紀州・熊野路を舞台に熱戦が繰り広げられたツール・ド・熊野2010を振り返る。第3ステージ太地半島は総合優勝をかけた激しい戦いに。BR-1,ER,FR,黒潮ロードの模様も掲載する。

7周目のメイン集団、ニッポがコントロール7周目のメイン集団、ニッポがコントロール photo:Hideaki.TAKAGI

4賞ジャージが揃うスタート地点4賞ジャージが揃うスタート地点 photo:Hideaki.TAKAGI63名がスタート
5月30日、ツール・ド・熊野最終ステージとなる太地半島周回コースが、和歌山県太地町で行われた。この日も朝から晴れ。やはり太地ステージには青空が似合う。
112名で始まったこの大会も、最終ステージのスタートに並んだのは63名。UCIレースの熊野は、実業団JサイクルツアーのTRレースでもあるが、クラブチームで残っているのはわずかに9名。スタートラインにつけるのはそれだけでも栄誉だ。
コースは1周9.6kmを10周する96km。アップダウンとテクニカルなコーナーが組み合わさったコースはまるでジェットコースター。逃げが決まりやすく、過去にこの最終ステージでの大逆転が幾度も展開されてきた名コースだ。

3周目、この日も好天3周目、この日も好天 photo:Hideaki.TAKAGIスタート直後の2.7km地点に山岳ポイントがあるが、ここは争わず一列棒状の先頭、村上純平(シマノレーシング)が1ポイント獲得。山岳賞はすでに鈴木譲(シマノレーシング)で決定している。この後に6人の逃げができる。村上と佐野淳哉(チームNIPPO)、伊藤雅和・山本元喜(鹿屋体大BLUESKY)、飯島誠(チームブリヂストン・アンカー)らだ。総合2位の佐野が入っているため1周後に吸収される。

決定的な6人の逃げ
2周目後半に6人の決定的な逃げができる。井上和郎(チームNIPPO)、山本雅道(チームブリヂストン・アンカー)、畑中勇介(シマノレーシング)、内間康平(鹿屋体大BLUESKY)、チャン・チンルー(ホンコンチーム)、ジャン・クン(マックスサクセススポーツ)だ。チャンはTOJ堺ステージTTで2位に入った実力者だ。この6人は協調しながら差を広げる。

後続からは21人の有力な追走集団ができる。アンドレイ・ミズロフ(カザフスタンナショナルチーム)、佐野、福島晋一(クムサン・ジンセンアジア)の総合上位3人やそのチームメイトらが入っている。当初は協調していたがやがてカザフとニッポが牽制しあう。お互い切り離したいができない、ニッポは前に井上が乗っているため追いつく必要はない。

5周目、逃げる6人5周目、逃げる6人 photo:Hideaki.TAKAGI第3集団となったメイン集団は決定的な差がつく恐れが出てきたため、宇都宮ブリッツェンとMASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTSが中心となって追走、結局5周目には追走とメインが一緒になり、先頭の6人の逃げだけに。メイン集団は中盤までニッポがコントロールする。

5周目、先頭の6人から井上がアタックするが半周で吸収。先頭の6人はローテーションするが、ややぎごちない。そして7周目には内間がアタック。ここから4周にわたって先頭の6人は後続との差を維持しながらもアタック合戦になる。全員がアタックをしてそして追走にも回る。メイン集団はカザフ勢が追い上げ、徐々に差を詰める。そして9周目に内間、山本がアタックした後に逃げをあきらめ下る。井上も差を広げるが結局残りの4人で最終10周回目へ。

6周目の先頭、熊野灘を望むコース6周目の先頭、熊野灘を望むコース photo:Hideaki.TAKAGIホンコンチームがワン・ツー
先頭の4人はアタックを繰り返すが、後続は40秒差。徐々に迫ってきている。畑中も吸収され、最後チャンだけが残りゴールまで単独で走る。ペースの上がったメイン集団は先頭のチャンの背後に迫る。ゴール前、独走するチャンの後方にはチームメイトのワン・カンポー先頭で集団が上がってくる。そしてゴール、ワンだけがチャンをかわして優勝。チャンは驚異的な粘りで2位に。ワンが優勝したためチャンも手を挙げる。

後半はカザフ勢がレースの動きを掌握したため、個人総合はミズロフが守りきった。ステージではチャンの粘りとワンの抜群の勝負勘が冴えた。4位に入った辻善光(宇都宮ブリッツェン)も第1ステージの結果を実証した。

8周目の先頭、チャン・チンルー(ホンコンチーム)がアタック8周目の先頭、チャン・チンルー(ホンコンチーム)がアタック photo:Hideaki.TAKAGIクラブチームには厳しい結果に
ツール・ド・熊野のコースはバラエティに富んでいる。4日間363.35kmと短めだがロードレースの真髄を濃縮したものだ。体力だけでは勝てない、下りのテクニックやチーム力も問われるもの。全てが公道で行われるのもポイントだ。第2ステージの熊野山岳コースでは、山岳地帯であっても集落前では必ず地元の応援の人たちがいる。選手にとっては心強かっただろう。

厳しいコースは、そのいっぽうで大量の脱落者を出した。最終ステージを出走したうち、全員が残っていたチームはカザフ、シマノ、ブリッツェン、ニッポ、マトリックス、鹿屋の6チームのみ。終了時点では4チームが完走者ゼロだった。国内クラブチームにとっては厳しく、残ったのはラバネロ鎌田・栂尾、アクアタマ大塚・浜頭、マッサ伊勢・丸山・日置・丸本、なるしま岩島の9名だけだ。

