2012/05/26(土) - 14:07
「今日からジロが始まる」「ジロが始まるのは明日からだろ?」「やっとジロが始まった」。サーラスタンパ(プレスルーム)では毎日そんな会話が交わされる。それほど今年のジロ・デ・イタリアはここまでドラマチックな展開を見せないまま進んでいる。ミラノ到着まで残り3日。山場の山岳2連戦に突入する。
前夜、雷を伴う激しい雨が降ったトレヴィーゾ。一夜明けですっかりと天候は回復し、夏の暑さが街を覆う。数日前からずっと悪天候の予報が出ていたが、一日を通して天候が崩れることはなかった。
ヴェネツィアの北30kmに位置するトレヴィーゾの、運河と城壁に囲まれた旧市街をジロはスタートする。街中には運河が張り巡らされており、内陸にあるがどこかヴェネツィアっぽい。
この日はトレヴィーゾから一路平野を北上し、ドロミテのパッソ・パンペアーゴ(パンペアーゴ峠)を目指す旅路。毎日ステージ優勝が派手に表彰式で振り回すプロセッコ「アストリア」をふくむワインの産地を抜け、山岳地帯へと入って行く。
登坂距離10.5km・平均勾配9.8%というパンペアーゴを2回登る。ちょうどコースの真ん中に位置する標高2047mのパッソ・マンゲン(マンゲン峠)も侮れない存在で、一日の獲得標高差は5100mを越える。
駆けつけたイタリア人の観客は、当然イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)やミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)がガツンとアタックを決めて独走し、マリアローザに袖を通すという妄想を膨らませている。
それが無理だとしても、イタリア語を流暢に話すホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がマリアローザでもまぁまだ許せるかなという雰囲気。
そんな妄想を綺麗さっぱりかき消すほど、今のライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)は強い。「キャリアの中でここまで調子が良いのは初めて」と話すカナディアンは、タイムを失うどころか、ライバルたちからリードを奪うことに成功する。
もうこのままヘジダルが崩れることが無ければ、他の選手たちに為す術は無い。山岳で最も強く、タイムトライアルで(総合上位の中で)最も強い。
しかも最終日前日、つまり明日の第20ステージは、ヘジダル向きのコースだという声も強い。平均勾配10.5%の悪名高きモルティローロは確かに厳しくロドリゲス向きだが、何しろゴールまで距離がある。仮にモルティローロで単独アタックを成功させたとしても、その後の平坦区間で苦しむことになる。どの選手もアシストを残したままモルティローロを終えたいと思っているだろう。
ゴール前のパッソ・デッロ・ステルヴィオは登坂距離が22kmを越えるものの、平均勾配は6.9%。ハイペースで淡々と回すヘジダル向きだ。
かと言ってバッソ、スカルポーニ、ロドリゲスが指をくわえてヘジダルの「崩壊」を待っていては何も始まらない。この3人は攻撃的になる必要がある。
ロドリゲスは17秒の総合リードを更に広げるために走る。1分39秒遅れのスカルポーニと1分45秒遅れのバッソの2人は、表彰台争いではなく逆転マリアローザの可能性を信じて走る。いつのまにか、今年のジロは完全にヘジダルを中心に回っている。
レース前方でマリアローザを懸けた争いが繰り広げられるその一方で、レース後方ではジロ完走を懸けたタイムリミットとの闘いが始まっている。この日のステージ優勝タイムは6時間18分なので、タイムリミットは56分(山岳ステージでは優勝タイムの15%)。
イタリア語、ドイツ語、チェコ語が飛び交うパンペアーゴの登りでは、遅れた選手を観客たちが押しまくり。熱心に押した観客は選手からボトルをもらえる。と言うより最初からボトル目当てで、「ボトル!ボトル!」と叫びながら背中を押している。
急勾配の登りに備えてフロントのインナーを36Tから34Tに落とした別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、最初の難所パッソ・マンゲンでメイン集団から約2分遅れ。最終的にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)のいる大きなグルペット(40分42秒遅れ)でゴールした。
前日にステージ優勝を飾ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)は、いつも通りグルペットからも遅れ、ひっそりと46分44秒遅れで独走ゴールしている。ちなみに平均49.4km/hをマークした第18ステージとは対照的に、この日のレース平均スピードは31.3km/h。
モルティローロでアタックは生まれるのか、それともサプライズはステルヴィオで起こるのか。昨年のツール・ド・フランスで「史上最標高ゴール」として話題にのぼったガリビエ峠(2645m)より更に高い、標高2757mの「チーマコッピ」ステルヴィオ。ここまで淡々と進んでいる感のあるジロもついにクライマックスを迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Alpe di Pampeago, Italy
