? 白地に赤水玉のシャツを着ているため、山岳の雰囲気はバッチリだ。
この峠で独走したのは残念ながらスイス人ではなく、フランス期待の星の最年少ライダー、ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット)だった。人垣をかき分けて進むシーンはアルプスやピレネーの超級山岳そのもの。峠を越えて行き着く間もなく腰を上げ、加速して下りに入っていった。ピノは今日のステージのここまでのはすべて走っているが、この峠だけ走ったことがなかったという。
攻撃したエヴァンス、ファンデンブロック
懸命の追走を見せるケシアコフに続き、マイヨジョーヌグループが峠に到達した。流すと思いきや、勝負のかかったハイペース。
フレーシュ・ワロンヌのユイの峠より少し長いが、エヴァンスが攻撃を仕掛けるにはもってこいのプロフィール。しかし不得意な急勾配を改善したウィギンズを崩すことはできなかった。
「総合争いの選手たちは動かないだろう」との予想に反し、激しい戦いが繰り広げられていた。結果、ただでさえ絞られた優勝候補をさらに絞り込むレースに。
グラン・コロンビエ峠のオードブルを食べたピノ
ピノは第10ステージに訪れる難関ル・グラン・コロンビエ峠を、昨年8月に開催されたツール・ド・ラン最終ステージで制している。コロンビエ峠に向けて再びピノが峠を制することをフランス人ファンは期待している。そんななか、オードブルのクロワ峠を制し、ゴールまで逃げ切った。
アタックしたジェレミー・ロワとのコンビネーションで掴んだ勝利。
昨日が出身地に近いステージ。しかし今日も遠くない場所での勝利に喜ぶピノ。
「ジェレミーが前に逃げて、僕のために犠牲になってくれたんだ。だから僕はグループの中で休むことができた。だから僕の勝利は彼の勝利だ。
もちろんコースが家に近い昨ステージにも勝ちたかったけど、それはできなかった。昨日は僕の応援がたくさんで興奮した。でも今日だって遠くはないから沿道には知った顔がたくさんあった。そして明日TTがゴールするブザンソンは僕のクラブのある街。たくさんのファンが居るはずだよ」。
団体総合を狙うレディオシャック・ニッサン
そしてウィギンズを脅かす選手こそ居ないが、モンフォール、スベルディア、フランク・シュレク、ガロパンの4人の選手がトップ10に入り強さを見せたレディオシャック・ニッサン。しかも今日も峠で苦しんだクレーデンを切り捨てた。
ひとりのためにチームが尽くすのではなく、チーム全員が走れるところで結果を残す走りを目指しだした。個人総合が狙えなくなった今、チーム総合成績を狙うことが頭にあるはずだ。2010年ツールでアームストロングが落車して遅れたあと、チームが目標を切り替えたように。
サラマンカTTの23秒差の悪夢は再びあるのか?
エヴァンスに上りで攻撃され、ゴールスプリントで敗れたウィギンズだが、マイヨジョーヌは固く守った。明日のキーとなるブザンソンへの個人タイムトライアルへの質問が飛ぶ。ブエルタ・ア・エスパーニャ2011第10ステージ で、チームメイトのクリス・フルームが23秒上回るタイムで2位に。ウィギンズは3位に。
「今回もサラマンカでのTTの時のように、チームメイトが君を打倒することがあるんじゃないのか?」
「あの時は標高が1000mあって気温も37度で暑かった。飛ばしすぎただけなんだ。明日は大丈夫だ。あまりネガティブに考えることはせず、自分の走りをすることだけに意識を集中させる。
TTは脚がものをいう真のレースだ。でもツール・ド・フランスは毎日をうまく走ることが重要だ。TTをうまく走れば勝てるレースじゃない。TTだけじゃツールには勝てないんだ。すべてのステージが重要だよ」。
記者会見の最後ではプレスセンターの「ドーピング番記者」から、最強だったUSポスタルに絡めて「『USポスタルがやってたんだからスカイもやってたんだろう』というツイッターのコメントがあるがどう思う?という意地悪な質問が飛んだ。ウィギンズは「そいつらは仮名で好きなこと言ってるだけだろう、F★★!」と、キレ気味の答えを返した。
