2019/07/17(水) - 09:22
東京サンエスのワンバイエスよりリリースされているバイクシリーズ「JFF」。CX全日本選手権の9連覇を達成したレジェンド・辻浦圭一さんが開発に携わったバイクであり、そのラインアップよりアルミフレーム/ディスクブレーキCXの「#805Z」をインプレッション。
東京サンエスのワンバイエスブランドで展開している「JFF」シリーズ。JFFと名前が冠されたバイクは、シクロクロス全日本選手権9連覇の偉業を達成したレジェンド辻浦圭一さんが現役時代にオランダで走った経験、見たもの、培った技術を元に、辻浦さん自身が求めるものを具現化したものだ。
#801はシクロクロスをベースにしたスチール製のマルチパーパスバイク、#803はシクロクロスのレースバイクとして用意されたアルミ製バイク。これらが登場した当初はレースでディスクブレーキが使われ始めた過渡期であり、里山遊びも考えた#801はディスクブレーキを採用していたが、#803は使用する選手が多かったという背景もありカンチブレーキ仕様という設定となっていた。
シクロクロスのワールドカップでディスクブレーキが瞬く間に普及すると同時に、日本でも当たり前の装備として認識されるように。時代とライダーからの要請を受けて、東京サンエスは2017年の秋にアルミフレーム/ディスクブレーキ仕様の#805を満を持してリリース。現在はSサイズのジオメトリーなどを更に煮詰めた「#805Z」としてラインアップされ、シクロクロスの今を捉えたバイクとなっている。
基本ジオメトリーは#801、#803で結実したものを踏襲。辻浦さんが実走テストを繰り返し、走行感を煮詰めていったというジオメトリーは非常に特徴的で、リアセンターは長く、トップチューブは非常に短い設計が採用されている。既存のジオメトリーの枠に収まらない理由については「設計の段階で一般的なBBハイトやリアセンター長のプロトタイプを試してみたのですが、思っていた走行感にならなかった」と辻浦さんは言う。
リアセンター長については「短いリアセンターは走り出しの瞬発力が良いと言われますが、シクロクロスはタイヤが細いので高速巡航や悪路でパワーを掛けてペダルを踏むとトラクションが抜けてしまう。そのような時にリアセンターである程度の"ため"を作るために長く作っています」と説明する。
短いトップチューブ長にも理由があり「泥や砂セクションでは腹圧を高め腰を引いて乗りますが、そうした時はハンドルと上半身の距離が伸びてしまう。トップチューブを短くすることで、そのようなシチュエーションでもハンドリングをしやすくしています」という考えのもとバイクを作り上げた。
一方で、前輪とクランクのクリアランスが非常に狭く、ハンドルを切る角度によってはつま先がヒットすることもあるという。もちろん目指したハンドリングを突き詰めた結果であり、JFFには辻浦さんが考える通りにバイクを走らせると性能の良さが見えてくる。
「このバイクはハンドルを切って曲がらせる走らせ方ではなく、車体を倒して曲がっていくようなイメージを持って走るバイクです。前後左右に体重移動させ、ペダリングしながらコーナーに入っていくイメージですね。」と辻浦さんは説明する。この走らせ方の背景にはオランダで走っていた時代の経験があり、オランダでプロたちがそのような走り方していたという。
BBハイトは轍にタイヤを入れた時を加味し、若干高めの作りを採用。あえてジオメトリー表に記載されていないヘッドアングルはJFFの肝であり、サイズごとに微調整を加えている。辻浦さんは悪路になればなるほど#805Zの良さ、直線コントロール性能の高さが現れると説明する。
また、チェーンステーおよびシートステーのブリッジを廃止することで、泥ハケ性能や軽量性などを獲得。48mmのタイヤまで飲み込むクリアランスを備えており、グラベルロードのような楽しみ方も可能。つま先とのクリアランスが気になるため、650Bのホイールと組み合わせても良いだろう。#805Zのブレーキホースはダウンチューブまで内装、BBシェル付近から外装となる。ドライブトレインをDI2とする場合は内装することができ、機械式変速の場合は外装だ。
レジェンドの辻浦圭一さんが開発に携わったJFF #805Z。シクロクロスでも活躍するサイクルハウスMIKAMIの三上和志さん、ライズライドの鈴木祐一さんにインプレッションを伺った。
販売はフレーム単体およびフォークとのセットとなっている。フレームセットに付属するフォークは、新開発のカーボンディスクフロントフォーク"OBS-CBD1.5TH"となる。カーボンシートの間に振動を除去する機能性繊維を挟みこむことで振動を約30%カットし、振動収束までの時間を1/4に短縮する"VDS"システムを搭載することで、身体へのダメージを低減するフロントフォークが標準装備される。
