2009/09/16(水) - 10:17
平坦コースで狙った獲物は逃がさない。プエルトジャーノで繰り広げられた集団スプリントで、アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)がライバルたちを蹴散らし優勝。ステージ3勝目で、ポイント賞トップに返り咲いた。
この日のコルドバ〜プエルトジャーノ間170.3kmはブエルタの定番コースで、昨年の第4ステージとコースレイアウトが全く同じ。レース序盤に2つの3級山岳が登場し、残りは延々となだらかなアップダウンが続く平坦コースだ。
昨年はダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)がスプリント勝利。プエルトジャーノでは2005年にアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が、2007年にレオナルド・ドゥケ(コロンビア)が勝利している。
レース開始直後のアタックは見られず、1つ目の3級山岳通過後の8km地点でヘスス・ロセンド(スペイン、アンダルシア)がアタック。前日までのアタック合戦が嘘のように、この日はロセンドのファーストアタックが一発で決まった。
ここから、プロ入り以降3年連続ブエルタ出場中のロセンドの孤独な一人旅が始まった。総合争いに影響の無い選手の単独逃げは、連日集団コントロールに力を費やすケースデパーニュのアシストたちには朗報だ。ロセンドの先行を容認したメイン集団はペースを落とし、タイム差が最大12分に開くまで放置した。
やがてメイン集団では集団スプリントに持ち込みたいチームコロンビア・HTC、リクイガス、ミルラムがアシストを一人ずつ(レイネス、カールストローム、ルス)ローテーションに送り込み、ロセンドとのタイム差をジワリジワリと詰めて行く。平坦コースで大集団に追われれば、ロセンドに逃げ場は無い。結局ロセンドは144kmに渡る一人旅をゴール18km手前で終えた。
ゴールスプリントに向け、徐々にペースを上げていくメイン集団。リクイガス、ミルラム、クイックステップ、ヴァカンソレイユが集団先頭で入り乱れ、完全に主導権を握るチームがいないままコーナーが連続するプエルトジャーノの街中に突入した。
すでにリタイアしているボーネンとデーヴィスに代わって、ワウテル・ウェイラント(ベルギー)でスプリント勝利を狙っていたクイックステップ。しかしラスト3kmで発生した落車がその予定を狂わせた。
集団前方に位置していたジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン)の落車に伴って、ロジャー・ハモンド(イギリス、サーヴェロ)とウェイラントが相次いでクラッシュ。
エーススプリンターを失ったクイックステップは、マッテーオ・トザット(イタリア)がアタックを仕掛けて集団スプリントを阻止しようと試みたが失敗。最後はリクイガスとチームコロンビア・HTCが主導権を争いながら、集団スプリントに突入した。
2年連続プエルトジャーノ制覇を狙うベンナーティの後ろに付きまとうグライペルの影。ラスト200mで仕掛けたベンナーティはその巨大な影を振り切れず、ラスト100mで踏み始めたグライペルが一気に先頭へ。ベンナーティが失速する中、グライペルがウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)を振り切ってゴール。完勝だった。
ステージ3勝目を収めたグライペルは「ゴール前はコーナーの連続でトリッキーだったよ。でもチームメイトが僕の集団の位置をキープしてくれたおかげでトラブル(落車)に巻き込まれずに済んだ。今日は逃げていたのが一人だったから、レースをコントロールするのは非常に楽だったんだ」。その強靭なチーム力は、今シーズンチーム80勝目という途方も無い勝利数が物語っている。
グライペルは第13ステージの超級山岳シエラ・ネバダで39分以上遅れ、25ポイントの減点を受けてポイント賞ジャージを喪失。しかしこの日スプリントポイントでポイントを稼ぎ、さらにゴール地点で25ポイントを取り戻してポイント賞トップに。
グランツールのポイント賞初獲得が見えてきたグライペルだが、慎重な態度は崩さない。「集団スプリントの向きのステージが2日残っているけど、あとの2つは山岳コース。だから山岳賞ジャージを確実に守りきれるかどうかはまだ分からない。とにかくマドリードまでポイント賞の行方は分からない」。
この日、グライペルは両手で天を指差してゴールラインを駆け抜けた、何かに勝利を報告するかのように。「この勝利は重要だ。今日はいろんな理由で勝ちたいと思っていた」。その“理由”とは?「3年前のちょうどこの日に親友が亡くなったんだ。祖父が亡くなったのもこの日だった」。グライペルはそんな悪いジンクスを、力強いスプリントではね除けてみせた。
バルベルデはポイント賞トップの座をグライペルに明け渡したが、総合成績とコンビナーダ(複合賞)トップの座は誰にも渡さない。「今日はイージーライドで、力もセーブ出来た。今日は平坦ステージに分類されていたけど、実際はなだらかな上りと下りの繰り返しで、獲得標高差は2500mオーバー。5時間に渡ってサドルの上に座り続けたし、決して楽なステージではなかったよ。明日のステージも同じような集団スプリントの展開になると思う。でも木曜日以降は話が別。その3日間(木・金・土)で今年のブエルタが決着する」と語っている。
ちなみに、コンビナーダランキングにおけるバルベルデとヘーシンクの差は1ポイント。総合成績、山岳賞、ポイント賞の合算で争われるため、どれか1つだけでもヘーシンクが順位を上げればバルベルデに並ぶ。しかし現実的に総合成績を動かすのは難しく(コンビナーダ以前にそれが実現すればマイヨオロ獲得)、ポイント賞も12ポイント差があるため逆転は骨折り。残るは山岳賞。現在ヘーシンクは山岳賞6位につけており、2ポイント加算するだけで山岳賞4位まで浮上し、コンビナーダ賞トップに立てる。総合争いと同時進行の裏番組としてコンビナーダ争いにも注目したい。
この日の優勝タイムは4時間50分44秒。平均スピードは今大会最低速の35.1km/h。ベンナーティが勝利した昨年大会第4ステージの優勝タイムは4時間27分54秒だった。
選手コメントはチームコロンビア・HTC公式サイト、ならびにレース公式サイトより。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第16ステージ結果
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)4h50'44"
2位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
3位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
4位 ゲラルド・チオレック(ドイツ、ミルラム)
5位 フランシスコホセ・パシェコ(スペイン、コンテントポリス)
