狙って勝つことは簡単なことではない。コース発表時からずっと照準を合わせてきたというジロ・デ・イタリアの開幕タイムトライアルでドゥムランが勝った。ドゥムランのトップタイム更新が告げられた時、スタート台が置かれたヴェロドロームの中は大いに沸いた。



ヴェロドロームの中にVIPゾーンとスタート台が設置されたヴェロドロームの中にVIPゾーンとスタート台が設置された photo:Kei Tsuji
観客で溢れかえったヴェロドローム観客で溢れかえったヴェロドローム photo:Kei Tsujiヴェロドロームを抜けて光の中に飛び込むヴェロドロームを抜けて光の中に飛び込む photo:Kei Tsuji


ベルギーと比較すると、トッププロ選手の多さの割にトップレースが少ないオランダ。UCIワールドツアーレースはアムステルゴールドレースだけ。それだけに、普段なかなかお目にかかれないトップチームを一目見ようと多くの観客がアペルドールンに集まった。午前中、アペルドールン市内に向かう幹線道路は観客達によってどこも酷く渋滞していた。

ハイネケンやアムステルといったオランダビールと、マヨネーズ系ソースがたっぷりかかったフリッツ(フライドポテト)の組み合わせが王道観戦スタイル。どこかお祭り好きのオランダの人々はレースの楽しみ方を心得ている。



スタートを切るダヴィデ・フォルモロ(イタリア、キャノンデール)スタートを切るダヴィデ・フォルモロ(イタリア、キャノンデール) photo:Kei Tsuji
ヴェロドロームが揺れるような歓声に包まれてトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)がスタートヴェロドロームが揺れるような歓声に包まれてトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)がスタート photo:Kei Tsuji
アペルドールンのヴェロドロームをスタートするトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)アペルドールンのヴェロドロームをスタートするトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) photo:Kei Tsuji


ピンクのカーペットが敷かれたスタート台にドゥムランが上がると同時に、観客は総立ちになった。少なく見積もっても、カンチェラーラやニーバリといったビッグネームが登場した時の盛り上がりを3〜4倍したような音量で、拍手と歓声が混じり合うスタンディングオベーションが始まる。

カメラをISO2500なんて普段あまり使わない感度に設定しなければならない暗さのヴェロドローム内。ピンクにライトアップされたバンクに、観客たちによるオランダ語のカウントダウンが響いた。

なお、バンク内のVIPゾーンは招待客限定だが、バンク外の観客席は一般客に解放。最上部を除いてほぼ満席の状態で、ヴェロドローム内は6日間レースのような雰囲気に。オランダのウィレム=アレクサンダー国王が来場したためセキュリティレベルは高く、大会関係者であっても会場の出入りは厳しく制限された。

どれだけ観客が盛り上がろうとも、ドゥムランの表情は変わらない。ハンドルから手を離して観客に振ることもない。ただトンネルの先を真っ直ぐ見つめ、カウントがゼロになったところでドゥムランは軽く下唇を噛んで力一杯漕ぎ出した。

ドゥムランはオランダ南部のリンブルフ州のマーストリヒト出身。距離にして200kmほど離れているが、コース沿道には白青黄色に赤い獅子が描かれたリンブルフ州の州旗が多く見られた。オランダ国王も見守る中でのレースは大きなプレッシャーだったに違いない。決して独壇場とは言えない短距離タイムトライアルで、しかも体調が万全とは言えない中、マリアローザを掴み取った。



過去に世界選手権も開催されたヴェロドロームをスタート過去に世界選手権も開催されたヴェロドロームをスタート photo:Kei Tsuji
第1ステージが終わるとすぐにイタリアに移動を開始する宮島正典マッサーとベテランメカニックのアレハンドロ・トラルボ第1ステージが終わるとすぐにイタリアに移動を開始する宮島正典マッサーとベテランメカニックのアレハンドロ・トラルボ photo:Kei Tsuji唯一の起伏である線路のアンダーパスを行く唯一の起伏である線路のアンダーパスを行く photo:Kei Tsuji
観客に見守られながら9.8kmコースを走る観客に見守られながら9.8kmコースを走る photo:Kei Tsuji


この日、スプリンターの走りは完全に二手に分かれた。第2ステージと第3ステージはスプリンターのためのステージであり、仮に個人TTでステージ優勝に手が届かなくてもボーナスタイム(10秒、6秒、4秒)によるマリアローザ獲得のチャンスがあるからだ。

今大会最速スプリンターと見られるマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)は強烈なダッシュでスタート台を駆け下り、後半にかけてペースを上げる走りで11秒遅れのステージ5位。つまり総合5位・11秒遅れで初日を終えている。仮に第2ステージで勝利すれば総合タイム差は1秒に。もちろんジャイアント・アルペシンが全力で阻止するとみられるが、中間スプリント(3秒、2秒、1秒)も加えれば逆転する。

昨年マリアロッサ(ポイント賞)を獲得したジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレック・セガフレード)は27秒遅れのステージ27位、そしてアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)は34秒遅れのステージ47位、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)は36秒遅れのステージ53位。

逆にヤコブ・マレツコ(イタリア、ウィリエール・サウスイースト)やカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は翌日からのスプリントチャンスを見据えてペースを抑え、1分30秒以上遅れでフィニッシュしている。個人TTで出し切ったスプリンターと出しきらなかったスプリンター。マリアローザの存在が大会最初のスプリントに影響を及ぼすかもしれない。



ピンクの自転車があちこちにピンクの自転車があちこちに photo:Kei Tsujiコロンビア国旗に向かってセバスティアン・エナオゴメス(コロンビア、チームスカイ)がダッシュコロンビア国旗に向かってセバスティアン・エナオゴメス(コロンビア、チームスカイ)がダッシュ photo:Kei Tsuji
スタート台に上がった山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)スタート台に上がった山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Apeldoorn, Netherlands

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