2012/04/19(木) - 17:22
アムステルも雨、フレーシュも雨、そしてリエージュも雨予報。金平糖の出来損ないのような白い霰(あられ)が、バラバラと音を立ててHuyのペイントに打ち付ける。最大勾配26%の「ユイの壁」を舞台にしたアルデンヌ2戦目を振り返る。
今年アルデンヌ初戦を迎える別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「カタルーニャの後は体調を崩してしまったけど、しっかりとトレーニングを積んだし、大丈夫」。シャルルロワのスタート地点にやってきた全日本チャンピオンの別府史之(グリーンエッジ)はそう話す。
その頭の上では、たっぷりと水分を含んだ怪しげな雲が西から東へと忙しなく流れている。天気予報によると、曇り時々雨で、最高気温10度、最低気温4度。冬の冷たさを含んだ風が、南西方向からビュンビュンと吹いている。
ワロン地域出身のフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiベルギー東部のワロン地域を矢の様に駆けるフレーシュ・ワロンヌ。週末に行なわれるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと同じASO主催レースだが、格式の面では一段階下がると言っていい。今年で開催76回目。
ざっくりと言って、ベルギーは南北に別れている。北部(西部)がフランデレン地域で、南部(東部)がワロン地域。フラマン語(オランダ語の方言)が話されるフランドル地域に対して、ワロン地域ではフランス語が公用語として使われている。
スタッド・デュ・ペイ・ド・シャルルロワ(シャルルロワ・スタジアム)前がスタート地点 photo:Kei Tsujiなお、フランデレンの旗は「北のクラシック」で有名な獅子のデザイン。それにに対し、ワロンの旗は雄鶏のデザイン。フランデレン出身のボーネンが獅子なら、ワロン出身のジルベールは雄鶏?
フレーシュ・ワロンヌのスタート地点は、1998年から変わらずワロン地域最大の都市シャルルロワに置かれている。英語で「キング・チャールズ」を意味するシャルルロワという地名は、スペイン王カルロス2世に由来している。
メイン集団内でユイの街を通過する土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji好天続きだった昨年とは異なり、今年のアルデンヌは悪天候が続いている。雨と晴れを交互に繰り返す天気(晴れているのに雨が降るパターンも有り)と、高速道路でハンドルが取られそうになるほどの強い風。
シャルルロワからユイの周回コースに至るレース前半の平坦区間には、横風が吹き付けた。土井雪広(アルゴス・シマノ)曰く、「前半はとにかく風が強くて、しかもずっと横風だった。風で集団が分裂して、位置取りの激しさから何度も落車が起こるような状況。逃げが決まるまで60kmもハイスピードで走った」。
合計3回登る名物「ユイの壁」の正式名称は、「シュマン・デ・シャペル(教会に続く小径)」。沿道には等間隔に7つの祠があって、無数のHuyのペイントとともに、頂上まで選手たちを導く。
お世辞抜きに「壁」に近い。公式ブックによると、最大勾配は19%だが、コーナーの内側を見ると、一般的に言われる26%という数字も納得出来る。選手たちがハンドルにしがみついて走っている姿を見ると、「よじ上る」という表現が最も正しいように感じる。
集団中程でユイの壁を登るフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji
2回目のユイの壁を登る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji「自分からアタックして2回逃げに入ったけど、どちらも集団に引き戻された。逃げが決まってからは、エースのアレックス(ジェニエ)とシモン(ゲスク)の援護に徹した」と話す土井は、客観的に見て、メイン集団の比較的前方で2回目のユイをクリアした。
ゴールに向かって猛進するホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiしかしそれでも勝負に絡むにはポジションが悪かったと言う。「2回目のユイの壁に突入の番手が後ろ過ぎた。ユイを越えてからずっと横風で、集団が一列になったので前に上がるタイミングを失った。今日の失敗は、2回目のユイの位置取り。最後から2つ目の登りでアタックするイメージがあったれど、ユイでのミスを取り戻すことは出来なかった」。
土井曰く「2回目のユイの速さは、これまで出場した中で最速だった」。最大勾配26%に備えて最大27Tのカセットを用意したが、「ペースが速すぎて25Tまでしか使わなかった」と言う。土井は悔しさを滲ませながら5分04秒遅れの100位でレースを終えている。
