2019/04/13(土) - 10:48
5つ星アランベールの補修は勝負に影響するのか?「クラシックの女王」または「北の地獄」の異名を持つ第117回のパリ〜ルーベが4月13日に開催される。合計54.5kmのパヴェ(石畳)を走る過酷なワンデークラシックのコースの見どころと注目選手をプレビューします。
合計54.5kmのパヴェが登場 アランベールは1/3が補修済み
「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第117回を迎えるパリ〜ルーベが今週日曜日に開催される。
パリ〜ルーベの特徴は何と言っても荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースレイアウトだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。
かつてはレース名の通りパリをスタートし、パヴェが敷かれた街道をまっすぐ走ってルーベにフィニッシュしていたが、近代化に伴ってパヴェが徐々に姿を消してしまう。そこで主催者はレースの特徴を保つために70年代に北部に残るパヴェの農道を探し出してコースに追加。パヴェを探すように蛇行しながらベルギー国境近くの平野部を走るために、1977年からパリの北80kmに位置するコンピエーニュでスタートが切られている。
このコンピエーニュとルーベを繋ぐ257kmのコースに大きな登りは存在しない。とは言えレース前半には2〜3%ほどの細かいアップダウンが登場するため、フルフラットでありながらも獲得標高差は1,200mに達する。
レース前半の約100kmはアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。フィニッシュ地点ルーベまで、カウントダウン形式で登場するパヴェは合計29区間。毎年細かい変更が加えられているが、後半の名物区間は例年通りだ。
パヴェ区間の総延長は54.5km。最初の「No.29 トロワヴィル」を越えると、そこからフィニッシュまでのレース後半部の約3分の1がパヴェに覆われている計算になる。
パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。毎年補修が行われているものの、普段は巨大なトラクターが行き交う農道であり、石と石の間の土は風雨によって浸食されている。鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こすため、チームは総力を挙げて選手をサポートする。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ないだろう。
そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。
数あるセクターの中でも特に有名なのが、難易度5つ星の「No.19 トルエー=ド=アランベール」と「No.11 モンサン=ぺヴェル」、そして「No.4 カルフール=ド=ラルブル」の3区間だ。いずれも全長が2kmを超え、その路面の荒れ具合を見ると難易度5つ星は納得の数字。
「アランベールの森」を貫く直線的な「アランベール」の全長は2,300mで、わずかに下り基調で、その路面は荒れに荒れている。沿道とは観戦用のフェンスで仕切られているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。普段は車両が通らない森の小道であり、草や泥、苔が覆う滑りやすい石畳がアランベールの特徴だったが、今年は愛好家団体「Les Amis de Paris-Roubaix」がパヴェの補修工事を行なった。補修が完了しているのは入り口から1/3ほどの区間で、パヴェの表面が磨かれ、間の泥や草は取り払われ、代わりに間をモルタルで埋める処理が施されている。
続く難所の「モンサン=ぺヴェル」を越えるとフィニッシュまで残り45km。ここからのラスト1時間は一つのミスが命取りになる。終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度の高い3区間(No.7 シソワン、No.6 ブルゲル、No.5 カンファナン=ぺヴェル)を越えた後に登場する「カルフール=ド=ラルブル」だ。長さ2,100mのこの難所を越えると、フィニッシュまで残り14km。その後の3区間の難易度は低く、この5つ星区間で勝負が決まる可能性が高い。
そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。
天気予報によると日曜日の天候は晴れで、最高気温は12度まで上がる見通し。しかし土曜日に降水と降雪(!)の予報が出ているため、パヴェに水たまりや泥が残る可能性はある。
合計54.5kmのパヴェが登場 アランベールは1/3が補修済み
「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第117回を迎えるパリ〜ルーベが今週日曜日に開催される。
パリ〜ルーベの特徴は何と言っても荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースレイアウトだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。
かつてはレース名の通りパリをスタートし、パヴェが敷かれた街道をまっすぐ走ってルーベにフィニッシュしていたが、近代化に伴ってパヴェが徐々に姿を消してしまう。そこで主催者はレースの特徴を保つために70年代に北部に残るパヴェの農道を探し出してコースに追加。パヴェを探すように蛇行しながらベルギー国境近くの平野部を走るために、1977年からパリの北80kmに位置するコンピエーニュでスタートが切られている。
このコンピエーニュとルーベを繋ぐ257kmのコースに大きな登りは存在しない。とは言えレース前半には2〜3%ほどの細かいアップダウンが登場するため、フルフラットでありながらも獲得標高差は1,200mに達する。
レース前半の約100kmはアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。フィニッシュ地点ルーベまで、カウントダウン形式で登場するパヴェは合計29区間。毎年細かい変更が加えられているが、後半の名物区間は例年通りだ。
パヴェ区間の総延長は54.5km。最初の「No.29 トロワヴィル」を越えると、そこからフィニッシュまでのレース後半部の約3分の1がパヴェに覆われている計算になる。
パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。毎年補修が行われているものの、普段は巨大なトラクターが行き交う農道であり、石と石の間の土は風雨によって浸食されている。鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こすため、チームは総力を挙げて選手をサポートする。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ないだろう。
そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。
数あるセクターの中でも特に有名なのが、難易度5つ星の「No.19 トルエー=ド=アランベール」と「No.11 モンサン=ぺヴェル」、そして「No.4 カルフール=ド=ラルブル」の3区間だ。いずれも全長が2kmを超え、その路面の荒れ具合を見ると難易度5つ星は納得の数字。
「アランベールの森」を貫く直線的な「アランベール」の全長は2,300mで、わずかに下り基調で、その路面は荒れに荒れている。沿道とは観戦用のフェンスで仕切られているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。普段は車両が通らない森の小道であり、草や泥、苔が覆う滑りやすい石畳がアランベールの特徴だったが、今年は愛好家団体「Les Amis de Paris-Roubaix」がパヴェの補修工事を行なった。補修が完了しているのは入り口から1/3ほどの区間で、パヴェの表面が磨かれ、間の泥や草は取り払われ、代わりに間をモルタルで埋める処理が施されている。
続く難所の「モンサン=ぺヴェル」を越えるとフィニッシュまで残り45km。ここからのラスト1時間は一つのミスが命取りになる。終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度の高い3区間(No.7 シソワン、No.6 ブルゲル、No.5 カンファナン=ぺヴェル)を越えた後に登場する「カルフール=ド=ラルブル」だ。長さ2,100mのこの難所を越えると、フィニッシュまで残り14km。その後の3区間の難易度は低く、この5つ星区間で勝負が決まる可能性が高い。
そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。
天気予報によると日曜日の天候は晴れで、最高気温は12度まで上がる見通し。しかし土曜日に降水と降雪(!)の予報が出ているため、パヴェに水たまりや泥が残る可能性はある。
登場するパヴェ29区間
区間 | レース距離 | 残り距離 | 名称 | 長さ | 難易度 |
---|---|---|---|---|---|
29 | 97.5km | 159.5km | トロワヴィル〜アンシー | 900m | ☆☆ |
28 | 108.5km | 148.5km | ブリアストル〜ヴィースリー | 3,000m | ☆☆☆☆ |
27 | 111.5km | 145.5km | ヴィースリー〜キエヴィ | 1,800m | ☆☆☆ |
26 | 116km | 141km | キエヴィ〜サンピトン | 3,700m | ☆☆☆☆ |
25 | 118.5km | 138.5km | サンピトン | 1,500m | ☆☆ |
24 | 127.5km | 129.5km | ヴェルテン〜サン=マルタン=シュル=エカイヨン | 2,300m | ☆☆☆ |
23 | 136.5km | 120.5km | ヴェルション=モグレ〜ケレネン | 1,600m | ☆☆☆ |
22 | 140.5km | 116.5km | ケレネン〜マン | 2,500m | ☆☆☆ |
21 | 142.5km | 114.5km | マン〜モンショー=シュル=エカイヨン | 1,600m | ☆☆☆ |
20 | 156.5km | 100.5km | アヴルイ〜ワレー | 2,500m | ☆☆☆☆ |
19 | 164.5km | 92.5km | トルエー=ド=アランベール | 2,300m | ☆☆☆☆☆ |
18 | 170km | 87km | ワレー〜エレーム | 1,600m | ☆☆☆ |
17 | 179km | 78km | オルネン〜ヴァンディニー | 3,700m | ☆☆☆☆ |
16 | 185km | 72km | ヴァルレン〜ブリヨン | 2,400m | ☆☆☆ |
15 | 188.5km | 68.5km | ティヨワ〜サール=エ=ロジエール | 2,400m | ☆☆☆☆ |
14 | 194km | 63km | バーヴリー〜オルシー | 1,400m | ☆☆☆ |
13 | 199km | 58km | オルシー | 1,700m | ☆☆☆ |
12 | 206.5km | 50.5km | オシー〜ベルシー | 2,700m | ☆☆☆☆ |
11 | 212km | 45km | モンサン=ぺヴェル | 3,000m | ☆☆☆☆☆ |
10 | 215.5km | 41.5km | メリニー〜アヴリン | 700m | ☆☆ |
9 | 220km | 37km | ポン=ティボ〜エンヌヴラン | 1,400m | ☆☆☆ |
8 | 224km | 33km | タンプルーヴ〜レピネット | 200m | ☆ |
8 | 225km | 32km | タンプルーヴ〜ムーラン=ド=ヴェルテン | 500m | ☆☆ |
7 | 232km | 25km | シソワン〜ブルゲル | 1,300m | ☆☆☆ |
6 | 234.5km | 22.5km | ブルゲル〜ワヌアン | 1,100m | ☆☆☆ |
5 | 239.5km | 17.5km | カンファナン=ぺヴェル | 1,800m | ☆☆☆☆ |
4 | 242.5km | 14.5km | カルフール=ド=ラルブル | 2,100m | ☆☆☆☆☆ |
3 | 244km | 13km | グルソン | 1,100m | ☆☆ |
2 | 251km | 6km | ヴィルム〜エム | 1,400m | ☆☆☆ |
1 | 256km | 1km | ルーベ | 300m | ☆ |
絶対的王者不在 サガンの連覇を止めるのはスティバルやGVA、ファンアールト?
