2016/06/29(水) - 16:42
「魔の山」モンヴァントゥーやジュラ山脈を越えてスイスに入国。厳しい峠道が続くアルプス山脈でマイヨジョーヌ争いはクライマックスを迎える。最終日パリに至る後半ステージのコースを紹介します。
7月13日(水)第11ステージ → コースマップ
カルカッソンヌ〜モンペリエ 162.5km
この日のキーワードは風。ピレネー山脈からジュラ&アルプス山脈に向かういわゆる繋ぎステージだが、この地域では過去に集団が分裂して総合順位が変動するような波乱が起こっている。プロヴァンスに乾燥した気候をもたらす北風 「ミストラル」が強く吹けば、コースプロフィールを見ただけでは分からない過酷なレースになる。エースのポジションを確実にキープするため、もしくは奇襲を仕掛けるため、総合系チームはボディーガードのような重厚なルーラーをメンバー入りさせている。
風による波乱も起こらず順当に進めば(おそらくその場合は南フランスらしい暑さに苦しめられるが)、レースの締めくくりは大集合スプリントになるだろう。大会ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏の言葉を借りると、32回目の登場となるモンペリエは「スプリントの首都」。2011年にはカヴェンディッシュが、2013年にはグライペルがスプリント勝利を飾っている。終盤は道幅のある幹線道路が続き、残り1kmからアルトラッド・スタジアム前のフィニッシュラインまではほぼ一直線だ。
7月14日(木)第12ステージ → コースマップ
モンペリエ~モンヴァントゥー 185km
「プロヴァンスの巨人」または「魔の山」と呼ばれ恐れられる超級山岳モンヴァントゥー(15.7km/平均8.8%)の山頂フィニッシュが登場する。モンペリエをスタートする前半区間は平坦だが、前日同様「ミストラル」に注意が必要だ。スプリントポイントと補給ポイントを過ぎ、4級山岳と3級山岳を越えると、いよいよプロヴァンスを見下ろす荒涼とした禿山モンヴァントゥーがその姿を見せる。
15.7kmにわたる登坂の平均勾配は8.8%。その登りは前半と後半でキャラクターが異なる。森の中を抜ける前半10kmは実質的な勾配が10%に近く、すぐさま集団のサイズは縮小するだろう。後半6kmは勾配が少し緩むものの、白い石灰岩に覆われた独特の風景が選手たちの目に飛び込んでくる。荒涼とした沿道に風を遮るものなんて存在しない。大抵の場合は選手たちの進行方向から強い風が吹き付ける。向かい風を嫌って牽制する集団の中から、頂上の天文観測タワーに向かって力ある選手がアタックを仕掛ける。モンヴァントゥーがツールのフィニッシュを迎えるのは10回目。フランス革命記念日だけに地元フランス勢のモチヴェーションは極めて高いはずだ。
7月15日(金)第13ステージ → コースマップ
ブール・サン・タンデオル~カヴァルヌ・ドゥ・ポンダルク 37.5km(個人TT)
マイヨジョーヌ争いは一つの大きな局面を迎える。モンヴァントゥーの翌日に、ピュアクライマーにとって最大の難所である37.5kmの個人タイムトライアルが登場する。逆に言えば、TTを得意とするオールラウンダーがリードを広げるチャンスがやってきた。
ローヌ川の畔に位置するブール・サン・タンデオルをスタート後、まずは7km地点まで平均勾配4.9%の登りをこなす。第1計測ポイントを過ぎると直線的な平坦路が約15kmにわたって続き、そこからアルデッシュ川が作り出した峡谷まで鋭く下る。このテクニカルな下りと、キャラバン車両の通行が規制されるほど細く曲がりくねったアルデッシュ峡谷の秘境ルートを抜けると、あとはフィニッシュまでの3.3km/平均勾配4.9%を登るのみ。主催者は優勝タイムを50分前後(平均45km/h前後)と予想しており、秒差ではなく簡単に分差がついてしまう。総合上位の面子がガラリと変わることも考えられる。
