2022/06/27(月) - 12:23
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)の勝利で幕を閉じた全日本選手権。敗れたキナン勢の言葉を借りるなら「今日一番強かったのはユキヤさん」だった。悲喜交々、全日本男子エリートで動いた選手たちの言葉で暑く熱い一大決戦を振り返ります。
チーム力がモノをいうロードレースにおいて、単騎参戦は言わずもがな、不利だ。チームメイトがいなければライバルチームの攻撃に自ら対処しなければならないし、その度に脚は削られ、気付けば攻撃する脚がなくなっていたということも少なくない。しかし新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は個人タイムトライアルを3位で終えたあと、「別に1対150でも良い。緩い展開にはしませんよ」と公言。終わってみれば、数的優位に持ち込んだキナンレーシング勢の動きを、無尽蔵とも言えるスタミナと冷静な戦術でカバーして戦況をひっくり返し、それがブラフではなかったことを証明してみせた。
「いつも走るレースと違って、自分が勝つために走らなければいけないから、力と力の勝負がしたかった。どこかのチームが荒らしてくれるのを待っていましたがそうならず、といって僕がペース上げても(お見合いになって)続かない」と、新城はレース後半戦に入る前の心境をそのように話した。「中盤に3人行きましたが、10人くらい行って欲しかったですね。そうすれば追いかけるチームが出てくるし、荒れた展開になる。守りに入るチームが多い中、キナンが登りだけペースアップしてくれたおかげで人数は絞られました」。
小石が逃げを決めた後、「この時点で(残った)全員が追いかけなければいけない立場になり、僕も身を削ることにした」という新城は積極的に追走グループのペースアップを担い、自らライバルたちをふるいにかけ、そして山本大喜(キナンレーシングチーム)のアタックを誘発させる状況を作った。「僕が動いたら皆ついて来るけれど、他が行ったら足を止める。だから僕は人数を残したキナン勢が先行し、そこに単独で追いつくことを考えていた。もし追いつかなければ、その時は僕が弱いというだけ。山本大喜が残り2周で先行し、願ってもいない展開になりました。
最終周回で(新城雄大と)2対1になりましたが、どこを押さえてどこで苦しめるかを考えて、僕も苦しいけれど相手も苦しくなるようにペーシングしていきました。最後のスプリントは向かい風だったのでの残り150mからと決めていましたが、同じタイミングで始めたので良かったです。これだけ走ってきてからのスプリントなのでかからないですよね(笑)」。
表彰式で3度目、U23も含めれば5度目のチャンピオンジャージを受け取った新城は、自チームのブースに戻ってからの記者会見で「僕に勝ちたいならもっと前半から勝負をすべき」と言い放った。
「みんなが後半勝負という感じで、何がなんでも逃げの展開で、と考えていなかったように思います。作戦的にはあってるのかもしれないけれど、もっと他に無かったのかな、と。
僕はずっと速いペースなのは慣れているので、残り2周ずっと踏む展開になったことが有利になったなと思いますね。僕自身苦しめられたけれど、ヨーロッパだったら殺されかけるパターンなのに、逆に三段坂で抜け出せたから、あれ?と思って。小石がアタックした時にそれをやったんですが、皆がああいう走りを出来れば日本のレベルは上がると思う。でもみんな出来なかったから小石1人が行ってしまった。もし僕が小石と一緒に行ったらそのまま逃げ切っていましたね。小石と一緒には行きたくないですが(笑)。あの走りはすごかった。
今日僕がここまで力を出せたのは、ヨーロッパのレースは4時間走ってこの力を出すのが普通なんです。日本のレースが120kmしか走っていないのだとしたら、その差ですよね。だから全日本に向けてどのようにトレーニングするかは日本人選手の方が難しいと思います。三段坂で僕が苦しめられたくらいのパワーはヨーロッパ並みだと思います。でもそれが5時間後に出せるのか?というのがヨーロッパとの違いだと思います。100kmしか走っていないのに200km走るのは大変ですよね。そこはやらなければ出来ないと思います。だから、僕に勝ちたかったら前半から行くべきだったと思います」。
それでも新城は「残り50kmはガチンコでやり合えて楽しかった」と笑顔を見せる。「バーレーン・ヴィクトリアスのジャージで初めての勝利ですし、嬉しいですね。(全日本を)最初に勝った時は日本ナショナルチームで、2回目は山のレースだったので、今回のように力でやり合って勝ったのは初めてだったので、違った嬉しさがありますね。こうして参加出来たのも色んな人が協力してくれて、(ロストバゲージでジャージが届かず)JCFさんにも許可を頂いてTTを走れて、ロードまでには(荷物が)間に合った。次からジャージは機内持ち込みにします(笑)」