photo&text:Makoto.AYANO
サイン台ではチームスカイがチーム総合の表彰も受け、本命の選手と本命のチームが勝利に向けて着実に進んでいることを感じる。
スイスに向かうこの日、ジュラ山脈の懐で繰り広げられるステージは、距離が短いながら、フランスに3つ、スイスに4つ、合計7つの峠がぎっしり詰まっている。
峠やアップダウンの連続する中空山岳ステージとくれば逃げに最適なプロフィール。おまけに翌日はTTで、総合に関係のない選手は心置きなく脚を使える。
ベルフォールの城塞を背後に臨みながら、黄色に身をまとったウィギンズに率いられたプロトンがスタートしていく。序盤10数キロは平坦。しかしその後に始まるアップダウンは山間の村と村をつなぐ生活道路を含む、細く、険しい道。荒れた道は危険も多い。
2つめの3級山岳。昨ステージで演じたチームの失態を挽回するかのごとく、イェンス・フォイクト(レディオシャック・ニッサン)のアタックが火を吹いた。シルヴァン・シャヴァネル(オメガファーマ・クイックステップ)も続く。シャヴァネルは2年前の2010年ツール第7ステージで勝利したスタシオン・デ・ルスへのステージに良く似たこの日にチャンスを感じている。
そして集団から続々と続く選手たちがアタックしていく。集団はいくつにも分裂。ダウンヒルも騒然としてた。
スタート前に「今日は逃げません。レースは荒れるでしょうね」と話していた新城幸也(ユーロップカー)。警戒していたはずが、いくつにも分裂した集団の後方グループに取り残されてしまっていた。
3つめの峠、2級山岳を越えたところで前半の逃げグループがほぼ確定し、レース展開はようやく一旦落ち着きを見せる。しかしチームスカイは今日も数の力でマイヨジョーヌ集団をコントロール。ユキヤとカヴェンディッシュは後方グループに。
ラッキーナンバー8の日にレースを去ったサムエル・サンチェス
サムエル・サンチェス(エウスカルテル)とアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)。2人のスペイン人スターを含む落車が発生。頭を強く打ち、鎖骨を折ったサンチェスがレースを去った。バルベルデはまたしても落車で総合争いからは完全に脱落。そしてサンチェスはタイトル防衛を狙うロンドン五輪の出場が絶望的な結果に。
サンチェスの着るエウスカルテルオレンジのシャツには北京での王位を示す金色のストライプ。金色のシューズを履き、数字の「8」は中国で縁起のいい数字だとして、北京五輪を制した2008年8月8日からとった「8」をフレームにあしらって走っていたサンチェス。奇しくもリタイアしたのは第8ステージだったというのは、なんという皮肉だろうか…。
スイスの観客が詰めかけたラ・クロワ峠
フランス側で目立ったのがスタートから30kmほどの街で生まれたティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)の応援。昨ステージのほうがコースに近かったのでやや数は減ったが、それでもフランス期待の若者へのメッセージを書いた応援が目立つ。
そしてスイスに入ると目立つのはカンチェラーラ応援団だ。自国のヒーローは今日すでに黄色から普通のチームジャージに着替えてしまったが、赤十字ジャージを着て走る明日のTTへの期待も膨らむ。
勝負どころになる最後の1級山岳コル・デ・ラ・クロワ(クロワ峠)。標高は1000mにも満たない低い峠だが、その急勾配はジロに登場する峠のよう。わずか4kmで789mの頂上へ。平均9.2%、最大17%の峠は苦しむには十分。
2006年ツール・ド・ロマンディでは、クリス・ホーナーがここを通り、同じポラントリュイのゴールで勝利を挙げている。
このクロワ峠はスイスの自転車レースではよく使われ、伝説的な存在となっているという。
細い道を駆け上がる道にはスイスの観客であふれた。とくに頂上付近の勾配がきつくなる最終区間には、中級山岳とは思えないほどの観客が集まった。しかも多くの人達がキャラバングッズとして配られた? 白地に赤水玉のシャツを着ているため、山岳の雰囲気はバッチリだ。