7月16日(土)第14ステージ → コースマップ
モンテリマール~ヴィラール・レ・ドンブ・パルク・デ・オワゾー 208.5km
中央山塊とアルプス山脈を分かつローヌ川と平行してプロトンは北上する。200km超えステージに登場するカテゴリー山岳は4級山岳が3つ。川沿いではなくローヌ渓谷東側の丘を繋いでいくため絶えず細かいアップダウンが登場するが、集団を分裂させてしまうような大きな登りは存在しない。この日の主役は山岳ステージを乗り越えてきたスプリンターたちだ。
フランス第2の都市リヨンの街をかすめると、その先には池や沼が多数存在する平野が広がっている。終盤はスプリンターチームが隊列を組み、道幅のある幹線道路をハイスピードで突進する。野鳥公園の入り口に位置するフィニッシュ地点はツール初登場(ドーフィネには登場済み)。今回惜しくも出場を逃したが、別府史之(トレック・セガフレード)の自宅にほど近い平坦路でレースはフィナーレを迎える。ツール閉幕まで1週間を残し、マイヨヴェール候補も絞り込まれているはずだ。
7月17日(日)第15ステージ → コースマップ
ブール・ガン・ブレス~キュロズ 160km
ツールの山場は何もピレネー山脈とアルプス山脈だけではない。第15ステージはジュラ山脈を横断する。160kmコースには6つのカテゴリー山岳の他にも細かい起伏が詰め込まれており、まさに登りと下りしかない。すでに総合で順位を落とした選手たちによる逃げ切りが決まりやすいステージでもあり、序盤の1級山岳コル・デュ・ベルティアン(6km/平均8.1%)では逃げに乗るための激しいアタック合戦が繰り広げられるだろう。
100km地点を過ぎると、この日最大の難所である超級山岳グランコロンビエ(12.8km/平均6.8%)の登坂が始まる。中盤にかけて最大勾配が15%に達するこの標高1,501mの超級山岳を越えると、16kmかけて高低差1,200mを一気にダウンヒル。一旦キュロズのフィニッシュラインを通過し、今度はグランコロンビエを南から登り始める。最大勾配14%の九十九折りをこなし、頂上まで行かずに標高891mの1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエ(8.4km/平均7.6%)で右に折れ、約40分前に通過したダウンヒルに合流する。登りと下りの組み合わせは破壊力抜群。しかしダウンヒルスペシャリストが栄光を掴むためにはフィニッシュ手前の7km平坦路を独走しなければならない。
7月18日(月)第16ステージ → コースマップ
モワラン・アン・モンターニュ~ベルン(スイス) 209km
ジュラ山脈の山あいの町モワラン・アン・モンターニュからスイスのベルンに向かう209kmコースは一見フラット。カテゴリー山岳も1つしか登場しない。しかし実際にはいくら精細なコースプロフィールでは描ききれないような細かいアップダウンが連続している。しかも残り2.5kmから7%ほどの石畳の登りが続くため、スプリンターチームはレースコントロールを放棄するかもしれない。かと言って総合争いが動くような難易度ではないため、逃げ屋がチャンスを掴むことも考えられる。
翌日の休息日の中心地でもあるベルンは、これまでマイヨジョーヌを29日間着用(総合優勝経験者を除くと最多記録)し、今シーズン限りでの引退を表明しているファビアン・カンチェラーラ(スイス)の生まれ故郷&現在の居住地。フィニッシュ手前に組み込まれた石畳の登りは、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ〜ルーベを得意とするローカルライダーへのささやかなプレゼントなのかもしれない。
7月19日(火)休息日
7月20日(水)第17ステージ → コースマップ