― インプレッション
「設計者の意図が明確に表れたバイク。ハマれば面白い」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
伝説のライダーである辻浦さんがどのような味付けをしたバイクなのか楽しみにして乗ってみました。#805Zはこの自転車に合った走らせ方をしてあげると、自転車自体が持つ武器が次々と出てきてくれるような印象を受けましたね。
リアセクションに体重をかけるように後ろ乗りのポジションとした時に、各チューブの反発力が加速に活きてくる。低速での軽快さよりも、スピードが乗ってきたところでトルクを掛けることでグイグイと進む印象のほうが強いバイクですね。アルミフレームなので硬さが目立つかなと思っていたけど、そんなことは無く乗りやすいバイクに仕上げられていました。
適正なポジションに座ると、コーナリングではハンドルに手を添え、車体を傾けるだけで路面に吸い付くように曲がっていけます。自転車が求める走らせ方であれば、高速コーナーでもタイトなラインを描いていけるハンドリング性能です。レースでもこの曲がり方を武器にコーナーでライバルを抜くことができるでしょう。
#805Zはロングホイールベースによる安定性も感じられますね。マッドコンディションでペダルを踏み込むと車体が横を向いてしまいますが、この自転車の場合はリアタイヤに体重が乗っていることもあり、後輪は常に前を向きます。ハンドルがフラフラしてしていても、後輪のトラクションによって泥沼を切り裂いて進んでいける。コンディションが悪く、コーナーが多いレースを楽しめると思いますよ。
一方で、適正位置よりも前方に座ってしまった時はペダリングのリズムが取りにくいです。また、その状態でコーナーでハンドルを切って曲がろうとした時は、途端にハンドルが切れ込んで倒れてしまいます。おっかなびっくりな状態でコーナーを曲がろうとするといつまでも綺麗に曲がることは出来ないでしょう。
乗り方次第で「こんなに良くなるんだ」と感じられるほど良い走り方、悪い走り方がハッキリと分かれおり、そこに設計者の意図が明確に表れています。さらに、大きいサイズのフレームでも前輪がつま先に当たってしまいますが、#805Zのハンドリングなどのための設計なので、この点についても個性だと割り切る必要があります。
#805Zの設計を理解しようとする方、乗り方の研究を楽しめる方であればこの自転車の面白さを感じられる。自分で操ろうという意識でレースに臨むとシクロクロスの走り方を教えてくれると思います。この自転車に自分がハマった時の走りやすさは「この走り方で良いんだ」を自信に繋がります。
販売価格が抑えられていることもこの自転車の光る部分です。シクロクロスは真剣にレースに取り組もうとすると2台体制が求められます。カテゴリー1でないとしても、高級フレームと高級ホイールでレースに参加するよりも、コンディションによってバイクを選択できるメリットはあります。#805Zの場合は2台揃えることができる価格というのは、シクロクロスレースを機材を含めたトータルパッケージで楽しませてくれるでしょう。
「彼の経験が色濃く反映されたレーシングバイク」鈴木祐一(ライズライド)
辻浦さんのテクニックと欲しい性能が組み合わされたバイクですよね。特徴的だったのが、コーナー中にもペダルを回してバイクを安定させる必要があるキャラクター。足を止めた途端にバイクの挙動が不安定になってしまうし、前輪がつま先に当たるので、誰もが乗りこなしやすいバイクではありません。
ですが結局はレースで速く走ることが目的のバイクなので、このバイクのターゲットとなる走らせ方を身に着けたほうがバイクにとっても良いはずです。コーナリングスピードが高くなると、車体を倒す動きが必要になるのですが、習得するためには練習が必要です。そういう意味では、このバイクに乗ることでレースでの速さを学ぶこともありだと思います。
このバイクは100mmステムを想定しているとも説明を受けています。サスペンションがないシクロクロスというバイクでのステム剛性を考えた時、ショックの吸収とダッシュした際のバイクの振り、ハンドリングの正確性を考慮すると100mmという長さは適切だと思います。
身長の高い僕でも90mmや80mmのステムを使うと硬さを感じるし、110mmや120mmの剛性が高いと言われているステムを使ってもしなりを感じてきます。メーカーによっても変わってくる話ではありますが、100mmの剛性感を基準にしているバイクというところに面白さを感じますよね。
