2012/06/30(土) - 14:32
大会連覇を目指すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)と、ここまでパーフェクトな調整ぶりを見せるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)。2人が虎視眈々とパリのマイヨジョーヌを狙う。ライバルたちは3位争いに固執する他ないのか?総合上位に絡むオールラウンダーの名前をチェックしておこう。
オーストラリア人の連覇か、それともイギリス人の初制覇か
エヴァンスとウィギンズ。35歳と32歳。オーストラリア人とイギリス人。今年のマイヨジョーヌ争いはこの2人を中心に繰り広げられると言っても良いだろう。
3つの個人タイムトライアルの合計が100kmを超え、例年より頂上ゴールの数&難易度がダウンしている今年のコースは、彼ら2人のためにデザインされたようなものだ。
エヴァンスは今年のコースについて「難関山岳の数が少ない。その分、一つ一つの登りの重要度が上がり、レースとしてはより厳しいものになり得る」と語る。
「準備は出来ている。昨年も強いチームに守られたが、今年はより一層強いメンバーがチームに揃った。特にティージェイ(ヴァンガーデレン)のような山岳アシストがいるんだ。チームはリラックスした良い状態で、モチベーション高くツールに挑む」。
エヴァンスはライバルチームの強さを認めた上で、ウィギンズとのマッチレースを予想する。「チームスカイはこの1年で大きくレベルアップした。ブラッド(ウィギンズ)と彼らが今年成し遂げたステージレース連勝は賞賛されるべきものだ。ドーフィネの山岳では、メンバー9名のうち4名がずっとゴールまで集団に残っていた。これは長らくロードレース界が欠いていた強力なチームの証。ウィギンズとは最後まで頭を突き合わすような闘いになるだろう」。
エヴァンスの言葉通り、挑戦者ウィギンズは今年史上初めてパリ〜ニース、ツール・ド・ロマンディ、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネを立て続けに制覇。直前のドーフィネでは鉄壁のアシスト陣に守られて山岳ステージをこなし、個人タイムトライアルでは2分前に出走した前走者のエヴァンスに追いつきそうになるほど圧倒的な走りを見せた。
「個人タイムトライアルの長さは僕に味方するだろう。テネリフェのトレーニングキャンプで登坂力を磨き、ドーフィネでその成果を感じることが出来た」。ウィギンズは波に乗った状態でリエージュに降り立つ。
アシスト陣も豪華で、リッチー・ポルト(オーストラリア)やマイケル・ロジャース(オーストラリア)、クリス・フルーム(イギリス)が山岳ステージでウィギンズを強力にサポートする。
唯一の懸念材料は、早過ぎる調子のピークだろう。3週目を見据えてコンディションを上げていくエヴァンスに対し、ウィギンズのピーキングが早過ぎる感がある。しかしウィギンズはそのことを全く問題視していない。ウィギンズは「素晴らしいチームスタッフやコーチの指示を受けながら、パーフェクトなコンディションでツールに挑む。実際にここまでのステージレースで成果を出し、チームもとても良い状態にある。これは理想的な展開だ」と自信を見せる。
ウィギンズは昨年ツール第7ステージで落車し、鎖骨を骨折してリタイア。それだけに慎重にレースを運びたい考え。「ツールは毎日何が起こるか分からない。昨年のように落車でレースを去るようなことが無いように、常に集団の中で気を使って走る」。ウィギンズはフランス語を流暢に話すが、チームプレゼンテーションではフランス語の質問に一貫して英語で答えるなど、フランスレースの中でヒール役を演じているようにも見える。
昨年オーストラリア人選手初のツール制覇を達成したエヴァンスか、それともウィギンズによるイギリス人選手のツール初制覇か。この2人のどちらかがパリでマイヨジョーヌを受け取る可能性はかなり高い。
アウトサイダーと呼ぶには豪華過ぎる面々がリエージュに集う
もちろんマイヨジョーヌを狙っているのはオーストラリア人とイギリス人だけではない。骨折で欠場を余儀なくされたアンディ・シュレク(ルクセンブルク)と、出場停止処分期間中のアルベルト・コンタドール(スペイン)を欠くものの、ツールの主役になり得るオールラウンダーたちが顔を揃える。
今年ティレーノ〜アドリアティコを制した27歳のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は、ジロ・デ・イタリアをパスしてツールに照準を合わしている。
ニーバリは2009年ツールで総合7位。前哨戦ドーフィネでは精彩を欠いたが、そのポテンシャルは高い。ジロを走り終えたイヴァン・バッソ(イタリア)がニーバリをバックアップするだろう。
フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)は、欠場する弟アンディに代わってエースの座に就く。しかし今年は急遽ジロ出場が決まるなど、プログラムの変更を強いられた。
記者会見でフランクは「今年は思うようなコンディショニングが出来ていない。チームにはクリス(ホーナー)とアンドレアス(クレーデン)もいるし、毎日様子を見ながらレースに挑む」と、リラックスした表情で話す。
総合狙い有力選手たちが口々に名前を挙げるのがデニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)だ。タイムトライアルの比率が高いため、寡黙なロシアンが大きなサプライズになり得る。なお、ジロ総合2位のホアキン・ロドリゲス(スペイン)はブエルタ・ア・エスパーニャを見据えて欠場する。
山岳ステージの上位常連であるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)らの他、久々のツール出場となるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)、そしてサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)らも総合上位候補。しかしエヴァンス=ウィギンズに割って入るには厳しいか。