この峠で独走したのは残念ながらスイス人ではなく、フランス期待の星の最年少ライダー、ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット)だった。人垣をかき分けて進むシーンはアルプスやピレネーの超級山岳そのもの。峠を越えて行き着く間もなく腰を上げ、加速して下りに入っていった。ピノは今日のステージのここまでのはすべて走っているが、この峠だけ走ったことがなかったという。
攻撃したエヴァンス、ファンデンブロック
懸命の追走を見せるケシアコフに続き、マイヨジョーヌグループが峠に到達した。流すと思いきや、勝負のかかったハイペース。
フレーシュ・ワロンヌのユイの峠より少し長いが、エヴァンスが攻撃を仕掛けるにはもってこいのプロフィール。しかし不得意な急勾配を改善したウィギンズを崩すことはできなかった。
「総合争いの選手たちは動かないだろう」との予想に反し、激しい戦いが繰り広げられていた。結果、ただでさえ絞られた優勝候補をさらに絞り込むレースに。
グラン・コロンビエ峠のオードブルを食べたピノ
ピノは第10ステージに訪れる難関ル・グラン・コロンビエ峠を、昨年8月に開催されたツール・ド・ラン最終ステージで制している。コロンビエ峠に向けて再びピノが峠を制することをフランス人ファンは期待している。そんななか、オードブルのクロワ峠を制し、ゴールまで逃げ切った。
アタックしたジェレミー・ロワとのコンビネーションで掴んだ勝利。
昨日が出身地に近いステージ。しかし今日も遠くない場所での勝利に喜ぶピノ。
「ジェレミーが前に逃げて、僕のために犠牲になってくれたんだ。だから僕はグループの中で休むことができた。だから僕の勝利は彼の勝利だ。
もちろんコースが家に近い昨ステージにも勝ちたかったけど、それはできなかった。昨日は僕の応援がたくさんで興奮した。でも今日だって遠くはないから沿道には知った顔がたくさんあった。そして明日TTがゴールするブザンソンは僕のクラブのある街。たくさんのファンが居るはずだよ」。
団体総合を狙うレディオシャック・ニッサン
そしてウィギンズを脅かす選手こそ居ないが、モンフォール、スベルディア、フランク・シュレク、ガロパンの4人の選手がトップ10に入り強さを見せたレディオシャック・ニッサン。しかも今日も峠で苦しんだクレーデンを切り捨てた。
ひとりのためにチームが尽くすのではなく、チーム全員が走れるところで結果を残す走りを目指しだした。個人総合が狙えなくなった今、チーム総合成績を狙うことが頭にあるはずだ。2010年ツールでアームストロングが落車して遅れたあと、チームが目標を切り替えたように。
サラマンカTTの23秒差の悪夢は再びあるのか?
エヴァンスに上りで攻撃され、ゴールスプリントで敗れたウィギンズだが、マイヨジョーヌは固く守った。明日のキーとなるブザンソンへの個人タイムトライアルへの質問が飛ぶ。ブエルタ・ア・エスパーニャ2011第10ステージ で、チームメイトのクリス・フルームが23秒上回るタイムで2位に。ウィギンズは3位に。
「今回もサラマンカでのTTの時のように、チームメイトが君を打倒することがあるんじゃないのか?」
「あの時は標高が1000mあって気温も37度で暑かった。飛ばしすぎただけなんだ。明日は大丈夫だ。あまりネガティブに考えることはせず、自分の走りをすることだけに意識を集中させる。
TTは脚がものをいう真のレースだ。でもツール・ド・フランスは毎日をうまく走ることが重要だ。TTをうまく走れば勝てるレースじゃない。TTだけじゃツールには勝てないんだ。すべてのステージが重要だよ」。
記者会見の最後ではプレスセンターの「ドーピング番記者」から、最強だったUSポスタルに絡めて「『USポスタルがやってたんだからスカイもやってたんだろう』というツイッターのコメントがあるがどう思う?という意地悪な質問が飛んだ。ウィギンズは「そいつらは仮名で好きなこと言ってるだけだろう、F★★!」と、キレ気味の答えを返した。
photo&text:Makoto.AYANO