ベルン(スイス)〜フィノー・エモッソン(スイス) 184.5km
勝負の最終週が始まった。残る5ステージは(最終日パリを除いて)1日たりとも気が抜けない。アルプス初日の第17ステージはスイス国内を走る184.5km。ドイツ語圏ベルンから山岳地帯を抜けてフランス語圏へ。レース中盤の3級山岳コル・デ・モセスを下りきったところで登場するエーグルはUCI(国際自転車競技連盟)の本拠地が置かれた街だ。
氷河が削り出したV字型の渓谷を抜け、マルティニーの街中に敷かれた中間スプリントを通過するとまずは1級山岳コル・ド・フォルクラ(13km/平均7.9%)にアタック。延々と8%前後の勾配を刻む峠をクリアすると、短い下り区間を挟んで、ようやくこの日のメインディッシュ超級山岳フィノー・エモッソン(10.4km/平均8.4%)にありつく。2014年ドーフィネで初お目見えした正式名称コル・ド・ラ・グラーズは、頂上に向かうにつれて勾配が増すのが特徴で、残り800mの平均勾配は12.3%に達する。雄々しい山々を仰ぎ見るこのツール初登場の登りでマイヨジョーヌをかけた頂上決戦が繰り広げられる。
7月21日(木)第18ステージ → コースマップ
サランシュ~メジェーヴ 17km(個人TT)
ジロでは毎年のように登場する山岳タイムトライアルが、12年ぶりにツールに設定された(前回は2004年のラルプデュエズ)。サランシュからメジェーヴまで17kmかけて高低差659mを登る。ただひたすら登りっぱなしというコースではなく、機材選びやペース配分がタイムに大きく響きそうだ。
スタートから4kmにわたって平坦路が続くため、多くの選手が軽量なノーマルバイクにアタッチメントバーを装着すると予想される。勾配のあるコート・ド・ドマンシー(2.5km/平均9.4%)まで一気に駆け上がり、5%ほどの緩斜面を経て標高1,219mのコート・ド・ショゾー(3.1km/平均5.4%)でコースはピークを迎える。約2kmのダウンヒルの先に待つのはツール初登場のフィニッシュ地点メジェーヴ。この30分強のヒルクライムによって総合上位陣のタイム差はさらに開くことになるだろう。
7月22日(金)第19ステージ → コースマップ
アルベールヴィル~サン・ジェルヴェ・モンブラン 146km
1992年冬季五輪の舞台アルベールヴィルを発った一行は、アルプスの峠道で濃密な4時間を過ごす。スプリンターたちは25.5km地点のスプリントポイント通過後にグルペットを形成し、タイムカットを気にしながらフィニッシュまで走りきる。146kmのショートコースに組み込まれたカテゴリー山岳は4つ。前半から1級山岳フォルクラ・ド・モンマン(9.8km/平均6.9%)、2級山岳フォルクラ・ケージュ(5.6km/平均8.2%)、超級山岳モンテ・ド・ビザンヌ(12.4km/平均8.2%)を連続してクリアする。残り50km地点でピークを迎える超級山岳モンテ・ド・ビザンヌは後半にかけて10%近い勾配が続く急峻な登り。総合逆転の野望をもった選手たちはフィニッシュまで距離を残して動いてくるだろう。
前日のフィニッシュ地点(そして翌日のスタート地点)メジェーヴを通過後、最後に待ち構えるのが1級山岳ル・ベテ(9.8km/平均8%)だ。麓から13%近い急勾配区間が続くこの登りがツールに登場するのは26年ぶり。2015年ドーフィネに登場した際にはクリス・フルーム(イギリス)がステージ優勝を飾っている。この大会最後の山頂フィニッシュで今一度総合順位にシャッフルがかかる。
7月23日(土)第20ステージ → コースマップ
メジェーヴ~モルジヌ 146.5km
例年よりも山岳の比重が高いと言われるマイヨジョーヌ争奪戦の締めくくりは、山頂フィニッシュでも個人タイムトライアルでもなく、超級山岳のダウンヒルフィニッシュだ。前日同様に短くて内容の濃い146.5kmコースが第103代ツール総合優勝者を選び出す。同時に山岳賞を決めるステージでもあり、マイヨアポワ着用者が前半の2級山岳コル・デ・アラヴィ(6.7km/平均7%)と1級山岳コル・ド・ラ・コロンビエール(11.7km/平均5.8%)で積極的に動くだろう。
フィニッシュまで70kmを切ると1級山岳コル・ド・ラ・ラマ(13.9km/平均7.1%)の登坂がスタート。テクニカルなダウンヒルと渓谷沿いの短い平坦路を経て超級山岳コル・ド・ジュー・プラーヌ(11.6km/平均8.5%)に挑む。10%近い勾配を刻む峠をクリアすると、約4kmの平坦区間を挟んで、フィニッシュまで9kmのダウンヒルが始まる。細くて急勾配の下りで要求されるのはパワーウェイトレシオではなくダウンヒルテクニック。最後の最後まで緊張感に満ちた総合争いが繰り広げられるだろう。ツール歓迎20回目のモルジヌでマイヨジョーヌを受け取った選手が、翌日パリに凱旋する。
7月24日(日)第21ステージ → コースマップ
シャンティイ~パリ・シャンゼリゼ 113km
モルジヌからパリまで650km大移動。選手たちはシャンベリー空港からチャーター機でパリ・シャルルドゴール空港に向かうが、チームスタッフや大会関係者はもちろん自走だ。移動完了に6〜7時間程度かかるため、最終ステージのスタート時間はかなり遅めの16時05分。フィニッシュ時間は19時15分前後が予定されているが、当日パリの日の入り時間は21時39分なので表彰式の最中もまだ明るい。
郊外のシャンティイからゆったりと、3週間の健闘を称え合いながら、マイヨジョーヌがチームメイトとシャンパンで乾杯しながら、完走者たちはパリを目指す。セーヌ川沿いを走ってルーヴル美術館のピラミッド前を通過するといよいよマイヨジョーヌの凱旋がスタート。凱旋門の周回道路を含む7km周回コースを8周。今年もシャンゼリゼ通りでスプリンターたちが最後のバトルを繰り広げる。
text:Kei Tsuji in Saint-Lo, France
7月13日(水)第11ステージ → コースマップ
カルカッソンヌ〜モンペリエ 162.5km
この日のキーワードは風。ピレネー山脈からジュラ&アルプス山脈に向かういわゆる繋ぎステージだが、この地域では過去に集団が分裂して総合順位が変動するような波乱が起こっている。プロヴァンスに乾燥した気候をもたらす北風 「ミストラル」が強く吹けば、コースプロフィールを見ただけでは分からない過酷なレースになる。エースのポジションを確実にキープするため、もしくは奇襲を仕掛けるため、総合系チームはボディーガードのような重厚なルーラーをメンバー入りさせている。
風による波乱も起こらず順当に進めば(おそらくその場合は南フランスらしい暑さに苦しめられるが)、レースの締めくくりは大集合スプリントになるだろう。大会ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏の言葉を借りると、32回目の登場となるモンペリエは「スプリントの首都」。2011年にはカヴェンディッシュが、2013年にはグライペルがスプリント勝利を飾っている。終盤は道幅のある幹線道路が続き、残り1kmからアルトラッド・スタジアム前のフィニッシュラインまではほぼ一直線だ。
7月14日(木)第12ステージ → コースマップ
モンペリエ~モンヴァントゥー 185km
「プロヴァンスの巨人」または「魔の山」と呼ばれ恐れられる超級山岳モンヴァントゥー(15.7km/平均8.8%)の山頂フィニッシュが登場する。モンペリエをスタートする前半区間は平坦だが、前日同様「ミストラル」に注意が必要だ。スプリントポイントと補給ポイントを過ぎ、4級山岳と3級山岳を越えると、いよいよプロヴァンスを見下ろす荒涼とした禿山モンヴァントゥーがその姿を見せる。
15.7kmにわたる登坂の平均勾配は8.8%。その登りは前半と後半でキャラクターが異なる。森の中を抜ける前半10kmは実質的な勾配が10%に近く、すぐさま集団のサイズは縮小するだろう。後半6kmは勾配が少し緩むものの、白い石灰岩に覆われた独特の風景が選手たちの目に飛び込んでくる。荒涼とした沿道に風を遮るものなんて存在しない。大抵の場合は選手たちの進行方向から強い風が吹き付ける。向かい風を嫌って牽制する集団の中から、頂上の天文観測タワーに向かって力ある選手がアタックを仕掛ける。モンヴァントゥーがツールのフィニッシュを迎えるのは10回目。フランス革命記念日だけに地元フランス勢のモチヴェーションは極めて高いはずだ。
7月15日(金)第13ステージ → コースマップ
ブール・サン・タンデオル~カヴァルヌ・ドゥ・ポンダルク 37.5km(個人TT)
マイヨジョーヌ争いは一つの大きな局面を迎える。モンヴァントゥーの翌日に、ピュアクライマーにとって最大の難所である37.5kmの個人タイムトライアルが登場する。逆に言えば、TTを得意とするオールラウンダーがリードを広げるチャンスがやってきた。
ローヌ川の畔に位置するブール・サン・タンデオルをスタート後、まずは7km地点まで平均勾配4.9%の登りをこなす。第1計測ポイントを過ぎると直線的な平坦路が約15kmにわたって続き、そこからアルデッシュ川が作り出した峡谷まで鋭く下る。このテクニカルな下りと、キャラバン車両の通行が規制されるほど細く曲がりくねったアルデッシュ峡谷の秘境ルートを抜けると、あとはフィニッシュまでの3.3km/平均勾配4.9%を登るのみ。主催者は優勝タイムを50分前後(平均45km/h前後)と予想しており、秒差ではなく簡単に分差がついてしまう。総合上位の面子がガラリと変わることも考えられる。
7月16日(土)第14ステージ → コースマップ
モンテリマール~ヴィラール・レ・ドンブ・パルク・デ・オワゾー 208.5km
中央山塊とアルプス山脈を分かつローヌ川と平行してプロトンは北上する。200km超えステージに登場するカテゴリー山岳は4級山岳が3つ。川沿いではなくローヌ渓谷東側の丘を繋いでいくため絶えず細かいアップダウンが登場するが、集団を分裂させてしまうような大きな登りは存在しない。この日の主役は山岳ステージを乗り越えてきたスプリンターたちだ。
フランス第2の都市リヨンの街をかすめると、その先には池や沼が多数存在する平野が広がっている。終盤はスプリンターチームが隊列を組み、道幅のある幹線道路をハイスピードで突進する。野鳥公園の入り口に位置するフィニッシュ地点はツール初登場(ドーフィネには登場済み)。今回惜しくも出場を逃したが、別府史之(トレック・セガフレード)の自宅にほど近い平坦路でレースはフィナーレを迎える。ツール閉幕まで1週間を残し、マイヨヴェール候補も絞り込まれているはずだ。
7月17日(日)第15ステージ → コースマップ
ブール・ガン・ブレス~キュロズ 160km
ツールの山場は何もピレネー山脈とアルプス山脈だけではない。第15ステージはジュラ山脈を横断する。160kmコースには6つのカテゴリー山岳の他にも細かい起伏が詰め込まれており、まさに登りと下りしかない。すでに総合で順位を落とした選手たちによる逃げ切りが決まりやすいステージでもあり、序盤の1級山岳コル・デュ・ベルティアン(6km/平均8.1%)では逃げに乗るための激しいアタック合戦が繰り広げられるだろう。
