2019/06/13(木) - 17:55
ツール・ド・フランス出場チームのアルケア・サムシックが採用するアメリカンヘルメットブランド、ベルのロード用フラッグシップエアロモデル「Z20 AERO MIPS」をインプレッション。ベースモデルのZ20より優れた空力性能を実現しており、高速ロードレースに最適なヘルメットだ。
ベルが2017年モデルとして世に送り出したフラッグシップモデル「Zephyr MIPS」。2019年モデルでは名称が「Z20」に変わると共に、エアロモデルとしてリリースされたのがこのZ20 AEROだ。2モデルが揃うことで、ヒルクライムや夏場のライドなどではベンチレーションホールの多いスタンダードモデルのZ20、高速ロードレースではエアロモデルのZ20 AEROと、使い分けることも可能になった。
Z20 AEROに使用されるベーステクノロジーはZ20とほぼ同じ。シェルに密度が異なる2種類のフォームを使用する2層構造の「プログレッシブレイヤリング」テクノロジーを採用。変形量が大きく、衝撃を分散させる低密度フォームを内殻に、衝撃に強い高密度フォームを外殻に配置することで、重量増を抑えつつも頭部にかかるダメージ低減を狙っている。
安全面への配慮は、Z20のみに使用されているアジャスター一体型のインテグレーテッドMIPSを採用していることでも見て取れる。汎用品の半球状のMIPSシートはヘルメット内部のフィット感を損なうケースがあるものだが、このインテグレーテッドMIPSではベンチレーション用の溝やパッド配置などと合わせて専用に開発が行われており、軽量かつ自然な着用感を実現している。
このヘルメットの基本となるプロテクション性能とZ20の基本デザインをそのままに、ベンチレーションホールをアウターシェルで塞いだのがZ20 AEROだ。必要かつ最低限の通気孔を残し、空気抵抗の発生を抑えた滑らかなアウターシェルはスタンダードモデルよりも空力テストで良い結果を残す。
ベルは開発施設「DOME」の風洞実験棟でテストを実施。試験内容は、自転車との合計重量が81.5kgのライダーが400wで40km走った場合のタイム差。Z20 AEROは通常モデルと比較し、30.2秒も早くゴールに到達したという結果を残している。そして、これまでベルのエアロヘルメット「STAR PRO」に対してもコンマ3秒も早くゴールするというアドバンテージを持っている。タイヤ1本分で勝負が決することもあるロードレースにおいては大きな武器となるだろう。
スタンダードモデルに比して通気孔の数は減らされているものの、インナーシェルの溝などは同じ設計となっているため、数少ない通気孔から入り込んだ風はヘルメット内部を通り抜けてくれるはずだ。加えて、スウェットガイドというテクノロジーが用いられており、汗が顔に垂れてくるというストレスを少なくしていることもポイントだ。
サイズはS、M、Lの3種が用意されている。シェル形状はZ20譲りのワイドめとなっているため、いわゆる日本人型(丸型)のサイクリストでも満足できるフィット感を得られる。
カラーはブラック/ガンメタル、ブラック/ミント/ホワイト、ブラック/ホワイト/クリムゾン、グレー/クリムゾン、スレート/オレンジ、ホワイト/シルバーという6カラー展開。価格は31,320円(税込)だ。
インプレッション
インプレはノーマルモデルのZ20を現在愛用中の筆者、CW編集部・綾野が担当した。Z20(旧名Zephyr)に関してはスイスでのローンチイベントのレポートとインプレも担当したため熟知しているヘルメットでもある。
シェル構造自体はZ20と同じであるため、被り心地も同一。筆者の場合は頭の外周が53cmと小さいためSがジャストフィット。日本人頭の典型の丸型であり、カブトならS/M、KASKならSとMどちらもOK、GIROの最近モデルおよびAF=アジアンフィットでSサイズだ。ちなみにカブトのS/Mサイズを常用するCW編集部員ではMサイズがジャストフィットだった。以上から内部形状の傾向としては「アジアンフィットに近いラウンド形状」という点で意見は一致した。
Z20との比較では、アウターシェルの通気孔の違いですっきりした外観になっている。エアロヘルメットながら後部が長く伸びないコンパクトなラウンドシェイプで、Z20より小ぶりに、むしろコンパクトに仕上がっている。被っての丸一日のロングライド実走ができたので、そのインプレッションを記そう。
エアロヘルメットで気になるのは通気性だろう。気温26℃の夏日に山岳ライドにでかけたが、通気性もほどよく保たれており、蒸れが気にならなかった。もちろんZ20のほうが涼しいが、シェル内部の空気の通りはスムーズで、内部で効果的に空気が循環して、後部に排出されていると感じた。
筆者は通気孔にシャッター機構が備わったエアロモデルの旧作「STAR PRO」(現在は廃盤モデル)も持っているBELLファンだが、通気孔の数ではSTAR PROと同程度ながら、空気の流れが比較にならないぐらい良いのは前頂部の通気孔が効いているのだと感じた。これならほぼオールシーズン活用できそうだ。
