カーボンスポークホイールの草分けとなったCADEXや、マイケル・マシューズと協業するシューズを筆頭に、豊富なバリエーションを誇るジャイアントのギア関連製品。それらの開発主導を担うジェイ・ホー氏が来日し、話を聞く機会に恵まれた。めきめきと評価を上げる製品たちは、一体どのように作られているのだろうか。

ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘で開催されたジャイアントのディーラーショー。色鮮やかな2027モデルが並んだ photo:Naoki Yasuoka
ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘を舞台に、ジャイアントの2027年モデルディーラーショーが開催された。東京のフラッグシップストアだけあって、DCF(ダイナミック・サイクリング・フィット)専用コーナーまで設置された、小さくも豪華な店舗だ。2027年モデルのジャイアント、Liv、そしてCADEX製品がずらりと並ぶ中、とりわけ注目を集めていたのが、遠くない将来にオンラインでのイメージ確認が可能になるというカスタムオーダーサービス。新モデルやサービスを一目見ようとショップ関係者が詰めかけた。

既にスタートしているカスタマイズプログラム。待望のオンラインサービスがスタート予定だ photo:Naoki Yasuoka

スタート予定のオンラインカスタマイズサービスを試すニコー製作所の渡邊さんと吉田さん photo:Naoki Yasuoka 
即レーススペックの女性用トライアスロンモデル、Avow Advanced SL 1(税込143万円) photo:Naoki Yasuoka
そんな会場で話を聞く機会を得たのが、台湾本社でギア・パーツ部門を統括するジェイ・ホー氏(Global Head of Gear business Division)だ。シューズやライダーギア、バイクギア、タイヤ、ライト、ポンプ、そしてCADEXまで、ジャイアントのギア関連製品すべての計画・開発を担う人物である。
CADEXの成り立ち:カーボンスポークホイールの草分け

台湾本社でギア・パーツ部門を統括するジェイ・ホー氏。CADEXを含む様々な製品の開発に携わる photo:Naoki Yasuoka バイクブランドによるコンポーネント・ギア開発競争が本格化したのはここ10年ほどの話だ。そんな中、後発のジャイアントはカーボンスポークを採用した超軽量・高剛性ホイールをいち早く市場に投入し、「ジャイアントから独立したハイパフォーマンスコンポーネントブランド」というイメージをCADEXに植え付けることに成功した。JBCFやホビーレースの会場を歩けば、ジャイアント以外のバイクにCADEXホイールを組み合わせている選手も珍しくない。
「2017年から2018年にかけて、当時のサンウェブ(現在のピクニック・ポストNL)と一緒にホイールの開発を進め、サポートチームが2019年にCCCへ切り替わったことで実戦デビュー。特に我々のホイールは、軽さはもちろん、剛性とパワー伝達性能に優れているという特徴から、最初から非常に好印象でした」とジェイ氏は振り返る。
マスプロダクトメーカーとしてカーボンスポークを採用したのはジャイアントがパイオニア。当然、導入当初は選手側からも不安の声があったという。「もちろん当初は選手側からも不安はありましたが、2019年のツール・ド・フランスではクラッシュによる破損が1件だけ。ホイールもタイヤも、今ではどのブランドもカーボンスポークに舵を切っていますが、我々はそのパイオニアです」。
それを裏付けるように直近のシーズンでは目立ったトラブルはなく、今年のツールでは破損報告は1本もなかったという。「タイヤもいいし、ホイールも全然問題ないというフィードバックがジェイコから来ました。とても嬉しかったです」と笑顔を見せる。

2019年に発表されて以降、最高峰パーツブランドとして定着したCADEX。その開発ストーリーを聞いた photo:Naoki Yasuoka
ジェイ氏が手がけるCADEX製品やシューズは、ジャイアントと密接な関係を持つジェイコ・アルウラーとの共同開発によって形になっていく。選手たち、特に長年エースを務めるマイケル・マシューズ(オーストラリア)とは直接メッセージのやり取りをして製品フィードバックを受け取っているという。
サポート範囲は年々広がっている。従来からのホイールやハンドル、ヘルメット、タイヤに加え、2026年にはアイウェアまでもがCADEX/ジャイアント製品となった。一つのチームに対する関わり方がホイールという一部品から、選手を頭からつま先まで支える総合的なものへと変化しているということだ。