辻浦さんの考え方が元になっているバイクなので、彼の走り方を振り返ってみるとトラクションの掛け方が際立って上手いんですよね。シクロクロスだけではなくマウンテンバイクでも急坂で路面に力を伝えていく能力が長けていることがわかります。彼のトラクションの掛け方を反映させたバイクであるため、路面と捉える、安定して直線的に走らせる能力に秀でる1台になっています。それは長いリアセンターが影響しているのでしょう。インプレでは5mmの違いを感じ取ることは難しいんですが、このバイクではリアセンターが長いと確かに感じ取れましたね。
彼の走り方はオランダでの経験が強く影響を与えているのでしょう。僕がオランダで言われたのはコーナリング中にペダリングをしろということ。当時はインターネットで情報を得ていたわけでもなく、現地に行ってレースを見て衝撃を受けましたね。ツールでステージ優勝した選手がレースで走っているからパワーでは敵わないとわかっていたけど、技術的な面でも大きな違いがあると現地で初めてわかったんです。そこで走り続けた辻浦さんは、パワーに劣る部分をカバーする練習をしているうちにトラクションコントールのようなテクニックが武器になったのだと思う。
そんな経験をした辻浦さんが求める走り方が表されたのがこのバイク。ターゲットとなる走らせ方を身につける必要がある自転車ですが、この自転車を上手に走らせられる技術、スキルを身に着けておくとレースで上位に入れるようになったり、趣味の範囲内の人でも心に余裕が生まれたりするでしょう。そのような意味ではライダー自身を育ててくれる1台だとも思います。
ワンバイエス JFF#805Z
フレーム:6061 アルミ合金 トリプルバテット
サイズ:S、M、L
フォーク:OBS-CBD1.5TH クロスベントディスク 1.5 スルーアクスル スレッドレス インテグラル、フルカーボンクロス ベントスタイル/1-1/8“ テーパード 1/2”(1.50) 700C / OF 48 肩下:396mm
フォーク重量:488g(コラム 300mm)
タイヤクリアランス:57mm
付属品:ヘッドパーツ(ZS225XBK)、前後スルーアクスル、シートクランプ、BB下ケーブルガイド、チェーンステープロテクター
フレーム・フォーク価格:118,000円(税抜)
フレーム単体価格:78,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI HP
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto.AYANAO
東京サンエスのワンバイエスブランドで展開している「JFF」シリーズ。JFFと名前が冠されたバイクは、シクロクロス全日本選手権9連覇の偉業を達成したレジェンド辻浦圭一さんが現役時代にオランダで走った経験、見たもの、培った技術を元に、辻浦さん自身が求めるものを具現化したものだ。
#801はシクロクロスをベースにしたスチール製のマルチパーパスバイク、#803はシクロクロスのレースバイクとして用意されたアルミ製バイク。これらが登場した当初はレースでディスクブレーキが使われ始めた過渡期であり、里山遊びも考えた#801はディスクブレーキを採用していたが、#803は使用する選手が多かったという背景もありカンチブレーキ仕様という設定となっていた。
シクロクロスのワールドカップでディスクブレーキが瞬く間に普及すると同時に、日本でも当たり前の装備として認識されるように。時代とライダーからの要請を受けて、東京サンエスは2017年の秋にアルミフレーム/ディスクブレーキ仕様の#805を満を持してリリース。現在はSサイズのジオメトリーなどを更に煮詰めた「#805Z」としてラインアップされ、シクロクロスの今を捉えたバイクとなっている。
基本ジオメトリーは#801、#803で結実したものを踏襲。辻浦さんが実走テストを繰り返し、走行感を煮詰めていったというジオメトリーは非常に特徴的で、リアセンターは長く、トップチューブは非常に短い設計が採用されている。既存のジオメトリーの枠に収まらない理由については「設計の段階で一般的なBBハイトやリアセンター長のプロトタイプを試してみたのですが、思っていた走行感にならなかった」と辻浦さんは言う。
リアセンター長については「短いリアセンターは走り出しの瞬発力が良いと言われますが、シクロクロスはタイヤが細いので高速巡航や悪路でパワーを掛けてペダルを踏むとトラクションが抜けてしまう。そのような時にリアセンターである程度の"ため"を作るために長く作っています」と説明する。
短いトップチューブ長にも理由があり「泥や砂セクションでは腹圧を高め腰を引いて乗りますが、そうした時はハンドルと上半身の距離が伸びてしまう。トップチューブを短くすることで、そのようなシチュエーションでもハンドリングをしやすくしています」という考えのもとバイクを作り上げた。
