2017/11/29(水) - 09:18
2015年のユーロバイクにて発表され、昨夏よりヨーロッパでは販売が開始されていたローター初のフルコンポーネント「UNO」。ブレーキ、シフトともにハイドローリック(油圧)制御システムを採用した、世界初のコンポーネントとして注目が集まる同製品が遂に国内販売を開始する。
ローターの国内代理店ダイアテックのショールームにて行われたメディア発表会
”ペダリングの効率化”を研究開発のテーマに1996年に創業を開始したスペインのパーツブランド、ローター。2000年に発表した仮想クランク長を可変させる「RCK」クランクで業界の注目を集めると、2005年には同社の代表的なプロダクトとなる楕円チェーンリング「Q-RINGS」を開発。同製品を使用したカルロス・サストレ(スペイン)やマリアンヌ・フォス(オランダ)の活躍により、ローターの名は一気に世界中へ知られることとなった。
その後もアルミ削り出しにより軽量高剛性な性能を獲得した「3D」クランクや、クランクシャフト内蔵型パワーメーター「INPOWER」をリリース。今シーズンもUCIワールドチームのディメンションデータにより各製品がプロレースに投入され、その性能を遺憾なく発揮してきた。一貫してクランク、チェーンリングの開発に注力してきた同社だが、次なるステップとして世に送り出す製品がロード用コンポーネント「UNO」である(グローバルローンチの様子はこちら)。
ローターのサポートを受けるディメンションデータ photo:Makoto.AYANO
元世界王者のルイ・コスタ(ポルトガル、現UAEチームエミレーツ)もQ-RINGSを愛用した (c)CorVos
その大きな特徴はブレーキとシフトの両方にハイドローリック(油圧)の制御システムを採用したこと。ワイヤーや電動のシフトシステムに油圧ブレーキの組み合わせは従来から存在していたが、そのどちらにも油圧の機構を用いるコンポーネントは世界初となる製品だ。
2009年に開発を開始し約7年間もの研究、テスト期間を費やしたという同コンポーネント。始めはワイヤーシフトの構想で開発を進めたが、パテント等の問題もあり2013年から油圧シフトの研究にスイッチしたのだという。2015年にプロトタイプが完成すると、その翌年からはディメンションデータや女子チームのサーヴェロ・ビグラの協力を得てトレーニングやレースでの実戦テストを開始。選手からのフィードバックを受け製品のブラッシュアップを進めてきた。
新製品のALDHUクランクを説明するローターのアジア地域マネージャー、ダニエル氏
デモ機も持ち込まれ変速の動きや細部の構造を確認した
UNOの”U”を模したデザインがあしらわれる
インデックス機構やアクチュエーターはディレイラー側に搭載される
また今シーズンはアルベルト・コンタドール(スペイン)が設立した同郷スペインの若手育成チームへUNOをフルサポートし、29名のライダー全員が同コンポーネントを使用したという。これら含めテスト走行は実に60万km以上にも及ぶのだとか。最終的には使用に伴う摩耗パーツの改良といった、より実使用に配慮したフィードバックとアップデートを繰り返すことでその完成度を高めていったという。
UNOの特徴を「エレクトリックシフトのようなスムースで正確な変速と、メカニカルシフトのような確実で機械的な操作感」と説明するのはアジア地域担当マネージャーのダニエル氏。オイルラインを用いることで、ワイヤー式とは異なりケーブルルーティングに左右されない性能を実現するとともに、使用に伴うオイル劣化が極めて少ないとあり、10年単位で交換を必要としないほどメンテナンスフリーに仕上がっているという。
機械的でクールなデザインを追求したというリアディレイラー
円形の本体ボディが特徴的なフロントディレイラー
ケージはカーボン製。プーリーもCNC切削による軽量なものが合わせられる
フロントディレイラーは内側のガイドプレート位置を下げることで同社Q-RINGSの変速に最適化されている
ローターが一貫して行っているメイドインスペインの生産体制はこのUNOでも崩すこと無く、マドリードの自社ファクトリーにて専門の技術者が手作業にて組み立てを行う。ブレーキ系統のみは開発パートナーであるマグラが担当するが、全てヨーロッパ内で完結させることで高い品質を保っているのだ。組み立てる部品は全部で485個もあるといい、1ヶ月にわずか70セットしか生産できないプレミアムな製品となる。
