未出走や雨による落車で13名がリタイアしたジロ・デ・イタリア第10ステージ。逃げ切った3名によるスプリントをマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が制し、ジロ初勝利と共に全グランツール区間優勝を叶えた。



エヴェネプールの棄権でマリアローザを着用するゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

第2週目に入り、マスクをしてチームプレゼンテーションに臨む選手が目立った photo:CorVos
ジロ・デ・イタリア2023第10ステージ コースプロフィール image:RCS Sport


大会最初の休息日を経て、迎えた第10ステージはアドリア海から再びティレニア海に戻っていくフラットステージ。平坦ステージと言えどコースには獲得標高差3,000mオーバーの登りが詰め込まれており、スカンディアーノを出発直後からカテゴリーなき山岳を登り、コース中盤に訪れる2級山岳と4級山岳を越えてヴィアレッジョに至る196kmで争われた。

総合首位レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が新型コロナウイルス感染により棄権という2日前のニュースに続き、この日はスヴェンエリック・ビーストルム(ノルウェー、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)や総合上位を目指していたドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、イスラエル・プレミアテック)か陽性によりリタイア。またシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)は8月の世界選手権の準備のためレースを去り、その他5名は体調不良などを理由にリタイアした。

前日の予報通り第2週目の初日は雨。レース前に「雨のため山岳を越えず、ラスト70kmの平坦路だけで行う」可能性が一部報道により伝えられたが、予定通り12時20分にスカンディアーノでスタートが切られた。

マリアアッズーラを着るダヴィデ・バイス(イタリア、エオーロ・コメタ)を含む4名が逃げた photo:CorVos

この日もマリアローザカラーの列車がプロトンと並走する photo:RCS Sport

スタート直後からアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)が積極的に逃げを目指し、その動きにデレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)がつく。出入りの激しいプロトンからはマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が合流し、タイミングよく飛び出したマリアアッズーラ(山岳賞)ダヴィデ・バイス(イタリア、エオーロ・コメタ)を含む4名による逃げ集団が形成された。

第10ステージで逃げた4名
マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)
ダヴィデ・バイス(イタリア、エオーロ・コメタ)
デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)

一方のプロトンでは、総合7位のアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ)が体調不良を訴えバイクを降りた。その後シモーネ・ペティッリ(イタリア)も同様の理由でリタイアしたため、レイン・タラマエ(エストニア)とスヴェンエリック・ビーストルム(ノルウェー)が未出走だったアンテルマルシェ・サーカス・ワンティはこの日だけで3名を失うことになった。

雨の厳しい状況の中でも、アシストの役割を遂行する新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

レースを通して隙のないチーム連携を見せたゲラント・トーマス(イギリス)を擁するイネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

逃げの4名が最初の中間ポイント(48.1km地点)を通過後、3分遅れでやってきたプロトンではジョナサン・ミラン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が先頭で通過(+4ポイント)。前日のインタビューでチームメイトの新城幸也が「チームとして是が非でもというわけではない」と語るマリアチクラミーノ(ポイント賞)の保持に向け、ライバルのマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)に対しリードを拡げた。

2級山岳ラディーチ峠をバイスが先頭通過して山岳ポイントを加算(+12ポイント)。その後の目標を達成したバイスが戻っていたプロトンでは、雨で濡れた下りにもかかわらずバーレーン・ヴィクトリアスが仕掛ける。総合首位から1分13秒遅れ(総合7位)のダミアーノ・カルーゾが同じイタリア人のアンドレア・パスクアロンとミランと共に飛び出し、エヴェネプールの棄権でリーダーチームとなったイネオス・グレナディアーズはパヴェル・シヴァコフ(フランス)を抑え役に送る。そして第2集団となった4名はプロトンに対しすぐさま1分差のリードを奪った。

スタートから降り続ける雨と10度を下回る気温により、濡れたレインウェアを頻繁に交換する選手たち。特に寒さで手が思うように動かないフェルナンド・ガビリア(コロンビア、モビスター)は2級山岳の頂上手前で監督2人の手を借りて着替えを行う。これによりプロトンから遅れたガビリアは、集団復帰するために飛ばした下りでカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)と共に落車。この日の優勝候補でもあった2人はレースに復帰したものの、最後までメイン集団に合流することはできなかった。