2018年のパリ〜ルーベはペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の圧勝に終わった。当時世界チャンピオンのサガンはミラノ〜サンレモ6位、ヘント〜ウェヴェルヘム優勝、ロンド・ファン・フラーンデレン6位、そしてパリ〜ルーベ優勝。そこにアムステルゴールドレース4位という成績を加えて春のクラシックシーズンを終えている。
1年前と比べると2019年は低迷していると言わざるを得ない。春先に体調を崩した影響でコンディションを思うように上げることができず、ミラノ〜サンレモでは4位に入りながらもヘント〜ウェヴェルヘム32位。ロンドを第1集団内の11位で終えた。不調とは言えないが、サガンらしい独創的な走りは影を潜めている。とは言えその持ち前の勝負強さで展開には必ず絡んでくるだろう。
2018年大会で逃げの中で唯一サガンに食らいつき、ルーベのヴェロドロームで敗れて2位に入ったシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼール)は、オリバー・ナーセン(ベルギー)やステイン・ファンデンベルフ(ベルギー)のために働くことになるだろう。もちろんディリエは逃げの中から再び展開を作り出すかもしれない。ミラノ〜サンレモで2位に入ったナーセンはヘント〜ウェヴェルヘム3位、ロンド7位。パリ〜ルーベでの過去最高位は12位だが、気管支炎での低迷から脱したナーセンは優勝候補に名乗りをあげる。
ドゥクーニンク・クイックステップはゼネク・スティバル(チェコ)をエースに据える。シクロクロスで3度世界チャンピオンに輝いているスティバルはパリ〜ルーベで2015年と2017年に2位を経験。ロンドでは終盤に失速したが、現役選手の中で随一の走行テクニックを持つスティバルはそろそろモニュメントの勝利をキャリアに加えたいところ。ロンド2位のカスパー・アスグリーン(デンマーク)やフィリップ・ジルベール(ベルギー)らがスティバルをサポートする。
2017年のグレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。E3優勝、ヘント優勝、ロンド2位、そしてパリ〜ルーベ優勝。2019年はE3で3位に入り、ロンドを10位で終えている。オレンジ色に生まれ変わったチームがサポート力不足と言われる中、GVAはベルギーの期待を背負ってスタートラインにつく。なお、過去116回の開催のうち実に56回がベルギー人選手による勝利に終わっている。
ナーセンやファンアーフェルマートと並んで、ベルギーの大声援を受けるのが元シクロクロス世界チャンピオンのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)。初挑戦した2018年大会で13位に入った24歳は、本格的にロードレースに参戦を開始した2019年にストラーデビアンケ3位、ミラノ〜サンレモ6位、E3で2位。ワンデークラシックに高い適応力を見せるファンアールトが大金星を狙う。
ロンドでアルベルト・ベッティオル(イタリア)を優勝に導いたEFエデュケーションファーストも強力だ。ベッティオルは欠場するが、2013年2位セップ・ファンマルク(ベルギー)や2017年3位セバスティアン・ラングフェルド(オランダ)、2018年8位テイラー・フィニー(アメリカ)という経験者揃い。ロンドの勝利を契機にチームの士気は上がっているはず。
2015年大会の覇者ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、トレック・セガフレード)はジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)とタッグを組む。石畳を走れるスプリンターとして、ヘント〜ウェヴェルヘムを制したアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)やアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)も忘れてはならない存在だ。
他にもルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)やマッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)、ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、バーレーン・メリダ)らが展開に絡んでくるだろう。なお、ニキ・テルプストラ(オランダ、ディレクトエネルジー)はロンドの落車の影響で欠場する。
出場選手の平均身長は185cm、平均体重74.1kg。参考までに、登りで勝負が決するリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは概ね平均身長180cm、平均体重66kg。重量級クラシックレーサーたちがパヴェに挑む。
text:Kei Tsuji
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