優れた軽量性もUNOの大きな特徴の一つで、市場に流通するディスクブレーキコンポーネントの中では最軽量となるグループセット重量1,655gに仕上がっている(クランクセット除く)。同社が得意とするアルミのCNC切削パーツと、自社生産のカーボンパーツを組み合わせることで大幅なシェイプアップに成功している。
横方向に溝が切られたブラケットカバー
シフトスイッチ端にはドットのパターンが入る
ブレーキサプライヤーはマグラ社。同社の”M”ロゴが入るデザイン
ディスクブレーキはもちろんフラットマウントに対応
各パーツを見ていくと、シフト用とブレーキ用の2つのマスターシリンダーを搭載したレバーはやや大ぶりなブラケット形状を採用。シフトスイッチは1つとされ、軽く押し込むとシフトアップ、奥まで押し込むとシフトダウンというスラムのダブルタップシステムと同様の方式を用いる。ケーブル径はシフトが3mm、ブレーキが5mmとシマノDi2とほぼ変わらない寸法のため、電動対応のフレームならどのバイクにも搭載することが可能だ。
レバー側は油圧を調整する最低限の機構としたのに対し、インデックス機構やアクチュエーターはディレイラー側に搭載され、油圧によって内部の歯車状のパーツを回転させ変速動作に繋げる仕組みに。リアディレイラーはローギア側の、フロントディレイラーはアウター側への動きを調整するのみと、より少ないセッティングで済む設計となっている。またリアディレイラーのボルトによって、一回のシフトアップ操作で変速できる段数を1~4まで調整も可能だ。
ブリーディング作業も実際に行ってくれた。ディレイラー側からオイルを注入していく
グループセットにはブリーディングキットも付属する。マグラのミネラルオイルを使用
重量わずか135gのUNOスプロケットもグループセットに含まれる
チェーンは赤の差し色が入るKMCのX11-SL DLCを採用
ブレーキは市場からも高い評価を受けるマグラ製だけにコントローラブルな制動が特徴。UNOのロゴとともにマグラ社のロゴも入るデザインとなる。販売されるグループセットにはブリーディングキットも付属し、マグラ純正のミネラルオイル「Royal Blood」をディレイラー側から注入していく方式でメンテナンス性も高いものとなっている(各パーツのディテールはこちらのページを参照)。
販売はクランクセットを除くレバー、オイル/ケーブル、フロントディレーラー、リアディレーラー、ブレーキ、スプロケット、チェーンの7つのパーツをまとめたグループセットにて行われ価格は38万円(税抜)。既に最初の国内入荷も完了しているといい、ユーザーへの販売も12月上旬から開始されるという。最後に、本国のカスタマーサービス担当のボリス氏へのインタビューをお届けしよう。
― UNOはなぜ油圧のシフトシステムを採用したのですか
コンポーネントの開発を始めるに当たり、他社とは違う方向性で行こうとまず決めたんだ。電動式もワイヤー式もすでに確立されたシステムとして存在する中で、市場には無いものをと模索した結果がハイドローリックだった。同社としては新たな一歩を踏み出すブレークアウェイとなる製品だ。実に先鋭的だし、何よりローメンテナンスなのは実用的だろう。
「他社と違う方向性を追求しUNOは誕生した」とカスタマーサービス担当のボリス氏
― 開発において難しかった点はなんですか
そもそもローターという会社はそこまで大きくないし、ましてや油圧の知識や経験もなかった。そういった点ではコンポーネント開発に協力してくれる、なおかつ油圧の技術に強い専門家や企業を見つけることが大変だったんだ。複雑な機構を持った製品だけに妥協はできなかった。製品化に至ってかなりの完成度に仕上がったと自負しているよ。
ただブラケットのサイズが大きいという意見は確かにあるね。その点は我々の課題だ。より小さいサイズのブラケットを望む声は特にアジアのディストリビュータから強い。ブラケットパーツを小型化していく開発は続けていくよ。
― どんなライダーに使って欲しいという希望はありますか
各ディレイラーの調整は至ってシンプルなもの 使い方は特に限定せず、コンペティション(競争)からサンデーライドまで幅広く受け入れられる製品になっている。レースで使用してもいいし、友達とのアドベンチャーライドにもマッチするはず。ローメンテナンスという点はどのライダーにとっても喜ばれるのでは。
現在はコンタドールの育成チームが使っているし、来季は女子のコンチネンタルチームにも供給予定だ。将来的にはプロレースのプロトンでUNOが見られることを期待しているよ。
report:Yuto.Murata
