1級山岳モンカルビリョにフィニッシュしたブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージで、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がラスト5kmを独走。チームメイトの高速牽引を今大会3勝目に繋げると共に、総合首位に返り咲いた。



9月6日(金) 第19ステージ
ログローニョ〜アルト・デ・モンカルビリョ 173.5km(丘陵/山頂フィニッシュ)


最後のグランツールを楽しむトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・デスティニー) photo:CorVos
前日勝者のウルコ・ベラーデ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ) photo:CorVos


マイヨロホをキープする正念場を迎えたベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) photo:Unipublic

ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第19ステージ コースプロフィール image:A.S.O.

第79回ブエルタ・ア・エスパーニャのラスト3日間はいずれも総合順位が変動するであろうステージ。その初日はログローニョを出発後、円を描くように平坦路を進んで1級山岳アルト・デ・モンカルビリョ(距離8.6km/平均8.9%)を駆け上がる168kmの丘陵ステージだ。

コース中央にはボーナスタイムが付与される3級山岳を登るが、距離5.2km/平均4.8%の登りはクライマーにとって足慣らしにもならないはず。フィニッシュ手前14.2km地点にある中間スプリントを経て、臨む1級山岳アルト・デ・モンカルビリョのラスト4kmは平均10%前後の勾配が続いていく。

逃げ切り勝利した第6ステージから総合首位を守り続けているベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル)と、総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)の差は僅か5秒。総合4位リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)も1分46秒遅れの僅差と言える状況のなか、139名まで絞られた選手たちが出発地点のログローニョを走り出した。

プロトンはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエが積極的にプロトンを牽引した photo:CorVos

エドワルト・プランカールト(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)ら5名が形成した逃げグループ photo:CorVos

現役最後のグランツールを走るトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・デスティニー)も逃げを試みるなか、アタックと吸収を繰り返した末に5名の逃げ集団が形成される。その中にアンテルマルシェ・ワンティは2名を送り、2週目&3週目はほぼ毎日逃げに選手を入れるUAEチームエミレーツからは20歳のイサーク・デルトロ(メキシコ)が乗った。

ブエルタ第19ステージで逃げた5名
イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツ)
エドワルト・プランカールト(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)
フラン・ミホリェヴィッチ(クロアチア、バーレーン・ヴィクトリアス)
フィト・ブラーツ(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ)
シモーネ・ペティッリ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ)

残り125km地点で出来上がった逃げグループは一気に4分のリードを奪い、落ち着きを取り戻したメイン集団ではジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ)が落車する。左半身を地面に打ちつけたヴァインはドクターカーによる治療を受けながら集団へと戻り、無事フィニッシュまでたどり着いている。

序盤に落車し、治療を受けるジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
思うようなリードを築けない逃げの5名 photo:CorVos


序盤からタイトなペースコントロールをしたニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

3級山岳はこれがグランツールデビューである22歳のミホリェヴィッチが先頭通過する。デカトロンではなくレッドブルが先頭に人数を固めるプロトンは2分42秒差で頂上に達し、下りでレッドブルとモビスターが加速。それにより集団は分裂し、総合7位につけるマティアス・スケルモース(デンマーク)が遅れたためリドル・トレックが後方集団で追走した。

その後の平坦区間でメイン集団はひと塊に戻り、緊張感のある展開によって逃げとのタイム差は2分まで縮まる。残り50km地点では第17ステージの集団スプリントで3位に入ったブラーツが遅れ、逃げ集団は4名に。引き続きレッドブルが力強い牽引を見せたプロトンは、その視界に最終1級山岳アルト・デ・モンカルビリョ(距離8.6km/平均8.9%)の姿を捉えた。

麓(残り14.2km)に設定された中間スプリントをプランカールトがトップ通過し、山岳手前でプランカールトのアタックに反応したミホリェヴィッチが単独先頭に立つ。しかしレッドブルの高速牽引により、ミホリェヴィッチは1級山岳に入った直後に飲み込まれた。

