「自分の力を疑っていた。勝利を告げられた瞬間は様々な思いが駆け巡った」とレース後に涙を流したマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)は語った。2連勝を逃したアスグリーンや翌日に山岳ステージを迎えるヴィンゲゴーなど、ツール19日目を終えた選手たちの言葉を紹介します。



区間優勝 マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)

スプリントで競り合うアスグリーンとモホリッチ photo:A.S.O.

この勝利が意味するものは大きい。なぜならプロ選手であるということは厳しく、時に残酷なことだから。ツールに向けた準備は多くの苦しみを伴い、自分の人生や家族を犠牲にし、あらゆる手を尽くした先にようやくたどり着くことができるんだ。そしてレースを走り、他の選手たちの強さに愕然とするんだ。彼らについていくことすらできないほどの強さにね。

(第17ステージの)ロズ峠では疲れで身体は空っぽになり、そんな中でも頂上を越えてタイムリミット以内にフィニッシュを目指さなければならなかった。しかも次の日も僕らはレースを走らなければならない。またスタッフも6時に起き、夜の11時まで働かなければならないんだ。特にメカニックはタイヤやギヤなどあらゆるものを交換しなければならないし、大変なのはマッサーやその他のスタッフも同様だ。

集団を走っていると周りがあまりにも強いので、「自分はこのレースにふさわしくないのではないか」と不安に思う時がある。逃げに乗った今日でさえ同じことを思った。カスパー(アスグリーン)がスプリントした瞬間、前日も勝ったのに勝利への貪欲な走りを目の前に僕は自分の無力さを感じたんだ。

勝利を告げられ、涙を流すマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

でも僕は自分やジーノ(メーダー)、チームのために食らいついた。卑怯な方法だという自覚はあったが、プロのレースはそういうものだと自分を納得させた。そして残り50mで飛び出し、勝利を掴むことができた。勝利を告げられた瞬間は様々な思いが頭を駆け巡ったよ。

常に後悔を持ってチームバスに戻りたくはないと思っている。僕は強い選手ではないのでいつも勝つわけではないが、重要な局面でも冷静さと集中を持ちながらレースを走っている。カスパーが(最終山岳の直前で)アタックした瞬間、「これがレースを決定づける動きだ」と思い反応した。幸運にも、その時の僕には食らいつくだけの精神力があり、頂上を越えてから僕も牽引に協力した。

表彰式でも涙を流したマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

スプリントで劣っているベン(オコーナー)でさえリードの保持に協力してくれたんだ。彼自身、勝つ可能性が限りなく低いと分かっていながらね。最初にベンが仕掛け、それにカスパーが反応すると分かっていた。そして僕は残り50mからスプリントした。僕にはスプリント力はないものの、今日のような厳しい展開ではどうなるかは分からないからね。

過去にツールで2勝を挙げているので、自分に勝つ力があることは分かっていた。でもそれは他の150名の選手たちも同じこと。それにツールを走る全員が勝利にふさわしいと、ロズ峠を登る選手たちの顔を見て思ったんだ。ツールでの勝利は人生を変える。そしてその体験をツールを走る全員に体験して欲しい。しかしそれは不可能だし、それこそがレースの残酷な面でもある。

チーム全体が辛い時期を越え、こうして勝利を掴むことができて本当に嬉しいよ。

区間2位 カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)

追走集団から飛び出し、先頭に立ったカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)ら3名 photo:CorVos

前日に勝っていたとはいえ、接戦の末に負けるのは悔しい。残り100〜150mで大きなギヤを踏みすぎたことを後悔している。もっと小刻みに脚を回すことができれば、ハンドルを投げるタイミングがあれほど遅れることはなかっただろう。

残り1kmからベンが飛び出すことは分かっており、僕はフェンス側を締めていたから飛び出す方向も明らかだった。そして彼のスリップストリームを使い飛び出したのだけど、タイミングが早すぎたかな。残り250mだったところを、残り180mで飛び出せば結果は違うものになっていたかもしれない。

区間3位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)

時速55kmでスプリントをする2人には到底敵わない。2人と一緒に飛び出したが僕に勝つ算段はなく、そこからアタックして独走するのは難しいと思っていた。なんたってプロトンでも屈指の2人だからね。厳しい展開を予想していたものの、ここまでハードなレースは予想外。でも一緒にステージ先頭を走ることができて楽しかったよ。

序盤にアタックするシーンもあったペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)

逃げを試みたペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー) photo:A.S.O.

―ツール・ド・フランスで最も印象に残っている思い出を教えてくれ。

それはもちろん”もう二度と出場しなくてもいい”と思いながら走る今大会だ。それが僕の中で最高の思い出となる(笑)。それは冗談にしてもステージ優勝を挙げたり、マイヨヴェールを獲得したりとたくさんの思い出がある。今大会はとても厳しいレースが続いており、勝利も挙げることができていないが、過去一番楽しいツールとなっている。この雰囲気や観客、美しいレースを楽しむことができている。

マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)

チームメイトに感謝を伝えるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

今日のステージは春のクラシックレースのようだった。だが無事にレースを終えることができた良い日となった。日に日にパリへと近づいているが、その前に明日の山岳ステージが待っている。僕の目標は総合リードを守ること。もしステージ優勝を争えるならば、それはボーナスみたいなものだ。明日の美しいステージが楽しみだよ。

text:Sotaro.Arakawa
photo: So Isobe, CorVos, A.S.O.

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