今後1年間は全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走る新城幸也。3度目の戴冠でもチャンピオンジャージはいつでも特別だと言う。「このジャージを着て走るのは、日本のレベルを見られるということ。目立つから下手な走りはできないし、僕の走りが日本の評価になる。だから特別なんです。未だに集団内で日本の選手いるのか?と聞かれるから、これを着てもっともっとアピールして、それを見た若い子達がヨーロッパで走りたいと思って欲しい。今日一緒に走った日本の選手が、何かを感じてくれたらな、と思います」。
最終局面に4人を残し、そこから2対1に持ち込むという完璧なシナリオで進めていたはずのキナンレーシングチーム。しかしそれは、新城が最も望んでいた展開だった。
「大喜が最高の動きをしてくれて、僕は追いかける幸也さんについて行くだったので脚を貯められる状況ではあったけれど、そこまでの動きで消耗していて、いつ脚が攣ってしまうかわからない状況だった」と、同じ石垣島出身の新城幸也にスプリントで敗れ、2位となった新城雄大は言う。
「後半動きまくっていた幸也さんについて行くだけでもいっぱいいっぱいだったので、まだまだレベルアップしなければいけない。最後のスプリントは脚が限界に近かったので、不意を突ければと思っていましたが、ダメでした。スタッフのサポートも含め本当に良い状態で全日本に臨めましたが、勝てなかったのは悔しい」。
その一方で山本大喜と共に最終局面に残り、ワンスリーフィニッシュした2018年の全日本選手権よりも手応えを感じたと言う。「どちらもサバイバルなレースでしたが、今回の方が良い状態で勝つか負けるかの勝負を最後までできた。あの時より勝ちに近づいたのかなと思っています」。
最終盤に動いて3位になった山本大喜もまた、「最後まで逃げ切れれば良かったのですが、幸也さんの追走が強くて、三段坂で追いつかれた時もつけなくて、本当に力負け。でも、悔しさよりもやり切った感の方が今は強いです。すごく良い刺激をもらったので、これからもう1段階自分自身の力を上げて行けるよう頑張っていきます」と、次に向けて刺激を受けたようだ。
世界のトップチームの一員として走る新城幸也が、その実力を今一度証明した全日本選手権。スター選手の優勝に会場は大きく盛り上がったが、その一方で若手が勝てなかった事実を残念がる声も各チームから多く漏れ聞こえてきた。
「でも、これはこれで良い一面もあると思います」と言うのは、レース中盤に逃げを決めた阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)。「チームとしては負け。それに若手が勝てなかったという悔しい思いもある。でも、ベテランが勝つならば、一番チャンピオンジャージを着て目立つ選手が勝つ方が良い」と、胸の裡を話した。
text:So Isobe
チーム力がモノをいうロードレースにおいて、単騎参戦は言わずもがな、不利だ。チームメイトがいなければライバルチームの攻撃に自ら対処しなければならないし、その度に脚は削られ、気付けば攻撃する脚がなくなっていたということも少なくない。しかし新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は個人タイムトライアルを3位で終えたあと、「別に1対150でも良い。緩い展開にはしませんよ」と公言。終わってみれば、数的優位に持ち込んだキナンレーシング勢の動きを、無尽蔵とも言えるスタミナと冷静な戦術でカバーして戦況をひっくり返し、それがブラフではなかったことを証明してみせた。
「いつも走るレースと違って、自分が勝つために走らなければいけないから、力と力の勝負がしたかった。どこかのチームが荒らしてくれるのを待っていましたがそうならず、といって僕がペース上げても(お見合いになって)続かない」と、新城はレース後半戦に入る前の心境をそのように話した。「中盤に3人行きましたが、10人くらい行って欲しかったですね。そうすれば追いかけるチームが出てくるし、荒れた展開になる。守りに入るチームが多い中、キナンが登りだけペースアップしてくれたおかげで人数は絞られました」。
小石が逃げを決めた後、「この時点で(残った)全員が追いかけなければいけない立場になり、僕も身を削ることにした」という新城は積極的に追走グループのペースアップを担い、自らライバルたちをふるいにかけ、そして山本大喜(キナンレーシングチーム)のアタックを誘発させる状況を作った。「僕が動いたら皆ついて来るけれど、他が行ったら足を止める。だから僕は人数を残したキナン勢が先行し、そこに単独で追いつくことを考えていた。もし追いつかなければ、その時は僕が弱いというだけ。山本大喜が残り2周で先行し、願ってもいない展開になりました。
最終周回で(新城雄大と)2対1になりましたが、どこを押さえてどこで苦しめるかを考えて、僕も苦しいけれど相手も苦しくなるようにペーシングしていきました。最後のスプリントは向かい風だったのでの残り150mからと決めていましたが、同じタイミングで始めたので良かったです。これだけ走ってきてからのスプリントなのでかからないですよね(笑)」。
表彰式で3度目、U23も含めれば5度目のチャンピオンジャージを受け取った新城は、自チームのブースに戻ってからの記者会見で「僕に勝ちたいならもっと前半から勝負をすべき」と言い放った。