落車に見舞われたワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック) photo:CorVos
レース関係者と接触、落車後に怒りを顕にしたアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos


ハイペースを維持するアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)ら逃げグループ photo:CorVos

また、同じ2級山岳ラディーチ峠の下りでは総合10位のジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ)がウィリアム・バルタ(アメリカ、モビスター)と共に落車し、ヴァインは総合争いから脱落(11分19秒遅れでフィニッシュ)。落車の連鎖はその後も止まらず、コースに倒れ込むルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ジェイコ・アルウラー)を介抱しようと駆け寄ったレース関係者とアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が接触して転倒するシーンも。

イネオスが中心となりカルーゾたちを捉えたメイン集団には、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)が長い追走の末に合流を果たす。残り25kmで逃げとプロトンとの差は1分26秒。一度止んだ雨が再び降りはじめた残り15kmで48秒差と、エーススプリンターを擁するトレック・セガフレードやアスタナ・カザフスタン、バーレーン・ヴィクトリアスが追走に本腰を入れた。

レース経験の豊富なデマルキとコルトに加え、第8ステージで2位の悔しさ晴らしたいジーの3名によるローテーションはスムーズかつ速かった。そしてプロトンの追走も届かず、残り3km地点で47秒差と勝負が逃げ集団の3名に絞られた。

スプリント力で2人に劣るジーがアーリーアタックを仕掛けるもののこれをコルトが捉え、遅れて追いついたデマルキが残り300mでスプリントを開始。しかし、時にスプリンターさえ退けるコルトのスピードに2人が敵うことはなく、コルトが先頭でフィニッシュラインを通過した。

3名によるスプリントを制したマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos

同じデンマーク出身のピーダスンに祝福されるマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:RCS Sport

ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャに続き、ジロで念願の区間優勝を飾ったコルト。「人生で最も厳しいレースとなった。雨のせいで無線機が壊れ、タイム差など情報がほとんどない中での逃げだった。だからひたすらハイペースで踏み続けるしかなく、こんなにパワーを出し続けたのは初めてだったよ。でもそれがこの勝利に繋がった。嬉しいよ」と、相変わらずの控えめな笑顔でコルトはレースを振り返った。

そして51秒遅れでやってきたプロトンはパスカル・アッカーマン(ドイツ、UAEチームエミレーツ)らを退けたピーダスンが先着。同じデンマーク人であるコルトの勝利についてピーダスンは「前の3人は本当に強く、勝利を逃したものの心からマグナスを祝福したい」とコメントしている。

ウラソフの棄権とヴァインの脱落以外総合順位に変動はなく、ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)がマリアローザの保持に成功。未出走を含め13名がレースを去る、大荒れとなった第2週目の初日が幕を閉じた。

表彰台で勝利を祝う マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos

マリアローザを守ったゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

ジロ・デ・イタリア2023第10ステージ結果
1位 マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) 4:51:15
2位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
3位 アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー) +0:02
4位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) +0:51
5位 パスカル・アッカーマン(ドイツ、UAEチームエミレーツ)
6位 ステファノ・オルダーニ(イタリア、アルペシン・ドゥクーニンク)
7位 ジョナサン・ミラン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)
8位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)
9位 ミルコ・マエストリ(イタリア、エオーロ・コメタ)
10位 フィリッポ・フィオレッリ(イタリア、グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)
147位 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) +23:02
マリアローザ 個人総合成績
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 39:26:33
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) +0:02
3位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:05
4位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:22
5位 アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) +0:35
6位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) +1:28
7位 レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) +1:52
8位 パヴェル・シヴァコフ(フランス、イネオス・グレナディアーズ) +2:15
9位 エディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) +2:32
10位 テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 ジョナサン・ミラン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) 127pts
2位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) 109pts
3位 カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 100pts
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 ダヴィデ・バイス(イタリア、エオーロ・コメタ) 104pts
2位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) 50pts
3位 カレル・ヴァチェク(チェコ、チーム・コラテック) 36pts
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) 39:26:55
2位 アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) +0:13
3位 テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) +2:10
チーム総合成績
1位 イネオス・グレナディアーズ 103:43:30
2位 バーレーン・ヴィクトリアス +6:19
3位 EFエデュケーション・イージーポスト +7:08
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

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