2010/06/12(土) - 03:08
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネと同時期に開催され、ツール・ド・フランスの前哨戦として知られるツール・ド・スイス(UCIプロツアー)が6月12日から20日までの9日間に渡って開催される。今年はシュレク兄弟を始め、アームストロングやクロイツィゲル、ロジャースら、ツール狙いのオールラウンダーやスプリンターが出場する。
ドーフィネと肩を並べるツール前哨戦
7月のツール・ド・フランスを狙うオールラウンダーたちが挙って出場するツール・ド・スイスは、永世中立国スイスを舞台にした9日間のステージレース。同時期開催のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネと並ぶツール前哨戦として古くから知られている。
その歴史は古く、第1回大会が開催されたのは今から77年前の1933年。ドーフィネよりも14年歴史が長く、今年で開催74回目を迎える。全9ステージで、歴史だけではなく開催期間もドーフィネよりも長め。過去の優勝者にはランス・アームストロング(アメリカ)やヤン・ウルリッヒ(ドイツ)、エディ・メルクス(ベルギー)らが名を連ねている。
山がちなスイスをくまなく走り回るコースはアップダウンの連続。個人タイムトライアルを除くと、カテゴリー山岳が設定されない日は一日も無く、標高2000m級の本格山岳も登場する。
個人タイムトライアルで幕開け、個人タイムトライアルで幕を閉じる。それが近年のツール・ド・スイスのトレンドだ。初日は7.6kmのショートタイムトライアルで、中盤に高低差120mの山岳を越える。初日からオールラウンダーたちが上位に絡んでくるだろう。ドーフィネ初日のプロローグより若干難易度が高い。
第2ステージには早速標高2000mオーバーの1級山岳シンプロン峠が登場。しかしゴールまで距離があるため、下りと平地で挽回したスプリンターたちの闘いに持ち込まれる可能性が高い。
今大会にはスプリンターにチャンスのあるステージが多く設定されているが、ゴール前がフラットなステージは皆無。どのステージもゴール手前に3級山岳(もしくはそれ以上)が設定されており、スプリンターたちはアタッカーたちの動きに手を焼くことになりそう。第3・4・5ステージはアタッカーにもチャンスがあるコースレイアウトだ。
第6ステージは今大会のクイーンステージ。このステージだけ難易度がずば抜けて高い。今大会最長の213kmコースには超級山岳スーステン峠(標高2224m)、1級山岳オーバアルプ峠(標高2046m)、超級山岳アルブラ峠(標高2315m)の3つの難関山岳が設定されており、しかも最後のアルブラ峠はゴールの10km手前。間違いなく総合成績に激震が走る。このステージが総合優勝者を決定づけると言っても過言ではない。
その後も起伏のあるステージが続き、最後を締めくくるのが第9ステージの個人タイムトライアル。距離は26.9kmで、標高差は200mほど。昨年の個人TTで猛威を振るい、総合優勝に輝いたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)の独壇場になる可能性大だ。
ツール主役級のオールラウンダー&スプリンターが激突
ずばり、確実にクリテリウム・ドゥ・ドーフィネよりも豪華な面々がツール・ド・スイスに集う。ツール開幕が3週間後に迫っているだけに、どの選手もツールに向けての最終調整段階に入っている。
昨年大会は地元スイスの超特急カンチェラーラが2つの個人タイムトライアルを制し、山岳でも粘りの走りを見せて総合優勝。その輝かしいキャリアに、地元ステージレースの総合優勝を付け加えた。
今年カンチェラーラ擁するサクソバンクは、アンディとフランクのシュレク兄弟(ルクセンブルク)がエースを担う。ツール制覇を見据える世界最強兄弟の調子は如何に。ジロ・デ・イタリア最終個人タイムトライアルを制したグスタフエリック・ラーション(スウェーデン)も出場し、ほぼベストメンバーで挑む。
大会連覇を狙うサクソバンクの前に立ちはだかるのが、同じくツールを見据えるランス・アームストロング(アメリカ)擁するレディオシャックだ。現在ドーフィネで活躍中のアメリカチームは、このスイスでも優勝候補に挙げられる。
レディオシャックからはアームストロング、アンドレアス・クレーデン(ドイツ)、リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ)の三強が出場。総合的なチーム力において他のチームの追随を許さない。アームストロングはツアー・オブ・カリフォルニアでの怪我により調整が遅れていたが、ツール・ド・ルクセンブルクで総合3位に入って健在ぶりをアピールしている。
アメリカチームのアメリカ人選手として、クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・トランジションズ)も忘れてはならない。英語圏の選手としてはマイケル・ロジャース(オーストラリア、チームHTC・コロンビア)にも注目。
2008年大会の覇者ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)は、このツール・ド・スイスに懸ける想いが強いはず。総合上位に絡んでくるのは間違いないだろう。そして、今シーズンここまで破竹の勢いを見せているペーター・サガン(スロバキア)の動きには目が離せない。
他にもロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)、トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)、リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)ら、有力オールラウンダーたちが勢揃い。必然的にハイレベルな総合争いが繰り広げられる。
ダークホースとして注目したいのが、ツール・ド・ルクセンブルクで総合優勝を果たしたマッテーオ・カラーラ(イタリア)擁するヴァカンソレイユだ。このスイスを「ツールの前哨戦」と位置づけているチームが多い中、全グランツール欠場が決まっているヴァカンソレイユにとってこのスイスは「シーズン最大の目標レース」。昨年ツールでブレイクした新鋭クライマーのブリース・フェイユ(フランス)も山岳で暴れてくれるはずだ。
また、このツール・ド・スイスには世界トップクラスのスプリンターたちも一堂に会す。中でも世界最強スプリンターとの呼び声高いマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)は要チェック。発射台役のレンショーやアイゼルも揃い、ステージ優勝量産に向けて準備万端だ。
カヴェンディッシュに挑戦状を叩き付けるのが、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)やアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)、ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)と言った世界屈指のスプリンターたち。
怪我から復帰したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)はハウッスラーを引き連れての出場。他にもアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)やゲラルド・チオレック(ドイツ、チームミルラム)、マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)らがスプリント戦線に絡んでくるはずだ。
総合優勝候補や強豪スプリンターを欠くBMCレーシングチームは、積極的にアタックを仕掛けてくるだろう。ジロ・デ・イタリアを終えたばかりの世界王者エヴァンスは出場しないが、ドーピング関与の疑いが晴れたアレッサンドロ・バッラン(イタリア)やジョージ・ヒンカピー(アメリカ)、マークス・ブルグハート(ドイツ)ら、ベストメンバーに近い布陣でツール・ド・スイスに挑む。スイスメーカーがスポンサーについているだけに、チームの士気は高い。
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
ドーフィネと肩を並べるツール前哨戦
7月のツール・ド・フランスを狙うオールラウンダーたちが挙って出場するツール・ド・スイスは、永世中立国スイスを舞台にした9日間のステージレース。同時期開催のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネと並ぶツール前哨戦として古くから知られている。
その歴史は古く、第1回大会が開催されたのは今から77年前の1933年。ドーフィネよりも14年歴史が長く、今年で開催74回目を迎える。全9ステージで、歴史だけではなく開催期間もドーフィネよりも長め。過去の優勝者にはランス・アームストロング(アメリカ)やヤン・ウルリッヒ(ドイツ)、エディ・メルクス(ベルギー)らが名を連ねている。
山がちなスイスをくまなく走り回るコースはアップダウンの連続。個人タイムトライアルを除くと、カテゴリー山岳が設定されない日は一日も無く、標高2000m級の本格山岳も登場する。
個人タイムトライアルで幕開け、個人タイムトライアルで幕を閉じる。それが近年のツール・ド・スイスのトレンドだ。初日は7.6kmのショートタイムトライアルで、中盤に高低差120mの山岳を越える。初日からオールラウンダーたちが上位に絡んでくるだろう。ドーフィネ初日のプロローグより若干難易度が高い。
第2ステージには早速標高2000mオーバーの1級山岳シンプロン峠が登場。しかしゴールまで距離があるため、下りと平地で挽回したスプリンターたちの闘いに持ち込まれる可能性が高い。
今大会にはスプリンターにチャンスのあるステージが多く設定されているが、ゴール前がフラットなステージは皆無。どのステージもゴール手前に3級山岳(もしくはそれ以上)が設定されており、スプリンターたちはアタッカーたちの動きに手を焼くことになりそう。第3・4・5ステージはアタッカーにもチャンスがあるコースレイアウトだ。
第6ステージは今大会のクイーンステージ。このステージだけ難易度がずば抜けて高い。今大会最長の213kmコースには超級山岳スーステン峠(標高2224m)、1級山岳オーバアルプ峠(標高2046m)、超級山岳アルブラ峠(標高2315m)の3つの難関山岳が設定されており、しかも最後のアルブラ峠はゴールの10km手前。間違いなく総合成績に激震が走る。このステージが総合優勝者を決定づけると言っても過言ではない。