「みんなが後半勝負という感じで、何がなんでも逃げの展開で、と考えていなかったように思います。作戦的にはあってるのかもしれないけれど、もっと他に無かったのかな、と。
僕はずっと速いペースなのは慣れているので、残り2周ずっと踏む展開になったことが有利になったなと思いますね。僕自身苦しめられたけれど、ヨーロッパだったら殺されかけるパターンなのに、逆に三段坂で抜け出せたから、あれ?と思って。小石がアタックした時にそれをやったんですが、皆がああいう走りを出来れば日本のレベルは上がると思う。でもみんな出来なかったから小石1人が行ってしまった。もし僕が小石と一緒に行ったらそのまま逃げ切っていましたね。小石と一緒には行きたくないですが(笑)。あの走りはすごかった。
今日僕がここまで力を出せたのは、ヨーロッパのレースは4時間走ってこの力を出すのが普通なんです。日本のレースが120kmしか走っていないのだとしたら、その差ですよね。だから全日本に向けてどのようにトレーニングするかは日本人選手の方が難しいと思います。三段坂で僕が苦しめられたくらいのパワーはヨーロッパ並みだと思います。でもそれが5時間後に出せるのか?というのがヨーロッパとの違いだと思います。100kmしか走っていないのに200km走るのは大変ですよね。そこはやらなければ出来ないと思います。だから、僕に勝ちたかったら前半から行くべきだったと思います」。
それでも新城は「残り50kmはガチンコでやり合えて楽しかった」と笑顔を見せる。「バーレーン・ヴィクトリアスのジャージで初めての勝利ですし、嬉しいですね。(全日本を)最初に勝った時は日本ナショナルチームで、2回目は山のレースだったので、今回のように力でやり合って勝ったのは初めてだったので、違った嬉しさがありますね。こうして参加出来たのも色んな人が協力してくれて、(ロストバゲージでジャージが届かず)JCFさんにも許可を頂いてTTを走れて、ロードまでには(荷物が)間に合った。次からジャージは機内持ち込みにします(笑)」
今後1年間は全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走る新城幸也。3度目の戴冠でもチャンピオンジャージはいつでも特別だと言う。「このジャージを着て走るのは、日本のレベルを見られるということ。目立つから下手な走りはできないし、僕の走りが日本の評価になる。だから特別なんです。未だに集団内で日本の選手いるのか?と聞かれるから、これを着てもっともっとアピールして、それを見た若い子達がヨーロッパで走りたいと思って欲しい。今日一緒に走った日本の選手が、何かを感じてくれたらな、と思います」。
最終局面に4人を残し、そこから2対1に持ち込むという完璧なシナリオで進めていたはずのキナンレーシングチーム。しかしそれは、新城が最も望んでいた展開だった。
「大喜が最高の動きをしてくれて、僕は追いかける幸也さんについて行くだったので脚を貯められる状況ではあったけれど、そこまでの動きで消耗していて、いつ脚が攣ってしまうかわからない状況だった」と、同じ石垣島出身の新城幸也にスプリントで敗れ、2位となった新城雄大は言う。
「後半動きまくっていた幸也さんについて行くだけでもいっぱいいっぱいだったので、まだまだレベルアップしなければいけない。最後のスプリントは脚が限界に近かったので、不意を突ければと思っていましたが、ダメでした。スタッフのサポートも含め本当に良い状態で全日本に臨めましたが、勝てなかったのは悔しい」。
その一方で山本大喜と共に最終局面に残り、ワンスリーフィニッシュした2018年の全日本選手権よりも手応えを感じたと言う。「どちらもサバイバルなレースでしたが、今回の方が良い状態で勝つか負けるかの勝負を最後までできた。あの時より勝ちに近づいたのかなと思っています」。
最終盤に動いて3位になった山本大喜もまた、「最後まで逃げ切れれば良かったのですが、幸也さんの追走が強くて、三段坂で追いつかれた時もつけなくて、本当に力負け。でも、悔しさよりもやり切った感の方が今は強いです。すごく良い刺激をもらったので、これからもう1段階自分自身の力を上げて行けるよう頑張っていきます」と、次に向けて刺激を受けたようだ。
世界のトップチームの一員として走る新城幸也が、その実力を今一度証明した全日本選手権。スター選手の優勝に会場は大きく盛り上がったが、その一方で若手が勝てなかった事実を残念がる声も各チームから多く漏れ聞こえてきた。
「でも、これはこれで良い一面もあると思います」と言うのは、レース中盤に逃げを決めた阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)。「チームとしては負け。それに若手が勝てなかったという悔しい思いもある。でも、ベテランが勝つならば、一番チャンピオンジャージを着て目立つ選手が勝つ方が良い」と、胸の裡を話した。
text:So Isobe
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