今年6月にデビューしたSURGE PRO。マイケル・マシューズとの共同開発で生まれたハイスペックロードシューズだ photo:Naoki Yasuoka

シューズの仕上がりを喜ぶマシューズが開発陣に送ったビデオメッセージを見せてもらった photo:Naoki Yasuoka 
ジェイコの選手たちも使用するチームスペックのアイウェア「Sendero Team Edition」 photo:Naoki Yasuoka
その中でもひときわ熱を込めて語ってくれたのが、マシューズとのシューズ開発でリリースされた最新モデルのSURGE PROについて。シューズ開発の個人契約を結び、最初のSURGEからずっとマシューズは関わり続けているという。初期モデルのカーボンソールはセンタービーム式でソール全体がツイストさせ、柔軟性を持たせることで、自然なペダリングモーションを引き出す狙いがあったという。しかし、ある選手からソールが捩れることで膝が痛くなるという訴えがあり、設計を大きく変更することになった。
「リリースしたばかりの最新作SURGE PROでは、とにかくソールを硬くしています。我々がテストマシンで計測したところ、他社有名ブランドが120から140Nm/cmでしなるところ、SURGE PROは220Nm/cmと、ほぼ2倍近い剛性を叩き出しています。これは選手たちからもっともリクエストされていたことでした」。
数値だけでなく、快適性にも余念がない。連日35度を超えるようなツール・ド・フランスでの使用を見据え、素材ブランドと協業してアッパー素材を開発。BOAワイヤーを締めることでアーチサポートを強化する構造も採用するなど、細部まで作り込まれたシューズに仕上がったという。「マシューズもこのシューズを本当に気に入ってくれていて、完成品を履き始めたその日、すぐにビデオメッセージで『最高だよ!』と連絡をくれました」。
さらに笑いを交えてこんな小話も明かしてくれた。「あと、これはオフレコですが、マシューズはよく別のトップ選手と一緒にトレーニングしているんですね。その彼がCADEXのホイールを使いたいという話も聞いています(笑)。とにかくマシューズがいてくれたからこそ、SURGE PROはここまで完成度が高いものに仕上がったと思いますね」。

「あらゆる場面においてトータルで開発することが大切です」と言う photo:Naoki Yasuoka
ジャイアントでは新製品の投入プロセスにも明確な哲学がある。商品リリースの半年前にはフィールドテストを開始し、選手が気に入らなければ徹底的に作り直す。そして、レースシーズン中に新型モデルを投入することは決してしないという。必ずオフシーズンに選手へ試してもらい、その反応を踏まえた上で情報公開のタイミングに合わせてデビューさせる。現在はまさに新型ホイールの開発が進行中で、シーズン終了後、来季に向けたトレーニングキャンプでのお披露目に向けて準備が進められているという。
今年投入したCADEXのタイヤ「CADEX Aero Cotton」についてもトラブルは非常に少なく、フィードバックは良好。ジェイ氏によればコンパウンドやチューブレスシステムは製造を委託している某欧州ブランドとほぼ同じだが、タイヤの断面形状はCADEXホイールに合わせて独自に最適化させたことが一番の違い。タイヤセンターを0.1〜0.2mmほど尖らせ、サイドもリムとツライチになるよう変更することで、CADEXホイールと組み合わせた際の空力性能が最高レベルになるように仕立てているという。
ジャイアントの開発チームは3ヶ月に一度、風洞実験施設に足を運んで定期的にテストを実施。タイヤとホイールの組み合わせだけで、これまでに合計5回の風洞実験を行ったそうだ。
「トータルセットでの開発」という一貫思想

2026年からレース投入されたCADEX Aero Cottonタイヤ。CADEXのホイールと組み合わせた際に高いエアロ効果を発揮するという (c)ジャイアント・ジャパン
こうした作り込みは、タイヤとホイールに限った話ではない。あらゆるCADEX製品に共通するキーワードが「トータルセットでの開発」だ。ホイールであれば単体で計測するのではなく、実際に車体へ取り付け、さらに稼働マネキンを乗せた状態で空力性能や剛性を測定する。ハンドルバー開発においても、自転車に取り付けた状態であらゆるデータを取得するという。
「例えば、今年発売したハンドルバー(Contact SLR 0 Aero Integrated)は、東レのT1100カーボンを全体の99%以上に使用し、剛性を確保しながらサイズによっては250g以下という軽さを達成しました。軽さだけで見ればもっと軽くて安い中国製品はありますが、総合的なパフォーマンスは比べ物になりませんし、安価な製品は弱く、場合によっては簡単に折れてしまうこともあります。安全性も踏まえれば、我々の製品とは天と地ほどの差があることを覚えていただきたいのです」。

大きな賑わいを見せたジャイアントの2027モデル展示会 photo:Naoki Yasuoka
最後にジェイ氏が語ったのは、製品開発の話を超えた、ジャイアントという会社が目指す先だった。
「私たちが目指している最終目標は、サイクリングの文化をもっともっと大きくすることです。台湾には『ジャイアント・トラベル』というグループがあり、日本へのサイクリングツアーも毎年開催していますし、本社の隣には自転車文化を発信するジャイアントの博物館もあります。家族や子どもたちが私たちのヘッドクォーターを訪問して、たくさんの学校がバスに乗って校外学習にやってきます。私たちのミッションは、みんなの人生をより良くすること。そして、この価値ある業界をより良くすることです。最高の装備とバイクを届けることが、私たちのDNAとして大事にしていることであり、それがジャイアントブランドの目標なのです」。
text:So Isobe
photo:Naoki Yasuoka

ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘を舞台に、ジャイアントの2027年モデルディーラーショーが開催された。東京のフラッグシップストアだけあって、DCF(ダイナミック・サイクリング・フィット)専用コーナーまで設置された、小さくも豪華な店舗だ。2027年モデルのジャイアント、Liv、そしてCADEX製品がずらりと並ぶ中、とりわけ注目を集めていたのが、遠くない将来にオンラインでのイメージ確認が可能になるというカスタムオーダーサービス。新モデルやサービスを一目見ようとショップ関係者が詰めかけた。



そんな会場で話を聞く機会を得たのが、台湾本社でギア・パーツ部門を統括するジェイ・ホー氏(Global Head of Gear business Division)だ。シューズやライダーギア、バイクギア、タイヤ、ライト、ポンプ、そしてCADEXまで、ジャイアントのギア関連製品すべての計画・開発を担う人物である。
CADEXの成り立ち:カーボンスポークホイールの草分け

「2017年から2018年にかけて、当時のサンウェブ(現在のピクニック・ポストNL)と一緒にホイールの開発を進め、サポートチームが2019年にCCCへ切り替わったことで実戦デビュー。特に我々のホイールは、軽さはもちろん、剛性とパワー伝達性能に優れているという特徴から、最初から非常に好印象でした」とジェイ氏は振り返る。
マスプロダクトメーカーとしてカーボンスポークを採用したのはジャイアントがパイオニア。当然、導入当初は選手側からも不安の声があったという。「もちろん当初は選手側からも不安はありましたが、2019年のツール・ド・フランスではクラッシュによる破損が1件だけ。ホイールもタイヤも、今ではどのブランドもカーボンスポークに舵を切っていますが、我々はそのパイオニアです」。
それを裏付けるように直近のシーズンでは目立ったトラブルはなく、今年のツールでは破損報告は1本もなかったという。「タイヤもいいし、ホイールも全然問題ないというフィードバックがジェイコから来ました。とても嬉しかったです」と笑顔を見せる。

ジェイ氏が手がけるCADEX製品やシューズは、ジャイアントと密接な関係を持つジェイコ・アルウラーとの共同開発によって形になっていく。選手たち、特に長年エースを務めるマイケル・マシューズ(オーストラリア)とは直接メッセージのやり取りをして製品フィードバックを受け取っているという。
サポート範囲は年々広がっている。従来からのホイールやハンドル、ヘルメット、タイヤに加え、2026年にはアイウェアまでもがCADEX/ジャイアント製品となった。一つのチームに対する関わり方がホイールという一部品から、選手を頭からつま先まで支える総合的なものへと変化しているということだ。