ちなみにSTAR PROは通気孔が前部に向いて開けられておらず、内部に熱がこもって夏日に被るには厳しかった。しかしシャッター機構とバイザーのおかげで雨風を防げ、冬場や悪天候時には非常に出番の多いヘルメットだった。Z20 AEROはSTAR PROを改良した進化版とも言えそうだ。やはり、前方向に向いて開けられた通気孔と内部の溝の設計によって風の取り込み効率は大きく向上していることを実感できる。
ありがたい独自性能と感じるのはスウェットガイドだ。汗をかいてもこのパッドを伝って先端部から滴り落ちる仕組みのため、汗が顔を伝って目に流れるという不快さが無い。これは夏場に乗り込むごとにとても感心するアイデア設計だ。
そしてMIPS込みで設計されたインテグレーテッドMIPSにより、MIPS自体の存在を感じたり、フィット感の悪さを感じたりといったことが皆無。細めのスリップライナーとなっており、通気性も犠牲にしていない。内部パッドは殺菌作用のある銀を繊維に織り込んだX-Staticメッシュとなっているため匂いの発生も抑える効果がある。
重量はMサイズで274gと、ベルらしく超軽量というわけではない。しかしクラッシュ時の安全を考えれば脆弱な軽量ヘルメットより安心できる数値とも言える。これはユーザーレベルで実証が難しいが、ベルの技術スタッフが力説する点でもある。ちなみにZ20で筆者は軽い落車をしているが、頭を護りつつもヘルメット自体も破損していない。運搬時に保護ケースに入れなくても凹まないぐらいのアウターシェル強度もあり、扱いに気を遣わなくて良いのが嬉しい。超軽量ヘルメットは確かに首周りに負担が少ないが、プラス数十グラムの重量は一日乗っても気になるレベルではない。
通気孔が少ないぶん面積のあるシェルに大胆なグラフィックが施され、カラーバリエーションやロゴ、グラフィックパターンをあしらったデザインで攻めたものが多いと感じる。このあたりはファッショナブルでありつつも好みの分かれるところかもしれない。
ベル Z20 AERO MIPS
安全規格:CE EN1078、2019年JCF公認取得済み
テクノロジー:インテグレーテッドMIPS、プログレッシブレイヤリング、スウェットガイド
サイズ:S(52~56cm)、M(55~59cm)、L(58~62cm)
カラー:ブラック/ガンメタル、ブラック/ミント/ホワイト、ブラック/ホワイト/クリムゾン、グレー/クリムゾン、スレート/オレンジ、ホワイト/シルバー
価 格:31,320円(税込)
photo&text:Makoto.AYANO
photo:Yuto.Murata
ベルが2017年モデルとして世に送り出したフラッグシップモデル「Zephyr MIPS」。2019年モデルでは名称が「Z20」に変わると共に、エアロモデルとしてリリースされたのがこのZ20 AEROだ。2モデルが揃うことで、ヒルクライムや夏場のライドなどではベンチレーションホールの多いスタンダードモデルのZ20、高速ロードレースではエアロモデルのZ20 AEROと、使い分けることも可能になった。
Z20 AEROに使用されるベーステクノロジーはZ20とほぼ同じ。シェルに密度が異なる2種類のフォームを使用する2層構造の「プログレッシブレイヤリング」テクノロジーを採用。変形量が大きく、衝撃を分散させる低密度フォームを内殻に、衝撃に強い高密度フォームを外殻に配置することで、重量増を抑えつつも頭部にかかるダメージ低減を狙っている。
安全面への配慮は、Z20のみに使用されているアジャスター一体型のインテグレーテッドMIPSを採用していることでも見て取れる。汎用品の半球状のMIPSシートはヘルメット内部のフィット感を損なうケースがあるものだが、このインテグレーテッドMIPSではベンチレーション用の溝やパッド配置などと合わせて専用に開発が行われており、軽量かつ自然な着用感を実現している。
このヘルメットの基本となるプロテクション性能とZ20の基本デザインをそのままに、ベンチレーションホールをアウターシェルで塞いだのがZ20 AEROだ。必要かつ最低限の通気孔を残し、空気抵抗の発生を抑えた滑らかなアウターシェルはスタンダードモデルよりも空力テストで良い結果を残す。
ベルは開発施設「DOME」の風洞実験棟でテストを実施。試験内容は、自転車との合計重量が81.5kgのライダーが400wで40km走った場合のタイム差。Z20 AEROは通常モデルと比較し、30.2秒も早くゴールに到達したという結果を残している。そして、これまでベルのエアロヘルメット「STAR PRO」に対してもコンマ3秒も早くゴールするというアドバンテージを持っている。タイヤ1本分で勝負が決することもあるロードレースにおいては大きな武器となるだろう。
スタンダードモデルに比して通気孔の数は減らされているものの、インナーシェルの溝などは同じ設計となっているため、数少ない通気孔から入り込んだ風はヘルメット内部を通り抜けてくれるはずだ。加えて、スウェットガイドというテクノロジーが用いられており、汗が顔に垂れてくるというストレスを少なくしていることもポイントだ。