昨年フランスの観客を沸かせ、総合4位に入ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)は、膝に不安を抱えながらの出場。ヴォクレールのチームメイトで、昨年ラルプ・デュエズを制したピエール・ロラン(フランス)や、アージェードゥーゼルのジャンクリストフ・ペロー(フランス)が地元フランスの期待を背負う。
ジロ覇者のライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)はトム・ダニエルソン(アメリカ)とのダブルエース体制でツールに挑む。北米勢としてはリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)も忘れてはいけない。チームメイトのタイムトライアル世界王者トニ・マルティン(ドイツ)が山岳でどこまで走れるかに注目。オメガファーマ・クイックステップからはマーティンとペーターのベリトス兄弟(スロバキア)も出場する。
引退を撤回してツールに戻ってきたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は、ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア)のアシストに回る考え。ジロで思うような結果を残せなかったミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)は、2004年以来8年ぶりのツール出場だ。
ツール・ド・フランス2011総合成績
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) 86h12'22"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'34"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'30"
4位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) +3'20"
5位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) +3'57"
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'55"
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +6'05"
8位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +7'23"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +8'15"
10位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット) +10'11"
歴代のツール総合優勝者
2011年 カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2010年 アンディ・シュレク(ルクセンブルク)※コンタドール失格による
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)
text:Kei Tsuji in Liege, Belgium
オーストラリア人の連覇か、それともイギリス人の初制覇か
エヴァンスとウィギンズ。35歳と32歳。オーストラリア人とイギリス人。今年のマイヨジョーヌ争いはこの2人を中心に繰り広げられると言っても良いだろう。
3つの個人タイムトライアルの合計が100kmを超え、例年より頂上ゴールの数&難易度がダウンしている今年のコースは、彼ら2人のためにデザインされたようなものだ。
エヴァンスは今年のコースについて「難関山岳の数が少ない。その分、一つ一つの登りの重要度が上がり、レースとしてはより厳しいものになり得る」と語る。
「準備は出来ている。昨年も強いチームに守られたが、今年はより一層強いメンバーがチームに揃った。特にティージェイ(ヴァンガーデレン)のような山岳アシストがいるんだ。チームはリラックスした良い状態で、モチベーション高くツールに挑む」。
エヴァンスはライバルチームの強さを認めた上で、ウィギンズとのマッチレースを予想する。「チームスカイはこの1年で大きくレベルアップした。ブラッド(ウィギンズ)と彼らが今年成し遂げたステージレース連勝は賞賛されるべきものだ。ドーフィネの山岳では、メンバー9名のうち4名がずっとゴールまで集団に残っていた。これは長らくロードレース界が欠いていた強力なチームの証。ウィギンズとは最後まで頭を突き合わすような闘いになるだろう」。
エヴァンスの言葉通り、挑戦者ウィギンズは今年史上初めてパリ〜ニース、ツール・ド・ロマンディ、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネを立て続けに制覇。直前のドーフィネでは鉄壁のアシスト陣に守られて山岳ステージをこなし、個人タイムトライアルでは2分前に出走した前走者のエヴァンスに追いつきそうになるほど圧倒的な走りを見せた。
「個人タイムトライアルの長さは僕に味方するだろう。テネリフェのトレーニングキャンプで登坂力を磨き、ドーフィネでその成果を感じることが出来た」。ウィギンズは波に乗った状態でリエージュに降り立つ。
アシスト陣も豪華で、リッチー・ポルト(オーストラリア)やマイケル・ロジャース(オーストラリア)、クリス・フルーム(イギリス)が山岳ステージでウィギンズを強力にサポートする。
唯一の懸念材料は、早過ぎる調子のピークだろう。3週目を見据えてコンディションを上げていくエヴァンスに対し、ウィギンズのピーキングが早過ぎる感がある。しかしウィギンズはそのことを全く問題視していない。ウィギンズは「素晴らしいチームスタッフやコーチの指示を受けながら、パーフェクトなコンディションでツールに挑む。実際にここまでのステージレースで成果を出し、チームもとても良い状態にある。これは理想的な展開だ」と自信を見せる。
ウィギンズは昨年ツール第7ステージで落車し、鎖骨を骨折してリタイア。それだけに慎重にレースを運びたい考え。「ツールは毎日何が起こるか分からない。昨年のように落車でレースを去るようなことが無いように、常に集団の中で気を使って走る」。ウィギンズはフランス語を流暢に話すが、チームプレゼンテーションではフランス語の質問に一貫して英語で答えるなど、フランスレースの中でヒール役を演じているようにも見える。