一方で、前輪とクランクのクリアランスが非常に狭く、ハンドルを切る角度によってはつま先がヒットすることもあるという。もちろん目指したハンドリングを突き詰めた結果であり、JFFには辻浦さんが考える通りにバイクを走らせると性能の良さが見えてくる。
「このバイクはハンドルを切って曲がらせる走らせ方ではなく、車体を倒して曲がっていくようなイメージを持って走るバイクです。前後左右に体重移動させ、ペダリングしながらコーナーに入っていくイメージですね。」と辻浦さんは説明する。この走らせ方の背景にはオランダで走っていた時代の経験があり、オランダでプロたちがそのような走り方していたという。
BBハイトは轍にタイヤを入れた時を加味し、若干高めの作りを採用。あえてジオメトリー表に記載されていないヘッドアングルはJFFの肝であり、サイズごとに微調整を加えている。辻浦さんは悪路になればなるほど#805Zの良さ、直線コントロール性能の高さが現れると説明する。
また、チェーンステーおよびシートステーのブリッジを廃止することで、泥ハケ性能や軽量性などを獲得。48mmのタイヤまで飲み込むクリアランスを備えており、グラベルロードのような楽しみ方も可能。つま先とのクリアランスが気になるため、650Bのホイールと組み合わせても良いだろう。#805Zのブレーキホースはダウンチューブまで内装、BBシェル付近から外装となる。ドライブトレインをDI2とする場合は内装することができ、機械式変速の場合は外装だ。
レジェンドの辻浦圭一さんが開発に携わったJFF #805Z。シクロクロスでも活躍するサイクルハウスMIKAMIの三上和志さん、ライズライドの鈴木祐一さんにインプレッションを伺った。
販売はフレーム単体およびフォークとのセットとなっている。フレームセットに付属するフォークは、新開発のカーボンディスクフロントフォーク"OBS-CBD1.5TH"となる。カーボンシートの間に振動を除去する機能性繊維を挟みこむことで振動を約30%カットし、振動収束までの時間を1/4に短縮する"VDS"システムを搭載することで、身体へのダメージを低減するフロントフォークが標準装備される。
― インプレッション
「設計者の意図が明確に表れたバイク。ハマれば面白い」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
伝説のライダーである辻浦さんがどのような味付けをしたバイクなのか楽しみにして乗ってみました。#805Zはこの自転車に合った走らせ方をしてあげると、自転車自体が持つ武器が次々と出てきてくれるような印象を受けましたね。
リアセクションに体重をかけるように後ろ乗りのポジションとした時に、各チューブの反発力が加速に活きてくる。低速での軽快さよりも、スピードが乗ってきたところでトルクを掛けることでグイグイと進む印象のほうが強いバイクですね。アルミフレームなので硬さが目立つかなと思っていたけど、そんなことは無く乗りやすいバイクに仕上げられていました。
適正なポジションに座ると、コーナリングではハンドルに手を添え、車体を傾けるだけで路面に吸い付くように曲がっていけます。自転車が求める走らせ方であれば、高速コーナーでもタイトなラインを描いていけるハンドリング性能です。レースでもこの曲がり方を武器にコーナーでライバルを抜くことができるでしょう。
#805Zはロングホイールベースによる安定性も感じられますね。マッドコンディションでペダルを踏み込むと車体が横を向いてしまいますが、この自転車の場合はリアタイヤに体重が乗っていることもあり、後輪は常に前を向きます。ハンドルがフラフラしてしていても、後輪のトラクションによって泥沼を切り裂いて進んでいける。コンディションが悪く、コーナーが多いレースを楽しめると思いますよ。
一方で、適正位置よりも前方に座ってしまった時はペダリングのリズムが取りにくいです。また、その状態でコーナーでハンドルを切って曲がろうとした時は、途端にハンドルが切れ込んで倒れてしまいます。おっかなびっくりな状態でコーナーを曲がろうとするといつまでも綺麗に曲がることは出来ないでしょう。
乗り方次第で「こんなに良くなるんだ」と感じられるほど良い走り方、悪い走り方がハッキリと分かれおり、そこに設計者の意図が明確に表れています。さらに、大きいサイズのフレームでも前輪がつま先に当たってしまいますが、#805Zのハンドリングなどのための設計なので、この点についても個性だと割り切る必要があります。
#805Zの設計を理解しようとする方、乗り方の研究を楽しめる方であればこの自転車の面白さを感じられる。自分で操ろうという意識でレースに臨むとシクロクロスの走り方を教えてくれると思います。この自転車に自分がハマった時の走りやすさは「この走り方で良いんだ」を自信に繋がります。