ゴール、ワン・カンポー(ホンコンチーム)や辻善光(宇都宮ブリッツェン)が仕掛けるゴール、ワン・カンポー(ホンコンチーム)や辻善光(宇都宮ブリッツェン)が仕掛ける photo:Hideaki.TAKAGI第1ステージの大量DNFの影響が大きい。規程を厳しく適用したため従来の救済措置「ゾンビルール」がなくなったからだ。過去にはそれら選手が勝敗に大きな影響を与えたこともあっただけに理解はできる。だがたくさんの選手の走りを見たいのが観客であり、そして完走目的の選手にとっては厳しい結果となった。

大会を通じて活躍した選手たち
目立った選手はまず鈴木譲(シマノレーシング)を挙げよう。第2ステージで逃げ続けて山岳賞を確定させたが、ほかのステージでも逃げや追走に回り活躍を見せた。それはTOJでも同じで、今まで数字としての結果にはやや遠かったが、チームとしてもエースを期待され、そしてそれをこなすことができるようになってきた。

ステージ表彰ステージ表彰 photo:Hideaki.TAKAGIつぎは内間康平(鹿屋体大BLUESKY)だ。3ステージを通じて最も逃げた距離の長い選手だ。その逃げも自分から仕掛けたもので、誰かに反応したものではない。「山が苦手だから」山でアタック、「一杯だったから」最後のアタック、と逆境での積極性に際立つ。チームとしても第3ステージに全員が出走と、もはやコンチネンタルチーム以上の結果と動きを見せた。

辻善光(宇都宮ブリッツェン)が攻撃力を増して熊野で成果を挙げた。盛り上がる筋肉はウェイトでなくすべて自転車乗車トレーニングでつけたもの。実業団白浜、TOJ東京と攻め続けたスタイルそのままで、第1ステージで勝利。自力で活路を切り拓くスプリンターとしてその地位を確立した。もちろん全員完走のチームメイトの強力な働きも見逃せない。

個人総合山岳賞個人総合山岳賞 photo:Hideaki.TAKAGIそして向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)を挙げよう。個人総合6位の成績は自身としても最高。スピードマンで平地ステージの成績はさすが。懸案の第2ステージ熊野山岳では、最後の千枚田上りでの遅れを下りで挽回、有力集団に追いついて総合をキープ。オールラウンダーの能力を開花させた。

結果
第3ステージ 太地半島周回コース 96km
1位 ワン・カンポー(ホンコンチーム)2時間29分27秒
2位 チャン・チンルー(ホンコンチーム)
3位 ルスラン・トルバイエフ(カザフスタンナショナルチーム)
4位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)
個人総合ポイント賞の宮澤崇史(チームNIPPO)個人総合ポイント賞の宮澤崇史(チームNIPPO) photo:Hideaki.TAKAGI5位 鈴木真理(シマノレーシング)
6位 宮澤崇史(チームNIPPO)
7位 ロマン・ジエンタエフ(カザフスタンナショナルチーム)
8位 吉田隼人(鹿屋体大BLUESKY)
9位 ヴィンツェンツォ・ガロッファロ(チームNIPPO)
10位 飯島誠(チームブリヂストン・アンカー)

最終結果
個人総合時間賞
1位 アンドレイ・ミズロフ(カザフスタンナショナルチーム)8時間13分18秒
2位 宮澤崇史(チームNIPPO)+42秒
3位 福島晋一(クムサン・ジンセンアジア)+50秒
個人総合優勝のアンドレイ・ミズロフ(カザフスタンナショナルチーム)個人総合優勝のアンドレイ・ミズロフ(カザフスタンナショナルチーム) photo:Hideaki.TAKAGI4位 ワン・カンポー(ホンコンチーム)+57秒
5位 アレクサンドル・シュセモイン(カザフスタンナショナルチーム)+1分01秒
6位 向川尚樹(マトリックスパワータグ)+1分02秒
7位 ロマン・ジエンタエフ(カザフスタンナショナルチーム)+1分04秒
8位 ヴィンツェンツォ・ガロッファロ(チームNIPPO)+1分12秒
9位 狩野智也(チームブリヂストン・アンカー)+1分20秒
10位 佐野淳哉(チームNIPPO)+1分27秒

個人総合ポイント賞
1位 宮澤崇史(チームNIPPO)52ポイント
2位 ワン・カンポー(ホンコンチーム)41ポイント
個人総合表彰個人総合表彰 photo:Hideaki.TAKAGI3位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)40ポイント

個人総合山岳賞
1位 鈴木譲(シマノレーシング)17ポイント
2位 内間康平(鹿屋体大BlueSky)12ポイント
3位 長沼隆行(宇都宮ブリッツェン)8ポイント

団体総合時間賞
1位 カザフスタンナショナルチーム24時間45分05秒
2位 チームNIPPO +1分10秒
3位 シマノレーシング +4分40秒






BR-1,ER,FR,黒潮ロードレース

実業団BR-1 2周目実業団BR-1 2周目 photo:Hideaki.TAKAGI
黒潮ロード Y's Racingが表彰台独占黒潮ロード Y's Racingが表彰台独占 photo:Hideaki.TAKAGI実業団BR-1 高塚亮輔(spacebikes.com)が優勝実業団BR-1 高塚亮輔(spacebikes.com)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI

実業団ER 小石祐馬(masahikomifune.com CyclingTeam)がこの日も優勝で総合優勝実業団ER 小石祐馬(masahikomifune.com CyclingTeam)がこの日も優勝で総合優勝 photo:Hideaki.TAKAGI実業団FR 萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)が優勝実業団FR 萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI



photo&text:高木秀彰

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