ログリッチのため高速牽引で後続との差を拡げるアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)) photo:CorVos

平均勾配8.9%の登りで集団の牽引を担当したのは、今年6月にエースであるログリッチの母国レース(ツアー・オブ・スロベニア)で総合優勝したジョヴァンニ・アレオッティ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。その後今年のジロ・デ・イタリア総合2位ダニエル・マルティネス(コロンビア)に引き継がれると、アレクサンドル・ウラソフ(ロシア)とログリッチ以外を引き離す高速牽引を披露。後続ではオコーナーのアシストが先頭でペースを作り、そこから飛び出したダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)が単独で追いかけた。

ウラソフが役割を終え、残り5.1kmからログリッチが単独先頭に立つ。2020年にも同じ登りで勝利し、自身2度目の総合優勝に繋げた相性の良い登りでログリッチは、シッティングのまま着実に残り距離を縮めていった。

ゴデュを捉え、32秒差まで拡げられた追走集団からは残り3.6kmでエンリク・マス(スペイン、モビスター)が飛び出す。一気にログリッチとの差を20秒まで詰めたものの、平均10%の登りでもハイケイデンスで脚を回すログリッチのスピードは落ちなかった。

追走集団を飛び出し、単独でログリッチを追うエンリク・マス(スペイン、モビスター) photo:CorVos

残り5.1kmで先頭に立ったプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

区間3勝目を手に入れたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

落車によりリタイアしたツール・ド・フランスから約1ヶ月、ログリッチが4年前と同じ1級山岳アルト・デ・モンカルビリョの頂上に到着。第4、8ステージに続く今大会3勝目を手に入れた。

オコーナーが1分49秒遅れの区間12位でフィニッシュしたため、1分54秒のリードで総合首位に返り咲いたログリッチ。「ステージ優勝を狙ってはいなかった。名前は明かさないが、あるチームメイトに”君の意見は無視しても僕らは集団牽引をする”と言われたんだ。”僕らは他にやることもないから”とね。だから僕は了承し、心を一つにしないといけないから攻めたんだ」と、ログリッチは勝利の舞台裏を明かした。

区間2位に入ったのはマスを追い抜いたゴデュ。3位のスケルモースは総合順位でカルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)を抜いたため、今大会初のマイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)に袖を通している。

46秒遅れでフィニッシュしたダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)とマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) photo:CorVos
マイヨロホを失ったベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) photo:CorVos


総合首位に返り咲いたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

区間3位でマイヨブランコ(ヤングライダー賞)を手に入れたマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) photo:CorVos

ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第19ステージ
1位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) 3:54:55
2位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) +0:46
3位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)
4位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +0:50
5位 ミケル・ランダ(スペイン、Tレックス・クイックステップ) +0:57
6位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)
7位 エディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) +1:01
8位 セップ・クス(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)
9位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) +1:03
10位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +1:23
11位 マシュー・リッチテッロ(アメリカ、イスラエル・プレミアテック) +1:30
12位 ベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) +1:49
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) 76:43:36
2位 ベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) +1:54
3位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +2:20
4位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) +2:54
5位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) +4:33
6位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) +4:47
7位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +4:55
8位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +5:55
9位 ミケル・ランダ(スペイン、Tレックス・クイックステップ) +6:40
10位 パヴェル・シヴァコフ(ロシア、UAEチームエミレーツ) +7:39
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 226pts
2位 マックス・プール(イギリス、DSMフィルメニッヒ・ポストNL) 118pts
3位 パブロ・カストリーリョ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ) 117pts
マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ) 57pts
2位 ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ) 56pts
3位 パブロ・カストリーリョ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ) 37pts
マイヨブランコ(ヤングライダー賞)
1位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) 76:48:23
2位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +0:08
3位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +1:08
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 229:44:30
2位 レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ +37:44
3位 デカトロンAG2Rラモンディアル +1:25:43
text:Sotaro.Arakawa
photo:Unipublic, CorVos