6位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)
7位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、サイレンス・ロット)
8位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
9位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)
10位 イニャキ・イサーシ(スペイン、エウスカルテル)
マイヨオロ(個人総合成績)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)69h59'34"
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+31"
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+1'10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)+1'28"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'51"
6位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+1'54"
7位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、ケースデパーニュ)+5'53"
8位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、ランプレ)+6'34"
9位 トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)+8'28"
10位 ファンホセ・コーボ(スペイン、フジ・セルヴェット)+10'45"
モンターニャ(山岳賞)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)170pts
2位 ダビ・デラフエンテ(スペイン、フジ・セルヴェット)89pts
3位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)76pts
プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)105pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)80pts
3位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)68pts
コンビナーダ(複合賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)10pts
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)11pts
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)23pts
チーム総合成績
1位 シャコベオ・ガリシア 209h47'31"
2位 ケースデパーニュ +20'51"
3位 アスタナ +27'47"
リタイア(DNS=未出走・DNF=途中リタイア)
なし
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic
この日のコルドバ〜プエルトジャーノ間170.3kmはブエルタの定番コースで、昨年の第4ステージとコースレイアウトが全く同じ。レース序盤に2つの3級山岳が登場し、残りは延々となだらかなアップダウンが続く平坦コースだ。
昨年はダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)がスプリント勝利。プエルトジャーノでは2005年にアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が、2007年にレオナルド・ドゥケ(コロンビア)が勝利している。
レース開始直後のアタックは見られず、1つ目の3級山岳通過後の8km地点でヘスス・ロセンド(スペイン、アンダルシア)がアタック。前日までのアタック合戦が嘘のように、この日はロセンドのファーストアタックが一発で決まった。
ここから、プロ入り以降3年連続ブエルタ出場中のロセンドの孤独な一人旅が始まった。総合争いに影響の無い選手の単独逃げは、連日集団コントロールに力を費やすケースデパーニュのアシストたちには朗報だ。ロセンドの先行を容認したメイン集団はペースを落とし、タイム差が最大12分に開くまで放置した。
やがてメイン集団では集団スプリントに持ち込みたいチームコロンビア・HTC、リクイガス、ミルラムがアシストを一人ずつ(レイネス、カールストローム、ルス)ローテーションに送り込み、ロセンドとのタイム差をジワリジワリと詰めて行く。平坦コースで大集団に追われれば、ロセンドに逃げ場は無い。結局ロセンドは144kmに渡る一人旅をゴール18km手前で終えた。
ゴールスプリントに向け、徐々にペースを上げていくメイン集団。リクイガス、ミルラム、クイックステップ、ヴァカンソレイユが集団先頭で入り乱れ、完全に主導権を握るチームがいないままコーナーが連続するプエルトジャーノの街中に突入した。
すでにリタイアしているボーネンとデーヴィスに代わって、ワウテル・ウェイラント(ベルギー)でスプリント勝利を狙っていたクイックステップ。しかしラスト3kmで発生した落車がその予定を狂わせた。
集団前方に位置していたジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン)の落車に伴って、ロジャー・ハモンド(イギリス、サーヴェロ)とウェイラントが相次いでクラッシュ。
エーススプリンターを失ったクイックステップは、マッテーオ・トザット(イタリア)がアタックを仕掛けて集団スプリントを阻止しようと試みたが失敗。最後はリクイガスとチームコロンビア・HTCが主導権を争いながら、集団スプリントに突入した。
2年連続プエルトジャーノ制覇を狙うベンナーティの後ろに付きまとうグライペルの影。ラスト200mで仕掛けたベンナーティはその巨大な影を振り切れず、ラスト100mで踏み始めたグライペルが一気に先頭へ。ベンナーティが失速する中、グライペルがウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)を振り切ってゴール。完勝だった。
ステージ3勝目を収めたグライペルは「ゴール前はコーナーの連続でトリッキーだったよ。でもチームメイトが僕の集団の位置をキープしてくれたおかげでトラブル(落車)に巻き込まれずに済んだ。今日は逃げていたのが一人だったから、レースをコントロールするのは非常に楽だったんだ」。その強靭なチーム力は、今シーズンチーム80勝目という途方も無い勝利数が物語っている。