前夜、雷を伴う激しい雨が降ったトレヴィーゾ。一夜明けですっかりと天候は回復し、夏の暑さが街を覆う。数日前からずっと悪天候の予報が出ていたが、一日を通して天候が崩れることはなかった。
ヴェネツィアの北30kmに位置するトレヴィーゾの、運河と城壁に囲まれた旧市街をジロはスタートする。街中には運河が張り巡らされており、内陸にあるがどこかヴェネツィアっぽい。
この日はトレヴィーゾから一路平野を北上し、ドロミテのパッソ・パンペアーゴ(パンペアーゴ峠)を目指す旅路。毎日ステージ優勝が派手に表彰式で振り回すプロセッコ「アストリア」をふくむワインの産地を抜け、山岳地帯へと入って行く。
登坂距離10.5km・平均勾配9.8%というパンペアーゴを2回登る。ちょうどコースの真ん中に位置する標高2047mのパッソ・マンゲン(マンゲン峠)も侮れない存在で、一日の獲得標高差は5100mを越える。
駆けつけたイタリア人の観客は、当然イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)やミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)がガツンとアタックを決めて独走し、マリアローザに袖を通すという妄想を膨らませている。
それが無理だとしても、イタリア語を流暢に話すホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がマリアローザでもまぁまだ許せるかなという雰囲気。
そんな妄想を綺麗さっぱりかき消すほど、今のライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)は強い。「キャリアの中でここまで調子が良いのは初めて」と話すカナディアンは、タイムを失うどころか、ライバルたちからリードを奪うことに成功する。
もうこのままヘジダルが崩れることが無ければ、他の選手たちに為す術は無い。山岳で最も強く、タイムトライアルで(総合上位の中で)最も強い。
しかも最終日前日、つまり明日の第20ステージは、ヘジダル向きのコースだという声も強い。平均勾配10.5%の悪名高きモルティローロは確かに厳しくロドリゲス向きだが、何しろゴールまで距離がある。仮にモルティローロで単独アタックを成功させたとしても、その後の平坦区間で苦しむことになる。どの選手もアシストを残したままモルティローロを終えたいと思っているだろう。
ゴール前のパッソ・デッロ・ステルヴィオは登坂距離が22kmを越えるものの、平均勾配は6.9%。ハイペースで淡々と回すヘジダル向きだ。
かと言ってバッソ、スカルポーニ、ロドリゲスが指をくわえてヘジダルの「崩壊」を待っていては何も始まらない。この3人は攻撃的になる必要がある。
ロドリゲスは17秒の総合リードを更に広げるために走る。1分39秒遅れのスカルポーニと1分45秒遅れのバッソの2人は、表彰台争いではなく逆転マリアローザの可能性を信じて走る。いつのまにか、今年のジロは完全にヘジダルを中心に回っている。
レース前方でマリアローザを懸けた争いが繰り広げられるその一方で、レース後方ではジロ完走を懸けたタイムリミットとの闘いが始まっている。この日のステージ優勝タイムは6時間18分なので、タイムリミットは56分(山岳ステージでは優勝タイムの15%)。
イタリア語、ドイツ語、チェコ語が飛び交うパンペアーゴの登りでは、遅れた選手を観客たちが押しまくり。熱心に押した観客は選手からボトルをもらえる。と言うより最初からボトル目当てで、「ボトル!ボトル!」と叫びながら背中を押している。
急勾配の登りに備えてフロントのインナーを36Tから34Tに落とした別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、最初の難所パッソ・マンゲンでメイン集団から約2分遅れ。最終的にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)のいる大きなグルペット(40分42秒遅れ)でゴールした。
前日にステージ優勝を飾ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)は、いつも通りグルペットからも遅れ、ひっそりと46分44秒遅れで独走ゴールしている。ちなみに平均49.4km/hをマークした第18ステージとは対照的に、この日のレース平均スピードは31.3km/h。
モルティローロでアタックは生まれるのか、それともサプライズはステルヴィオで起こるのか。昨年のツール・ド・フランスで「史上最標高ゴール」として話題にのぼったガリビエ峠(2645m)より更に高い、標高2757mの「チーマコッピ」ステルヴィオ。ここまで淡々と進んでいる感のあるジロもついにクライマックスを迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Alpe di Pampeago, Italy
フォトギャラリー
Amazon.co.jp