その後も起伏のあるステージが続き、最後を締めくくるのが第9ステージの個人タイムトライアル。距離は26.9kmで、標高差は200mほど。昨年の個人TTで猛威を振るい、総合優勝に輝いたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)の独壇場になる可能性大だ。
ツール主役級のオールラウンダー&スプリンターが激突
ずばり、確実にクリテリウム・ドゥ・ドーフィネよりも豪華な面々がツール・ド・スイスに集う。ツール開幕が3週間後に迫っているだけに、どの選手もツールに向けての最終調整段階に入っている。
昨年大会は地元スイスの超特急カンチェラーラが2つの個人タイムトライアルを制し、山岳でも粘りの走りを見せて総合優勝。その輝かしいキャリアに、地元ステージレースの総合優勝を付け加えた。
今年カンチェラーラ擁するサクソバンクは、アンディとフランクのシュレク兄弟(ルクセンブルク)がエースを担う。ツール制覇を見据える世界最強兄弟の調子は如何に。ジロ・デ・イタリア最終個人タイムトライアルを制したグスタフエリック・ラーション(スウェーデン)も出場し、ほぼベストメンバーで挑む。
大会連覇を狙うサクソバンクの前に立ちはだかるのが、同じくツールを見据えるランス・アームストロング(アメリカ)擁するレディオシャックだ。現在ドーフィネで活躍中のアメリカチームは、このスイスでも優勝候補に挙げられる。
レディオシャックからはアームストロング、アンドレアス・クレーデン(ドイツ)、リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ)の三強が出場。総合的なチーム力において他のチームの追随を許さない。アームストロングはツアー・オブ・カリフォルニアでの怪我により調整が遅れていたが、ツール・ド・ルクセンブルクで総合3位に入って健在ぶりをアピールしている。
アメリカチームのアメリカ人選手として、クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・トランジションズ)も忘れてはならない。英語圏の選手としてはマイケル・ロジャース(オーストラリア、チームHTC・コロンビア)にも注目。
2008年大会の覇者ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)は、このツール・ド・スイスに懸ける想いが強いはず。総合上位に絡んでくるのは間違いないだろう。そして、今シーズンここまで破竹の勢いを見せているペーター・サガン(スロバキア)の動きには目が離せない。
他にもロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)、トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)、リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)ら、有力オールラウンダーたちが勢揃い。必然的にハイレベルな総合争いが繰り広げられる。
ダークホースとして注目したいのが、ツール・ド・ルクセンブルクで総合優勝を果たしたマッテーオ・カラーラ(イタリア)擁するヴァカンソレイユだ。このスイスを「ツールの前哨戦」と位置づけているチームが多い中、全グランツール欠場が決まっているヴァカンソレイユにとってこのスイスは「シーズン最大の目標レース」。昨年ツールでブレイクした新鋭クライマーのブリース・フェイユ(フランス)も山岳で暴れてくれるはずだ。
また、このツール・ド・スイスには世界トップクラスのスプリンターたちも一堂に会す。中でも世界最強スプリンターとの呼び声高いマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)は要チェック。発射台役のレンショーやアイゼルも揃い、ステージ優勝量産に向けて準備万端だ。
カヴェンディッシュに挑戦状を叩き付けるのが、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)やアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)、ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)と言った世界屈指のスプリンターたち。
怪我から復帰したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)はハウッスラーを引き連れての出場。他にもアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)やゲラルド・チオレック(ドイツ、チームミルラム)、マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)らがスプリント戦線に絡んでくるはずだ。
総合優勝候補や強豪スプリンターを欠くBMCレーシングチームは、積極的にアタックを仕掛けてくるだろう。ジロ・デ・イタリアを終えたばかりの世界王者エヴァンスは出場しないが、ドーピング関与の疑いが晴れたアレッサンドロ・バッラン(イタリア)やジョージ・ヒンカピー(アメリカ)、マークス・ブルグハート(ドイツ)ら、ベストメンバーに近い布陣でツール・ド・スイスに挑む。スイスメーカーがスポンサーについているだけに、チームの士気は高い。
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos