2017/09/17(日) - 08:58
9月17日、ノルウェー西部のベルゲンでUCIロード世界選手権が開幕する。チームタイムトライアルを皮切りに4日間にわたって行われる各カテゴリーのタイムトライアルのコースと注目選手をチェックしておこう。
ノルウェー第二の都市ベルゲンで開催 雨が降れば荒れたレースになる可能性も
24年ぶりにノルウェーで開催されるロード世界選手権。前回の1993年大会は首都オスロで開催され、ツール・ド・フランス3連覇を果たしたばかりのミゲル・インデュライン(スペイン)を下した21歳のランス・アームストロング(アメリカ)が初めてロードレースの世界チャンピオンに輝いている。
2017年大会の舞台となるのは、スカンジナビア半島西部、ヴェストラン地方ホルダラン県のベルゲン。都市圏の人口40万人弱のベルゲンノルウェーの中では首都オスロに次ぐ第二の都市。北海に面しており、入り組んだフィヨルドや湾を利用した養殖業や海運業のほか、海底油田の基地として発展してきた。同時にノルウェー屈指の観光都市であり、フィヨルド観光の玄関口としての役割も担っている。
最高気温が40度を超える暑さに見舞われた2016年のカタール大会とは打って変わって、2017年のベルゲン大会は寒さと雨がレースを左右することになるだろう。期間中の気温は概ね最高15度で最低9度ほど。北緯60度に位置しながら温暖な海流がもたらす海洋性気候によって、ベーリング海と同等の高い緯度の割に極寒ではない。しかしその海流が豊富な降水量をもたらしており、9月から10月にかけては1年で最も雨が降る季節とされる。年間降水量2,300mmのうち9月の平均月間降水量は260mm。1ヶ月のうち20日前後が雨という統計もあるが、9月17日から24日までの期間中は比較的雨が少ないという予報が出ている。
また、世界選手権の期間中にUCI(国際自転車競技連盟)の会長選挙も実施。現職のブライアン・クックソン氏(イギリス)に同副会長のダヴィ・ラパルティアン(フランス)が挑む形となる会長選は9月21日に行われる予定だ。
世界最速チームを決めるチームタイムトライアル
8日間の大会はUCIチームによるチームタイムトライアルで幕開ける。世界選手権はいわゆる国対抗戦で、どの選手もナショナルジャージを着て出場するのが通例だが、チームタイムトライアルに限ってはチーム戦であり、通常のチームジャージを着て走る。アルカンシェルが設定されていない代わりに、出場選手とチームマネージャーにはメダルが贈られ、優勝チームは世界チャンピオンを示すロゴを1年間チームジャージに配することが出来る。
エリート男子とエリート女子のコースは共通で、北海に浮かぶアスコイ島のラウナンゲルをスタートし、海峡を渡る橋やトンネルを通ってベルゲンを目指す42.5km。周回コースではなく、曲がりくねり、細かいアップダウンをこなすコースは近年稀に見る難易度との前評判だ。30km地点にはビルケルンズバッケン(長さ1.4km/平均勾配7.2%)の登りも登場する。スタートを切るのは1チーム6人。どのチームもタイム計測対象となる4人ぎりぎりの状態でベルゲンにたどり着くことになるだろう。
2012年にチームタイムトライアルが復活してからの5年間、最速チームの称号はクイックステップフロアーズとBMCレーシングの2チームだけが手にしてきた。2012年から2年連続でオメガファーマ・クイックステップが優勝し、2014年から2年連続でBMCレーシングが優勝。2016年にエティックス・クイックステップがタイトルを取り返している。
2017年もこの2チームが金メダル候補に挙げられることは間違いない。ここに上位の常連オリカ・スコットやチームスカイ、サンウェブ、ロットNLユンボが絡んでくるだろう。特にブエルタ・ア・エスパーニャを制したばかりのクリストファー・フルーム(イギリス)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ゲラント・トーマス(イギリス)らを揃えるチームスカイを優勝候補の筆頭にあげる声は強い。
サンウェブはジロ・デ・イタリア覇者トム・デュムラン(オランダ)がリードする。ツアー・オブ・ブリテンの個人TTで上位にラルス・ボーム(オランダ)をはじめ何名も選手を送り込んだロットNLユンボも有力。なお、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はカナダからヨーロッパに戻る際に体調を崩し、日曜日のロードレースに集中するためチームタイムトライアルをパスする。
女子は長年ヴェロシオ・スラムが最速を誇っていたが、2016年にブールス・ドルマンスが初めてタイトルを獲得した。2017年はブールス・ドルマンスとキャニオン・スラム、オリカ・スコット、サンウェブが優勝候補だ。
登りフィニッシュが設定されたエリート男子TT
個人タイムトライアルの舞台となるのはベルゲンの市街地コース。大小2つの周回コースが用意されており、ジュニア女子は16.1kmの小周回を1周。U23男子は16.1kmの小周回とビルケルンズバッケン(長さ1.4km/平均勾配7.2%)が組み込まれた21.1kmの大周回をこなす。ジュニア男子とエリート女子は21.1kmの大周回で行われる。いずれのコースも街中の荒い石畳区間を含んでいる。
変則的なのはエリート男子で、平坦基調の16.1km小周回を1周と3/4こなした後、史上初めて設けられた「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」を通過してマウント・フロイエンの登坂をスタートさせる。ベルゲンの街を見下ろすこの標高316mの山に向かうこの登りは長さ3.4kmで平均勾配が9.1%に達する代物。登りの前半には石畳区間や11カ所の連続スイッチバックが登場し、10%オーバーの急勾配をこなしてフィニッシュを迎える。
平坦基調の周回コースとは対象的な3.4kmの急坂。そのため多くの選手が「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」でTTバイクからノーマルバイクに乗り換えると見られる。登りはフォトグラファーの立ち入りも禁止されるほど狭小で、チームカーの走行も禁止。そのためメカニックたちは「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」でチームカーの後部座席からモーターバイクの後部座席に乗り換え、スペアバイクを特製キャリアに搭載して選手の後ろを走ることになる。
平坦独走力だけでなく純粋な登坂力も問われる特殊な難コース。ディフェンディングチャンピオンのトニー・マルティン(ドイツ)やヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)に代表される大柄なTTスペシャリストたちではなく、フルームやデュムランといったグランツールレーサーに大きなチャンスがあると言っていいだろう。
他にも有力候補としてプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)やヨス・ファンエムデン(オランダ)、ローハン・デニス(オーストラリア)、シュテファン・キュング(スイス)、マチェイ・ボドナル(ポーランド)、ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)らの名前が挙がる。バイク交換を含めてどのように戦略を立てて走るかに注目したい。
日本からエリート男子タイムトライアルへのエントリーは無し。2013年27位、2014年14位、2015年18位、2016年21位という成績を残している與那嶺恵理と梶原悠未が出場するエリート女子は42歳のアンバー・ネーベン(アメリカ)が連覇を狙う。同じアメリカの20歳クロエ・ダイガートはトラック世界選手権の団体追い抜きと個人追い抜きで二冠を達成。初めて挑むエリート女子レースでの走りに注目が集まる。今季絶好調のアネミエク・ファンフルーテンやエレン・ファンダイクを揃えるオランダは強力。これまで6回優勝しているアメリカに次いで4回優勝のTT強豪国ドイツはリサ・ブレナウアーとトリキシ・ヴォラックを揃える。
日本からは他にも小野寺玲と岡篤志がU23男子、松田祥位と小野寺慶がジュニア男子、下山美寿々がジュニア女子に出場。合計7名がベルゲンの街中コースに挑む。
ノルウェー第二の都市ベルゲンで開催 雨が降れば荒れたレースになる可能性も
24年ぶりにノルウェーで開催されるロード世界選手権。前回の1993年大会は首都オスロで開催され、ツール・ド・フランス3連覇を果たしたばかりのミゲル・インデュライン(スペイン)を下した21歳のランス・アームストロング(アメリカ)が初めてロードレースの世界チャンピオンに輝いている。
2017年大会の舞台となるのは、スカンジナビア半島西部、ヴェストラン地方ホルダラン県のベルゲン。都市圏の人口40万人弱のベルゲンノルウェーの中では首都オスロに次ぐ第二の都市。北海に面しており、入り組んだフィヨルドや湾を利用した養殖業や海運業のほか、海底油田の基地として発展してきた。同時にノルウェー屈指の観光都市であり、フィヨルド観光の玄関口としての役割も担っている。
最高気温が40度を超える暑さに見舞われた2016年のカタール大会とは打って変わって、2017年のベルゲン大会は寒さと雨がレースを左右することになるだろう。期間中の気温は概ね最高15度で最低9度ほど。北緯60度に位置しながら温暖な海流がもたらす海洋性気候によって、ベーリング海と同等の高い緯度の割に極寒ではない。しかしその海流が豊富な降水量をもたらしており、9月から10月にかけては1年で最も雨が降る季節とされる。年間降水量2,300mmのうち9月の平均月間降水量は260mm。1ヶ月のうち20日前後が雨という統計もあるが、9月17日から24日までの期間中は比較的雨が少ないという予報が出ている。
また、世界選手権の期間中にUCI(国際自転車競技連盟)の会長選挙も実施。現職のブライアン・クックソン氏(イギリス)に同副会長のダヴィ・ラパルティアン(フランス)が挑む形となる会長選は9月21日に行われる予定だ。
世界最速チームを決めるチームタイムトライアル
8日間の大会はUCIチームによるチームタイムトライアルで幕開ける。世界選手権はいわゆる国対抗戦で、どの選手もナショナルジャージを着て出場するのが通例だが、チームタイムトライアルに限ってはチーム戦であり、通常のチームジャージを着て走る。アルカンシェルが設定されていない代わりに、出場選手とチームマネージャーにはメダルが贈られ、優勝チームは世界チャンピオンを示すロゴを1年間チームジャージに配することが出来る。
エリート男子とエリート女子のコースは共通で、北海に浮かぶアスコイ島のラウナンゲルをスタートし、海峡を渡る橋やトンネルを通ってベルゲンを目指す42.5km。周回コースではなく、曲がりくねり、細かいアップダウンをこなすコースは近年稀に見る難易度との前評判だ。30km地点にはビルケルンズバッケン(長さ1.4km/平均勾配7.2%)の登りも登場する。スタートを切るのは1チーム6人。どのチームもタイム計測対象となる4人ぎりぎりの状態でベルゲンにたどり着くことになるだろう。
2012年にチームタイムトライアルが復活してからの5年間、最速チームの称号はクイックステップフロアーズとBMCレーシングの2チームだけが手にしてきた。2012年から2年連続でオメガファーマ・クイックステップが優勝し、2014年から2年連続でBMCレーシングが優勝。2016年にエティックス・クイックステップがタイトルを取り返している。
2017年もこの2チームが金メダル候補に挙げられることは間違いない。ここに上位の常連オリカ・スコットやチームスカイ、サンウェブ、ロットNLユンボが絡んでくるだろう。特にブエルタ・ア・エスパーニャを制したばかりのクリストファー・フルーム(イギリス)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ゲラント・トーマス(イギリス)らを揃えるチームスカイを優勝候補の筆頭にあげる声は強い。
サンウェブはジロ・デ・イタリア覇者トム・デュムラン(オランダ)がリードする。ツアー・オブ・ブリテンの個人TTで上位にラルス・ボーム(オランダ)をはじめ何名も選手を送り込んだロットNLユンボも有力。なお、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はカナダからヨーロッパに戻る際に体調を崩し、日曜日のロードレースに集中するためチームタイムトライアルをパスする。
女子は長年ヴェロシオ・スラムが最速を誇っていたが、2016年にブールス・ドルマンスが初めてタイトルを獲得した。2017年はブールス・ドルマンスとキャニオン・スラム、オリカ・スコット、サンウェブが優勝候補だ。
登りフィニッシュが設定されたエリート男子TT
個人タイムトライアルの舞台となるのはベルゲンの市街地コース。大小2つの周回コースが用意されており、ジュニア女子は16.1kmの小周回を1周。U23男子は16.1kmの小周回とビルケルンズバッケン(長さ1.4km/平均勾配7.2%)が組み込まれた21.1kmの大周回をこなす。ジュニア男子とエリート女子は21.1kmの大周回で行われる。いずれのコースも街中の荒い石畳区間を含んでいる。