その中でもひときわ熱を込めて語ってくれたのが、マシューズとのシューズ開発でリリースされた最新モデルのSURGE PROについて。シューズ開発の個人契約を結び、最初のSURGEからずっとマシューズは関わり続けているという。初期モデルのカーボンソールはセンタービーム式でソール全体がツイストさせ、柔軟性を持たせることで、自然なペダリングモーションを引き出す狙いがあったという。しかし、ある選手からソールが捩れることで膝が痛くなるという訴えがあり、設計を大きく変更することになった。
「リリースしたばかりの最新作SURGE PROでは、とにかくソールを硬くしています。我々がテストマシンで計測したところ、他社有名ブランドが120から140Nm/cmでしなるところ、SURGE PROは220Nm/cmと、ほぼ2倍近い剛性を叩き出しています。これは選手たちからもっともリクエストされていたことでした」。
数値だけでなく、快適性にも余念がない。連日35度を超えるようなツール・ド・フランスでの使用を見据え、素材ブランドと協業してアッパー素材を開発。BOAワイヤーを締めることでアーチサポートを強化する構造も採用するなど、細部まで作り込まれたシューズに仕上がったという。「マシューズもこのシューズを本当に気に入ってくれていて、完成品を履き始めたその日、すぐにビデオメッセージで『最高だよ!』と連絡をくれました」。
さらに笑いを交えてこんな小話も明かしてくれた。「あと、これはオフレコですが、マシューズはよく別のトップ選手と一緒にトレーニングしているんですね。その彼がCADEXのホイールを使いたいという話も聞いています(笑)。とにかくマシューズがいてくれたからこそ、SURGE PROはここまで完成度が高いものに仕上がったと思いますね」。

ジャイアントでは新製品の投入プロセスにも明確な哲学がある。商品リリースの半年前にはフィールドテストを開始し、選手が気に入らなければ徹底的に作り直す。そして、レースシーズン中に新型モデルを投入することは決してしないという。必ずオフシーズンに選手へ試してもらい、その反応を踏まえた上で情報公開のタイミングに合わせてデビューさせる。現在はまさに新型ホイールの開発が進行中で、シーズン終了後、来季に向けたトレーニングキャンプでのお披露目に向けて準備が進められているという。
今年投入したCADEXのタイヤ「CADEX Aero Cotton」についてもトラブルは非常に少なく、フィードバックは良好。ジェイ氏によればコンパウンドやチューブレスシステムは製造を委託している某欧州ブランドとほぼ同じだが、タイヤの断面形状はCADEXホイールに合わせて独自に最適化させたことが一番の違い。タイヤセンターを0.1〜0.2mmほど尖らせ、サイドもリムとツライチになるよう変更することで、CADEXホイールと組み合わせた際の空力性能が最高レベルになるように仕立てているという。
ジャイアントの開発チームは3ヶ月に一度、風洞実験施設に足を運んで定期的にテストを実施。タイヤとホイールの組み合わせだけで、これまでに合計5回の風洞実験を行ったそうだ。
「トータルセットでの開発」という一貫思想

こうした作り込みは、タイヤとホイールに限った話ではない。あらゆるCADEX製品に共通するキーワードが「トータルセットでの開発」だ。ホイールであれば単体で計測するのではなく、実際に車体へ取り付け、さらに稼働マネキンを乗せた状態で空力性能や剛性を測定する。ハンドルバー開発においても、自転車に取り付けた状態であらゆるデータを取得するという。
「例えば、今年発売したハンドルバー(Contact SLR 0 Aero Integrated)は、東レのT1100カーボンを全体の99%以上に使用し、剛性を確保しながらサイズによっては250g以下という軽さを達成しました。軽さだけで見ればもっと軽くて安い中国製品はありますが、総合的なパフォーマンスは比べ物になりませんし、安価な製品は弱く、場合によっては簡単に折れてしまうこともあります。安全性も踏まえれば、我々の製品とは天と地ほどの差があることを覚えていただきたいのです」。

最後にジェイ氏が語ったのは、製品開発の話を超えた、ジャイアントという会社が目指す先だった。
「私たちが目指している最終目標は、サイクリングの文化をもっともっと大きくすることです。台湾には『ジャイアント・トラベル』というグループがあり、日本へのサイクリングツアーも毎年開催していますし、本社の隣には自転車文化を発信するジャイアントの博物館もあります。家族や子どもたちが私たちのヘッドクォーターを訪問して、たくさんの学校がバスに乗って校外学習にやってきます。私たちのミッションは、みんなの人生をより良くすること。そして、この価値ある業界をより良くすることです。最高の装備とバイクを届けることが、私たちのDNAとして大事にしていることであり、それがジャイアントブランドの目標なのです」。
text:So Isobe
photo:Naoki Yasuoka
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