前年度チャンピオンと前週のストラーデビアンケ覇者のスプリント一騎討ちに持ち込まれた第111回ミラノ〜サンレモ。ポッジオでのジュリアン・アラフィリップのアタックを封じ込め、スプリントに持ち込んだワウト・ファンアールトが自身初のモニュメント制覇を果たした。


史上最長305km、真夏の『ラ・プリマヴェーラ』

ミラノ〜サンレモの第111回大会は開催時期や走行距離の点で異例づくめ。イタリアに春の訪れを告げる『ラ・プリマヴェーラ(春)』という愛称をもちながら、開催時期が春(3月21日)から夏(8月8日)に移行。それに伴ってコース変更を余儀なくされた。

ミラノ〜サンレモ2020ミラノ〜サンレモ2020 photo:RCS Sport『ミラノからサンレモまで』というレース名の通り内陸部の大都市ミラノをスタート後、例年であればロンバルディア平原からトゥルキーノ峠(標高532m)を越えてリグーリア海岸に至るが、バカンスシーズンのため通過する海沿いの自治体が交通規制を拒否。そのためトゥルキーノ峠の西側に位置するニエッラ・ベルボ(標高785m)とナヴァ峠(標高936m)を越えてリグーリア海岸に出て、残り36地点で伝統的なコースに復帰するレイアウトに変更された。

例年ペースが上がり始めるトレ・カーピ(3つの岬)は省かれるが、残り27km地点からチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)を連続してクリアするのは例年通り。このコース変更にによりコース全長は大会史上最長の305kmに。スタート地点のニュートラルゾーン10kmを含めると走行距離は315kmにおよぶ。

参加選手は27チームx6人の合計162名。例年よりも2チーム多く、1チームにつき1人少ないため、チーム力で支配的な展開に持ち込みにくい。走行距離の長さ、登りの多さ、そして最高気温33度の暑さにより、例年とは異なる展開が予想された。

ミラノ〜サンレモ2020ミラノ〜サンレモ2020 photo:RCS Sport


逃げる7名、逃さないスプリンターチーム

午前11時にニュートラル走行を終えた集団からすぐさま7名がアタック。このイタリア色の強い逃げグループは、ドゥクーニンク・クイックステップやロット・スーダル、ユンボ・ヴィスマ率いるメイン集団から最大6分45秒差をつけてロンバルディア州からピエモンテ州にかけての内陸部を駆け抜けた。

逃げメンバー
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ)
エクトル・カレテロ(スペイン、モビスター)
アレッサンドロ・トネッリ(イタリア、バルディアーニCSF)
ファビオ・マズッコ(イタリア、バルディアーニCSF)
ダミアーノ・チーマ(イタリア、ガスプロム・ルスヴェロ)
マルコ・フラッポルティ(イタリア、ヴィーニザブKTM)
マッティア・バイス(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)

午前10時40分にミラノをスタート午前10時40分にミラノをスタート photo:CorVos
優勝候補の一角、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)優勝候補の一角、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
ワイン畑の広がるピエモンテ州を走るワイン畑の広がるピエモンテ州を走る photo:CorVos

残り87km地点で落車リタイアした2016年と2019年大会10位のマッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)を除くメイン集団は、ニエッラ・ベルボとナヴァ峠のアップダウンで確実に逃げグループとの間合いを詰めていく。ティム・デクレルク(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)の強力な集団牽引はカウンターアタッカーたちの飛び出しを許さず、残り36km地点、リグーリア海岸の伝統コースに復帰したところで逃げグループを捉えた。

バカンス客で溢れたビーチを横目に進むメイン集団内では、チプレッサまで8kmを残したタイミングでジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)がパンクに見舞われるも、デクレルクに牽引される形でスペアバイクに乗って集団復帰。フィニッシュまで27kmを切り、チプレッサの登りが始まった。

決定的な逃げが過去20年間生まれていないが、確実にメイン集団の人数を減らすチプレッサでは、麓でロイック・ヴリーヘン(ベルギー、サーカス・ワンティゴベール)とジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)が、そして中腹にかけてジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がアタック。このトレック・セガフレードの断続的なアタックに、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)が遅れていく。

いずれのアタックもチプレッサ頂上通過後に吸収。下りをかっ飛ばしたダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)が独走で平坦区間を駆け抜けたが、最後の勝負どころであるポッジオ登坂開始を前に捕らえられた。

マヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ)ら7名が270km以上にわたって逃げるマヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ)ら7名が270km以上にわたって逃げる photo:CorVos
長時間メイン集団を牽引したティム・デクレルク(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)長時間メイン集団を牽引したティム・デクレルク(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
リグーリア海岸沿いのオーシャンロードを走るリグーリア海岸沿いのオーシャンロードを走る photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi


ポッジオで飛び出したアラフィリップとファンアールトの一騎討ち

正式名称ポッジオ・ディ・サンレモ。体重の7倍近くの出力で踏んで6分弱で登り切る丘に差し掛かると、ジャンニ・モスコン(イタリア、チームイネオス)とゼネク・スティバル(チェコ、ドゥクーニンク・クイックステップ)、チッコーネが麓から踏んでいく。続いてジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、トレック・セガフレード)とアイメ・デヘント(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)が飛び出すも、メイン集団から決定的なリードを奪うには至らない。

先頭でデヘントがブランビッラを振り切ったその後ろではいよいよ本命が動く。登りを平均スピード38km/hで突き進んだメイン集団から、ポッジオ頂上まで1kmほどを残してアラフィリップが強烈なアタック。唯一反応することができたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の姿を確認後にもう一段スピードを上げたアラフィリップが独走でポッジオ頂上を越えた。

ポッジオでアタックするタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ポッジオでアタックするタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
ポッジオで強力なアタックを繰り出すジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ポッジオで強力なアタックを繰り出すジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
ポッジオ頂上を先頭でクリアするジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ポッジオ頂上を先頭でクリアするジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi
ポッジオ頂上通過時点で、アラフィリップから遅れること4秒でファンアールト、遅れること9秒で約25人のメイン集団。パンクによるバイク交換の影響かどうかは定かではないが、先頭アラフィリップはコーナリングが安定せず、持ち味の下りテクニックを生かすことができないままファンアールトに追いつかれてしまう。そのままメイン集団から5秒のリードを持ったまま、先頭アラフィリップとファンアールトはサンレモ市内の平坦路に差し掛かった。

協力しながら、互いの様子を伺いながら、メイン集団に7秒差をつけて残り1kmアーチを潜った先頭2人。ローマ通りに差し掛かり、モニュメント全制覇を狙うフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)が後方からロングスプリントに持ち込んだが先頭2人には届かない。俊敏な加速力で先頭に立ったアラフィリップに対し、最大出力1520Wで踏み、最高スピード60.9km/hをマークしたファンアールトのスプリントが伸びた。

距離305km、7時間16分09秒という長丁場の末に、ホイール半分の差で先着したファンアールトが勝利。レース全体の平均スピードは41.958km/hだった。

最後の平坦区間を走るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)最後の平坦区間を走るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi
スプリントの一騎討ちで先着したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)スプリントの一騎討ちで先着したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi


大怪我から復活を遂げたファンアールトがUCIワールドツアーレース連勝

8月1日のストラーデビアンケ優勝、8月5日のミラノ〜トリノ3位、そして8月8日のミラノ〜サンレモ優勝。ベルギー人選手によるミラノ〜サンレモ制覇は1999年のアンドレイ・チミル以来21年ぶり。2019年ツール・ド・フランスの第13ステージ個人タイムトライアルで落車し、選手生命を脅かしかねない大怪我を負ったファンアールトが完全復活を遂げた。

「ポッジオは恐ろしく苦しかったけど、幸い誰も後ろについてきていなかった。そして頂上に到達した時、先行するジュリアン(アラフィリップ)もきっと限界ギリギリだと信じたんだ。平坦区間でも追いつけたと思うけど、下り区間で追いついた時点で勝利のチャンスがあると思ったよ」。参考までに登りと下りを含めたポッジオの平均スピードは43.2km/hで、緩い向かい風が吹いていたものの近年最速レベルだった。

「今日は初めてモニュメントを制した記念すべき日。キャリアを終える時、シクロクロスだけでなくロードレースでも成功を収めたことを幸せに感じると思う。ベルギー人選手にとってロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベは何としても勝ちたいレース。登りもこなせてTTでも良い走りができるので、グランツールの総合優勝を除いて全てのレースで勝つ能力があると思う」。

13位に終わった同世代で同じシクロクロス出身のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)とともにロードレースで破竹の勢いを見せる25歳のファンアールト。今シーズンはクリテリウム・デュ・ドーフィネ、ツール・ド・フランス、そして『北のクラシック』3連戦のヘント〜ウェヴェルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベに出場する予定だ。

「色んな気持ちが入り混じっているけど、表彰台に登ったことには満足している」。2001年のリック・ツァベル(ドイツ)以来果たされていない大会連覇を僅差で逃したアラフィリップは自分に言い聞かせるようにそう語った。「ワウト(ファンアールト)は勝利に値する強さだった。ポッジオを全開でアタックしたものの、下りで差をつけることができないと判断して、彼と協調することにしたんだ。そして最後は力と力がぶつかり合うスプリント。最強の選手が勝った」。アラフィリップはドーフィネとツールでファンアールトと再び顔を合わすことになる。

2位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、優勝ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、3位マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)2位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、優勝ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、3位マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi
モニュメント初制覇を果たしたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)モニュメント初制覇を果たしたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozzi
ミラノ〜サンレモ2020結果
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 7:16:09
2位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
3位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) 0:00:02
4位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)
6位 ディオン・スミス(ニュージーランド、ミッチェルトン・スコット)
7位 アレクサンデル・アランブル(スペイン、アスタナ)
8位 グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)
10位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・マクラーレン)
text:Kei Tsuji

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