100km地点を過ぎると、この日最大の難所である超級山岳グランコロンビエ(12.8km/平均6.8%)の登坂が始まる。中盤にかけて最大勾配が15%に達するこの標高1,501mの超級山岳を越えると、16kmかけて高低差1,200mを一気にダウンヒル。一旦キュロズのフィニッシュラインを通過し、今度はグランコロンビエを南から登り始める。最大勾配14%の九十九折りをこなし、頂上まで行かずに標高891mの1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエ(8.4km/平均7.6%)で右に折れ、約40分前に通過したダウンヒルに合流する。登りと下りの組み合わせは破壊力抜群。しかしダウンヒルスペシャリストが栄光を掴むためにはフィニッシュ手前の7km平坦路を独走しなければならない。
7月18日(月)第16ステージ → コースマップ
モワラン・アン・モンターニュ~ベルン(スイス) 209km
ジュラ山脈の山あいの町モワラン・アン・モンターニュからスイスのベルンに向かう209kmコースは一見フラット。カテゴリー山岳も1つしか登場しない。しかし実際にはいくら精細なコースプロフィールでは描ききれないような細かいアップダウンが連続している。しかも残り2.5kmから7%ほどの石畳の登りが続くため、スプリンターチームはレースコントロールを放棄するかもしれない。かと言って総合争いが動くような難易度ではないため、逃げ屋がチャンスを掴むことも考えられる。
翌日の休息日の中心地でもあるベルンは、これまでマイヨジョーヌを29日間着用(総合優勝経験者を除くと最多記録)し、今シーズン限りでの引退を表明しているファビアン・カンチェラーラ(スイス)の生まれ故郷&現在の居住地。フィニッシュ手前に組み込まれた石畳の登りは、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ〜ルーベを得意とするローカルライダーへのささやかなプレゼントなのかもしれない。
7月19日(火)休息日
7月20日(水)第17ステージ → コースマップ
ベルン(スイス)〜フィノー・エモッソン(スイス) 184.5km
勝負の最終週が始まった。残る5ステージは(最終日パリを除いて)1日たりとも気が抜けない。アルプス初日の第17ステージはスイス国内を走る184.5km。ドイツ語圏ベルンから山岳地帯を抜けてフランス語圏へ。レース中盤の3級山岳コル・デ・モセスを下りきったところで登場するエーグルはUCI(国際自転車競技連盟)の本拠地が置かれた街だ。
氷河が削り出したV字型の渓谷を抜け、マルティニーの街中に敷かれた中間スプリントを通過するとまずは1級山岳コル・ド・フォルクラ(13km/平均7.9%)にアタック。延々と8%前後の勾配を刻む峠をクリアすると、短い下り区間を挟んで、ようやくこの日のメインディッシュ超級山岳フィノー・エモッソン(10.4km/平均8.4%)にありつく。2014年ドーフィネで初お目見えした正式名称コル・ド・ラ・グラーズは、頂上に向かうにつれて勾配が増すのが特徴で、残り800mの平均勾配は12.3%に達する。雄々しい山々を仰ぎ見るこのツール初登場の登りでマイヨジョーヌをかけた頂上決戦が繰り広げられる。
7月21日(木)第18ステージ → コースマップ
サランシュ~メジェーヴ 17km(個人TT)
ジロでは毎年のように登場する山岳タイムトライアルが、12年ぶりにツールに設定された(前回は2004年のラルプデュエズ)。サランシュからメジェーヴまで17kmかけて高低差659mを登る。ただひたすら登りっぱなしというコースではなく、機材選びやペース配分がタイムに大きく響きそうだ。
スタートから4kmにわたって平坦路が続くため、多くの選手が軽量なノーマルバイクにアタッチメントバーを装着すると予想される。勾配のあるコート・ド・ドマンシー(2.5km/平均9.4%)まで一気に駆け上がり、5%ほどの緩斜面を経て標高1,219mのコート・ド・ショゾー(3.1km/平均5.4%)でコースはピークを迎える。約2kmのダウンヒルの先に待つのはツール初登場のフィニッシュ地点メジェーヴ。この30分強のヒルクライムによって総合上位陣のタイム差はさらに開くことになるだろう。