グライペルは第13ステージの超級山岳シエラ・ネバダで39分以上遅れ、25ポイントの減点を受けてポイント賞ジャージを喪失。しかしこの日スプリントポイントでポイントを稼ぎ、さらにゴール地点で25ポイントを取り戻してポイント賞トップに。
グランツールのポイント賞初獲得が見えてきたグライペルだが、慎重な態度は崩さない。「集団スプリントの向きのステージが2日残っているけど、あとの2つは山岳コース。だから山岳賞ジャージを確実に守りきれるかどうかはまだ分からない。とにかくマドリードまでポイント賞の行方は分からない」。
この日、グライペルは両手で天を指差してゴールラインを駆け抜けた、何かに勝利を報告するかのように。「この勝利は重要だ。今日はいろんな理由で勝ちたいと思っていた」。その“理由”とは?「3年前のちょうどこの日に親友が亡くなったんだ。祖父が亡くなったのもこの日だった」。グライペルはそんな悪いジンクスを、力強いスプリントではね除けてみせた。
バルベルデはポイント賞トップの座をグライペルに明け渡したが、総合成績とコンビナーダ(複合賞)トップの座は誰にも渡さない。「今日はイージーライドで、力もセーブ出来た。今日は平坦ステージに分類されていたけど、実際はなだらかな上りと下りの繰り返しで、獲得標高差は2500mオーバー。5時間に渡ってサドルの上に座り続けたし、決して楽なステージではなかったよ。明日のステージも同じような集団スプリントの展開になると思う。でも木曜日以降は話が別。その3日間(木・金・土)で今年のブエルタが決着する」と語っている。
ちなみに、コンビナーダランキングにおけるバルベルデとヘーシンクの差は1ポイント。総合成績、山岳賞、ポイント賞の合算で争われるため、どれか1つだけでもヘーシンクが順位を上げればバルベルデに並ぶ。しかし現実的に総合成績を動かすのは難しく(コンビナーダ以前にそれが実現すればマイヨオロ獲得)、ポイント賞も12ポイント差があるため逆転は骨折り。残るは山岳賞。現在ヘーシンクは山岳賞6位につけており、2ポイント加算するだけで山岳賞4位まで浮上し、コンビナーダ賞トップに立てる。総合争いと同時進行の裏番組としてコンビナーダ争いにも注目したい。
この日の優勝タイムは4時間50分44秒。平均スピードは今大会最低速の35.1km/h。ベンナーティが勝利した昨年大会第4ステージの優勝タイムは4時間27分54秒だった。
選手コメントはチームコロンビア・HTC公式サイト、ならびにレース公式サイトより。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第16ステージ結果
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)4h50'44"
2位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
3位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
4位 ゲラルド・チオレック(ドイツ、ミルラム)
5位 フランシスコホセ・パシェコ(スペイン、コンテントポリス)
6位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)
7位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、サイレンス・ロット)
8位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
9位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)
10位 イニャキ・イサーシ(スペイン、エウスカルテル)
マイヨオロ(個人総合成績)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)69h59'34"
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+31"
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+1'10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)+1'28"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'51"
6位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+1'54"
7位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、ケースデパーニュ)+5'53"
8位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、ランプレ)+6'34"
9位 トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)+8'28"
10位 ファンホセ・コーボ(スペイン、フジ・セルヴェット)+10'45"
モンターニャ(山岳賞)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)170pts
2位 ダビ・デラフエンテ(スペイン、フジ・セルヴェット)89pts
3位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)76pts
プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)105pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)80pts
3位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)68pts
コンビナーダ(複合賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)10pts
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)11pts
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)23pts
チーム総合成績
1位 シャコベオ・ガリシア 209h47'31"
2位 ケースデパーニュ +20'51"
3位 アスタナ +27'47"
リタイア(DNS=未出走・DNF=途中リタイア)
なし
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic
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