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その後もアルミ削り出しにより軽量高剛性な性能を獲得した「3D」クランクや、クランクシャフト内蔵型パワーメーター「INPOWER」をリリース。今シーズンもUCIワールドチームのディメンションデータにより各製品がプロレースに投入され、その性能を遺憾なく発揮してきた。一貫してクランク、チェーンリングの開発に注力してきた同社だが、次なるステップとして世に送り出す製品がロード用コンポーネント「UNO」である(グローバルローンチの様子はこちら)。
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2009年に開発を開始し約7年間もの研究、テスト期間を費やしたという同コンポーネント。始めはワイヤーシフトの構想で開発を進めたが、パテント等の問題もあり2013年から油圧シフトの研究にスイッチしたのだという。2015年にプロトタイプが完成すると、その翌年からはディメンションデータや女子チームのサーヴェロ・ビグラの協力を得てトレーニングやレースでの実戦テストを開始。選手からのフィードバックを受け製品のブラッシュアップを進めてきた。
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UNOの特徴を「エレクトリックシフトのようなスムースで正確な変速と、メカニカルシフトのような確実で機械的な操作感」と説明するのはアジア地域担当マネージャーのダニエル氏。オイルラインを用いることで、ワイヤー式とは異なりケーブルルーティングに左右されない性能を実現するとともに、使用に伴うオイル劣化が極めて少ないとあり、10年単位で交換を必要としないほどメンテナンスフリーに仕上がっているという。
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優れた軽量性もUNOの大きな特徴の一つで、市場に流通するディスクブレーキコンポーネントの中では最軽量となるグループセット重量1,655gに仕上がっている(クランクセット除く)。同社が得意とするアルミのCNC切削パーツと、自社生産のカーボンパーツを組み合わせることで大幅なシェイプアップに成功している。
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レバー側は油圧を調整する最低限の機構としたのに対し、インデックス機構やアクチュエーターはディレイラー側に搭載され、油圧によって内部の歯車状のパーツを回転させ変速動作に繋げる仕組みに。リアディレイラーはローギア側の、フロントディレイラーはアウター側への動きを調整するのみと、より少ないセッティングで済む設計となっている。またリアディレイラーのボルトによって、一回のシフトアップ操作で変速できる段数を1~4まで調整も可能だ。
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販売はクランクセットを除くレバー、オイル/ケーブル、フロントディレーラー、リアディレーラー、ブレーキ、スプロケット、チェーンの7つのパーツをまとめたグループセットにて行われ価格は38万円(税抜)。既に最初の国内入荷も完了しているといい、ユーザーへの販売も12月上旬から開始されるという。最後に、本国のカスタマーサービス担当のボリス氏へのインタビューをお届けしよう。
― UNOはなぜ油圧のシフトシステムを採用したのですか
コンポーネントの開発を始めるに当たり、他社とは違う方向性で行こうとまず決めたんだ。電動式もワイヤー式もすでに確立されたシステムとして存在する中で、市場には無いものをと模索した結果がハイドローリックだった。同社としては新たな一歩を踏み出すブレークアウェイとなる製品だ。実に先鋭的だし、何よりローメンテナンスなのは実用的だろう。
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ただブラケットのサイズが大きいという意見は確かにあるね。その点は我々の課題だ。より小さいサイズのブラケットを望む声は特にアジアのディストリビュータから強い。ブラケットパーツを小型化していく開発は続けていくよ。
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現在はコンタドールの育成チームが使っているし、来季は女子のコンチネンタルチームにも供給予定だ。将来的にはプロレースのプロトンでUNOが見られることを期待しているよ。
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