販売価格が抑えられていることもこの自転車の光る部分です。シクロクロスは真剣にレースに取り組もうとすると2台体制が求められます。カテゴリー1でないとしても、高級フレームと高級ホイールでレースに参加するよりも、コンディションによってバイクを選択できるメリットはあります。#805Zの場合は2台揃えることができる価格というのは、シクロクロスレースを機材を含めたトータルパッケージで楽しませてくれるでしょう。
「彼の経験が色濃く反映されたレーシングバイク」鈴木祐一(ライズライド)
辻浦さんのテクニックと欲しい性能が組み合わされたバイクですよね。特徴的だったのが、コーナー中にもペダルを回してバイクを安定させる必要があるキャラクター。足を止めた途端にバイクの挙動が不安定になってしまうし、前輪がつま先に当たるので、誰もが乗りこなしやすいバイクではありません。
ですが結局はレースで速く走ることが目的のバイクなので、このバイクのターゲットとなる走らせ方を身に着けたほうがバイクにとっても良いはずです。コーナリングスピードが高くなると、車体を倒す動きが必要になるのですが、習得するためには練習が必要です。そういう意味では、このバイクに乗ることでレースでの速さを学ぶこともありだと思います。
このバイクは100mmステムを想定しているとも説明を受けています。サスペンションがないシクロクロスというバイクでのステム剛性を考えた時、ショックの吸収とダッシュした際のバイクの振り、ハンドリングの正確性を考慮すると100mmという長さは適切だと思います。
身長の高い僕でも90mmや80mmのステムを使うと硬さを感じるし、110mmや120mmの剛性が高いと言われているステムを使ってもしなりを感じてきます。メーカーによっても変わってくる話ではありますが、100mmの剛性感を基準にしているバイクというところに面白さを感じますよね。
辻浦さんの考え方が元になっているバイクなので、彼の走り方を振り返ってみるとトラクションの掛け方が際立って上手いんですよね。シクロクロスだけではなくマウンテンバイクでも急坂で路面に力を伝えていく能力が長けていることがわかります。彼のトラクションの掛け方を反映させたバイクであるため、路面と捉える、安定して直線的に走らせる能力に秀でる1台になっています。それは長いリアセンターが影響しているのでしょう。インプレでは5mmの違いを感じ取ることは難しいんですが、このバイクではリアセンターが長いと確かに感じ取れましたね。
彼の走り方はオランダでの経験が強く影響を与えているのでしょう。僕がオランダで言われたのはコーナリング中にペダリングをしろということ。当時はインターネットで情報を得ていたわけでもなく、現地に行ってレースを見て衝撃を受けましたね。ツールでステージ優勝した選手がレースで走っているからパワーでは敵わないとわかっていたけど、技術的な面でも大きな違いがあると現地で初めてわかったんです。そこで走り続けた辻浦さんは、パワーに劣る部分をカバーする練習をしているうちにトラクションコントールのようなテクニックが武器になったのだと思う。
そんな経験をした辻浦さんが求める走り方が表されたのがこのバイク。ターゲットとなる走らせ方を身につける必要がある自転車ですが、この自転車を上手に走らせられる技術、スキルを身に着けておくとレースで上位に入れるようになったり、趣味の範囲内の人でも心に余裕が生まれたりするでしょう。そのような意味ではライダー自身を育ててくれる1台だとも思います。
ワンバイエス JFF#805Z
フレーム:6061 アルミ合金 トリプルバテット
サイズ:S、M、L
フォーク:OBS-CBD1.5TH クロスベントディスク 1.5 スルーアクスル スレッドレス インテグラル、フルカーボンクロス ベントスタイル/1-1/8“ テーパード 1/2”(1.50) 700C / OF 48 肩下:396mm
フォーク重量:488g(コラム 300mm)
タイヤクリアランス:57mm
付属品:ヘッドパーツ(ZS225XBK)、前後スルーアクスル、シートクランプ、BB下ケーブルガイド、チェーンステープロテクター
フレーム・フォーク価格:118,000円(税抜)
フレーム単体価格:78,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI HP
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text:Gakuto Fujiwara
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