サイズはS、M、Lの3種が用意されている。シェル形状はZ20譲りのワイドめとなっているため、いわゆる日本人型(丸型)のサイクリストでも満足できるフィット感を得られる。
カラーはブラック/ガンメタル、ブラック/ミント/ホワイト、ブラック/ホワイト/クリムゾン、グレー/クリムゾン、スレート/オレンジ、ホワイト/シルバーという6カラー展開。価格は31,320円(税込)だ。
インプレッション
インプレはノーマルモデルのZ20を現在愛用中の筆者、CW編集部・綾野が担当した。Z20(旧名Zephyr)に関してはスイスでのローンチイベントのレポートとインプレも担当したため熟知しているヘルメットでもある。
シェル構造自体はZ20と同じであるため、被り心地も同一。筆者の場合は頭の外周が53cmと小さいためSがジャストフィット。日本人頭の典型の丸型であり、カブトならS/M、KASKならSとMどちらもOK、GIROの最近モデルおよびAF=アジアンフィットでSサイズだ。ちなみにカブトのS/Mサイズを常用するCW編集部員ではMサイズがジャストフィットだった。以上から内部形状の傾向としては「アジアンフィットに近いラウンド形状」という点で意見は一致した。
Z20との比較では、アウターシェルの通気孔の違いですっきりした外観になっている。エアロヘルメットながら後部が長く伸びないコンパクトなラウンドシェイプで、Z20より小ぶりに、むしろコンパクトに仕上がっている。被っての丸一日のロングライド実走ができたので、そのインプレッションを記そう。
エアロヘルメットで気になるのは通気性だろう。気温26℃の夏日に山岳ライドにでかけたが、通気性もほどよく保たれており、蒸れが気にならなかった。もちろんZ20のほうが涼しいが、シェル内部の空気の通りはスムーズで、内部で効果的に空気が循環して、後部に排出されていると感じた。
筆者は通気孔にシャッター機構が備わったエアロモデルの旧作「STAR PRO」(現在は廃盤モデル)も持っているBELLファンだが、通気孔の数ではSTAR PROと同程度ながら、空気の流れが比較にならないぐらい良いのは前頂部の通気孔が効いているのだと感じた。これならほぼオールシーズン活用できそうだ。
ちなみにSTAR PROは通気孔が前部に向いて開けられておらず、内部に熱がこもって夏日に被るには厳しかった。しかしシャッター機構とバイザーのおかげで雨風を防げ、冬場や悪天候時には非常に出番の多いヘルメットだった。Z20 AEROはSTAR PROを改良した進化版とも言えそうだ。やはり、前方向に向いて開けられた通気孔と内部の溝の設計によって風の取り込み効率は大きく向上していることを実感できる。
ありがたい独自性能と感じるのはスウェットガイドだ。汗をかいてもこのパッドを伝って先端部から滴り落ちる仕組みのため、汗が顔を伝って目に流れるという不快さが無い。これは夏場に乗り込むごとにとても感心するアイデア設計だ。
そしてMIPS込みで設計されたインテグレーテッドMIPSにより、MIPS自体の存在を感じたり、フィット感の悪さを感じたりといったことが皆無。細めのスリップライナーとなっており、通気性も犠牲にしていない。内部パッドは殺菌作用のある銀を繊維に織り込んだX-Staticメッシュとなっているため匂いの発生も抑える効果がある。
重量はMサイズで274gと、ベルらしく超軽量というわけではない。しかしクラッシュ時の安全を考えれば脆弱な軽量ヘルメットより安心できる数値とも言える。これはユーザーレベルで実証が難しいが、ベルの技術スタッフが力説する点でもある。ちなみにZ20で筆者は軽い落車をしているが、頭を護りつつもヘルメット自体も破損していない。運搬時に保護ケースに入れなくても凹まないぐらいのアウターシェル強度もあり、扱いに気を遣わなくて良いのが嬉しい。超軽量ヘルメットは確かに首周りに負担が少ないが、プラス数十グラムの重量は一日乗っても気になるレベルではない。
通気孔が少ないぶん面積のあるシェルに大胆なグラフィックが施され、カラーバリエーションやロゴ、グラフィックパターンをあしらったデザインで攻めたものが多いと感じる。このあたりはファッショナブルでありつつも好みの分かれるところかもしれない。
ベル Z20 AERO MIPS
安全規格:CE EN1078、2019年JCF公認取得済み
テクノロジー:インテグレーテッドMIPS、プログレッシブレイヤリング、スウェットガイド
サイズ:S(52~56cm)、M(55~59cm)、L(58~62cm)
カラー:ブラック/ガンメタル、ブラック/ミント/ホワイト、ブラック/ホワイト/クリムゾン、グレー/クリムゾン、スレート/オレンジ、ホワイト/シルバー
価 格:31,320円(税込)
photo&text:Makoto.AYANO
photo:Yuto.Murata
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