7月22日(金)第19ステージ → コースマップ
アルベールヴィル~サン・ジェルヴェ・モンブラン 146km
1992年冬季五輪の舞台アルベールヴィルを発った一行は、アルプスの峠道で濃密な4時間を過ごす。スプリンターたちは25.5km地点のスプリントポイント通過後にグルペットを形成し、タイムカットを気にしながらフィニッシュまで走りきる。146kmのショートコースに組み込まれたカテゴリー山岳は4つ。前半から1級山岳フォルクラ・ド・モンマン(9.8km/平均6.9%)、2級山岳フォルクラ・ケージュ(5.6km/平均8.2%)、超級山岳モンテ・ド・ビザンヌ(12.4km/平均8.2%)を連続してクリアする。残り50km地点でピークを迎える超級山岳モンテ・ド・ビザンヌは後半にかけて10%近い勾配が続く急峻な登り。総合逆転の野望をもった選手たちはフィニッシュまで距離を残して動いてくるだろう。
前日のフィニッシュ地点(そして翌日のスタート地点)メジェーヴを通過後、最後に待ち構えるのが1級山岳ル・ベテ(9.8km/平均8%)だ。麓から13%近い急勾配区間が続くこの登りがツールに登場するのは26年ぶり。2015年ドーフィネに登場した際にはクリス・フルーム(イギリス)がステージ優勝を飾っている。この大会最後の山頂フィニッシュで今一度総合順位にシャッフルがかかる。
7月23日(土)第20ステージ → コースマップ
メジェーヴ~モルジヌ 146.5km
例年よりも山岳の比重が高いと言われるマイヨジョーヌ争奪戦の締めくくりは、山頂フィニッシュでも個人タイムトライアルでもなく、超級山岳のダウンヒルフィニッシュだ。前日同様に短くて内容の濃い146.5kmコースが第103代ツール総合優勝者を選び出す。同時に山岳賞を決めるステージでもあり、マイヨアポワ着用者が前半の2級山岳コル・デ・アラヴィ(6.7km/平均7%)と1級山岳コル・ド・ラ・コロンビエール(11.7km/平均5.8%)で積極的に動くだろう。
フィニッシュまで70kmを切ると1級山岳コル・ド・ラ・ラマ(13.9km/平均7.1%)の登坂がスタート。テクニカルなダウンヒルと渓谷沿いの短い平坦路を経て超級山岳コル・ド・ジュー・プラーヌ(11.6km/平均8.5%)に挑む。10%近い勾配を刻む峠をクリアすると、約4kmの平坦区間を挟んで、フィニッシュまで9kmのダウンヒルが始まる。細くて急勾配の下りで要求されるのはパワーウェイトレシオではなくダウンヒルテクニック。最後の最後まで緊張感に満ちた総合争いが繰り広げられるだろう。ツール歓迎20回目のモルジヌでマイヨジョーヌを受け取った選手が、翌日パリに凱旋する。
7月24日(日)第21ステージ → コースマップ
シャンティイ~パリ・シャンゼリゼ 113km
モルジヌからパリまで650km大移動。選手たちはシャンベリー空港からチャーター機でパリ・シャルルドゴール空港に向かうが、チームスタッフや大会関係者はもちろん自走だ。移動完了に6〜7時間程度かかるため、最終ステージのスタート時間はかなり遅めの16時05分。フィニッシュ時間は19時15分前後が予定されているが、当日パリの日の入り時間は21時39分なので表彰式の最中もまだ明るい。
郊外のシャンティイからゆったりと、3週間の健闘を称え合いながら、マイヨジョーヌがチームメイトとシャンパンで乾杯しながら、完走者たちはパリを目指す。セーヌ川沿いを走ってルーヴル美術館のピラミッド前を通過するといよいよマイヨジョーヌの凱旋がスタート。凱旋門の周回道路を含む7km周回コースを8周。今年もシャンゼリゼ通りでスプリンターたちが最後のバトルを繰り広げる。
text:Kei Tsuji in Saint-Lo, France
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