変則的なのはエリート男子で、平坦基調の16.1km小周回を1周と3/4こなした後、史上初めて設けられた「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」を通過してマウント・フロイエンの登坂をスタートさせる。ベルゲンの街を見下ろすこの標高316mの山に向かうこの登りは長さ3.4kmで平均勾配が9.1%に達する代物。登りの前半には石畳区間や11カ所の連続スイッチバックが登場し、10%オーバーの急勾配をこなしてフィニッシュを迎える。
平坦基調の周回コースとは対象的な3.4kmの急坂。そのため多くの選手が「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」でTTバイクからノーマルバイクに乗り換えると見られる。登りはフォトグラファーの立ち入りも禁止されるほど狭小で、チームカーの走行も禁止。そのためメカニックたちは「バイシクル・エクスジェンジ・ゾーン」でチームカーの後部座席からモーターバイクの後部座席に乗り換え、スペアバイクを特製キャリアに搭載して選手の後ろを走ることになる。
平坦独走力だけでなく純粋な登坂力も問われる特殊な難コース。ディフェンディングチャンピオンのトニー・マルティン(ドイツ)やヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)に代表される大柄なTTスペシャリストたちではなく、フルームやデュムランといったグランツールレーサーに大きなチャンスがあると言っていいだろう。
他にも有力候補としてプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)やヨス・ファンエムデン(オランダ)、ローハン・デニス(オーストラリア)、シュテファン・キュング(スイス)、マチェイ・ボドナル(ポーランド)、ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)らの名前が挙がる。バイク交換を含めてどのように戦略を立てて走るかに注目したい。
日本からエリート男子タイムトライアルへのエントリーは無し。2013年27位、2014年14位、2015年18位、2016年21位という成績を残している與那嶺恵理と梶原悠未が出場するエリート女子は42歳のアンバー・ネーベン(アメリカ)が連覇を狙う。同じアメリカの20歳クロエ・ダイガートはトラック世界選手権の団体追い抜きと個人追い抜きで二冠を達成。初めて挑むエリート女子レースでの走りに注目が集まる。今季絶好調のアネミエク・ファンフルーテンやエレン・ファンダイクを揃えるオランダは強力。これまで6回優勝しているアメリカに次いで4回優勝のTT強豪国ドイツはリサ・ブレナウアーとトリキシ・ヴォラックを揃える。
日本からは他にも小野寺玲と岡篤志がU23男子、松田祥位と小野寺慶がジュニア男子、下山美寿々がジュニア女子に出場。合計7名がベルゲンの街中コースに挑む。
ロード世界選手権2017スケジュール
月日 | 時間 | 種目 | 距離 | 日本人選手 |
---|---|---|---|---|
9月17日(日) | 12:05〜13:55 | UCI女子チームTT | 42.5km | |
15:35〜17:25 | UCI男子チームTT | 42.5km | ||
9月18日(月) | 10:35〜11:50 | ジュニア女子TT | 16.1km | 下山 |
13:05〜17:35 | U23男子TT | 37.2km | 小野寺、岡 | |
9月19日(火) | 11:35〜13:30 | ジュニア男子TT | 21.1km | 松田、小野寺 |
15:55〜17:15 | エリート女子TT | 21.1km | 與那嶺、梶原 | |
9月20日(水) | 13:05〜17:45 | エリート男子TT | 31.0km | |
9月21日(木) | トレーニング | |||
9月22日(金) | 10:05〜12:15 | ジュニア女子ロード | 76.4km | 下山 |
13:15〜17:35 | U23男子ロード | 191.0km | 小野寺、岡本、雨澤、岡、山本 | |
9月23日(土) | 09:30〜12:45 | ジュニア男子ロード | 133.8km | 松田、小野寺、蠣崎 |
13:30〜17:15 | エリート女子ロード | 152.8km | 與那嶺、梶原 | |
9月24日(日) | 10:05〜16:50 | エリート男子ロード | 267.5km | 新城 |
text&photo:Kei Tsuji in Bergen, Norway
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