昨年オーストラリア人選手初のツール制覇を達成したエヴァンスか、それともウィギンズによるイギリス人選手のツール初制覇か。この2人のどちらかがパリでマイヨジョーヌを受け取る可能性はかなり高い。
アウトサイダーと呼ぶには豪華過ぎる面々がリエージュに集う
もちろんマイヨジョーヌを狙っているのはオーストラリア人とイギリス人だけではない。骨折で欠場を余儀なくされたアンディ・シュレク(ルクセンブルク)と、出場停止処分期間中のアルベルト・コンタドール(スペイン)を欠くものの、ツールの主役になり得るオールラウンダーたちが顔を揃える。
今年ティレーノ〜アドリアティコを制した27歳のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は、ジロ・デ・イタリアをパスしてツールに照準を合わしている。
ニーバリは2009年ツールで総合7位。前哨戦ドーフィネでは精彩を欠いたが、そのポテンシャルは高い。ジロを走り終えたイヴァン・バッソ(イタリア)がニーバリをバックアップするだろう。
フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)は、欠場する弟アンディに代わってエースの座に就く。しかし今年は急遽ジロ出場が決まるなど、プログラムの変更を強いられた。
記者会見でフランクは「今年は思うようなコンディショニングが出来ていない。チームにはクリス(ホーナー)とアンドレアス(クレーデン)もいるし、毎日様子を見ながらレースに挑む」と、リラックスした表情で話す。
総合狙い有力選手たちが口々に名前を挙げるのがデニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)だ。タイムトライアルの比率が高いため、寡黙なロシアンが大きなサプライズになり得る。なお、ジロ総合2位のホアキン・ロドリゲス(スペイン)はブエルタ・ア・エスパーニャを見据えて欠場する。
山岳ステージの上位常連であるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)らの他、久々のツール出場となるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)、そしてサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)らも総合上位候補。しかしエヴァンス=ウィギンズに割って入るには厳しいか。
昨年フランスの観客を沸かせ、総合4位に入ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)は、膝に不安を抱えながらの出場。ヴォクレールのチームメイトで、昨年ラルプ・デュエズを制したピエール・ロラン(フランス)や、アージェードゥーゼルのジャンクリストフ・ペロー(フランス)が地元フランスの期待を背負う。
ジロ覇者のライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)はトム・ダニエルソン(アメリカ)とのダブルエース体制でツールに挑む。北米勢としてはリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)も忘れてはいけない。チームメイトのタイムトライアル世界王者トニ・マルティン(ドイツ)が山岳でどこまで走れるかに注目。オメガファーマ・クイックステップからはマーティンとペーターのベリトス兄弟(スロバキア)も出場する。
引退を撤回してツールに戻ってきたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は、ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア)のアシストに回る考え。ジロで思うような結果を残せなかったミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)は、2004年以来8年ぶりのツール出場だ。
ツール・ド・フランス2011総合成績
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) 86h12'22"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'34"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'30"
4位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) +3'20"
5位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) +3'57"
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'55"
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +6'05"
8位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +7'23"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +8'15"
10位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット) +10'11"
歴代のツール総合優勝者
2011年 カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2010年 アンディ・シュレク(ルクセンブルク)※コンタドール失格による
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)
text:Kei Tsuji in Liege, Belgium
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