2位争いを制したミハエル・アルバジーニ(スイス、グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji天気は一日を通して気まぐれで、ゴール直前には直径3〜4mmほどの霰(あられ)が降った。かと思うと、数分後にはケバケバしい色彩の陽光が、新緑の樹々を照らし出す。「実にベルギーらしい天候じゃないの」とベルギー人フォトグラファーがこぼす。
これが4回目のフレーシュ出場となる別府史之にとって、レース出場はカタルーニャ以来2週間ぶり。全日本選手権に出場しないため、全日本チャンピオンジャージはこのフレーシュと週末のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、そして来週開幕のツール・ド・ロマンディに限られる。デンマーク開幕のジロ・デ・イタリアに向けて、休む間もなくみっちりとワールドツアーレースが連続する。
観客の脚もとにはシメイの空きグラス photo:Kei Tsuji「前半は風が強くて、アルバ(アルバジーニ)やクラークらと集団前方で走った。役目を終えて遅れてから、彼らが良い順位でゴールしたらいいなと思ってたら、アルバが2位に入ったと聞いて驚いた」。9分50秒遅れの117位でゴールした別府は、地面から巻き上げた泥によって幾分黒くなった顔で、チームメイトの朗報に声のトーンを上げる。
グリーンエッジはUCIワールドツアーランキングのチーム2位に浮上し、しかもリエージュではポイントを持ってるジェランスとアルバジーニが揃う。リエージュでは再びアシストとしての走りが要求される。
表彰式の最中に再び雨が降り始める photo:Kei Tsujiそのグリーンエッジのアルバジーニを振り切り、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が初めてフレーシュを制した。暖かな太陽の下、直前まで降っていた雨を地面から巻き上げながら、顔を覆ってゴールラインを切る感動的なフィニッシュだった。ロドリゲスにとってUCIワールドツアークラスのワンデークラシック初制覇。2年連続でフレーシュ2位に甘んじていたピュアクライマーが念願のタイトルを手にした。
レース後の記者会見で、ロドリゲスは興奮冷めやらぬ様子でレースを振り返り始める。「間違いなくキャリアの中で最高の、最良の勝利だ。このアルデンヌ・クラシックは大好きなレースであり、勝利を手にすることが出来て大きな喜びを感じている」。
しかし、ロドリゲスには申し訳ないが、表彰台で最も大きな声援を受けていたのは、ディフェンディングチャンピオンのフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)。不調から脱出しつつあり、平坦なスプリント勝負に持ち込まれることの多いリエージュでは、優勝候補に挙げられる。
ベルギーチャンピオンジャージを着るワロンの雄鶏は、地元最大のクラシックで観客の期待に応えることは出来るか?フレーシュの表彰台を受けて、大挙してレース会場に現れるジルベール応援団の表情は希望に満ちたものに変わった。
text&photo:Kei Tsuji in Huy, Belgium
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フレーシュ・ワロンヌのスタート地点は、1998年から変わらずワロン地域最大の都市シャルルロワに置かれている。英語で「キング・チャールズ」を意味するシャルルロワという地名は、スペイン王カルロス2世に由来している。
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合計3回登る名物「ユイの壁」の正式名称は、「シュマン・デ・シャペル(教会に続く小径)」。沿道には等間隔に7つの祠があって、無数のHuyのペイントとともに、頂上まで選手たちを導く。
お世辞抜きに「壁」に近い。公式ブックによると、最大勾配は19%だが、コーナーの内側を見ると、一般的に言われる26%という数字も納得出来る。選手たちがハンドルにしがみついて走っている姿を見ると、「よじ上る」という表現が最も正しいように感じる。
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しかし、ロドリゲスには申し訳ないが、表彰台で最も大きな声援を受けていたのは、ディフェンディングチャンピオンのフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)。不調から脱出しつつあり、平坦なスプリント勝負に持ち込まれることの多いリエージュでは、優勝候補に挙げられる。
ベルギーチャンピオンジャージを着るワロンの雄鶏は、地元最大のクラシックで観客の期待に応えることは出来るか?フレーシュの表彰台を受けて、大挙してレース会場に現れるジルベール応援団の表情は希望に満ちたものに変わった。
text&photo:Kei Tsuji in Huy, Belgium
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